【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集   作:月乃杜

51 / 59
 携帯の破壊と新携帯の扱い難さとぶっ倒れなどで進まない進まない……





本好きの下剋上 司書になるためなら手段を選んでいられません【魔を滅する転生本】っぽい噺――再び始まる下剋上        

.

「本当にすぐ戻られましたね」

 

「ぶっちゃけ、僕はさっきからこの邸の傍で待機をしていたからな。事実として過去の僕は気付いていたからこそ動いたんだ」

 

「な、成程」

 

 マインは驚きながらも納得をした。

 

「お帰りなさいませ、ユート様」

 

「只今、フリーダ」

 

 過去にて遣るべき事の全てを終わらせてきた、故に今からは未来へと向けて動くのだと決意。

 

「フリーダ、過去で君が貴族に成る為の準備の方は終わらせておいた。後は君自身が決意表明をして貴族の養女と成ればそれで済む。とは言っても貴族の洗礼式をして貰わないといけないけどな」

 

「……その場合、家族とはお別れをしなければなりませんよね?」

 

「家族として会うのは無理だな」

 

 マインはフリーダの悩みを自身の前回に重ねているみたいで表情が悲痛だ。

 

「ですが、準備とは?」

 

「新しいエーレンフェストのギーベ領を創った。其処に僕が推す貴族を新ギーベとして封じる形になるな。因みにアウブ・エーレンフェストには既に根回し済みだし、君がギーベ領を継ぐ立場にはならないから僕的にも問題は無い」

 

 元平民という事も鑑みれば、第三夫人という事でユートと星を結ぶのが妥当であろう。

 

「ギーベ領を創る?」

 

 マインもフリーダも意味が解らない。

 

「僕の魔力ならちょっとした土地くらい創造をする程度であれば可能だよ」

 

「ハァ……」

 

 それは余りにも出鱈目が過ぎる。

 

 然もどんな伝手を辿ったのかアウブ・エーレンフェストに根回し済みというならば、ゴーサインさえ出せば新ギーベが誕生をするという事だ。

 

「どちらにせよ、すぐに返事をしろとは言わないから考えてみて欲しいね」

 

「判りましたわ」

 

 フリーダは頷くしか無かったと云う。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 その後はヴィルマとロジーナが居たのを見付けたマインが――『わたくしの専属がユート兄様に盗られたぁぁぁっ!?』と騒いだくらいで特筆をするべき事は無かった。

 

 盗ったと言われてもユートはマインの専属がどうとか識らなかったし、ヴィルマとロジーナにしてもマインに仕えた記憶などこの織地では無い。

 

 だけど二人が嘗て仕えた青色巫女クリスティーネを識っていたり、ロジーナがフェシュピールの名手でヴィルマが絵の達人なのを識っているからには、解かれた織地で二人がマインに仕えていたというのは嘘ではあるまいと考えていた。

 

 それに、ヴィルマが無理矢理に花捧げをさせられそうになった事もマインは識っていたから。

 

「フランは神官長の所かしら? デリアとギルはどうしているのでしょう?」」

 

「フランは確かに現在、神官長の下に側仕えとして務めておりますわ」

 

 ヴィルマが言う。

 

 継いでロジーナも口を開いた。

 

「デリアとギル……ですか、恐らくは地階に居るのではないでしょうか?」

 

 マインがひゅっと息を呑む。

 

 暴れん坊だったギル、神殿長付きの側仕えに成るのを出世と見做していたデリア、確かに今の二人は地階でドロドロに汚れながら空腹に布団も無い床で眠っているのだろう。

 

 貴族と同様に孤児も洗礼式を迎えないと居ないも同然に扱われ、一応の食事は摂らされるのだが今は青色が少なくなった事もあり貧相な食糧――餌としか表現が出来ないナニか。

 

 デリアは前の織地にて言っていた――『どうして私の時は……』――それは救って貰えなかった事への愚痴、だけどデリアの心は孤児院や地階が正しくトラウマと成っていたのは間違いないのだとマインは嘗ての側仕えにして、やらかしから孤児院から出られない罰を受けて後に身食いであったディルクの姉と成り慈しんだ彼女の事を思っていた。

 

(ユート兄様は可愛い女の子や綺麗な女性が大好きだし、デリアの事を話したら救いに行ってくれるかな? 尤も、その場合はデリアが花捧げの真似事をさせられる訳だけど)

 

 とは言え、仕事をしろと言われたデリアがベンノの太股に乗っかって擦り寄った事を鑑みれば或いは喜んで花捧げの真似事をしそうである。

 

 デリアは間違いなく美少女、将来的には普通に魅惑の美女に成長した筈だからユートであるならば無下にはしないだろう。

 

 事実、マインが盗られた(笑)ヴィルマとロジーナも可成りの美少女。

 

 一応だがヴィルマは成人式を迎えて髪の毛も後ろを全アップにしており、髪の毛を解くのを許されるのはヴィルマと星を結んだ夫のみという事になっているが、ユートの意識では矢張り成人年齢は二〇歳以上な現代日本人的なのがこびり付いていたから未だに二〇歳未満のヴィルマの事を成人とは思えなかったりする為、ヴィルマもロジーナと同様に美女では無くて美少女の括りだ。

 

 その美しさは貴族だと偽っても決して領主家の姫にも見劣りはしないとユートは考えていたし、マインはマインでエーレンフェストの聖女何て存在が本当に居るのであるならばヴィルマこそが相応しいとか思っていたりする。

 

 そしてタイプこそ違えどデリアもヴィルマやロジーナと遜色無い美女に成れる素質があった。

 

 前回は神殿長であったベーゼヴァンスに唆されて罪を背負ったしまった為、孤児院から出るのを一時的にすら認めない罰を下していた。

 

 一四歳までしか生きられずに、ユルゲンシュミット自体が崩壊して織地が解かれたからデリアの成長した美女な姿はマインも見られず仕舞いだったのが悔やまれると考えていた。

 

 いずれにしてもデリアは出逢う筈の時間よりも二年前の今は地階に居る。

 

 会いに行くならば色々と根回しなどが必要となってくるし、神殿長という存在が邪魔者でしかないのだ。

 

 同時にエーレンフェストのカーオサイファであるヴェローニカも、この際は同じく単なる邪魔者でしかあるまい。

 

 ユートからしたら確かな邪魔者だし、それはマインからしてもどうよの話。

 

 まいは気付かない、ユートが酷薄なる笑みを浮かべていたという事実に。

 

 それの意味する事を。

 

「それなら早く孤児院にも着手したい」

 

「孤児院に? 確かに余り良い状態だとは云えないんだったか。ヴィルマとロジーナもちょっと憂いていたしな」

 

「ユート兄様、孤児院には将来的にとびっきりな美女に成れそうな美少女が居るんですけど……」

 

「地階にか」

 

「はい!」

 

 まぁ、磨けば光る感じに美少女というか美幼女というのは居るかも知れない。

 

 地階に居るなら未だ五歳か六歳なのか?

 

 いずれにせよ、少なくとも前回の織地でマインとの関わり合いが他の者よりも深かったのだろう事が予想も出来た。

 

(まぁ、美少女なら囲わない手も無いだろうな。きっとヴィルマやロジーナとも違うタイプなんだろうけどさ)

 

 それ自体は悪い話でも無い。

 

 同じ顔がズラリと並んでも味気無い、双子くらいであればそれも属性の一つとして味わいも有るのだろうが、無味乾燥なまでに同じ顔を見せられては堪らないのだから。

 

 一応、そういう機能を備え付けられた茶々丸の量産型である茶々号達が存在しているのだけど、同じ顔が文字通りにズラリと並ぶから暗がりでは軽くホラーでしかない。

 

 

 出来る事は髪型を弄くる程度でしかなく、然もそれで弄れる数は決して多いとは云えなかった。

 

「取り敢えず神殿に行ったら気に掛けておこう」

 

「有り難う存じます、ユート兄様」

 

 未だに五歳でしかないマインでは出来る事など高が知れている訳だが、貴族に生まれ付いたとはいっても矢張り五歳なユートも実際に出来る事は決して多くは無いのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 マインちゃんのルッツ君を育てよう講座。

 

 困惑をしている薄い金髪な少年の目の前ではしゃいでいるマイン、旅商人を目指しているのだというルッツ少年には前回の織地で可成り御世話になったのだと云う。

 

 だからこそ、道筋がはっきりとしている今回も見捨てるには偲びないそうな。

 

「えっと、アンタは?」

 

「ユート。そう呼んでくれれば良い。マインとは親戚? ちょっとした兄妹みたいなもんだよな。トゥーリの婚約者……? 的な存在だよ」

 

「え、マジに? ラルフ……哀れな」

 

 実際には妾でしかないけど、ユートを旦那様とするのは間違いないのだから問題はあるまい。

 

 それに愛妾と呼ぶくらいには情愛も籠める心算だから、妻と呼ぶには立場が低いかも知れないけど少なくとも単なる性交相手では無かった。

 

「ラルフとは?」

 

「俺の一つ上の兄貴」

 

「ああ、トゥーリに惚れてる……と?」

 

「正解」

 

 知らない内に或る意味でフラれたラルフ少年ではあるが、別にユートがそんな彼を慮って身を引いてやる心算など一つも有りはしない。

 

 寧ろ見せ付けてやるくらいだろう。

 

 ラルフ少年が果たして前の織地ではトゥーリと星を結べたのかは判らないが、少なくともこの織地でトゥーリは諦めて貰う他あるまいとユートは考えていた。

 

 尚、ラルフ少年は別の女と付き合っていたりした癖に、トゥーリがルッツと星を結ぶ段に成ってからグダグダと管を巻いていたりする。

 

 そう、トゥーリと星を結んだのはルッツ。

 

 とはいえ、これらはα世界線の中でも最良? の結末の話であって、前回での織地では其処まで時間軸が進む事が無かったのだが……

 

 チラリと視線をトゥーリに向けると、緑色の髪の毛が日の光を反射して輝く様な宝石も斯くやのエメラルド色と成り魅力がアップしていて可愛らしく成っている。

 

 マインがこの織地でも遂に前世の知識を以てしてリンシャンを作り、自分やトゥーリやエーファの髪の毛に使ったのだ。

 

 マインの髪の毛も夜色の紺色に煌めいており、月色の瞳との相性は抜群らしくて妙な色気を放つ五歳児様だった。

 

「ルッツ少年」

 

「な、何だよ?」

 

「お前さんは肌や髪の毛が薄汚れているぞ」

 

「ハァ!?」

 

「服も継ぎ接ぎだらけなのは仕方がないにせよ、

泥々なのはちょっと頂けない話だろうな」

 

「な、何だよ?」

 

 行き成りの罵倒にルッツは不機嫌な様子で唇をアヒルの如く尖らせる。

 

「君がどんな夢を将来に懐くにせよ、洗礼式を終えてからの君がそんな身形で、果たして許される職場なのかな?」

 

「そ、それは……判んねーよ」

 

 勿論だけどゆはルッツの懐く夢が旅商人だとは知っているが、それだけに客商売であるからには今のルッツは見た目から話し方に至るまであらゆる面で足りていないと知った上だ。

 

 旅商人など歴とした市民権を持つ人間が成るべきでは無いし、判らない事が有るのならば先達が教えてやって然るべきであろう。

 

「職人なら問題も無いかもな」

 

「っ!?」

 

 ルッツが成りたくない職業のナンバー1が正に職人系。

 

「お、俺は旅商人に成りたいんだ!」

 

「何でまた? 親が職人なら子供も職人に……ってのは単なる古臭い因習とかじゃ無く、教えやら道具の融通やらが出来るからだ。まぁ、職人だと視て盗めが基本かもだけどな」

 

 

 手取足取り懇切丁寧に教えるのでは無く視て盗むのが基本となるだろう、そんなのだからこそコミュ障な職人気質が出来上がるのだろうに。

 

 前回にルッツが父親のディードと誤解の果てにやり合ったとマインから聴いていた訳だけど、その最たる理由は職人気質であるが故の言葉の少なさだったのは間違い無いだろう。

 

「先ず、商人は客を相手にする職業だ。如何なる商売でも変わらないが薄汚れた見た目に継ぎ接ぎだらけの服にボサボサな髪の毛、更には洗っていない手で商品をベタベタ触っているのを見てルッツ少年は不快にならないか?」

 

「そ、それは……」

 

「況してやそれが食べ物だったら?」

 

「うげっ!」

 

 不快というか食べたくない。

 

「それを踏まえて、ルッツ少年の今の姿が商人としてどうかは解るな?」

 

「あ、ああ」

 

 正しく有り得ない格好である。

 

「商人に成る心算なら旅商人だろうが街商人だろうが客商売、客が在ってこそ成り立つと云っても過言では無いんだ。よく『御客様は神様です』と思え……何て云うものなんだけど、勿論だが客がそれを強要して良い訳じゃない。飽く迄も商人が客を神へ遇するみたいに扱えという教えなんだ。それを鑑みてルッツ少年は神殿へバッチィ格好をして行けるか? 洗礼式や星祭りで行くだろ?」

 

「な、成程?」

 

 判った様な判らない様な微妙な生返事にはなっていたが、どうやらある程度は呑み込めたらしくてウンウンと頷いている。

 

「それと商人に成りたいなら今から金を稼いでいかないと間に合わない」

 

「え?」

 

「君が父親の……ディードだったか? 彼みたいな大工に成りたいとか、兄弟みたいな職人に成りたいとかなら道具を揃えて贈る事も叶うだろう。

確か御針子見習いに成るトゥーリの為にエーファが新しい道具を準備していると聴いた。これにしても御針子見習いがどんな職種か理解しているからこそ、だけど大工や木工職人では商人に成る為の準備など判らぬ。故に商人見習いの為の準備は自分でやらないといけない。抑々にして親の意向に歯向かう愚息の為に逆らう源たる仕事の為に、金を出して貰うというのも違うだろう?」

 

 言っている事が尤もだと理解してしまえるだけの地頭の良さ、そうなると確かに早目に金を稼いで準備に使わないといけないだろうと判った。

 

「マイン」

 

「はい?」

 

「商人見習いに成る為の下準備にはどのくらいの金が掛かる?」

 

「あ、えっと……小銀貨で一〇枚って云うよりは大銀貨で一枚って言った方が良いかな?」

 

「だ、大銀貨が一枚ぃぃっ!?」

 

 小銀貨一枚が一万リオンだから一〇万リオン、それは恐らく商人見習いの与えられる給金などはそれこそ吹いて飛ぶ金額、つまりルッツは給金より高額な見習い道具を揃えねばならないと云う。

 

「確かギュンターの給金がそのくらいか」

 

「うん」

 

 羊皮紙の値段が一枚で小金貨一枚、それを切り分けた契約書サイズで大銀貨一枚、更に葉書くらいのサイズで小銀貨二枚くらいの値段となる。

 

 そして前回の織地でギュンターは羊皮紙を欲したマインに、自分の給金の一ヶ月分が飛ぶ金額だと言い切っていた。

 

 子供の玩具にするには過ぎた物だ。

 

 ユートは羊皮紙を勿論だけど使い慣れており、使うのに否やは無いけど矢張り植物を使った紙の方が使い易く、マインがこれから本を得る為にも様々な試行錯誤をする予定だと聞いて『さっさと紙を作りなさい』とアドバイスしておいた。

 

 確かに前回の織地でマインは古代エジプトでの文明たるパピルス、古代メソポタミア文明による

粘土板、黄河文明の木簡や竹簡などがマインにより作られていったけど悉くが失敗。

 

 それを態々、マインは焼き直しする心算だったみたいだから紙作りを優先させたのである。

 

「ユート兄様も紙が欲しいのですか?」

 

「有れば便利だろ。羊皮紙は一枚丸々買った場合は小金貨一枚だぞ? 高価過ぎるし厚いからどうにも使い難いんだよ」

 

「ですか……」

 

 だからこそ羊皮紙より安値な木札が普段書き用に使われているのだ。

 

「そういえば、リンシャンですけど」

 

「リンシャンがどうした?」

 

「製法をベンノさんの所へ売りに行く予定なんですけど、ユート兄様なら製法を幾らくらいでなら売りますか?」

 

「ふむ、大金貨五枚かな?」

 

「ご、五枚!? 前回はわたくし、小金貨三枚で売ったのですが?」

 

「それは随分と足下を見られたな。リンシャンは確実に上級貴族や領主候補生ですら買い求める程なんだろう? 間違いなく大金貨五枚でもすぐに元は取れて儲かる筈だよ」

 

「騙されたって事ですか?」

 

「物の価値を理解していなかったのが悪いな」

 

 確かに騙されたとも思えない。

 

「互いにリンシャンの価値ってのが手探りだったのも理由だし、ベンノさんからしたら商人として成るべく安く欲しかったのも理由だろう。だけど此方は既にリンシャンの価値が鰻登りに上がる事を理解している。ならば最低限で大金貨五枚は取るべきじゃないか?」

 

「取れる所で取れる時に取れるだけ取る……という訳ですか」

 

「そういう事だね」

 

 それこそがベンノの教えである。

 

「ああ、そうだ! ルッツ少年が清潔さを数日間保てたら元旅商人を紹介してやるよ」

 

「本当か!?」

 

「勿論」

 

 マインはそれがオットーという兵士商人の事だとすぐに理解した。

 

 ちょっと違うけど、オットーはこの織地に於いてユートの義弟にも似た扱いとなる……のだが、当人であるユートがそれに気が付いたのは過去へ渡り、オットーの妻となるコリンナの姉ミルダを愛妾契約にて召し上げた後の事。

 

 勿論だが婚姻では無いから厳密には義弟と呼べる程に上等な関係ではあるまいが、ユートは抑々にして現代日本に生まれ育ったのが立脚点として在るが故に、貴族に生まれ付こうが王族に成り上がろうが精神的には日本人の侭である。

 

 関係的にはユートとトゥーリとマインに近い、とはいってもそれをオットーが気付くにはユートがミルダを連れて来る必要があった。

 

 それから約数日後に約束の時が訪れた。

 

 時間は三の時だから未だ早いと言えば早い時間だったが、こういう職業関係の面接ともなれば遅れる方が致命的だとマインは識っている。

 

 だから早目に来たのだ。

 

「やぁ、マインちゃん」

 

「オットーさん」

 

 前回のオットーとの会合と同様にベンノが共に立って居た。

 

「こないだ振りだね、ベンノさん」

 

「あ、ああ……」

 

 流石に頬を引き攣らせながら応じるベンノだったけど、取り敢えず表情を咳払いの一つで取り繕えるのは慣れを感じてしまう。

 

「は、初めまして、ルッツです! 宜しくお願いします!」

 

 挨拶を頑張ったルッツに対して、マインは優しい眼差しで彼を見詰めている。

 

「初めましてマインと申します。どうぞ宜しく御願い致しますね」

 

「ベンノと云います、どうぞ良しなに」

 

 前回の織地ではうっすらと笑みを浮かべながらの挨拶だったが、ユートが居るというだけで引き攣った笑みに成ってしまうのは仕方がない。

 

「処で、お前さんの頭に刺さってるのはいったい何なんだ?」

 

「簪ですよ。わたくしの髪の毛はこうして簪で纏めないとすぐに落ちてしまうのです」

 

「ほう? 見せて貰っても?」

 

「構いませんよ」

 

 マインは簪という名の棒を引き抜くと、それをベンノへと手渡してやる。

 

「只の棒だな」

 

「はい。父さんに削って貰った単なる木の棒に過ぎませんね。とはいえ、こんな大した事も無いであろう代物が大きな商機に繋がる発想の源にも成るのは、現役の商人であるベンノさんには神官の耳に祝詞でしょうけれど」

 

「……変わった言い回しだな。意味は何と無くだが解るけどよ」

 

 『仏の耳に念仏』をユルゲンシュミットでも解る様に落とし込んだ、神では無く神官にしたのはこの地は神々により生まれた大地でありながら既に存在自体が疑問視されているから。

 

「にしても、小さいのに随分と確り躾をされているお嬢さんだな?」

 

「未だ五歳だが見た目程に子供じゃない」

 

「どちらにせよ、未だに洗礼式前の子供を助手扱いとはな」

 

 オットーは何やかんやと言い訳をしているが、

ジト目をしたベンノは言い訳を信じていない。

 

「ユート……は判るが、嬢ちゃんの髪の毛は凄いもんだな。いったい何を付けているんだ? どうやら坊主も同じ物を付けているみたいだが」

 

「割とありふれた物の組み合わせですが、詳しくは秘密にさせて頂きますわ」

 

 マインの笑顔は威圧感たっぷり、流石にベンノもこれは聞き出せそうにもないと判断した。

 

 それにつけても大人しい、恐らく既にベンノはユートが貴族なのを感じているのだろう、いつかは無茶振りをさせられるのだろうと戦々恐々としている感じだった。

 

「折角だから僕の拠点で話さないか?」

 

「ユートの拠点ですか?」

 

「そう、ギルベルタ商会の置かれている建物からもそんなに離れていない場所だ」

 

 それで何と無く理解したらしい。

 

「判りました」

 

 ゾロゾロと移動をする一行、ユートを先頭としてベンノ、オットー、ルッツが続く。

 

 尚、マインはオットーが抱えていた。

 

 一際に立派な建物は八階建てのマインの借家より高い建物で、一階から二階までが白の建造物というのは他と変わらない物だけど、更に上である三階以降の建物も木造住宅で無い白地に近い物。

 

「ひょっとしてコンクリート?」

 

「多少の違いは有るがコンクリート建築物だな、白の建造物の上からコンクリート製と成ってる」

 

 驚愕しているマインに答えてやる。

 

「リーゼが倒れた後くらいに行き成り顕れた建物だったが、貴方が拠点にしている事が不可解でしか無いんですがね」

 

「前アウブ・エーレンフェストに交渉をしてね、エントヴィッケルンで新造して貰ったんだよ」

 

「前アウブ・エーレンフェストに!?」

 

 この情報に驚愕をしたのはベンノだけでなく、マインとオットーとルッツも同様であった。

 

 前アウブ・エーレンフェストのアーデルベルトはジルヴェスターの父親であり、そして紛う事無くフェルディナンドの父親でもある人物だ。

 

 勿論ヴェローニカが腹を痛めて産んだ子供の中で現在、エーレンフェスト領内に残っているのはジルヴェスターのみであり、フェルディナンドの母親はマインが曰くアダルジーザ離宮で所謂、高級娼婦も同然に成っていた傍系王族の姫らしい。

 

 アダルジーザ離宮その物が四〇〇年前とは異なる扱いをされ、一種の高級娼館で王族や領収が招かれて傍系王族の姫を抱いていたのだとか。

 

 そしてフェルディナンドの母親に当たる姫君が偶さかアーデルベルトに当たり、一夜の夢だったのか幾らか通ったのかは判らないが懐妊をして、後にアダルジーザの実と蔑称されるフェルディナンドを産んだのだろう。

 

 フェルディナンドをアーデルベルトが引き取った経緯は判り兼ねるが、少なくとも領主なり王族なりが子を引き取る条件は実子である事。

 

 故にフェルディナンドがアーデルベルトの子供なのは疑うべくも無い。

 

 問題なのはヴェローニカから一夫一婦を誓わされながら、明らかにジルヴェスターより可成り後に産まれたとしか思えない年齢のフェルディナンドを連れて来た為、誓いを破ったとして領主たるアーデルベルトを随分と詰ったと云う。

 

 七歳のフェルディナンドに毒を盛ってみたり、酷く冷徹ながら至極真っ当な事を洗礼式から間もない子供に吐き捨ててみたり、自身の派閥の者に背後から襲わせたりと碌でもない事をしていた。

 

 挙げ句の果てが、洗礼親として立たなかった癖に彼を『私生児』と悪意たっぷりに呼んでいる。

 

 アーデルベルトが健在の内は領主夫人として、現在は領主の母親として権力を思うが侭に操っているカーオサイファ、ライゼガングとの確執など言い分は有るにしても酷いものだった。

 

 マインが驚いたのはそんなアーデルベルト相手に交渉した事にある。

 

「過去に渡った折りにですか?」

 

「勿論」

 

「過去に渡った?」

 

 ユートとマインの会話に首を傾げたのは矢張りベンノ、確かに平民は於ろか貴族でさえ時渡りなど神話の中の戯言くらいにしか思うまい。

 

「貴方は時を渡れる……と?」

 

「そうでもなくば、抑々にしてあんな死にそうになっていたリーゼに偶々持っていた子供用魔術具を売るなんて出来るとでも?」

 

「っ!?」

 

「前に事情を知らなかった僕はリーゼの魔術具を見ても、何故に自分が造った魔術具が存在しているのかも判らなかったけど、ヴェントゥヒーテと

ドレッファングーアの権能を得て理解をしたよ。僕自身が時を遡ってリーゼに魔術具を与えたんだってね」

 

 その言葉に驚くのは知らなかった一同。

 

「権能?」

 

「○○の神と呼ばれる様に神々は自らが司っている権能が判り易い。英知の女神メスティオノーラなら英知の象徴たる図書館を管理、ユルゲンシュミットには自らの神名を冠した書を与えてる」

 

「ドレッファングーアは糸紡ぎの女神だろう? 貴方が時を遡ったのと何の関係が? 機織りの女神のヴェントゥヒーテだって……」

 

「貴族のみならず平民も神話に関してはこの程度の認識なんだな。識字率とかの問題じゃ無くなっているんじゃないか? これは」

 

 寧ろ矢張り平民の方が弱いか?

 

「ドレッファングーアの糸紡ぎ、その紡がれている糸とは人の因果。ヴェントゥヒーテが織り成す機織りとは歴史その物を指す。彼女らニ柱によって織られた物はユルゲンシュミットの歴史だよ。単なる布を織っている訳じゃ無いって事なんだ。それを“織地”と呼んでいるんだよ」

 

「織地……か」

 

 正しくそれは卵が先か鶏が先か? 何ていう、タイムトラベルあるあるな話題が挙がる。

 

「つまり、あのユウガ様は貴方だと?」

 

「そう。ユートユウガ・ゾーン・リンクベルクが僕の本名となるな」

 

 未々な処は有れど貴族関係の取り引きをしているだけに、ギルベルタ商会の商会長ベンノはリンクベルクという名前の意味に気付いた。

 

「騎士団長の息子……」

 

「騎士団長カルステッドが第三夫人ローゼマリーの息子で父上の四男に当たる」

 

「これは御無礼を致しました」

 

 片膝を付いて両腕は拳を握り胸元でクロスさせるユルゲンシュミット共通な、格上の存在に対する恭順の姿勢をベンノが執ったのと同時にルッツも訳が解らないなりに続き、オットーも驚愕した表情と成りはしたものの矢張りベンノに倣う。

 

「まぁ、無礼と言っても正体を隠されていちゃあ判るまい」

 

 苦笑いを浮かべるユートに、ベンノはどう言ったら良いのか判らない表情で頷いた。

 

「それじゃ、オットー」

 

「は、はい!?」

 

「ルッツ少年に現実を解らせてやってくれ」

 

「畏まりました」

 

 恭順の姿勢を解いてオットーはルッツへと向き直ると……

 

「お前さんがマインちゃんの言っていたルッツという訳か。旅商人に成りたいんだと聴いている」

 

「は、はい! 俺!」

 

「やめておけ」

 

「え?」

 

「旅商人に成るなんてやめておけ、市民権を手放す何てのはバカのする事だ」

 

「市民権?」

 

 どうやら判らないらしい。

 

「市民権とはエーレンフェストに存在する街や村に住む権利の事だ。七歳の洗礼式の際にメダルの登録というのを行うんだが、それが同時に市民権を発行されたという事になる」

 

「そうなんだ……」

 

 ルッツがマインを見遣ると訳知り顔をしている辺り、この市民権に関してはどうも既知の事だったらしいと考えた。

 

「旅商人は水の確保をするだけでも大変なんだ。何しろまともに街や村に住めないから馬車の幌で休むしか無いし、水飲み場が確保されている訳じゃ無いから捜すのも一苦労、更に盗賊か何かにも目を付けられれば危険しかない」

 

 元旅商人の視点から語られる旅商人の苦労は、街に暮らすルッツからしたら全てが足りない。

 

 寝床は在る、水なら公衆井戸を使えば良いし、多少のいざこざは有るが盗賊を恐れる必要性も無いのが今の暮らし、どう考えても甘い見積りだったのだと青褪めるしか無かった。

 

「更に言えば旅商人の最終的な目標だ」

 

「目標?」

 

「旅商人が危険な旅をしながら商売を続けるのは大金が欲しいから。その大金でどうしても買いたいモノが有るからなんだ」

 

「そ、それは?」

 

 一拍置いてオットーは言う。

 

「それが市民権だ」

 

「なっ!?」

 

「市民権を持たない旅商人は莫迦みたいに高価な市民権を買い、いつかは安全な街中で商人をしたいと夢見て苦労なだけの旅商人を続けている」

 

 余りにも意外な話に絶句した。

 

「因みに、親が暮らしている街の市民権は子供なら半額に成る。確かオットーは両親がフレーベルターク領に市民権を買っていたな?」

 

「はい」

 

「つまり、フレーベルタークなら半額で済んだのに態々エーレンフェストに市民権を得た。奥さんと星を結びたいからだったよな?」

 

「その通りです! 一五歳の成人式を終えたばかりの時に、俺はベンノの所へ最後の挨拶の為に訪れた際にコリンナに出逢ったのです! その姿は正しく女神様を見た心地でした!」

 

 そのコリンナ讃歌はギュンターの娘讃歌にも似たナニかで、途切れる事も無く洪水の如く押し寄せるコリンナの情報にルッツは辟易する。

 

 ベンノも溜息を吐くしかない。

 

 コリンナ大好きオットーは愛妻自慢がしたくてしたくて堪らないらしく、下手に彼女の話題をしてしまうとマシンガントークになる様だ。

 

 ユートも美しい恋人やら愛人を自慢したい気持ちは解らないでもないが、コリンナはユートにも理解が出来る美女なだけに下手な自慢は貴族にでも興味を持たれると厄介。

 

 人妻で平民で……というマイナス要素を補うくらいの美女な訳だし、味見レベルの話で連れ去られたら翌朝には遺体が川で見付かる可能性も。

 

 矜持の高い貴族なら未だしも、中には前回での織地でマインを『平民』と侮って傷付けたという雑魚騎士(シキコーザ)も居るし、貴族が興味を持つ事をしない方が安眠も出来るというものだろう。

 

「コリンナ談義はそのくらいに」

 

「何を仰有る! 未々! コリンナの美しさを語り切れてはいないのに!」

 

「それで貴族権限を以て召し上げられたら悔やんでも悔やみ切れまい?」

 

「っ!?」

 

「僕にその心算は無いさ。だけど今みたいに辺り構わずコリンナの美しさに関して吹聴してみろ、いずれは貴族の……糞っ垂れな莫迦貴族辺りにでも知られたら行き成り奪われ、翌朝には素っ裸で近くの川に流れていましたなんて胸糞悪い結果に成りかねないんだぞ」

 

 血の気が引いて真っ青になるオットー、まさかそんな事にはと言い切れないのが御貴族様だ。

 

「エーレンフェストのカーオサイファなんてのは正しく貴族の闇を凝縮した様な存在、気に入らない輩は謀略によって追放なんてのは優しい方で、毒殺を平然とやらかす上に実際にやらかすのは下の人間で、あっさりと口封じを仕出かしてくれるからな。義姉のハイデマリーも妊娠の真っ只中で毒を盛られて高みに上がり掛けたからな」

 

 ゾッとする貴族あるあるな話に食い付いたのはマイン、事が『エックハルト兄様』のお嫁さんと産まれて来れなかった赤ちゃんの話だから。

 

「無事だったのですか!?」

 

 喜色満面なマイン、エックハルトの様子を見た事は無かったが、当時の彼は妻と子供を亡くして茫然とした生き方だったらしい。

 

 とはいえ、終わってしまえばフェルディナンド・マンセーが過ぎたのが原因でエックハルト共々に毒を盛られたので、実際には自業自得な処があったのだと前回にフェルディナンドの側近にして兄の同僚たるユストクスから聴いた。

 

「義姉上には凄く感謝されたよ。娘も産まれたからエルヴィーラ様も大喜びだったしね」

 

「そっか、エルヴィーラ様はエックハルト兄様を始めとしてランプレヒト兄様にコルネリウス兄様と結局は三男だったから、女の子が産まれたのなら喜ばれた事でしょうね」

 

「寂しそうだな」

 

「御孫さん……しかも初孫娘が居るのですもの。わたくしがお邪魔は出来ませんわ」

 

 ユートは納得して嘆息をする。

 

「未だ赤ん坊だぞ? 着飾る相手には洗礼式後の女の子である方が望ましいし、あの子が洗礼式を迎える頃には君は貴族院で忙しいから入れ替わりであの子に御鉢が回るさ」

 

「ユート兄様……はい」

 

 因みに、年の頃が近いからアウブ・エーレンフェストの次男坊と……何て話も内々に出ていた。

 

 とはいえ、ユートとシャルロッテを何て話も既に出ているから難しいであろう。

 

 少なくとも、ユートですらシャルロッテと星を結ぶのは見咎められる慶事と成るのに、その兄弟の娘をともなればライゼガングの専横が出てくる可能性が高くなるのだ。

 

 尤も、ユート本人はライゼガングの老害なんて存在に傀儡とされる気は更々無いが……

 

 実はその一環がフリーダ貴族化計画である為、ユートは折に触れて説得をする様にしていた。

 

 だけど貴族化するという事は過去の平民であった自分を棄てるに等しく、それこそがフリーダをしてあっさりとは頷けない理由でもある。

 

 貴族は何処の世界でも己れの優位性を脅かす下の存在を許さない、平民の身食い風情が自分達の領分に入り込む前例など決して許しはしまい。

 

 だから洗礼親は頑なに秘密を守れる貴族である事が望ましく、更に契約魔術により縛るくらいには慎重を期さねばならなかった。

 

 実の処は洗礼親に心当たりがあったし、餌と成る物……というより心付け? みたいな物だって既に用意しており、前アウブ・エーレンフェストであアーデルベルトにも了解を得ている。

 

 幸い? 何故かアーデルベルトは神々への信仰心が篤い人物で、ドレッファングーアとヴェントゥヒーテの権能を借りて過去へと航ったカルステッドの息子だと言うと信じてくれた。

 

 どうやら見事な()()()()()()()()()()()()()()時の女神? と出逢ったとか。

 

 ユートが知る中でそれは英知の女神メスティオノーラであるし、背丈が全く違うけどマインくらいしか居ないだろうと考えた。

 

「さて、コリンナの話は終わりだ。終わらせないなら本当に召し上げてやるけど?」

 

「じゃあ、市民権の話に戻ろうか!」

 

 凄まじいまでの掌返し。

 

「ルッツ少年」

 

「は、はい?」

 

「市民権を持ちながら市民権を手放して旅商人に成った場合、他の旅商人はルッツ少年にとっての仲間足り得ると思うか?」

 

「え、どういう……」

 

 狼狽えるルッツに、真面目な漸く表情に戻ったオットーが爆弾発言をしてくる。

 

「俺なら間違いなくルッツを認めない」

 

「は? 何で?」

 

「市民権は俺達みたいな旅商人には羨望の的だ、それを棄ててまで旅商人に成る? これ程にまで巫座戯た話は他に無いだろうからね」

 

「……あ」

 

 想像が出来たのか声を上げた。

 

「理解したかい? 外の環境、盗賊などの障害に加えて仲間と認められない孤独なんて味わって、それでも旅商人に成りたいんだと言えるかな? それは兄弟間で奪われる君とどう違う?」

 

 ギュッと拳を握って首を横に振る。

 

「何も……違わない……」

 

 悔し涙すら浮かべながら。

 

 奪われるだけの人生を変えたくて職人の父親を持ちながら商人というか旅商人に成ろうと企み、然しながらそれがどれだけ甘い考えに基づくモノなのかを理解させられただけの会合だった。

 

「結局、俺は親に言われるが侭に職人に成るしか無いのかよ……」

 

「ルッツ少年は旅商人じゃなく街の商人を目指したらどうだ? ベンノさんが来たのだってその道を開示する為なんだからな」

 

「え?」

 

 バッとマインを見遣るルッツ。

 

「マイン!?」

 

「ごめんねルッツ、だけど旅商人が駄目だってのは何と無く判っていたから。ベンノさんが居れば街商人の道も拓けるかも知れなかったの」

 

「い、いや……マインが俺の事を考えてくれていたって事だからな」

 

 怒りたい訳では無いのだ。

 

「それで、俺の出番という訳なのか。ルッツと云ったな? お前は本当に商人に成りたいのか? 聞けば大工の倅で兄も木工職人として働き始めているそうじゃないか。全く職種の違う商人に成るには親兄弟から何の援助も伝手も得られないぞ。元来、親が子供に仕事道具などを贈ったりするのが普通なんだがな、商人に必要な物は何かと高価だから買い与えるなども難しい。少なくとも貧民区域の南側で暮らす人間がおいそれと買えばしないだろうな」

 

「それは聴いてる。小銀貨一〇枚は初期費用が掛かるらしいってのは」

 

「それで間違いない、それが初期費用なのも合わせてな。当然ながら見習いの身には余るくらいで湯水の如く使う羽目になるだろう」

 

 小銀貨といえば貧民区域では子供が滅多に見ないであろう貨幣、ルッツは五歳という事から未だに御使いすら任されていないから見た覚えは無かったし、一つ上のラルフだってトゥーリのタメでしかないから見た事は無さそう。

 

 専ら、貧民区域の住民が使う貨幣は大銅貨でも事足りているのだから。

 

 例えば冬の間の食料品や薪の買い足しなどでなら小銀貨も活躍するのだろうが……

 

「ルッツ、わたくしが考えた物はルッツに作って貰いたいと思ってる。勿論、トゥーリや母さんに頼まないとならない物はそうするけど。ルッツはわたくしを手伝ってくれる?」

 

「やる! マインが考えた物は俺が作ってやる。ベンノの旦那、取り敢えず俺に出せるのはマインにおんぶに抱っこな現状だ! それでもいずれは俺自身も価値を高めて見せる!」

 

「ま、及第点にしておいてやる。ユート様が何も言わないなら某かは持ってるんだろうからな? それで嬢ちゃんは何を作る心算でいるんだ?」

 

 ルッツのやる気は買ったベンノが次いでマインに訊ねると……

 

「紙を!」

 

 前回より早い今の時期に作る宣言をする。

 

「紙ぃ?」

 

「はい、羊皮紙とは素材からして異なり量産に向いた紙を製作したいと思っています!」

 

 本を得る為なら手段を選ぶ気は皆無であるし、マインには必要な物は今すぐにでも作りたい意欲に満ちていたのだと云う。

 

 

.




 位置調整しないと文字予測で画面が隠れて何を書いているか見えなくなるとか……


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。