【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集   作:月乃杜

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 書く機会が無いかもだから……




本好きの下剋上 司書になるためなら手段を選んでいられません【魔を滅する転生本】っぽい噺――ダンケルフェルガーはやらかしました

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 貴族院に通う様に成ってから約三年の時を迎えたユートユウガ・ゾーン・リンクベルク・アドティ・エーレンフェスト、つまりはユートは貴族院の三年生に成ったのである。

 

 まぁ、貴族院に行こうが行くまいがユートが変わるなど有り得ない訳で、ユートが一〇歳に成った時点で義妹ローゼマインの専属御針子兼ユートの平民愛人枠なトゥーリは一一歳。

 

 ユート的な倫理観では最低限の【閃姫】契約の年齢条件を満たした。

 

 五歳の時に出逢ったその日から理由は有ったけどチュッチュと唇を重ねていたし、逢瀬を繰り返しては別れ際に唇を重ねていた貴族的な倫理観では破廉恥案件真っ只中。

 

 貴族に成ったフリーダとは同い年だった事もあってか、御貴族様では出来ないであろう成人前で婚姻前の愛人的な行為に同意した。

 

 フリーダには仲間意識を持っているが、魔力を微かぬかにしか持たない普通の平民なトゥーリからしたら、身食いで高い魔力を持つから貴族として侍る事が叶う彼女が羨ましく、せめて未だに幼さの残る未成熟な肢体を差し出して傍に温もりを求めたのは『然もありなん』である。

 

 因みに初めての儀式では一対一で行った“おせっせ”だったけど、二度目からは何故かフリーダが交ざって来たから少し驚いた。

 

 当たり前だけどフリーダとは今も最後まで致している訳では無い。

 

 フリーダはダームエルの兄のヘンリック・ギーベ・エルドラドとの実子契約を結んでおり、現在ではフリーダリア・トータ・ベルネットという()()()()()()()ギーベ領のエルドラドに住まいを与えられている。

 

 現在は年齢ロンダリングをしてて二歳下であるアウブ・エーレンフェストの長男、即ちヴィルフリート・ゾーン・エーレンフェストの同級生としてユートやローゼマインと共に、貴族院の三年生として通っているのだから人生は判らないもの。

 

 貴族院は一〇歳から通うから今の公的な年齢は一三歳と成っていた。

 

 ギーベ・エルドラドに選ばれたヘンリックは、元は下級貴族の文官程度の身分でしかない。

 

 然し今や飛ぶ鳥を落とす勢いな新食糧庫であるエルドラドのギーベ、しかも上級貴族の文官として頭角を表しているのが彼だ。

 

 その背景にはユートが過去溯行で新たに手にした素材を使い、人工リンカーコアの魔術具を造ってヘンリックへと与えた事に有る。

 

 エルドラドは浮遊島であり、領地では無く人間であるユートに紐付いているからユートが許可をしない限りギーベには成れず、ヘンリックは認められたからこそギーベ・エルドラドと成れた。

 

 その認めた理由の一つはフリーダを実子として洗礼式を行い、そんな彼女をユートの第三夫人として婚約を行う事を発表したから。

 

 尚、第二夫人枠は空けて第一夫人と成る予定の相手は既に居るからと、ユートは誰とも他に婚約者を考えていないのだと対外的に言ってある。

 

 とはいえ、怪しい相手が何人か居るというのはヴィルフリートの側近辺りが騒いでいたが……

 

 例えばリーゼレータとアンゲリカの姉妹だが、この二人は中級貴族の出だから元上級貴族にして現領主候補生である筈のユートと、早い内に交流らしい交流は無いと思われたけど何故かアンゲリカはユートに懐いていたし、それに付随しているのかリーゼレータも随分と気安い。

 

 実際の処、アンゲリカはユートがカルステッドとエルヴィーラの実子として洗礼式を終えた後、ローゼマインと共にアウブ・エーレンフェストであるジルヴェスターとの養子契約及び、将来的に娘であるシャルロッテとの婚約を行う事を内々にではあるが発表した頃、貴族院の三年生であったアンゲリカの座学成績が壊滅的だと判明。

 

 その事を知ったユートが貴族院から領地に帰って来たアンゲリカに、成績向上の為の魔術具を貸し与えた上で勉強に付き合ったのだ。

 

 目に見えて上がるアンゲリカの成績に、両親や妹のリーゼレータは於ろか一族総出で万歳三唱をしたものだった。

 

 アンゲリカは懸念事項だった勉強から一時的にではあるが開放されて、しかもユートは彼女よりも強かったから理想的な人物を見るかの様だし、ユートはリーゼレータより年下でも背丈は彼女よりたかいし、領主候補生であり将来性があるとして時折うっとりした瞳で視てくる。

 

 ユートはアウブ・エーレンフェストの長女に当たるシャルロッテの婚約者、年齢的にどうしても年上であるフリーダより発表が遅くなってしまった感はあるが、それでも領主候補生という箔付けの為にも早い目の発表をしておきたかった。

 

 当然ながらライゼガングや旧ヴェローニカ派閥の貴族が様々な思惑が外れたか荒れに荒れたが、ユートからしたら知った事でも無かったというのもあるし、シャルロッテは実質上は三歳の頃からの幼馴染み的な存在であった上に血筋からしても実は縁戚関係、何故ならばユートの父方の祖父のボニファティウスとアウブ・エーレンフェストは謂わば伯父と甥の関係、先代アウブ・エーレンフェストたるアーデルベルトの兄だからだ。

 

 つまり、ボニファティウスの子の現騎士団長であるカルステッドはアウブ・エーレンフェストのジルヴェスターとは従兄弟、ならばその子供同士は云ってみれば再従兄弟という関係に成る。

 

 つまりは態々、ジルヴェスターの養子になんて成らなくても本来ならカルステッドが領主候補生であり、ユートは同じく領主候補生として最初から遇されていなければ成らなかった。

 

 そして領主候補生同士の再従兄弟であるならば婚約も割と容易く――とはいえ王の承認が必須と成るが――出来ていた筈だが、ジルヴェスターの実母たるヴェローニカが実子の確実なアウブ就任の為に、色々と暗躍した挙げ句の果てにカルステッドを上級落ちさせたのだから闇は深い。

 

 まぁ、カルステッド本人は余り気にしてはいないみたいだからユートはどうでも良かったけど、シャルロッテ的には大好きな『おにいちゃま』と婚約が叶うか否かの話だった。

 

 何故に『おにいちゃま』なのか?

 

 初めての出逢いは彼女が未だ二歳児の頃だったから、兄が居るとは聴かされても実はヴェローニカに取り上げられていたから会った事が無い。

 

 だから初めての同世代の異性だったから兄が会いに来てくれたと勘違いし、シャルロッテは頬を紅く染めながら『あなたがわたくしのおにいちゃまでしゅか?』と噛みながら訊ねてきたのだ。

 

 色々とあって仲良くなったから一ヶ月に一回の割合で会いに行き、お土産を渡しては一緒に勉強をしている内に実兄の事はどうでも良くなったらしくて、ユートを完全に『おにいちゃま』として認識をしつつ、再従兄弟だから結婚も出来ると知ってからはそれを望む様に成っていた。

 

 ジルヴェスターも最初は難色を示したのだが、ユートが騎士や文官として殊の外に優秀なのが判った――というよりエーレンフェストの上級文官が無能過ぎた――から、それならば領主一族へと引き込む意味も大きいのと、エルドラドを創ったのがユートだと判明したのが矢張り大きい。

 

 過去へ遡ったユートはエルドラドを創造して、当時のアウブ・エーレンフェストたるアーデルベルトにギーベ領としての承認を貰い、後々になってヘンリックを上級貴族の伯爵としたギーベへと就任させ、然るべき日にフリーダと養女契約を交わして貰ったのである。

 

 ユートに紐付いているからにはアウブといえど逆らえず、更には祈念式で魔力を補充しなくとも

ユートが補充するから一切の負担も無い。

 

 ユートは魔力量も魔力強度も魔力性質も全てに於いて抜きん出ており、その気になればそれこそユルゲンシュミットに存在している全ての礎を満たして尚も余りある。

 

 エルドラドに魔力を割いても問題は全く無く、平然としていられるのがユートであったと云う。

 

 前回の織地でローゼマインが、アウブ・ダンケルフェルガーの第一夫人ジークリンデから聴いたらしい、アウブの三人の夫人の在り方というものが有るらしい。

 

 第一夫人は主に外交的な部分を担い、第二夫人は主に領内の取り纏め、第三夫人はそういう重責は無くて“花”に近いモノだとか。

 

 ユートはアウブに成りたいとは思わないから、そういう型に当て嵌める必要性は無いと考えるものの、アウブ・エーレンフェストの娘を第一夫人として得る訳だし、フリーダは能力こそ高いけど第三夫人に収めるのが無難としていた。

 

 フリーダ本人も大好きな商売や、趣味でもある金貨を数える事が出来るなら問題も無いらしい。

 

 実際、フリーダは毎夜毎夜で金貨を数えながら『ウフフ』と悦に入ってるのだとか、そのツインテールにはトゥーリが誕生季に贈ったという花飾りが揺れていた。

 

 然し、ユートの望みが必ずしも叶うとは限らないのも世界の流れだろう。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ダンケルフェルガーは何かと祟ってくる領地、南側のアーレンスバッハと隣接した土地であるが故に気候としては非常に暖かい土地、比較的に北側へと位置するエーレンフェストはどちらかと云えば寒いし、グラッセンブルク領の境界門が在るエーレンフェスト領の最北端ハルデンツェルでは冬が長く春の訪れも遅い。

 

 今は春を呼ぶ儀式の復活によりハルデンツェルは早目に春が来るから、当代のギーベ・ハルデンツェル――エルヴィーラの兄は、その儀式に付いて閃きを以て成し遂げてくれたローゼマインには最大限の感謝をしていた。

 

 それは兎も角、ダンケルフェルガーが直接的に関わって来たのはローゼマインが図書室の魔術具にして、嘗て王族が造ったとされるシュミルをもしたシュバルツとヴァイスという黒と白の人形、これの主としてローゼマインが登録されてしまった事に端を発する。

 

 尚、前回の織地でも同じ事が起きているのだから回避自体は可能だったけど、その後の展開が変わっては困るから起きる事態だけは起こす方向。

 

 実際にダンケルフェルガーとのあれやこれや無しでは、大領地にして上位領地たるダンケルフェルガーの姫――前回は本好きのお友達として交流を深めたハンネローレと仲良くする切っ掛けが掴めなくなったかも知れない。

 

 ハンネローレは確かに可愛らしい容姿をしているし、兄であるレスティラウトから虐げられていた訳では無いが強気が服を着て歩く彼に、性格的に強く出られない彼女はオドオドとするより他に無かったのであろう。

 

 レスティラウト本人は妹のハンネローレを愛しているみたいだが、それは全く以て本人には伝わっていないみたいだから無意味でしかなかった。

 

 それはハンネローレが『シュミルのお人形さんみたいな魔術具、それならわたくしも主になってみたいです』……とか何とか呟いたのを知られたのが切っ掛けだったくらいだ。

 

 要するに妹が欲したからというのが先ずは有ったのだから。

 

 そんな兄の想いなど妹知らずとでも云おうか、ローゼマインと共に御茶会に参加するユートへとハンネローレは、うっとりとした表情で頬を紅く染めながら見つめている。

 

 強引ンぐ・マイウェイで粗野なイメージがある兄に比べて紳士的に接して来るし、間が悪いのだと揶揄をしている自身に対して真摯な態度で見てくれる上に、上位の大領地の姫というフィルターで視ないでくれる他領の領主候補生。

 

 つまり、中領地でしかなくて数年前まで最底辺をウロウロしていたエーレンフェストとはいえ、その気になれば婚姻をする事すら不可能ではない相手……という事だった。

 

 ハンネローレとしては粗野な兄とか、何かと付けてディッターディッターと叫ぶ騎士に男としての魅力を感じ難い。

 

 相手が単なる上級貴族なら流石に難しいけれどユートは領主候補生で、ダンケルフェルガーでは嘗てエーレンフェストの領主候補生と現アウブ・ダンケルフェルガーの妹を婚姻させようとしていたらしいとも聴く。

 

 つまりは叔母を……だ。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ローゼマインがシュバルツとヴァイスの主に成ってから暫くが経ち、漸く二体が望む新しい衣装を作る為の採寸をエーレンフェスト寮で行ったのは良いが、ローゼマインとしてみればこれからが本番と謂わんばかりにキリッと表情を正す。

 

 前回の織地でもダンケルフェルガーが外の弱虫領地の連中を子分の如く引き連れ、シュバルツとヴァイスの主の座を奪わんと道を閉ざした。

 

「何の真似だ、レス何とか?」

 

「貴様、上位大領地の次期アウブに向かって何だその態度と言い種は!」

 

「先ずは己れの無法を省みよ。まるでスネ夫を連れてのび太を囲むジャイアンみたいに」

 

「? 何を言っている?」

 

 スネ夫だのび太だジャイアンだとか云われても意味が解らないレスティラウト。

 

 意味合いとしては、弱小領地に小中領地連中を引き連れて大領地がイキっている揶揄だったが、別に理解させる心算での科白では勿論だが無い。

 

「さて、貴公らが何をしに態々此処まで来たのかは理解している。察するに王族の遺物たるシュバルツとヴァイスを簒奪するべく、子分を引き連れてやって来たのだろう? “ツェントの剣”というのが所詮は独り善がりの自称らしいのは判った」

 

「な、何だと!?」

 

「これが何だか解るか?」

 

 ユートが取りい出したるは一枚の羊皮紙、最近の風潮として紙というのは二種類が大雑把に存在しており、一つは昔から在る羊だ山羊だの動物の皮を加工した羊皮紙と呼ばれる物。

 

 そこそこに重みが有るし、ちゃんとした管理をしていないと虫が沸く上に嵩張るデメリットが有るのだが、それでも遥か昔から使われてきた安定した紙なのも確か。

 

 今一つはエーレンフェスト紙、植物の皮を使って作る仮称が植物紙だったのだけれども、それでは素材が丸判りだからと原産地の名前を付けた。

 

 本が欲しいローゼマインが開発、それを幼馴染み枠であるルッツ少年が造る事でユルゲンシュミットの世に出た普通の紙――和紙。

 

 勿論だが前回の織地と同じくルッツ少年により手作りされて、それが一先ずベンノが経営をしているギルベルタ商会にて販売が成された。

 

 ギルベルタ商会は服飾系の商会だった筈だが、髪の毛に艶を出すリンシャンは未だ理解も及ぶのだろうに、植物紙の販売なんて服飾とは全く以て関係が無いから商業ギルド長グスタフ辺りがなんやかんやといちゃもんを付けて来るも、孫娘であるフリーダに或る意味で最高の道を示した上に、更に第三夫人枠として愛人より遥かに良い将来を約束するユートがバックでは言い難い。

 

 それにルッツ少年作以外に植物紙――エーレンフェスト紙は存在していて、そちらをオトマール商会にフリーダを通じて卸して貰えるとなれば、グスタフとしても黙らざるを得なかったのだ。

 

 前回の織地とは違ってマインにはユートが背後に居る為、ギーベ領エルドラドでエーレンフェスト紙を造る為の算段をユートが付けていた。

 

 現代の地球では無いのだから紙一つ取っても、生産ラインなど存在せず人間による手作りをするより他に無く、自動化が成されない以上はどうしても人海戦術は必須となってしまう。

 

 ギーベ領エルドラドは食糧の為にも巨大な森を持っており、その森の木々は明らかに植物紙を造るのに向いた物だったりと確信犯とでも云おう、其処に以て魔術具扱いのMS族……その中に在って量産型を基にした連中がエルドラドでは農夫をしていたり植物紙を造ったりしていた。

 

 名前は全員が“農夫ジム”だったが、植物紙を造るのも教え込めば着実にやってくれる上に機密も守られるのが良い。

 

 人間を雇えば機密は漏れる。

 

 然しながらMS族はユートを盟主として纏まった存在、純然たる魔術具などでは決して無いにしても創造された時点で忠誠心は最頂点だ。

 

 だけどユートが取り出したのは羊皮紙の方で、当然ながらユートが造っている訳では無い。

 

「これはツェントからの許可証だ」

 

「な、何だとっ!?」

 

「ローゼマインがシュバルツとヴァイスの主に成ってから直ぐ、その経緯をツェントに報告を上げたのさ。主の座をどうするのかの指示が欲しいとも書いておいたから許可証を発行された」

 

「ばっ、莫迦な! そんな物が都合良く有る筈がない! 偽物に決まっている!」

 

 高が最底辺を彷徨く中領地でしかないエーレンフェスト如き、レスティラウトの中に在るのは正に上位大領地ダンケルフェルガーの人間の中でも上級領民たる次期アウブとして傲慢さが有った。

 

 それは日々の態度に出ている。

 

 そんな兄を前回の織地では居なかった筈であるハンネローレが、困ってしまった表情でユートと交互に視て泣き出しそうになっていた。

 

「偽物だと思うなら破るなり何なりとしてみるが良い。然し破った後に本物であると判断がされたらさて? 上位大領地ダンケルフェルガーの次期アウブとはいえ只では済まない。良くてレス何とかの次期アウブを降ろした後で白の塔行きだな。悪けりゃ順位が下がって最悪は廃領。因みにだが既にオルドナンツを飛ばしているから誤魔化しは利かないと思え」

 

「き、貴様!」

 

 ダンケルフェルガーがこうして来る事を事前に知っていたからこその行動、『情報は力也』と常日頃から言っているが正しくその通り。

 

 何よりも、閉架図書で読んだローゼマインに関する記述でのレスティラウトは、有り体に云えば尊大な嘘吐き野郎だったという事であろう。

 

 自分のミスを平然と隠して他人のミスはあげつらう最底辺な人間性だ。

 

 用意周到が過ぎて歯噛みをするレスティラウトに対し、ハンネローレは矢張りというかオロオロと視線が行ったり来たりと、いっそ可哀想になるくらいに涙目となってしまっていた。

 

「ハンネはどう考えている?」

 

「え、はい! お兄様が全て悪いです! それとわたくしの間も悪かったです!」

 

 突然に話を向けられたハンネローレは兄であるレスティラウトを悪者に、序でにと云わんばかりに自身の間の悪さを叫んでしまう。

 

 然しながら驚いたのはハンネローレだけでは決して無く、ダンケルフェルガー側もエーレンフェスト側も他の小中領地の連中もだけど、ユートが他領の姫とも云えるハンネローレに対して親しげな様子で、しかも『ハンネ』などと婚約者でも先ずしない呼び方で呼び捨てたのだから。

 

 レスティラウトは腐っても鯛というか、上位の大領地たるダンケルフェルガーの次期アウブとしてローゼマインやユートを呼び捨てるだろうが、基本的にこのユルゲンシュミットでは仮に大領地のアウブでも、領主候補生を相手にする場合だと『○○様』と呼ぶものである。

 

 ユートの『レス何とか』など無礼以外の何者でも無いけど、アウブ・ダンケルフェルガーである

ヴェルデクラフですら一領主候補生でしかないであろうローゼマインを『ローゼマイン様』と敬称を付ける辺り、ユートやレスティラウトの呼び方の有り得なさが浮き彫りとなる。

 

 尚、原典のヴィルフリートとリュディガーみたいに互いが呼び捨てで……と決めたなら問題も無いので、このハンネローレへの呼び方は彼女との間で共有化されたモノだと判るのだ。

 

 レスティラウトの側近らしき少年の二人が何故かユートとハンネローレを視て、寧ろ凝視をしながら驚愕に目を見開いていた。

 

 ユートは目敏く二人をチラ見。

 

 それは上級貴族の騎士見習いラザンタルクと、矢張り上級貴族で武寄りの文官見習いケントリプスであり、この二人は異母姉弟にしてレスティラウトやハンネローレとは従兄弟に当たる。

 

 そしてメスティオノーラの閉架図書の中には、幾つかローゼマインがフェルディナンドを救う為に“時を翔る少女”と化した事が有るけど、その後にどうやらハンネローレの婚約を巡る争いが起きたらしく、何故か第二夫人の息子ラオフェレーグに婚約の打診をされていた。

 

 現代日本では畑違いでもきょうだいによる婚姻は法律的倫理的に禁止されているが、ユルゲンシュミットでは同母――レスティラウトとハンネローレみたいな種も畑も同じという訳で無かったら実は婚姻が出来てしまう。

 

 とはいえ、二人は異母だろうと姉弟に違いは無いからかハンネローレは困っていた。

 

 正確には立場的にやらない訳では無いだけで、ディッターが好きな訳では無いハンネローレに相反するが如く、ラオフェレーグはディッター狂いと称する事が出来る程にディッターが好き過ぎてハンネローレはドン引きなのである。

 

 或いは、ディッター狂いでさえなければハンネローレも万が一とか億が一でも考えた可能性が無いでもないが、真のディッターをした彼女だからとか言っている辺り元より駄目だったろう。

 

「レス何とかが悪いのは規定事項だとしてもだ、ハンネの間が悪かったというのは?」

 

「実はローゼマイン様がシュミルのお人形さんの主に成ったと聴きまして、わたくしも主に成ってみたいと呟いたのをどうやらお兄様の側近の誰かに聴かれてしまったみたいで……」

 

「実は妹大好きなシスコン兄ちゃんが動き出してしまった……と?」

 

 頷くハンネローレと、シスコンの意味は解りかねるが『実は妹大好きな』なんて揶揄されて紅くなるレスティラウト。

 

「き、貴様!」

 

「おや、怒るとなるとハンネの事を疎ましく思っているという事かな?」

 

「ぐっ!」

 

 それを頷くのは同母の妹を疎む次期アウブなんて話が駆け巡る、何故って今はダンケルフェルガーとエーレンフェストだけでは無く、他の小中領地の連中を自らが引き連れているのだから。

 

「妹を疎みはせん!」

 

「左様で」

 

 然し矢張りラスティラウトからしたらハンネローレがいつ何処でユートと逢い、そしてどういう遣り取りをしていたのか気が気でない。

 

 その性格性故にか横暴で暴虐無人な態度を取っていて、ハンネローレからは怖れられているけど別に厭うての話では無いのだ。

 

 ハンネローレの側近すら知らぬ間にユートとの出逢いを済ませ、更に愛称とやらで呼び合う程には心が通じ合っている様を見せ付けられた。

 

「其方に訊きたい事が出来た」

 

 随分と嫌そうな表情。

 

「其方とハンネローレはいつ何処で出逢ったのだ? 少なくともハンネローレは寮外に外出など用事も無しにした事は無い」

 

「ふむ、その答えは少し難しい。ハンネはあの時の事をいつの出来事としている?」

 

「え? それはどういう?」

 

 ユートからの質問にハンネローレは困惑するしかない、何故ならあの時の出来事は彼女にとって見知らぬ……警戒をすべき他領の貴族で、しかも領主候補生ともなれば中領地エーレンフェストのとはいえ要警戒。

 

 更に云えば今はヤネルリーンが、自身の側近で一番の年上たる護衛騎士見習い処か一年生である

ハイルリーゼすら居ないのだから。

 

 然しながらユートユウガと名乗った領主候補生は紳士的で、夢の神様が社交の練習にと場所を貸してくれたのだと言い、折角の機会だから御茶会でもして話をしないかと問われ、ユートのエスコートを受けて小さな御茶会を開いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

『初めまして、ハンネローレ様。私はエーレンフェストの領主候補生で名前をユートユウガ・ゾーン・リンクベルク・アドティ・エーレンフェストと云います』

 

『あ、その……御丁寧にどうも有り難う存じます。わたくしはハンネローレ・トータ・ダンケルフェルガーと申します。あら? どうしてユートユウガ様はわたくしの名前を御存知でしたの?』

 

『神々の領域に存在するメスティオノーラ図書館の閉架図書に、織り直す前の織地に関する書物が御座います。私はその閉架図書を暇潰しに読み耽りましたので、ハンネローレ様の事もある程度は見知ってしまいました。どうやら私の妹と仲良くして戴けたみたいですので』

 

『神々の領域? メスティオノーラの図書館? 閉架図書? 織り直し?』

 

『神々の領域とは遥か高み、其処にはそれぞれの神々の領地みたいな場所が御座いまして、英知の女神メスティオノーラは図書館を建ててユルゲンシュミットの人間、その中でも一定以上の魔力持ちのシュタープが本として書棚に置かれてます。私が読んだのは妹ローゼマインの本でしたけど、其処に貴族院で“本好きの御友達ハンネローレ様”という事で掲載されていました』

 

『へ? あの、わたくしは別に本は好きではありません! その……余りに難解で読むのが苦痛なくらいですわ!』

 

『? 愉しそうに本の貸し借りをしていたので、ハンネローレ様もローゼマイン程では無いにしてもそれなりに読むのかと思いましたが、ハンネローレ様の本は読んでいないので済みませんが内心までは解らなかったのですよ』

 

『そ、そうでしたか……』

 

 暗に目的としたのは妹の事だけと言ったのだけど伝わったかは判らない、とはいえダンケルフェルガーの人間は自分に都合の良い話をするきらいが有るし、事実としてレスティラウトはアウブへの報告をねじ曲げて伝えていた。

 

 ユートは流石にローゼマインの記憶だけでは判らなかったが、実際にはハンネローレも似たり寄ったりな事を仕出かしている。

 

『若しやすれば、ダンケルフェルガーの本は殆んどが古語で書かれていますか?』

 

『そうですね。わたくし、古語はダンケルフェルガーの領主候補生として習ってはいます。ですが矢張り難解なものですから……』

 

『そうですか、では此方を少し読まれてみては如何でしょう?』

 

『これは……本? ですよね』

 

 ローゼマイン謹製の“恋ばな”的な内容の本で、中身は謂わばライトノベルみたいに読み易く挿絵が要所要所に描かれ、ページ数も二〇〇前後にて纏められた著者がユートの物である。

 

「ローゼマインが作った本、中身である文章を書いたのは僕、挿絵は僕の専属絵師(ヴィルマ)に描かせた」

 

 それは現在のユルゲンシュミットでギリギリ受け容れが叶う恋物語、破廉恥案件は最後ら辺での重厚なキスシーンくらいで他は殆んど無い。

 

 精々、恋人繋ぎとなるシェイクハンドくらいだったけれども、ハンネローレからしたら頬を真っ赤に染めながら瞳を潤ませて溜息を吐いて魔石を握りたくなる案件だった様だ。

 

 ユートがそんなハンネローレを見詰めながら思う事は――『これでも未だ破廉恥か?』である。

 

 まぁ、確かに魔力持ちは魔力を流されるというのが女性ならば確実に瑕疵となる行為である為、恋人繋ぎなんてしているのは魔力の流し放題のし放題だから確かに破廉恥かも?

 

 尚、ヴィルマはユートが前回の織地を識らないが故にローゼマインより先に出逢い、買い上げてしまったからユートの専属絵師である

 

 読み終えたハンネローレはパタンと本を閉じると余韻に浸るかの如く、天を仰ぎながら目をを閉じて可憐な唇から小さく吐息を軽く吐いた。

 

 それはちょっとドキッとしてしまう仕種だ。

 

 実の処、ローゼマインの閉架図書での記録からダンケルフェルガーに良い印象が無かった。

 

 それは当たり前、マグダレーナのフェルディナンドへのやらかしは元より、ハイスヒッツェという上級貴族である当時の騎士見習いがフェルディナンドにまとわり付いてディッターの強要をしていたり、レスティラウトがローゼマインを意味も無く罵倒したり魔力弾を撃ち込んだり、ディッターを神聖だ何だと言うその舌で勝利者であるローゼマインを悪辣だ卑劣だと罵倒、ヴェルデクラフがダンケルフェルガーの歴史書の翻訳本を取り上げようとしたり、貴族院の三年生ではレスティラウトが嫁盗りディッターを強要したり、ジークリンデも情報収集が大事だとか抜かしながら結局はエーレンフェストの事がまるで判らず、その理由をエーレンフェストの秘密主義と言い換えて貶めに来た悪女だったり。

 

 とてもとても善く視る事が出来ないくらいには誰も彼もがやらかしている。

 

 上級貴族のハイスヒッツェ、アウブ・ダンケルフェルガーのヴェルデクラフ、第一夫人ジークリンデ、次期アウブ(笑)なレスティラウト、ヴェルデクラフの妹のマグダレーナとやらかしているのがダンケルフェルガーの主要な連中が多い。

 

 ハンネローレもやらかしてはいるが、ローゼマインの見知る範疇というか前回の織地の時間軸までには、余り大きなやらかしが無かったからなのか唯一のまともな領主候補生にも見えた。

 

 ハンネローレとは、ローゼマインにとってみれば飽く迄も“本好きの御友達”だったらしい。

 

『ユルゲンシュミットが舞台では無い作り話でしたのに、こんな素敵過ぎる恋の御話にまで昇華をされてしまうなんて、ユートユウガ様はキュントズィールの御加護が篤いのですね』

 

『うん? まぁ、実際にキュントズィールの加護は受けているな』

 

『え!? 御加護の取得は一年生の間は受けられない筈ですが?』

 

『初めから有ったので』

 

『そうなのですね』

 

 このユルゲンシュミットに来て以来、何故だか芸術の女神キュントズィールの加護を持っていたユートは、前よりも芸事に強くなっている気がしていたけど決して気のせいでは無かった。

 

 お陰でチェスの駒を手作りした際に、すんなりと御手製として作製が出来たのである。

 

 その時にユートはビシッとグリコなポーズを取りながら――『神に祈りを!』と叫んだ。

 

『それにしても、ユートユウガ様はこの様な素敵な物語を御書きに成られるのですね。恋物語といえば女性が独壇場みたいな雰囲気が有りますし、殿方がというのは余りに思いませんでしたもの。少なくとも、御父様や御兄様やラオフェレーグには似合っていませんわ』

 

 暑苦しい父親、同じキュントズィールの加護を受けていても絵画方面の兄、ディッター脳でしかない畑違いな弟(ラオフェレーグ)が身近な家族。

 

『あら、美味しい』

 

 紅茶で口を湿らせて食べたのはバタークッキーであり、今年はこの御菓子を未だ社交にて出したりする心算は無いけど、シュラートラウムの領域で大領地の姫君――クラッセンブルクのエグランティーヌやドレヴァンヒェルのアドルフィーネやダンケルフェルガーのハンネローレに出してみて反応を見せて貰ってみた。

 

 アーレンスバッハのディートリンデ? 言葉のキャッチボール(会話)が成り立たないゴブリンみたいな女は抑々が、このシュラートラウムの領域に於いての御茶会へと招待すらしていない。

 

 ディートリンデは論外として、エグランティーヌは悲劇のお姫様気取りが少し鼻につくタイプ、折角の美少女が台無しになるくらいに自分の生い立ちを悲運と称していた。

 

 アドルフィーネは研究者気質が高いのは正しくドレヴァンヒェルの領主候補生、エグランティーヌやハンネローレとは又違う美少女で、バタークッキーも美味しいと思った途端にレシピへと思いに耽っていたくらいだ。

 

『このシュラートラウムの領域は夢の中でしかないから、飲み食いをしても味は兎も角として体内には残らないので』

 

『そ、そうなのですか? 御紅茶も美味しくて幾らでも飲みたい気分です』

 

『では、御代わりを御持ちしましょう』

 

 ユートがベルを鳴らすと赤と黒の異形がテクテクと歩み寄り、一礼をして黒い異形が新しい御茶請けとしてカトルカールを置き、赤い方の異形がコポコポと熱々の紅茶をカップへ並々と注ぐ。

 

『ま、魔術具?』

 

『ええ、側仕え型魔術具で“側仕えキュベレイ”というモノです。黒い方がプル、赤い方がプルツーという個体名を与えていますね』

 

『まぁ、可愛らしいですわ』

 

 更にこの場には出していないが、筆頭側仕えの白いキュベレイ――個体名ハマーンが存在する。

 

 本来の元ネタには登場しない筆頭側仕えキュベレイ(白)、側仕えキュベレイ(黒)、側仕えキュベレイ(赤)といった【騎士ガンダム物語】的な存在であり、他にもバーサル騎士ガンダム、騎士アレックスなど闘うタイプも居て此方は原典の侭。

 

 キュベレイ達の個体名は原典の原典――【機動戦士ガンダムZZ】のキュベレイのパイロットで、それが故に側仕えキュベレイの人格は女性型として設定をしていた。

 

 飽く迄も女性型の人格というだけでしかなく、ハマーンだったりプルだったりプルツーだったりの性格をしている訳では無いのがミソ。

 

 然し、人間態ならユートも可愛らしいとは思うけどキュベレイ形態が可愛いか? 首を傾げる。

 

 まぁ、【SD戦国伝】辺りでは玖辺麗と婚姻をした武者百士貴が居たくらいだから、存外とSDでの世界に於いてはキュベレイというのが美人なのかも知れないけど。

 

『あの、この本は続きが有りますよね? どう考えてもあれで終わりはおかしいです』

 

『そりゃね、一応は全五巻ですよ』

 

 結構な長さに成ったから一巻だけでは収まらないと考えて、全五巻での中編構成にて書いたから実際にプロット通りの巻数となる。

 

『続きが読みたいです』

 

『全五巻なだけに曇らせ展開とかも有るんだが、取り敢えずこれは飽く迄も御茶会用に用意をした小説なので、手元にはこの第一巻しか持ち合わせてはいないのですよ』

 

『それは残念ですね』

 

 現実世界なら取りに戻れば済む話だろうけど、夢の中であるシュラートラウムの領域では無理。

 

 その後、本来なら御茶会も終わればもう招かないから揺ったりと記憶も夢だったと組み換えられていくが、本を読ませるべく何度か招いた結果として記憶が定着してしまったらしい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 とはいえ、シュラートラウムがどの時間軸から喚んだのかまでは判らないのである。

 

「試しに何人か喚んだ者の様子を見てみたんだけどな、私を見て驚く者と無反応な者で様子が違っていたんだ」 

 

 例えばアドルフィーネは驚愕、例えばエグランティーヌは小首を傾げるなどであったと云う。

 

 どちらも御茶会に一度は喚んだのだが、二人の反応は真逆だったからアドルフィーネは既に終えており、エグランティーヌは未だ御茶会には喚ばれていないのだと判る。

 

「わ、わたくしはダンケルフェルガー寮に入って二日目くらいでしたでしょうか?」

 

「僕と変わらない日時だな」

 

 ユートもエーレンフェスト寮に入って数日くらいが彼女らを招いた日時。

 

 因みにアドルフィーネだと、どうやらユートがエーレンフェスト寮に入るより前だったらしい。

 

「理解した」

 

 時間稼ぎは上手くいったらしく、オルドナンツで呼ばれた人間が返信もせずにやって来た。

 

「まったく、エーレンフェストの……私を煩わせぬ為に父上にまで奏上をして許可証を与えたと云うのに、私を担ぎ出すとはやってくれるな」

 

 呆れた表情で言うのはアナスタージウス、現在のツェント・トラオクヴァールと第一夫人との間に産まれた第二子に当たる。

 

 ツェント・トラオクヴァールの息子はアナスタージウスと、その同母兄ジギスヴァルト、更には第三夫人マグダレーナの産んだヒルデブランド、この三人の王子で全員となっていた。

 

 そして、閉架図書を読んだ限り三人が三人共にローゼマインにとっては癌であったと云う。

 

 とはいえ、閉架図書は飽く迄も今より前に紡がれた織地であるからには、現在の三人は未だやらかしていないから放置をしていたが、ジギスヴァルトだけは暗殺でもしてやろうかと思うくらいには腹立たしい存在だ。

 

 王族とか名乗る簒奪者の一族はいずれにしても解体は必須、そうしないと結局は何をしようとも未来でユルゲンシュミットは白砂へと還る。

 

 取り敢えず今は恭順するけどな!

 

「申し訳御座いません。私もアナスタージウス王子を煩わせる事などしたくありませんでしたが、許可証をツェントより与えられていたにも拘わらずダンケルフェルガーが、他の小中領地を抱き込んで襲撃をしてきた上で許可証の真贋を疑われましたので已むを得ず」

 

 嫌そうに舌打ちをするアナスタージウスを見てレスティラウトが睨んで来るが、一応は嘘では無いからだろう文句も言えずに目力だけである。

 

 因みに、煩わせたく無かったという裏の科白は『てめえに会いたくも無かったけどな』だ。

 

 腕を前で十字に組んで膝を着いて恭順の姿勢こそ取ってはいるものの、別にアナスタージウスや王族(笑)対して忠誠などまるで無いのだから。

 

「まぁ、良い。私としても今一度、其方らからの話を聴いておきたいとは思ったのでな」

 

「話ですか?」

 

「エーレンフェストのちっこいのがシュバルツとヴァイスの主に成った経緯だ。父上も許可証こそ発行をしたが、矢張り説明がいまいち呑み込めぬと言われていてな」

 

「畏まりました、では一から説明致しましょう。大前提としてローゼマインは殊の外、本その物を好みます。将来の夢は『貴女の為にこれだけの本を集めました』だったか? そんな風に図書館をプレゼントしながら求愛の魔術具を贈られる事らしいですね」

 

 ユートが説明を始めると、ローゼマインがイヤンイヤンと恥ずかしそうに頬を紅く染めながらも肢体をくねらせている。

 

 アナスタージウスやレスティラウトや他の者共も含め、『本?』と意味不明な謎生物でも視る目でローゼマインを視るしかない。

 

「故に、元より神殿図書室や実家の図書室くらいしか知らなかったローゼマインは、本の規模からして違うと卒業生から聴かされていたから早く来たいと思っていました。とはいえ、アウブ命によりエーレンフェストの新入生の成績を上げたいとされ、図書館は新入生が講義を合格してからなどと言われていて、それはもう圧が凄いモノだった程で無事に図書館に来れた際には英知の女神であるメスティオノーラに祈りを捧げましたね」

 

 そして(おもむ)ろにユートはグリコのポーズを取って――

 

「メスティオノーラに祈りを!」

 

 それはそれは素晴らしい、ローゼマイン張りの祈りを捧げたのである。

 

 キラキラと大量の祝福が上がるのをアナスタージウスを始め、この場に居合わせた貴族達がそれをがっつりと見つめていた。

 

 その中には前の織地にて狂信者にメッサー求婚を仕掛けた少女も居り、その余りにも美しい祝福に見惚れてしまい我知らず頬を朱に染めている。

 

 そんな瞬間に立ち会ってはいなくても、自身への祈りを察知していたのがメスティオノーラで、ユートからの祈りにゾワゾワとした快感にも似た感覚を受けて『ハァン』と、ローゼマインが恍惚とした時みたいな嬌声を上げていた。

 

『メスティオノーラ、いったいどうしたの?』

 

 小女神とすら称され、態と髪の毛を上げずにいるメスティオノーラは子供の侭を望んでいるが、肉体を与えられて大人の行為に身を任せる事に成った事で少し意識改革がされたらしいが、相変わらずの小女神っ振りながら少しだけ色気が漂う。

 

 まぁ、飽く迄も分体を降ろした肉体的にだけど処女を散らされた上に多少の好意も持っており、今までは嘗ての縁結びの神エアヴェルミーンへと向けていたナニかを、間違いなくユートへも向け始めていたのと処女を散らされてからも幾度となく肉の悦びを与えられ、それにハマった形でユートとの繋がりを求めていたからだろうが……

 

 ユートは権能によるものだとはいえ、自身の名を冠する書を持つユートを神としての本性を顕した状態でも認識が可能で、肉体を持つ今であれば肉眼で視る分では可成り視易く成っている。

 

 人間の魔力のみを視ている神々は、基本的には特別な目印無しには個別認識が出来なかった為、メスティオノーラの書を持つツェントやその候補は格好の目印を持った形なのだ。

 

 現在、人間の理にてツェントに就いているトラオクヴァールは、メスティオノーラの書を持たないから神々の理としては一般人と変わらない。

 

 貴族が平民を個別で認識しないのと同じ様に、神々からしたなら王族(笑)も貴族も平民も纏めて人間という認識、そんな中で神の権能を持っている人間――ユートは矢張り特別視されていた。

 

『ユートの熱いナニかがわたくしの中に入って来たわ。わたくしのお腹の中を熱くさせるそれが勢いよく叩き付けるかの様にビュッビュッと』

 

 頬を染めて艶かしい言い方をしているけれど、要するにユートからの祈りが自身に届いただけでしかないのだが、この言い方ではまるでユートがメスティオノーラとヤったみたいだ。

 

『要するにユートから祝福を飛ばされて心地好かったと言いたいのね?』

 

 ドレッファングーアもヴェントゥヒーテも呆れるしか無いが、ユートの祝福はマインとは違った意味で心地好いのは間違いない。

 

 何と云うか、ユートの♂に自身の♀を貫かれて最高潮にまで到達したみたい……な?

 

 小さな祝福の場合は今のメスティオノーラみたいに小さな到達感だけど、それでも割と満足が往くだけの快感を愉しめて悦びに成る。

 

『まったく、小女神として髪を降ろした侭だった子が人間を相手とはいえ、この様に変わるなどと思いもよらなかったわ。まぁ、わたくしやヴェントゥヒーテも他神の事は云えませんが』

 

 ドレッファングーアもヴェントゥヒーテも暇神ではない為、男神との恋愛に勤しんではいなかったのが肉体を与えられて受肉し、肉の悦びを知ってしまった事でこうして分体を地上に顕現させた侭に、ユートがエーレンフェストに居る間は彼方で肉の悦びを享受し、この聖地――貴族院と呼ばれる様になった地では姿を隠して彼方此方を動き回っている。

 

 流石は神らしい自由気侭で己れが意志の赴く侭にという事らしいが、ユートは別に神々に対して何らかの制肘を入れる心算は更々無かった。

 

 女神は好きに動けば良い、偶に此方の願い事を聴いてくれるなら盛大に祈りもしよう。

 

 それが互いの為だから。

 

 

.




 本当はレス太郎と争わせるだけだった噺が存外と別な噺に……

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