【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集   作:月乃杜

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 第一部としては全く進みません。





本好きの下剋上 司書になるためなら手段を選んでいられません【魔を滅する転生本】っぽい噺――権能により織地を巡ってみた

.

「ハァ……」

 

「何を黄昏れてる?」

 

「だって、ユート兄様ってばメスティオノーラ様は疎かドレッファングーア様とヴェントゥヒーテ様までパクッと逝っちゃって、あんなグッチョングッチョンにしてしまわれるのですもの」

 

 今は素っ裸もアレだからと、ヴァッシェンを掛けて清めてから駒王学園の女子学生服に着替えさせており、今までとは違う服装にキャッキャウフフとしている女神様達。

 

 それを見つめながら溜息を吐くマイン。

 

「ゴネたのって最初の二日間くらいだったぞ? 残りの三年間は寧ろ強請るくらいにビッチ化していたんじゃないかね」

 

「ビッチって……」

 

 無論、ビッチは言い過ぎというか言い掛かりでしか無くて、確かに快感にすっかり敗北していた三柱はユートを求め続けていた。

 

 勿論だが神々の利に関しても説明をしたから、メスティオノーラ達も納得して身を預けたのだ。

 

 二日間というのは説得に掛かった時間であり、実体化に近い状態な為にだろうユートの言葉を同じ目線で聴けた事、エアヴェルミーンが喜ぶであろう魔力奉納を確約する光の女神の神具によっての契約をする事、次期ツェントを育てる為の土壌作りをする事などを盛り込まれてしまって興味を惹かれ、悩みに悩んだ挙げ句メスティオノーラは頷くしか無いと考えに至る。

 

 それに引っ張られた形でドレッファングーアとヴェントゥヒーテも抱かれた。

 

 何しろ光の女神の神具による契約は人間などでは出し抜けない、契約違反者は漏れなく黄金の炎に灼かれて消え失せ遥なる高みへと上るのみ。

 

 ドレッファングーアとヴェントゥヒーテはものの序でだったが、基本的に美しい女神なのだからユートとしては下半身のJr.が盛り上がる。

 

 理解した事、何千何万年と在り続け様と夫婦神としての神話が有るか、或いは地球の神話みたいな強姦されたみたいな逸話が無い限りユルゲンシュミットの神々は基本的に処女と童貞らしい。

 

 そういう対象に視られたく無いからと髪の毛を降ろして子供っぽくしていたメスティオノーラ、そしてドレッファングーアとヴェントゥヒーテは間違い無く処女であり、ユートのJr.を見て青褪めたのは無理からぬ事だったのであろう。

 

 尤も、今は嬉しそうに胎内へと受け容れているのだから三年間の調教の結果は上々だった。

 

「そうだ! ドレッファングーア様でもヴェントゥヒーテ様でも良いのですが、わたくしの疑問に御答え戴けますでしょうか?」

 

「何ですか、マイン?」

 

 応えたのはヴェントゥヒーテ。

 

「わたくしが今の織地で記憶を持っているのは、神々による何らかの干渉という事だと考えても宜しいのですか? それからわたくし以外に記憶を保持する者は居るのでしょうか?」

 

「最初の質問はその通りです。メスティオノーラの書をマインは直近で完成させた第一人者ですから手放すのは惜しいでしょう? 次の質問ですが……わたくし達が神として高みに居る間は人間を魔力により認識していました。そんなわたくし達が相違点を視るのはツェントかツェント候補、若しくはマインみたいな特殊な存在なのですよ。クインタは判りますが、直前にツェント候補の証がマインに移った為に見逃しました。それから、貴方の名捧げをした側近は確かに貴方の魔力を纏うのでしょうが、小さなものなのと織地を解くのに注視していたので矢張り見逃しました」

 

「つまり、記憶持ちはわたくしだけ」

 

 フェルディナンドでさえ記憶が無いと云うのは堪えたのか、マインの瞳が潤んで魔力がグルグルと暴れ回ってしまっている。

 

「落ち着け」

 

 ユートが魔力吸収で魔力を吸ったらすっきりとした顔に成った。

 

「あう、有り難う存じます」

 

 因みに、勿論だがキスでは無くて“ドレインタッチ”みたいな感じである。

 

「人工リンカーコアを使えば魔力を抜くなんて事をしなくとも済むが、大金貨を五〇枚とかマインに支払う余裕があるか?」

 

「ありません! って言いますか、今現在は事業もしていないので小銅貨一枚すら払えません!」

 

「さもありなん……だね」

 

「人工リンカーコアって何ですか? それから、態々“人工”と云うくらいなのですから当然の話で“天然”も在りますよね?」

 

「天然というかね、リンカーコアはとある世界に……平行世界の地球の並行する世界とも云えるミッドチルダを中心に存在する魔力器官なんだ。僕もリンカーコアを持っているから、その特性を真似た人工リンカーコアを造れたって訳だな」

 

「平行世界の地球の並行する世界ですか」

 

 未だに行かない世界だったが、ユートが持っているリンカーコアや抑々にして転生を最初にさせた神がまさかの日乃森なのは、旧姓は高町だという日乃森シオンの奥方の一人にして下級眷族神。

 

 自分のリンカーコアを調べれば良いのだから、研究そのものは滞る事も特に無くて進んだ。

 

 問題はリンカーコアの特性を与える素材だったのだが、幾つかピックアップをしてエーレンフェストに無い素材には頭を抱えてしまう。

 

 それが偶さか手に入ったので製作をした物を、人体実験だと称して自分の可愛い愛妾フリーダへと与えた。

 

「マインには一応だが魔術具を与える」

 

「魔術具ですか?」

 

「君は平民だから持っていないだろ? 君と同じく身食いのリーゼと娘のリアーナは持たせてる。フリーダは製作したばかりの人工リンカーコアを与えているんだ」

 

「フリーダならばオトマール商会の娘なのは判りますが、リーゼとリアーナというのはいったい誰の事を仰有っておりますの?」

 

「ギルベルタ商会の中継ぎ会頭ベンノの妻と娘、だけど判らないのは与えた覚えが無いのにリーゼは僕の造った、YSXー003の型番を持った魔術具を着けていた事だな。リアーナには連番の002を与えておいたんだけど」

 

 チャラリと手にしたのはYSXー003と型番が入っている魔術具、つまり全く同じ物がリーゼの腕とユートの亜空間ポケットへ同時に存在する。

 

「それはユートがわたくしとヴェントゥヒーテの権能で過去へ渡るからよ」

 

「だろうとは思った」

 

 ドレッファングーアの解答に一応の答えを出していたユートは頷いた。

 

 今回の事でユートはメスティオノーラの権能として“私の愛しい図書館(メスティオノーラ・ジ・ブック)”を獲たが、同時にドレッファングーアとヴェントゥヒーテも取り込んだ事で二人から獲た神氣により、“織地の事象を巡る(クロノス・プレイン・システム)”として完成される。

 

(まぁ、リーゼに付いては追々って事でも構うまいよ。刻を渡るんなら焦っても余り意味が無いんだろうしね)

 

 刻を渡ってリーゼに魔術具を与えない……という選択を選ぶのは悪手以外の何ものでも無いが、少なくとも今すぐどうにかしなければならない程に切羽詰まってはいない事象だ。

 

 それにリアーナはリーゼと瓜二つなレベルというか、並べば姉妹に見えてもおかしくないくらいにそっくりな顔立ちにベンノの蜂蜜色な金髪と、二人の良さそうな部分だけ遺伝子を受け継いでいるものだから、七歳ながらもグスタフ辺りが孫の嫁に来ないか? 何て話を持ってきた程。

 

 とはいえ、身食いの母親を持つ子供は魔力を注がれた時点で矢張り魔力を持つ為、契約先が決まっているからとベンノもリーゼも断った。

 

 何しろ相手はリーゼに魔術具を与えに来た際、まるで娘が産まれるのを知っていたかの如く話を持って行き、契約内容は『リーゼとベンノの間に産まれた娘を愛妾契約を以て連れて行く。その際には魔力持ちの娘にも魔術具を与えるし、連れて行くのは一般的に優秀なダルアがダプラ契約をする頃とする』――というもの。

 

 それに加えて、ギルベルタ商会でダルア乃至ダプラとして働く自由も与えると明言している。

 

 帰る場所が契約を交わした貴族の下へというだけであり、若しもリアーナが子を成したら孫として可愛がる権利も与えていた。

 

 単純に契約したのが過去へ渡ったユートだったからである。

 

「そっか、ベンノさんの亡くなった恋人さんが生きていてベンノさんと星を結んだのですね」

 

 そういえばベンノから水の女神が云々な話で聴いた覚えがあった。

 

「それじゃ、エーレンフェストに戻ろう。メスティオノーラ神とドレッファングーア神とヴェントゥヒーテ神も、実体化したからには人間の生理現象が付き纏うんだからフラフラは出来ないぞ」

 

「解っております。貴方に……ユートに付いていきますわ」

 

 赤茶色の髪の毛を揺らしながらヴェントゥヒーテは頷き、それに合わせてドレッファングーアとメスティオノーラも頷く。

 

「あの、仕事をしなくても?」

 

「あらマイン、わたくし達は謂わば現在は一部が人間の世界に現界をしているに過ぎませんわよ。つまりこのわたくし達は分体ですの」

 

 ドレッファングーアが言う。

 

 早い話が、座に本体となる英霊が存在していて聖杯戦争へ召喚されるサーヴァントとは、分体でしかなくて戦争が終われば座の本体に戻るというのと似た感じだった。

 

「つまり、本体は御仕事中?」

 

「そうですね」

 

 メスティオノーラが肯定する。

 

「名前はどうするか? まさか神の名前をまんま出す訳にはいかない。知らない貴族からしたなら不敬がどうとか、どうせ神なんて信じてもいない癖に隙を突く為には幾らでも声が大きくなる」

 

「あら、不敬とはその様な人間を云うのでは無いかしら?」

 

「御尤も。現世利益を得られるユルゲンシュミットで愚かな話だよね。それについては後から話し合いをしようか」

 

「ええ」

 

 メスティオノーラは凄い笑顔で頷いているが、目の方は表情程に笑っていないのが丸判りだ。

 

「名前は平民式に短めで。下手に貴族っぽく長いと突いてくる莫迦が必ず出るんでね。メスティオノーラ神はメスティかメストかティオかノーラ辺りが良さげだろうね」

 

「メスティにするわ」

 

 速攻で決める。

 

「ヴェントゥヒーテ神はヴェントかヒーテくらいだろうね」

 

「ヴェントにしておきましょう」

 

 此方もすぐに決定した。

 

「ドレッファングーア神はドレフ、ファン、グーアの三択かな?」

 

「ファンにしましょう」

 

 これで三柱共、現世に於ける仮初めとなるであろう名前が決定する。

 

 メスティオノーラ改めメスティ。

 

 ヴェントゥヒーテ改めヴェント。

 

 ドレッファングーア改めファン。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「という訳で、新しい仲間としてメスティとヴェントとファンの三人が加わる事になった」

 

「女神様……ですか」

 

 ズズズと湯飲みを傾けて緑茶を飲む三女神を見つめるフリーダ、こう見えて愛妾契約をしている事で元灰色巫女の側仕えやヴィルマとロジーナのまとめ役を務めているのだ。

 

「それとこっちは、フリーダが会いたがっていた

兵士と染め布職人の娘で身食いのマイン」

 

 折角だからマインも紹介しておく。

 

「まぁ、会いたかったわマイン!」

 

「わたくしも是非とも御会いしたいと思っておりましたの。宜しく御願いしますねフリーダ」

 

 ニコリと微笑むマインを見てフリーダはちょっと驚いた。

 

「随分と洗練された動きですわね。わたくしでもそうはいきませんわよ? これでも下級貴族の家に愛妾として行く予定でしたもの、最低限で下級貴族内では通用する所作を極めましたのに」

 

 マインの所作は下級貴族処か上級貴族にも通じるものである。

 

「フリーダ、マインにはこれから先の未来を生きた記憶が在るんだ」

 

「はい?」

 

「だから初対面な体で話しているが、フリーダとも前回の織地で会っている」

 

「前回の織地……ドレッファングーア様の糸紡ぎとヴェントゥヒーテ様の機織り神話!」

 

 女神だと紹介された三女神を見て叫ぶ。

 

「残念ながら前回の織地はマインの死後に崩壊してしまい、ヴェントゥヒーテ神は織地を解かざるを得なかったらしい。其処で前回にメスティオノーラの書と呼ばれる書物を唯一完成させたマインのみに記憶を残したらしい」

 

「そんな事が? と言いますか、メスティオノーラの書とはいったい?」

 

「このユルゲンシュミットでツェントと本来ならツェント候補やアウブが持つべき書、随分と歴史が歪められていて今はツェントのみの特権みたいになっているグルトリスハイト、それが本来ならメスティオノーラの書って訳だな」

 

「グルトリスハイトなら存じておりますわよ? ではまさか、マインはその未来の織地でツェントに成りましたの?」

 

「ううん。わたくしはツェントになんて成りたく無いもの。それにメスティオノーラの書を獲たのは王族から無茶振りをされたからだから」

 

「王族ですか」

 

 メスティオノーラの書を獲る事自体が不本意でしかなかったマイン、然もその暁には金粉王子の第三夫人の肩書きを持ったアダルジーザ離宮に於ける娼婦とか、どう考えてもローゼマインにとっては罰ゲームでしかあるまい。

 

 しかも『御友達』やそんな彼女との仲を取り持ってやった第二王子までが、アダルジーザ離宮にローゼマインを入れようとしたのだから失笑をするしかなかった。

 

「マインはそのブレスレットからしてユート様と契約を? ではマインも将来はわたくしと一緒に閨を頑張るのですね?」

 

「は? ち、違う違うから! 確かにユート兄様から貰ったのだけど……」

 

「兄様?」

 

 意味が解らないと小首を傾げる。

 

 ユートは生粋の上級貴族子息、マインは先程の紹介で平民の身食いであり兵士と染め物職人との娘だった筈、明らかに血の繋がりが無かったのに兄妹というのはおかしいだろう。

 

「ひょっとして染め物職人の御母様がカルステッド様と不義密通を?」

 

「「失礼な!」」

 

 流石に今の誤解は許し難い。

 

「ご、ご免なさい」

 

 マインだけでなくユートにまで怒鳴られてしまって涙目である。

 

「解かれた織地でマインはローゼマインとして、父上とエルヴィーラ様を洗礼親に貴族と成った。そして設定上の産みの母親は僕の母ローゼマリーとしたんだ。彼方側で僕は織地に居なかったからローゼマリーに子供は居ないからね」

 

「そうでしたのね、つまりはユート様とマインは織地を挟んだ義理の兄妹」

 

 まぁ、解かれた織地で先に娘と成っていたから実際には姉弟かもだけど、年齢より身長が高めなユートと低めなマインなだけにお互いが極自然と兄妹であるのだと認識をしている。

 

「義理の御兄妹の誼ですか?」

 

「そんな処。もうマインは何度も死にそうな……ぶっちゃけ死んでいた可能性も高くて、魔力圧縮で何とか生き延びていたに過ぎない。魔力持ちが死ぬと魔石に変わるが、死に掛けて生き延びると体内に魔力塊が出来てしまう。そんな身食いの事を“エーヴィリーベの印の子”と呼ぶんだ」

 

「エーヴィリーベって確か命の神様ですわよね、どうしてそんな呼ばれ方を?」

 

「生死を司るエーヴィリーベの手から逃れた子って事で印を付けられる。その印がマインの中に在る魔力塊って訳だな。だけどそれが故に身食いの熱とは違う理由で虚弱体質なんだよ。フリーダは身食い以外では健康だろう?」

 

「そうですわね」

 

 とはいえ、ユレーヴェを製作して浸かったなら塊も溶けてある程度は健康に成れるのだが……

 

「それにしても、どうやって知り合ったのか教えて頂けます?」

 

「ああ、うん。わたくしがフリーダと出逢ったのは姉のトゥーリが洗礼式で身に着けていた花飾りを欲していて、ギルド長は捜したんだけどずっと見付からなかったのですって。そりゃ、わたくしがトゥーリの為だけに作ったオンリーワンでしたもね、仮令ギルド長がその伝手を全開に捜した処で見付かる筈が無かったのですけど」

 

「まぁ、確かにわたくしの洗礼式は冬。生花など時止めの魔術でも使わねば獲られませんものね。その様な花飾りが有るならわたくしも欲していたでしょう。処でマイン、出来たらこのわたくしもその花飾りが欲しかったりしますけど……」

 

「トゥーリにはまた作る予定だもの、フリーダにもちゃんと売って差し上げますわ」

 

「御幾らかしら?」

 

「前回と同じなら小銀貨八枚ですわね」

 

「それなりにはしますのね」

 

 実際には小銀貨六枚、一つに四枚だったけれどツインテールなフリーダには二つが必要だから、本来なら八枚だったのを素材となる糸も供出をさせたので『ぼったくりになる』と、頑なに一つ分しか提示しないマインに対し幼馴染みのルッツが『だったら二つ目は半額にすれば?』と提案し、マインはそれに乗っかる形で小銀貨六枚になる。

 

 とはいえど、本人からベンノにも言われていた『お金は取れる時に取れる所から取れるだけ取っておくものよ』とも言われたし、壊れた魔術具の時にはマインを得る為に嘘の値段を申告していたらしいから、取り敢えず今回は正しい値段を付けて提示をする事にした。

 

「フリーダは僕の妾だから支払いは僕がするさ。寧ろもっと豪華にして金額を上げても構わない」

 

「うぇ!? ユート兄様が? だ、だったら小銀貨六枚でも……」

 

「マイン、前回はひょっとして花飾りの代金を値引きしたのか?」

 

「糸も預かったのであの時はぼったくりかな~と思ったものだから寧ろ一つ分、小銀貨四枚にしようとすら思っていたのですけど……」

 

 それでフリーダが気付く。

 

「ああ、わたくしの髪型ならば二つ必要ですわ。確かにそれなら二つ分を支払わなければなりませんわね」

 

「そんな訳で小銀貨八枚に成りますわ」

 

「じゃあ、頼んだ」

 

「はぁい。トゥーリの後になりますが構いませんわよね?」

 

 トゥーリの後からになるのは洗礼式の順番的なものだから仕方が無い。

 

「勿論ですわ。前回の織地でもそうだった訳ですもの。他人のわたくしより御姉様を優先為さって下さいませ」

 

 次にユートはマインと出逢った1ヶ月弱で決まった事を話す。

 

「それからマインは七歳の洗礼式は貴族として、リンクベルク家が主カルステッドと第一夫人であるエルヴィーラ様の元、第三夫人ローゼマリーの娘として僕の双子の妹という設定で行われる事に決定した。それに伴って僕も洗礼親はエルヴィーラ様になる」

 

「つまり正真正銘の兄妹ですね!」

 

「名前も前回の織地の通りローゼマインになる。既に父上やエルヴィーラ様、アウブ・エーレンフェストにも根回し済みだ。それからアリバイ作りにマインは青色巫女として神殿に入って貰う」

 

「判りましたわ」

 

 ローゼマインは神殿に隠されたカルステッドの娘として世に出す。

 

「ですが神殿長やヴェローニカ様は宜しいのでしょうか?」

 

 懸念材料は矢張りカーオサイファ姉弟。

 

「勿論、排除する方向性で往くさ」

 

「こ、殺すのですか?」

 

 ビクリと肩を震わせて怖ず怖ずといった表情にてユートを見遣るマイン、どうやら彼女は血腥いのが殊の外駄目な質であるらしい。

 

「奴らが仕出かした事は最早許し難い。残念ながらいずれにせよベーゼヴァンスは高みに上る事になるだろうし、カーオサイファは良くても蟄居という名の監禁処置で、悪ければ矢張り処分されるだけだろうな。まぁ、白の塔行きだろうが」

 

「そうですね……」

 

 それ自体は前回と同じ処分なだけに、マインも幾分か安堵の吐息を漏らす。

 

「さて、フリーダとしてはマインとどういう関係を築きたい?」

 

「それは御友達に成りたいですわ」

 

 同世代で同じ身食い、リアーネという友達は居るフリーダだったけど増やせるなら増やしたいと思うのもまた事実、折角の降って湧いたチャンスを掴めないなら商人失格だった。

 

「だけど会話から理解をしたろ?」

 

「マインは貴族に……」

 

「以降、友人としては話も出来なくなるだろう。そうなれば友人関係は自然消滅になるな?」

 

「う……」

 

 実際にローゼマインと成ってからは飽く迄も、領主候補生と平民の商品としてしか会話など行われなかったし、年月が経てば経つだけ会える時間は無くなっていった。

 

「今一度問うが、フリーダは貴族になる心算はあるかな?」

 

「え? フリーダが!」

 

 驚いてフリーダを見るマイン。

 

 コテンと記憶に在るアンゲリカなポーズを取るフリーダは、ちょっと潤んだ瞳で頬を紅潮させながら子供特有の色彩が良い唇を動かす。

 

「ユート様、マインを餌にする御心算だったのですわね? 悪辣です事」

 

 ちょっとプンプンと『わたくし怒ってましてよ』なんて膨れっ面だ。

 

「僕はこれから過去へ跳ぶ」

 

「過去?」

 

「ドレッファングーア神とヴェントゥヒーテ神、二柱の女神から獲た権能である程度なら時間軸を選択する余地も出来たし、リーゼを救わないといけないからな」

 

「リーゼを身食いから救った貴族!」

 

「これは既に起きた出来事を行う為の時渡り案件って事だな。まぁ尤も、それは最初に行ったのは誰だ? っていう卵が先か鶏が先かって時渡りの永遠のテーマが横たわるんだがね。リーゼとリアーネの魔術具が僕の造ったこれであるからには、渡しておかないと今の織地が崩壊してしまう」

 

 ヴェントに振り向くと……

 

「間違いありませんね」

 

 機織りの女神は確りと頷いた。

 

「いつ行くか、いつでも構わないって思っていたんだが……面倒な事はさっさと終わらせる」

 

「いつ御戻りになられます?」

 

 フリーダの瞳が揺らいでいる、それは寂寥感によるものだと理解をしているけど……実は可成り的外れな質問である。

 

「フリーダ」

 

「ヴェントゥヒーテ様?」

 

「わたくしはヴェントですよ」

 

「ヴェント様……」

 

 簡単に割り切れないらしい。

 

「恐らくすぐに戻りますよ」

 

「……え?」

 

「彼は今からリーゼとやらを救うべく過去へ跳びますが、救った後には過去に留まり現在の時間軸まで過ごします。極論すれば今現在のユルゲンシュミットにユートは二人存在しているのです」

 

「なっ!?」

 

 驚いたのはフリーダのみならずマインもでありキョロキョロしている。

 

「僕が過去に跳ばないと出て来ないだろうさね、恐らく未来の僕も今の立場の時に同じ事を言ったんだろうがね」

 

 ユートはその場に居たフリーダに口付けをかわして、更にメスティとファンとヴェントにも順繰りに口付けを交わす。

 

「わたくし除け者!」

 

「マインのゲドゥルリーヒは僕じゃあるまい? だったら必要無いな」

 

「はぁい」

 

 ユートは苦笑しながら聖句を口ずさむ。

 

「それは糸、紡がれし糸。それはヒト、紡がれし糸はヒト。我が機織るはヒトの糸、それは世界の織物。織地は歴史……我は織地を巡り歩く」

 

 メスティオノーラの書の時は一言『グルトリスハイト』と紡いだ聖句、それは間違い無くユートへと効果を及ぼしたのか光輝いている。

 

「『織地の事象を巡る(クロノス・プレイン・システム)』」

 

 そして消失してしまった。

 

 それから稍あって……

 

「只今~」

 

 呆気なくユートは帰ってくる。

 

「はやっ!」

 

 マインも驚愕するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ベンノの店とも云えるギルベルタ商会ではあるけれど、抑々にしてこの商会は女性が受け継ぐべきものだったのだが、現在は中継ぎとしてベンノが商会主として辣腕を揮っている。

 

 然しながら今は悲痛な表情を浮かべて寝台にて横になる少女を見ていた。

 

「クソッ、何でだよ!」

 

 如何なる治療も如何なる投薬も意味を成さない病に犯されて倒れたのは、ギルベルタ商会に於けるダプラの一人にしてベンノの恋人たるリーゼ。

 

 商人に成るのが夢だったのに、兄こそが実家の跡取りだからと職人に成る事を親から望まれていたけど、ベンノの父親がダルアとして受け容れてくれたのと、ちょっと遠回しながらベンノが『傍に居れば良い』と言ってくれたのでし、将来的にはベンノとの星結びすらも視野に入れてギルベルタ商会へと腰を落ち着けた経緯がある。

 

 だけどダプラが中継ぎとはいえ次期商会長であるベンノと、イチャイチャラブラブなどしていたら流石に体裁が悪くなるだろう。

 

 だから二人はちょっとした御遊びをしていた訳だけど、これは割と古参なダプラのマルクくらいしか気付いてはおらず、父親に報告こそ上げられたけど目零しをされていた。

 

 エーレンフェスト外に出た時、盗賊による襲撃によって父親が死亡したベンノは若過ぎる商会長と成り、取引先から敬遠されたりダルア契約更新もされなかったりと散々な事に。

 

 然も、父親が死んでからそう経たない内にあろう事か商業ギルド長グスタフが、母親を後添いにと言ってきたのである。

 

 勿論、巫山戯るなと吼えた。

 

 それからは幾度と無い厭がらせを受けた事からギルド長が振られた腹癒せをしていると理解し、ベンノは商業ギルド長グスタフに対して隔意を露わにし始める。

 

 苦境に陥ったベンノにリーゼが告白して婚約を結ぶ事となり、リーゼ本人が一六歳の成人式を迎えたら星を結ぶ予定であった。

 

 だけどそんなリーゼが病に臥す。

 

 もの凄い熱を出して倒れたリーゼはベッドへと寝かされ(うな)されている。

 

「リーゼ……俺は……」

 

 ベンノの妹でリーゼの親友でもある妹はそんな兄と親友を悲痛な表情で見つめていたのだけど、ノックの音に反応をしてそれがマルクだと判るとすぐに扉を開けた。

 

「どうしたの? マルク」

 

「お客様です」

 

「お客様って、今日は土の日よ?」

 

「そうなのですが、フードで顔を隠されておりましたが恐らくは御貴族様です」

 

「そ、それは……」

 

 貴族なら仮令、下級貴族であったとしても平民が逆らえば容赦無く無礼討ちだろうし、相手次第なら自分は無礼討ちの前に女として産まれた事を後悔する羽目にすら成りかねない。

 

「判りました、今の兄さんに応対させるより私が行った方が良さそうですね」

 

 ちょっと垂れ気味な目をキッと吊り上げながらギルベルタ商会のお嬢様然とした表情を作ると、ベンノの妹は身嗜みを軽く整えてから階下に在るお客様用の個室へと向かった。

 

「遅くなりました」

 

「ふむ? 商会長はベンノという男性だと思ったのだが?」

 

「間違いありませんが現在、兄はどうしても接客が出来ない状況でして」

 

「そうか」

 

「私はベンノの妹でミルダと申します」

 

 チラリとミルダ……そう名乗った少女は貴族の指を視て確信程では無いが、少なくとも詐欺師では無いかも知れないと思った。

 

(緑は春の貴色)

 

 貴族が左中指に着けた指輪は何らかの魔術具であり、其処に填まる石の色は自分の誕生季になる春夏秋冬の貴色となるのだと聴いている。

 

 春の貴色は緑、夏の貴色は青、秋の貴色は黄、冬の貴色は赤となっている中で目の前の貴族が着ける指輪は緑、恐らくは誕生季が春となっているのであろうと推察が出来た。

 

 そしてフーデットマントを纏い顔を隠している御貴族様はきっぱりユート、問題はマインの誕生季は夏だから指輪を獲たら青い季石となる事。

 

 目論見からマインを再びカルステッドとエルヴィーラを洗礼親とする為、ローゼマリーが産んだ双子という事になるからマインも春産まれという風に改竄されるであろう。

 

 神殿に隠されていた事にされるマインと違い、ユートは大々的に春産まれとされていたからだ。

 

「今回、私がギルベルタ商会に来たのは商取引であって商取引では無い」

 

「どういう意味でしょう?」

 

「服飾系のギルベルタ商会で、服飾に関わる品を売りたい訳でも買いたい訳でも無いからだ」

 

「ハァ……」

 

 よく解らないユートの言葉に頬へ手を当てながら溜息を吐くミルダ。

 

「用件は一つだけ、今現在のギルベルタ商会にて重要視されている病に付いて……だ」

 

「っ!? リーゼの事を知っているのですか! 貴方様が態々来たという事は治し方もっ!?」

 

 まくし立てるミルダに首を横に振る。

 

「残念ながらあれは病では無く体質でね、治るという事は無いのだ」

 

「……そんな?」

 

 親友であり義姉となる兄の婚約者、それなのにこれでは助ける事が出来ないのだと云う。

 

「但し、生き延びさせる事は可能だ」

 

「っ!?」

 

 バッと顔を上げるミルダ、その顔立ちは確かに未来で見たベンノの妹コリンナを思わせた。

 

 とはいえタイプは異なるか? 否さ、成人済みで髪の毛を全アップにしたコリンナと一三歳でしかないミルダ、単純に年齢的なものなのかも知れないとユートは考え直す。

 

(ミルダは確かギルド長グスタフがベンノに対してリーゼが亡くなった直後、自分の娘を婚約者に捻じ込もうとしたのを視てフレーベルターク領の親戚の家へ逃げる様に嫁入りしたと聴いたが)

 

 嘗てはコリンナの婿たるオットーが市民権を獲る予定だった領地で、アウブ・エーレンフェストの姉コンスタンツェが嫁いで、ジルヴェスターの第一夫人フロレンツィアの故郷でもある筈だ。

 

 ベンノには名前すら聴いていないがもう一人の妹が居て、その妹は旅商人へと嫁いだらしいからエーレンフェストには余り来ないみたいだった。

 

「そこら辺の交渉に君が代理を務めて大丈夫であろうか?」

 

「そ、それは……」

 

 恐らくは大金が必要となるだろう交渉に対して商会長ベンノの代理人、一応だけど本当の意味で商会長の座を継ぐ可能性が高いミルダではあるが現在、中継ぎなれど商会長は兄であるベンノなのだから勝手な交渉は出来ない。

 

「これをベンノに渡しなさい」

 

「これは?」

 

 それは真っ黒な石。

 

「闇の属性を持つ黒の魔木の魔石だ」

 

 タウの実に強く魔力を流して魔石化させた物、大きさは指先程度の代物でしかないけどリーゼの魔力を抜いて、取り敢えずの延命をさせるくらいの事は出来るであろう。

 

「リーゼの額にコレを当てれば目を覚まして暫くは生き延びるし、話し合いをする場に連れ出す事も出来ると思う」

 

「っ!」

 

 ミルダは魔石を受け取ってすぐに部屋を辞して階段を駆け上がった。

 

 稍あって、階下へベンノを筆頭にミルダと彼女に支えられたリーゼが降りてくる。

 

「火の神ライデンシャフトの威光輝く良き日、神々のお導きによる出会いに祝福を賜らん事を。初めてお目に掛かります、私はギルベルタ商会長ベンノに御座います。此方は我が婚約者リーゼと妹のミルダと申します」

 

「心よりの祝福を与えよう。火の神ライデンシャフトの導きがベンノと家族に齎されん事を」

 

 実際に祝福が齎されたからには詐欺師だとか、偽貴族なんてチャチな存在では決してあるまい。

 

 しかも流暢な貴族側の返し。

 

「さて、こんな不作法な格好で赦せよ。私は未だ外に顔を出したくは無くてな。名前も当然ながら教えられないが、流石に御貴族様と呼ばれるというのも業腹だな。ユウガと呼ぶが良い」

 

「ユウガ様で御座いますか?」

 

「そうだ。英知の女神メスティオノーラが地上に顕現化して人間の様な実体を獲たらメスティだと名乗っていた……みたいなものだ」

 

「理解を致しました」

 

 つまり、貴族の長い名前から一部だけを名乗っているという事だ。

 

「では座れ。リーゼも立っていては辛かろう? 其方も座るが良い。直答を許す故な」

 

 リーゼは下の者が行う胸元で腕を十字に組むというポーズの侭に口を開く。

 

「恐れ入ります」

 

 実際、中腰で辛かった。

 

「ミルダからあらましは聴いたな?」

 

「はい。黒い魔石でリーゼの熱は確かに引きまして御座います」

 

「あの魔石はタウの実を魔石化した物で、大きさが大した物では無いから数日もすれば又候リーゼは熱により倒れよう」

 

「っ! どうすれば……」

 

「先ず大前提として、リーゼの熱は魔力だ」

 

「なっ!? 魔力は貴族であるユウガ様達しか持たない筈では!」

 

「稀に居るのだよ、平民の中に魔力を持つ者が。それを身食いと呼んでいる。魔力であるからには対処法も貴族と変わらぬ。赤子の頃より魔術具を着け、洗礼式の折りには父親から誕生季の貴色の魔石を与えられる」

 

 左手の中指に着けた指輪を見せる。

 

「これによって魔力を抜いているのだ」

 

 それが意味する事は判る。

 

「わ、我々が買う事は?」

 

「唯でさえ子供用の魔術具とはいえ金額は高い。下級貴族用でさえ大金貨数枚を要する程にだ」

 

 ギルベルタ商会はそれなりに大店で下級貴族や中級貴族にも伝手はあるが、大金貨なんて身代を傾ける買い物をする訳にもいかない。

 

 これが普通の商会同士の取り引きであるなら、利を得て更に躍進をする大金が手に入るのだから投資だと思って出せるが、今回の場合はリーゼが魔術具を獲るだけで商会にリターンは無かった。

 

 大金貨数枚なんて使える訳が無い。

 

 持ってない……では無くギルベルタ商会としての運転資金や従業員への給与、商品の補充や様々な事へと使わねばならない資金を婚約者だとはいえたった一人のダプラに使う、それは商会長であるベンノの信用にも関わる重大な事だ。

 

 ギルベルタ商会の長は確かに中継ぎとはいえどベンノであろうが、ベンノだけで商会を回していけないのは父親を亡くして存分に理解した。

 

 従業員たるダルアは簡単に契約を切ってくる、取引先の商会は簡単に見捨ててくるなど。

 

 それでも残ってくれたダルアや、取り引きを続けてくれる商会も在るのにベンノが信用を切り捨てたら? 間違い無くリーゼが助かっても商会は完全に消滅する事であろう。

 

「そして、貴族は平民にこの魔術具を売らない。壊れ掛けた物を安価に……小金貨二枚と大銀貨で何枚かくらいでなら売るかも知れないけれどな、完品のコレを貴族は決して売らない。何故ならば連中は身食いを蔑み、従属させるなり女であれば性欲の解消に使うなりが当たり前だからだ」

 

「ぐっ!」

 

 これだから御貴族様は! と云わんばかりに、ベンノは拳を流血するレベルで握り締めていた。

 

「因みに子供用魔術具の値段は貴族間で売買されている適正なモノだ」

 

「そ、そうですか……」

 

「やれやれ、ベンノにルングシュメールの癒やしを齎さん」

 

「なっ!? 魔術?」

 

 痛みが引くのを感じる。

 

 まぁ、確かに祝福を授けているけど実際にこれは異世界の呪文ホイミだ。

 

「私も貴族であり、善人とは言い難い。というよりはっきりと言えば悪党の類いだろうな。だけどそれならそれで構うまい? 私は私の利さえ有れば平民に本来は売らない魔術具も売ろう。実際に商業ギルドには貴族が与えた魔術具も在る筈だ」

 

 ベンノは頷く。

 

 商業ギルドの二階から三階に続く階段に格子が道を塞ぐが、この格子はギルドカードを使ったなら容易く開く為に階段前に従業員が立っており、その人物にカードを預けて開けて貰う事になる。

 

「貴方に対価を支払えという事ですね?」

 

「そうだ。取れる時に取れる所から取れるだけ取るのが商人だろう?」

 

「そ、そうですね」

 

 それは商人なら誰もが使う言葉だった。

 

「その上で訊くが、ベンノはリーゼと死に別れるのと生き別れるのはどちらを選びたい?」

 

 ひゅっとベンノだけでなくリーゼも同時に息を呑んでしまう、意味も意図も理解が出来るだけにベンノはユートを睨み付ける。

 

「どちらも嫌だと我が侭を言うなら大金貨を六枚出して貰う」

 

 無理だ、大金貨六枚とは六千万リオン何て云う超が付くくらいに大金、リーゼが助かるだけであって商会にリターン無しで間違い無くギルベルタ商会の身代は傾いてしまうと妙な確信があった。

 

(リーゼを奪われるのは業腹だ、リーゼが死ぬなんてのも見たくは無い。だけど大金貨六枚なんて幾らギルベルタ商会といえど簡単には支払えん)

 

 お金が無いとは云わないが、商会へのリターンも無い取り引きに使える額では決して無い。

 

「あの、宜しいでしょうか?」

 

「直答を許すと言った、構わぬ」

 

「ユウガ様が欲しているのは魔力を持つ者なのでしょうか?」

 

「……エーレンフェストのみならず、ユルゲンシュミット全体を視ても魔力不足に喘いではいる。だが私は別に魔力持ちをどうしても確保したいと云う訳では無い。其方らに対価を求めるのは当然の権利であり義務だ。よく云うであろう? 『タダより高いものは無い』……とな」

 

「魔力持ちで無くて良いなら私を対価に召し上げて下さい!」

 

 ミルダの科白に目を見開くベンノ。

 

「ミルダ、何を言ってる!」

 

「兄さんは黙ってて! リーゼを渡すのは論外、だけどお金を支払うのも難しい。だけどユウガ様が必要なのは兄さんが対価を支払ったという事実だけ、それならリーゼでは無く私が行けば誰も困らないわ!」

 

「お前が!」

 

「大丈夫よ……きっと」

 

 怖くない訳では無い、不安がない訳でも決して無い、だけどまるでリーゼを救う事こそが目論見かの如く彼女が身食いだと知った上で現れた。

 

 ならばそれを信じてみたい。

 

 話し合いは終わり、ユートはリーゼに自分が持っていたYSXー003の型番な魔術具を与えた訳で、これを見た未来に現れる過去のユートがこうして権能で渡るのは確定した訳だ。

 

「此処は?」

 

「私の下町に於ける拠点だ。基本的に誰も住まわぬ故に好きに暮らせば良いし、ギルベルタ商会のダプラとして働きに出ても構わない」

 

「は、はぁ……」

 

「但し、既にあの様な仕儀に成ったとはいえ君はもう私のモノ。契約からはみ出る行為は赦されぬから心しなさい」

 

「判っています」

 

 浮気駄目絶対という感じの契約。

 

「心配しなくともベンノとリーゼの星結びに出席はさせる。それと魔力持ちの子供は母体に影響を受けるから、リーゼの子供も魔力持ちとなるだろうと思われる。その時には新しい魔術具を渡すからベンノに持って行ってやると良い」

 

「は、はい!」

 

 余りにも破格な扱いにミルダはうっすらと涙を浮かべながら返事をする。

 

 その後、ユートの真実の姿を見せられたり未来から来た事を教えられたりと、ミルダからしたら驚きの連続となったのは言うまでもあるまい。

 

 

.




 親父さんは未来というか現代で、死んでいる事が確定してしまっていたので助け様も無かった。

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