【魔を滅する転生○】シリーズ外伝噺集   作:月乃杜

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 なろうやサイトで読んでないと、どうしてユートが双子座なのか解らない……そんなカキコがあったので理由の一端となった戦闘をピックアップ、仮初めに過ぎないのだけど。





双子座の闘い ユートVSサガ

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「此処が教皇の間か!」

 

 押してみるが動かない。

 

 だけどこの扉は普段は、誰がどうやって開けているのだろうか?

 

 聖闘士の星矢で開けられないのなら、雑兵風情では決して開けられまい。

 

 それとも、今は鍵でも掛かっていたのか?

 

 どちらにせよ、気の長い方ではない星矢は……『開かぬなら、壊してしまえ』とばかりに行動する。

 

「くっ、何て重たい扉だ。ビクともしない。ようし、ペガサス流星拳っっ!」

 

 無理矢理に抉じ開ける──寧ろ扉を破壊をすると、玉座の如く椅子に座っている人間が居た。

 

 顔が影で見えないくらいに深々とマスクを被って、本来の教皇の純白とは違う漆黒の法衣を身に纏う者。

 

 八八の聖闘士の頂点に立っており、本来ならアテナを補佐するのが役目でありながら一三年前に、アテナを弑逆せんと企んだ男。

 

 即ち……

 

「教皇!」

 

「星矢か。それと、麒麟星座の少年……」

 

「優斗だよ」

 

「うむ、よくぞ此処まで辿り着けたものだな」

 

「な、なにい……お前が」

 

 教皇だと目される男が、星矢とユートの前で被っていた法冠を外した。

 

「お、お前が教皇か!」

 

「二人共、よく十二宮を突破してきた。お前達こそ、正しく真の勇気と力を持った聖闘士だ……」

 

 とても澄んだ碧い瞳で、星矢と優斗を見つめながら教皇は二人を褒め称える。

 

 だが、そんな教皇の態度は星矢にとって癪に障るものでしかない。

 

「巫山戯るな。まるで善人みたいな顔しやがって! 今更、悔い改める暇なんて無いぜ。アテナは後三〇分足らずの命なんだからな。さあ、アンタを引き摺ってでも下に降ろしてやる!」

 

 頭に血が上った星矢は言うが早いか、右拳を教皇の胸に叩き付ける。

 

「な、なにい!?」

 

 だが教皇は全く微動だにすらしない。

 

「星矢、済まないが私の力を以てしても、黄金の矢を抜く事は出来ないのだ」

 

「な、何を言う。抜けるのは教皇だけだと聴いて来たんだ! 今更、言い逃れは出来ないぜ! 喰らえぇ、ペガサス流星拳っっっ!」

 

 今度は一発とは云わずに百発以上もの拳を叩き込んだが、それさえも涼しい顔で受け切った。

 

「そんなバカな! 流星拳を躱しもしないで受けて、たじろがないとは!?」

 

 ポタリ……

 

 驚愕しながら教皇の顔を見ると、その双眸から涙を流している。

 

「涙……だと? 教皇……? アンタは……」

 

「星矢、私の行いは確かに許されるべき事ではない。私は、この教皇は……」

 

「星矢、教皇が黄金の矢を抜けないのは本当だよ」

 

「「っ!?」」

 

 後ろから声が掛かって、驚愕をする星矢と教皇。

 

「アテナを救うには、更に奥に在るアテナ神殿に聳えるアテナ像が左手に持つ、アテナの楯を……アイギスの正義の楯を使わなければならないんだ」

 

「アテナの楯?」

 

「アテナ像は本来は右手に勝利の天使ニケを、左手には正義の楯を持っている。だけど一三年前にアイオロスが勝利のニケを奪ってから爾以来、アテナ神像は楯しか持っていない。その楯こそあらゆる邪悪を討ち祓ってくれる正義の楯。教皇の相手なら僕がするから、星矢は今すぐに神殿へ行き楯をアテナに翳すんだ!」

 

「けど、大丈夫なのか?」

 

 星矢は心配そうな表情となりユートを見ている。

 

 ほんの十時間程度の付き合いしかないが、共に戦ったり食事したりした結果、目的意識の共有化が為されて信頼度が上がった様だ。

 

「大丈夫。星矢がアテナの楯を手にするまで、踏ん張ってみせるよ」

 

「わ、判ったぜ!」

 

 頷くとアテナ神殿に向けて駆ける。

 

「待……て……」

 

「え、教皇?」

 

 教皇の横をすり抜けて、星矢がその横を突き進もうとした矢先に教皇が待ったを掛けた。

 

「拙い、星矢! 早く行くんだ!」

 

「させぬ!」

 

 教皇は星矢に拳を揮う。

 

「なにい! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 グシャァッ!

 

 光速拳をまともに浴び、壁にめり込む星矢はその侭倒れ伏し気絶した。

 

「くっ、よせ……これ以上はっ……ぐうう……」

 

 星矢に拳を揮いながら、独り言を呟きつつも苦しむ教皇の姿。

 

「(白サガと黒サガが鬩ぎ合っている。そんなに楯を取られたくないか、黒サガめっ……!)」

 

 目の前の教皇に扮した男の正体、ユートにとっては既に明らかとなっている。

 

 一三年前、聖域から行方不明となっている男──

 

 その名も黄金聖闘士……双子座(ジェミニ)のサガ。

 

 サガは一種の【解離性同一性障害】であり、善と悪が極端に偏っている。

 

 普段のサガは、神の如く力と人格で民や他の聖闘士から慕われていた。

 

 だが、とある事情から悪の心が浮上してサガを苦しめる様になる。

 

 それが黒サガ、悪の心を持つ漆黒のサガである。

 

 黒サガは白サガを抑え込んで、自ら欲望の侭に教皇と赤子のアテナを弑逆しようと試みた。

 

 教皇──シオンをスターヒルにて殺害に成功するものの、アテナはアイオロスが察知して止めたお陰で、それは未遂に終わる。

 

 それ以後サガは善と悪の狭間で揺れ動きながらも、一三年間を教皇として聖域の掌握を行った。

 

 白サガはいつか真の勇気と力を持った聖闘士が自身を止めてくれる事を願い、黒サガは力を以て地上支配を行って、外敵の侵略からこの地上を護る為に。

 

 教皇──サガの髪の毛の色が徐々に変化していく。

 

「ぐ、ぐう……優斗と言ったな? 私を、私を止めてくれ……もう……私は自分を抑え切れん……っっ!」

 

 どうやら心の天秤が善から悪に傾いたらしい。

 

 ゆっくりと立ち上がり、ギラつく凶悪で真っ赤な瞳をユートに向けてきた。

 

「どうやら貴様は、色々と知り過ぎているらしいな。此処で確実に息の根を止めさせて貰うぞ、死ねっ!」

 

 サガの右拳から放たれる光速拳、会話の最中にでも少しずつ小宇宙を高めていたユートは、白銀聖闘士くらいなら容易く葬れるだけの力を保持している。

 

 それ故に、煌めく閃光をすり抜けるが如く……

 

「何だと!? 我が光速拳を躱すとは!」

 

 【叡智の瞳】を全開に、燃焼させた小宇宙によって全身を強化、サガの光速拳を悉く躱してみせた。

 

「此方も簡単に殺られたりはしない、極小氷晶(ダイヤモンドダスト)ッ!」

 

「なにぃっっ!? これはキグナスの?」

 

 油断していた事もあり、本体はダメージを受けなかったが、教皇の法衣が凍結して砕け散る。

 

 法衣の下は何故かすっぽんぽん……

 

 素っ裸であった。

 

 ユートとしては余り見ていたくない光景であるが、戦闘中によもや目を逸らす訳にもいかず、威風堂々と晒されているサガの凶器を目に焼き付けてしまう。

 

 これで短小とかなら嗤ってやるが、ソレは正に凶器と呼ぶに相応しい。

 

 否、寧ろ聖剣か……

 

 というか肉体美に自信があるのは理解をしたから、とっとと何かを着ろと声を大にして言いたい。

 

「ふん、法衣を凍結されてしまうとはな。まあ良い。私も最早、動き難い教皇の法衣など借りるまでもあるまいよ」

 

 そう言うと右腕を天井に掲げて小宇宙を燃焼する。

 

「さあ……今こそ此処へ来て私の身体を覆え! 我が聖衣よ!」

 

 

 そんな言葉と共にサガの背後に顕れたのは、四本の腕と二つのアルカイックな貌を持つ黄金聖衣。

 

双子座(ジェミニ)か!」

 

 カシャーンッ! という甲高い音を響かせて分解されて、双子座の黄金聖衣はサガの肉体へと次々と装着されていく。

 

 両脚に、大腿に、腰に、胸部に、両腕に、二の腕、両肩へと……

 

 最後にはヘッドマスクを左脇に持って、双子座聖衣の装着を完了する。

 

「(いつも思うけど、何でマスクを装着せずに脇に持ってるんだろう?)」

 

 双子座のサガを見遣り、ユートはそんな場違いな事を考えていたが、きっと蒸れるからだろう。

 

「やはり驚きもせぬのか。この私が双子座の聖闘士だと貴様は知っていたな?」

 

「その通りだよ、教皇……否さ、双子座のサガッ! 貴方が一三年前にアテナを弑逆せんとし、それを見咎めたアイオロスを逆賊として濡れ衣を着せ、まんまと真の教皇に──嘗ての聖戦の生き残り、牡羊座(アリエス)のシオンに取って代わった男だと、僕は確かに知っているさ」

 

「クックック……ならば、余計に生かしてはおけん。さあ、異次元へ飛んで行くが良い……異界次元(アナザーディメンション)!」

 

「くっ、これが……」

 

 上空の空間を砕き去り、歪められてポッカリと空いた次元の孔。

 

 サガの光速拳に煽られ、ユートは異界次元(アナザーディメンション)の孔へ飛ばされ始める。

 

 双子座のサガ、爆発的なエネルギーを扱って他者の頭脳を制御し、時空間すら思いの侭に操作する男。

 

 しかも、乙女座のシャカと同様に五感を奪う事すらも出来るのだ。

 

 ユートは今更ながらに、このサガという男の強大さに戦慄していた。

 

「うわっ!?」

 

 然し異次元には飛ばされず元の教皇の間に落ちる。

 

「ぐっ、うう……バカめ、邪魔しおって。折角、カメロパルダリスを異次元へと送ってやったものを……」

 

〔よせ、これ以上は罪を重ねるな! アテナの生命を救い出すまで二人は殺させはしないぞ!〕

 

「黙れ、お前さえ居なければ私はとっくに大地を支配していたのだ! いつも、肝心な時にお前が邪魔をしていた。それさえ無ければ……うう……!」

 

 苦しみながら、蹲っていたサガは勢いよく立ち上がり叫んだ。

 

 サガは人格が反転したとしても、やはり善と悪が鬩ぎ合っているらしい。

 

「サガ、これ以上はやらせない! 喰らえ、我が翼を廻る燐光……五燐光!」

 

 それは五つの属性。

 

 陰陽五行属性を凝縮し、それを放つユートの聖闘士としての基本技。

 

 北方の霊亀から水。

 

 南方の鳳凰から火。

 

 東方の応龍から木。

 

 西方の麒麟から金。

 

 中央の黄龍から土。

 

 その一つ一つが必殺級、今のユートなら黄金聖闘士並の威力を出せる。

 

 元よりユートの力の源流となるのはハルケギニアの魔法、魔力の上位の小宇宙によって、破壊力は格段に上がっていた。

 

「ぐおおおおおっ!?」

 

 流石のサガと云えども、セブンセンシズにまで上がったユートの小宇宙で放たれた技に、後退を余儀無くされると吹き飛ばされて、壁にぶつかりその壁は砕け散ってしまう。

 

 普通の人間であったら、確実に即死レベルの威力だった筈だ。

 

 だがサガは平然と立ち上がって来て……

 

「侮っていたぞ。よもや、この私にこれ程のダメージを与えてくるとは……」

 

 その表情には未だに余裕が窺えた。

 

 これ程……などと言ってはいるが、どうやら大した痛みでは無いらしい。

 

 通常の必殺技であるが、殆んど効いていないというのは……

 

「(予想はしてたけど)」

 

 星矢のペガサス流星拳や天馬回転激突(ペガサスローリングクラッシュ)や、一輝の鳳翼天翔などを受けても涼しい顔をしていたくらいだ。

 

 黄金聖衣を纏うとはいえ防御力が半端ではない。

 

「だが最早これまでだ! さあ今こそ受けるが良い、この双子座のサガの最大の奥義を!」

 

 サガは高く掲げた両手の間に膨大な小宇宙を圧縮すると、両腕を打ち合わせる事によって収束圧縮をした小宇宙を爆発させる。

 

 それは膨大なエネルギーの奔流となり、標的となる敵を葬るのだ。

 

 これこそが双子座のサガ最大の拳……

 

銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 それはまるで雄大な宇宙に浮かぶ星々、それら全てが爆砕していくかの如く。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 銀河の星々すら砕くという必殺技は、ユートの身体を容易くエネルギーの奔流に呑み込んでしまった。

 

 

 舞い散る粉塵。

 

「ふははははは! これで私に逆らう者は全て斃したぞ! 後はアテナが死ねばこの地上は私のものだ!」

 

 哄笑を上げるサガ。

 

 最早、勝利を確信するかの様な高笑いだ。

 

「う……」

 

 カラリと、砕けた壁や床の一部が転がり、倒れ伏したユートを見付けた。

 

「なに? 未だ息があったのか。私の銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を受けて、何としぶとい事だ。然し妙だな……肉体が砕けなかった処か、聖衣に罅一つ入らぬとは」

 

 倒れているユートを見て怪訝な表情になるサガ。

 

 ユートの肉体は傷だらけになり、あちこちに裂傷が出来ているし、身に付けた服もボロボロであった。

 

 だが、纏っている聖衣だけは全くの無傷、罅が入る処か傷らしい傷すらも付いてはいない。

 

「まあ良い。その素っ首を叩き落とせば聖衣が如何に丈夫でも同じ事、死ね!」

 

 ニヤリと口角を吊り上げると、倒れているユートへと鋭い手刀を真っ直ぐに降り下ろす。

 

 バシィッ!

 

「な、何だと!?」

 

 小宇宙の塊がサガの掌へと叩き込まれて、ユートにトドメを刺すにまでは至らなかった。

 

「何者だ!?」

 

 姿の見えぬ誰かを捜し、サガら教皇の間を見回す。

 

「うう!? な……何だ、この攻撃的な小宇宙は!」

 

 カツン、カツン、カツンと床を踏み締める音が屋内に響き渡る。

 

「お、お前は……鳳凰星座(フェニックス)の一輝!」

 

 それは嘗てデスクイーン島での修業でエスメラルダを喪い、挙げ句の果て城戸光政が父親だと知ってしまって暗黒聖闘士の首領となりながら、星矢達との闘いを通じ目覚めた男。

 

 アンドロメダ星座の瞬とは母親も同じ兄弟であり、星矢達とも実は異母兄弟。

 

 そして、青銅聖闘士の中でも最強と目されている、それがフェニックスの一輝であった。

 

 乙女座(バルゴ)のシャカと共に散った筈が、今此処に現れたのだ。

 

「ば、莫迦な。貴様は確かシャカと共に消滅した筈。それとも、九死に一生を得たその生命を再び捨てに来たのか?」

 

「この俺の生命など、幾らでもくれてやるさ。但し、アテナの生命だけは絶対に取らせん!」

 

 形からしてシャカと闘っていた時とは変化した新生鳳凰星座の青銅聖衣を煌めかせ、決意の拳を握る。

 

 この教皇の間まで辿り着くまでに、紫龍と氷河と瞬の三人を置いて来たのだ。

 

 その三人に報いる為に、サガをこの場で打ち倒さねばならない。

 

「フッ、笑止な……今更、死に損ないが一人増えたか処で何になる。こうなれば三人纏めてあの世へと送ってくれるわ!」

 

「残念だが、あの世へ逝くのはお前の方が先だっ! 受けろ、炎と風の拳を!」

 

「む!」

 

 両腕を鳳凰の翼に見立てながら、炎と風の小宇宙で不死鳥の羽撃きを魅せる。

 

 これがフェニックス一輝の最大の拳……

 

「鳳翼天翔っ!」

 

 敵を焼き尽くす熱風。

 

 それは正にフェニックスが天を翔るがの如く、サガを吹き飛ばすと柱へと激突させた。

 

「ぐ、鳳凰星座(フェニックス)の一輝か」

 

「俺の事を知っているか。星矢は大丈夫なのか?」

 

「サガの攻撃で気絶しているだけだよ」

 

「そうか」

 

 一輝は安心をしたのか、胸を撫で下ろす。

 

「それより、時間を稼いで欲しい」

 

「時間だと?」

 

「今は回復中だけど、もう少し時間が掛かる。僕が動ける様になるまでの時間が欲しいんだ」

 

「良いだろう。何処の誰かは知らんが、この場で奴と闘うなら味方だろうしな」

 

「ほう、未だそれ程の気力が残るか? カメロパルダリス……」

 

 ユートと一輝が会話をしている中で、サガが平然と立ち上がってきた。

 

「むう、鳳翼天翔を喰らって何事もなく立ち上がって来るとは……不死身か?」

 

「フッ、笑止な。今までの相手には通用したのかも知れんが、私の前では貴様の技など無力なのだ」

 

「何だと……無力かどうかもう一度喰らえ! はぁぁぁぁっ、鳳翼天翔っ!」

 

 サガの挑発を受けて一輝は再び鳳翼天翔を放つと、今度は吹き飛ばされる事は疎か、まるで熱風の方から避けるかの如く涼しい顔で歩いてくる。

 

「な、なにい!? バカな……鳳翼天翔の威力が奴を避けて吹き抜けていく?」

 

「だから言った筈だ。貴様の技など無力だと……な。そうら、自分の仕掛けた技で自ら吹き飛べ」

 

「うっ!」

 

 サガが右腕を掲げると、掌を翳して鳳翼天翔の威力が逆流して一輝を襲う。

 

「うわぁぁぁぁああっ!」

 

 一輝は逆に吹き飛ばされてしまい、柱を砕く勢いで激突をした。

 

「ま、まさか……鳳翼天翔が逆流し跳ね返されるとは……ぐあっ!」

 

 床に倒れた一輝の背中をサガは踏み付けた。

 

「フェニックスよ、貴様は双児宮でも私の邪魔をしたのだ。楽には死なせん!」

 

 再び踏み抜こうとするも一輝は床を転がり、サガの攻撃を躱して起き上がる。

 

「鳳翼天翔が効かぬとあらば肉体ではなく精神の方を砕くまでだっ。鳳凰幻魔拳でな!」

 

「何、精神を砕くと?

この私のか? 面白いな、ならば私も肉体ではなく、貴様の精神の方を破壊してやろう。伝説の幻朧魔皇拳によってな……フッ」

 

 フェニックスの一輝。

 

 ジェミニのサガ。

 

 どちらも、伝説と謳われる魔拳の使い手である。

 

 その真髄は相手の頭脳に作用して精神を支配する事にあり、自白をさせたり、精神崩壊を促たり、果てには行動を操ったりと恐るべき拳だ。

 

「どちらが先に相手の精神を支配出来得るか……」

 

「「勝負だ!」」

 

 サガの音頭に併せ二人が声を揃えて拳を放つ。

 

「鳳凰幻魔拳──!」

 

「幻朧魔皇拳──!」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは大人しく回復に精を出していた。

 

 ゲームには特にデメリットも無いが、ハイポーションは薬であるから、流石に飲み過ぎて副作用なんて事になると笑えない。

 

 まあ、ハイポーションなんて名前であるが、ユートが作った薬草などを煎じ、水の精霊の涙を多少加えたモノだから、そんな極端な副作用も無いと思うが……

 

 美味しいものでもないしハイポーションを一瓶飲んだら後は、治療(リカバリー)で回復している。

 

 単体で充分な回復効果を見込めるが、治療系の魔法と組み合わせれば、多大な回復を齎してくれる触媒にもなる。

 

 ユートは自身の肉体と、麒麟聖衣を見た。

 

 肉体は激しく傷付いていたものの、今は徐々に回復しているから服が血塗れな以外に悪影響は無い。

 

 聖衣は全くの無傷とまではゆくまいが、罅の一つも入ってはいなかった。

 

 原作ではサガの銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)により、星矢の新生ペガサスの聖衣や、一輝の新生フェニックスの聖衣も砕け散っていた筈。

 

「(やっぱり……ね)」

 

 ユートは得心がいったのだろうか、聖衣を撫でながらコクコクと頷く。

 

「若しアレ(・・)が可能なら、試してみる価値は有るかな?)」

 

 闘いの方を見遣ったら、一輝とサガが互いに伝説の魔拳を放ち合っていた。

 

 精神を支配された一輝にサガは自らの腕を打ち抜けと命令すると、言われるが侭に右の貫手で自らの左腕を傷付ける。

 

 次に倒れているユートへとトドメを刺す様、一輝に命じるサガだが数秒後に、行き成り大笑いを始めた。

 

 正直、怖い。

 

 箸が転がっても笑ってしまう年齢でもあるまいに。

 

 まあ幻魔拳で、とっても愉快な幻影でも視ていたのだろう。暫くして漸く幻影から目醒めたのか、キョロキョロと辺りを見回しながら戦慄している。

 

 精神支配に関しては互角らしく、この侭撃ち合ったとしても千日戦争(ワンサウザンド・ウォーズ)となるだけだと判断した。

 

「最早、互いに幻朧魔皇拳も鳳凰幻魔拳も使えんな。こうなれば肉体の闘いしかない。どちらの小宇宙が勝っているか!? さあ……フェニックスよ、私に最後を見せてくれるのではないのか? 掛かって来い!」

 

「望む処だ! さあ征くぞジェミニ! 鳳翼天翔!」

 

 三度、サガへと放たれる炎と風の輪舞曲(ロンド)

 

然し、そんなものは効かぬとばかりに一輝を右掌打で吹き飛ばす。

 

「うわぁぁぁぁっ!」

 

「莫迦めが、鳳翼天翔など通用しないと何度返されれば解るのだ?」

 

「う、うう……」

 

「鳳翼天翔も鳳凰幻魔拳も私の前では最早、使えん。謂わば、貴様は両翼をもがれた達磨も同然なのだ!」

 

 言いながら、サガは一輝を殴り飛ばした。

 

「だが、この私は違うぞ。最後にそれを見せてやる。これは此処まで闘った貴様に対する褒美だ、フッ……さあ、死の間際に確りと見届けろ。このジェミニ最大の拳!」

 

「うっ、これは!」

 

「喰らえ、銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 撃ち放たれた銀河の星々をも砕くビッグバンの如き衝撃が、一輝の全身を呑み込んでいった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

〔ムウよ、君は知っているのかね!?〕

 

「何をだね、シャカよ」

 

 アテナの事を辰巳徳丸と青銅聖闘士達に任せると、白羊宮にて突っ立っていたムウへ、シャカからの念話が届く。

 

 念話は一種の超能力だが魔力や霊力による精神感応でも可能な力、使い方次第では氣力でも出来る。

 

 ムウ達の超能力はこれら下位能力ではなく、上位の能力である小宇宙で強化し行っていた。

 

 シャカは本来は、処女宮でのフェニックスの一輝との闘いで相討ちとなって、十万億土の彼方へと消えた筈だが、流石は黄金聖闘士の中でも唯一、阿頼耶識(エイトセンシズ)に目覚め【最も神に近い男】と呼ばれるだけあって、復活をしていたのだ。

 

 どの様にして死を免れたかは言及されていないが、一輝と共に時空の歪んでいる少々面倒な場所に落ちてしまったのを、ムウの力を借りて、処女宮にまで戻って来ていた。

 

 そして一輝を先へ進ませて今に至る。

 

 シャカは戻って来てからずっと考えていた。

 

 彼ら青銅聖闘士の坊や達は何故、生命懸けで十二宮を攻略しようとするのか?

 

 ムウはその答えに極めて近い場所に居るのでは? そう考えたからこそ、今回は念話を送ったのだ。

 

「勿論今、星矢達が必死に闘っている教皇の正体だ。あの沙織という娘の為に、此処まで闘い抜いた青銅聖闘士達を、君や老師は陰ながら援助してきた。それは教皇の正体を見抜いていたからではないのか、どうなのだムウよ」

 

「ならばシャカよ、今こそ言おう。教皇の正体を!」

 

 今まではムウも老師も、その確信を持ちながらそれを誰にも言わずにいた。

 

 それは只、教皇の正体を声高に唱えてもアイオロスと同様に逆賊扱いされてしまう可能性があり、黄金聖闘士達も信じようとはしないと考えたからである。

 

 下手に逆賊として追われる身となれば、未熟な星矢達のフォローが出来ない。

 

 老師もアテナから与えられた役目──冥王ハーデスの封印を見守る役目を果たせなくなってしまう。

 

 自身の名誉云々よりも、寧ろそちらの方が問題だ。

 

 それに黄金聖闘士の中に教皇を悪と知りながら加担する者も居るし、その事を考えればムウも老師も矢面には立てなかった。

 

 若しも全てを話す時が有るとするならば、それは全てが終わった後か或いは、黄金聖闘士達が教皇に疑問を持った時だと考える。

 

 そう、今がその時。

 

「今の教皇は真の教皇ではない! いつの間にか別の人間が入れ替わってしまったのだ!」

 

〔バ、バカな!〕

 

〔それは本当か、ムウ!〕

 

 念話を聞き驚愕を隠せないアイオリアとミロ。

 

 アルデバランの場合は、ユートから少し話を聞いていたから、余り驚きはしなかったが……

 

 真の教皇と接点の少なかった者は気付けない。

 

 然しである……

 

 ムウも老師も教皇の真の姿を知る者、どちらも気付く要素が充分に在った。

 

 ムウは語る。

 

「元々、私は真の教皇より教えを受けた弟子であり、老師は前聖戦よりの仲間でした。貴殿方よりもあの方をよく知っています。今の教皇とはアイオロスが逆賊の汚名を着せられ死ぬ前、聖域からいつの間にか忽然と姿を消したあの男……」

 

〔な、何だと?〕

 

〔それはまさか!?〕

 

 アイオリアもミロにも、その人物に心当たりが充分にあった。

 

「その名は双子座(ジェミニ)のサガ」

 

 では、真の教皇はどうなったのか?

 

〔殺したのだよ、このサガがなっ!〕

 

 黄金聖闘士が念話によりそれを話し合っていると、強大な意志が小宇宙と共に脳裏へと伝わってくる。

 

 それは、念話をしていた黄金聖闘士に達は限らず、シャイナと魔鈴、アテナの側に居た二軍青銅聖闘士、辰巳徳丸、雑兵達……

 

 聖域中、全ての者に。

 

「あ、嗚呼……これはいったい?」

 

「ま、まるで神の様な」

 

 辰巳と邪武が戦慄を覚えながら呟くと、それに応える様にサガは言う。

 

「そうだ俺は神なのだ! これより後、この聖域は疎か地上の総てを支配する、大地の神となるのだっ! このサガがな!」

 

 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)をまともに喰らい、ボロボロとなる一輝を宙吊りにし、サガは高らかに笑う。

 

 最早、サガは勝利を確信しているらしい。

 

 だがアテナはまだ生きているのだ、ムウは勝ち誇るには早いのだと、教皇の間を睨み付けていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「くっ、一輝がやられた。回復はオッケーだし、やるしかないか」

 

 もう少し時間を稼いで貰いたかったが、贅沢は言っていられない。

 

 星矢が目を覚ますまで、自分が時間稼ぎをしなければならないだろう。

 

 だけどユートの【叡智の瞳(ウィズダム・アイ)】は確りと一輝の技と、サガの技を視れた。

 

 そのお陰で、幻朧魔皇拳と鳳凰幻魔拳と鳳翼天翔は覚える事ができたのだ。

 

 尤も、使える様になるには練習あるのみだが……

 

「ペガサス流星拳!」

 

「ぐおっ!?」

 

 ユートの放った流星拳によって、サガはつんのめり一輝を手放してしまう。

 

「チッ、まだ動けたか!」

 

 舌打ちすると、トドメを刺す為にユートの方へと向かって来た。

 

「さあ、死ね!」

 

 ガシィッ!

 

 サガの放った拳にユートは併せて拳を当てる。

 

「うわっ!」

 

「ぐっ!」

 

 ユートの放つ右拳とサガの右拳とがぶつかり合い、互いが後ろに吹き飛んだ。

 

「バカな、まだそんな力が残っているとは……私の、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を受けたというのに!」

 

 一輝ですらボロボロになってしまい、聖衣とて罅われている。

 

「そういえば何故、奴の……優斗の聖衣は砕けておらんのだ?」

 

 ビッグバン系の技は強大無比であり、使い手も少ない稀少な必殺技だ。

 

 サガ自身、アイオリアの持つ光子破裂(フォトン・バースト)くらいしか知らない。

 

 この手の技は黄金聖衣級の硬度無くして防ぐ事は能わないというのに、ユートの聖衣は砕ける処か罅一つ無かった。

 

 それは取りも直さずに、聖衣が銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を耐えたと云う事。

 

「高が青銅聖衣(ブロンズクロス)が?」

 

 起き上がるユート。

 

「な、なにい! ば、バカな……貴様の聖衣の色は、黄金だと?」

 

 ユートの纏う麒麟星座(カメロパルダリス)の聖衣の色は、闇翠色(ダークエメラルド)の筈である。

 

 それが、今は見るも燦々と煌めく太陽の如く黄金色に輝いていた。

 

「それではまるで、まるで黄金聖衣ではないか!?」

 

 驚愕と混乱。

 

 然しものサガも、行き成りのユートの聖衣の変化には驚きを隠せずにいた。

 

「僕は元々、星矢達みたく正式に聖闘士の修業を受けて聖衣と資格を与えられた訳じゃない。この聖衣は、僕が造った紛い物の【聖衣】をムウが造り直してくれた物だ。そしてその際に、僕は牡牛座(タウラス)のアルデバランに血を分けて貰ったんだ!」

 

「どういう事だ?」

 

「僕の考えでは、聖衣を造るには同じ階級の聖闘士の血液が必要。何故なのか? それは、死んだ聖衣に再び生命を吹き込む為には、聖闘士の大量の血液を必要とするからだ!」

 

 修復に使う材料はつまり造るのに使われた材料で、ならば最初に聖衣を造った時に聖衣へと生命を吹き込んだのは何か?

 

 やはり聖闘士の血液であった筈なのだ。

 

 黄金聖衣は特別な聖衣であり、第七感覚(セブンセンシズ)へと目覚めた……後に黄金聖闘士と呼ばれる聖闘士が血液を提供したのであろう。

 

「仮令、青銅聖衣であっても黄金の血によって生命を吹き込まれると、擬似的に黄金聖衣に近いモノとなる事を、僕は理解している。今のこの聖衣は……窮めて黄金聖衣に近い青銅聖衣という訳だ!」

 

「ぬう……! そういえば貴様の聖衣、見た覚えがあるぞ!?」

 

「っ!」

 

「そうだ、あれは数年前のティターン侵攻の時!」

 

「ティターン……」

 

 七年くらい前だろうか、伝説の怪物が復活すると云う事件が相次いで、遂にはティターン十二神族すらも復活してしまう。

 

 世に云う神々ノ戦(ティタノマキア)の勃発。

 

 黄金聖闘士達が結集し、これに挑んだ。

 

 そんな激戦をも潜り抜けたとあらば、認めたくはないが認めざるを得まい。

 

 フェニックスの聖衣を砕いた銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を受けて、無事に済んだという事実がユートの言葉を雄弁に肯定している。

 

「だが、所詮は青銅聖衣。如何に黄金聖衣に近付こうともな! ならばこの私が粉砕してくれるわ!」

 

 サガは再びユートに向け拳を振り上げた。

 

 ガシィッ!

 

「うう……っ!?」

 

 胸元で両腕を使うクロスガードは、サガの降り下ろした拳を容易く防ぐ。

 

 クロスした両腕の内で、左が上となりレフトアームに拳が当たった結果だが、可成りの本気で揮ったのか驚愕に目を見開いていた。

 

「バ、莫迦な! 黄金に近付いたとはいえ、青銅聖衣で防ぐとは!?」

 

「理解したか? この聖衣を完成させてくれたムウ、そして血液を提供してくれたアルデバランには感謝してるよ。さあ、今度は此方の番だ……」

 

「うっ!」

 

極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)ッッ!」

 

「うぉぉおおおっ!」

 

 拳に凍気を纏い、コークスクリューで氷結の竜巻を起こす白鳥星座(キグナス)の氷河の最大の拳。

 

 ユートの攻撃は小宇宙と共にサガへと打ち込まれ、小宇宙と凍気の奔流と共にサガが吹き飛んだ。

 

 ユートは【叡智の瞳】で視たモノを、解析して理解をする事が出来るから為、視ただけでも見様見真似で放てるし、練習次第で体得も不可能ではない。

 

 極冷竜巻(ホーロドニースメルチ)は漫画で識っていたし、遍在を使い宝瓶宮での戦闘も視ていた。

 

 今は未だ見様見真似に過ぎないが、まともに入ったならそれなりに効いた筈。

 

 とはいえ、サガは無駄に丈夫だから油断など出来るものではないが……

 

「くっ、おのれ! この様な借り物の技がこの私に効くと思うな!」

 

 油断出来ないと思っていた矢先に、サガは起き上がってきた。

 

「一気にトドメを刺してくれるわ! 喰らえ、双子座最大の拳……銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 銀河の星々を砕く技が、大いなる小宇宙の奔流となって襲ってくる。

 

 今のユートの実力で躱すのは下策。

 

「(頼むぞ!)」

 

 故に小宇宙を最大限にまで燃焼させると、その全てを防御に費やした。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 奔流に呑まれるユート、吹き飛ばされて柱に激突してしまったが、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の威力の半分は防げていた。

 

「な、何だと……?」

 

 フェニックス一輝でさえボロ雑巾の如く変えた技、それを受けて死なない処か聖衣に罅すら入らない。

 

 勿論、無防備に受けてたならその限りではないが、防御に専心すれば銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)さえ防ぐ。

 

 それ程にまで防御力が上がっていた。

 

「ええい! それならば先にペガサスから始末をするまでよ!」

 

「なっ!?」

 

 急に矛先を星矢に変え、技を放たんとする。

 

 サガからすればどちらも目障りな存在に違いない。

 

 ユートにかまけて、星矢をアテナ神殿に行かせてしまっては目も当てられないと考え、先に殺そうと考えたのだ。

 

 それに、ユートにとってもこの不意討ちは意外性があり過ぎて、一瞬とはいえど固まってしまう。

 

 そして聖闘士にとって、その刹那の刻が命取りとなるのだ。

 

 何しろ青銅聖闘士でさえマッハ一の速度を持って、白銀聖闘士ならマッハ二〜五の速度、黄金聖闘士ともなれば光速を体現する。

 

 僅かな反応の遅れが致命となるのは自明の理。

 

「死ね、ペガサス!」

 

 燃焼する小宇宙の奔流がサガの両腕に収束されて、後は放つだけとなった。

 

「星矢ぁぁぁぁっ!」

 

「う……な、何だ?」

 

 折しも、ユートの叫び声で目を覚ます星矢。

 

「なっ!」

 

 膨大なる小宇宙の収束を感じた星矢がサガを見て、いつの間にかの生命の危機に驚愕を露わにする。

 

「そうはさせんぞサガ!」

 

「一輝?」

 

 そんな星矢とサガの間に一輝が立つ。

 

「おのれ、死に損ないが立ち上がったとて何になる! 二人諸共吹っ飛ばしてくれるわ!」

 

 今更、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を止める事は叶わず、サガは一輝と星矢を一緒に吹き飛ばすべく技を放つ。

 

「さらばだ星矢! そして兄弟達よ! 優斗、あいつらを頼んだぞ!」

 

銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッ!」

 

 その破壊力は教皇の間の天井すら破壊して、天と地がつんざく様な衝撃音が、聖域中に響き渡る。

 

「クックク、銀河の星々さえも破壊する銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の威力。二人共、今度こそ跡形も無く消し飛んだ様だな。クッククク」

 

 嗤うサガ。

 

 巻き上げられていた粉塵が晴れていき、銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の跡が見えた。

 

「な、なにい!? そんな莫迦な……ふ、二人共跡形も無く消し飛んだと思っていたのに……何故、星矢だけが助かったのだ?」

 

「一輝が盾になり、星矢は助かったんだよ」

 

「む?」

 

 一輝が消し飛んで星矢は半死半生の状態、ならサガが現在で最も警戒すべきは唯の一人。

 

麒麟星座(カメロパルダリス)の優斗……」

 

「一輝は不死鳥、必ず帰ってくる。後は星矢を女神(アテナ)神殿へと往かせるだけだ」

 

「そうはいかんぞ、貴様もペガサスも……アテナさえも此処で滅びるのだ!」

 

 ユートは口先だけは余裕を窺わせているが、言う程に余裕など在りはしない。

 

 今でも冷たいものが背筋を奔っている。

 

 嗚呼、恐い……

 

 とても恐い。

 

 それなのに何故だろう?

 

「貴様、何が可笑しい?」

 

「可笑しい? そうか、僕は笑っているのか……」

 

 おかしな話だ、ユートは決して戦闘狂(バトルマニア)でも、戦闘中毒者(バトルジャンキー)でも無い。

 

 それなのにユートは笑っているのだと云う。

 

 痛いのが好きなマゾヒストではないし、痛め付けるのが好きなサディストなんかではもっと無い。

 

 嗚呼、それでも無意識の内に自分は笑ってるのか、それとも嗤っているのだろうか? 或いは勝機を見出だしたが故の笑みなのか?

 

「ええい、その笑いをやめろ! やめぬとあらば……貴様もフェニックスを追わせてやろう!」

 

「むっ!」

 

 サガの体勢は銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)

 

 小宇宙が高まりその奔流が爆発力に換わる。

 

「さあ、貴様も消し飛ぶが良い……銀・河・爆・砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)ッッ!」

 

「こ! こ! だぁぁぁぁぁぁぁぁああっ!」

 

 ユートはその刹那に懸けて駆け抜けた、避けるでなく躱すのでもない。

 

 そう、真っ直ぐ前と。

 

「な、なにい!?」

 

 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の出だしを狙って、真っ直ぐ駆け出したユートはサガの右腕を弾くとその侭、サガの背後へと廻る。

 

 ──緒方逸真流【独楽乃舞(こまのま)い──

 

 そして羽交い締めにし、小宇宙を燃焼させた。

 

天麟颯覇(てんりんそうは)ぁぁぁああっ!」

 

 漫画では星矢がサガに対して似た技を使っている。

 

 天馬回転激突(ペガサスローリングクラッシュ)

 

 これはそれとまた別の、ユート独自の技である。

 

 錐揉み状に飛ぶのは同じだが、最高度まで飛んだら一瞬の停滞を利用して体勢を変化させ、腕で両脚を極め脚で両脇を極める形に持っていき、やはり錐揉み状となって落とす。

 

 これにより両腕と両脚を破壊して頭すら壊せる。

 

「ガハッ!」

 

 轟音と共に墜ちサガにもダメージは入った筈だが、一応想定はしていたとはいえこれは……

 

「お、おのれぇ……」

 

 無傷では有り得まいが、大して堪えた風でも無く立ち上がってきた。

 

「とことんタフだね」

 

 これでは忌避しており、決して言わないと決めている言葉を呟きたくなる。

 

 ユートも限界が近い。

 

 聖衣に護られていたとはいっても、ダメージは充分に入っているのだ。

 

「今度こそ地獄に堕ちるが良い……死ねぇ!」

 

 拳を振り上げるサガ。

 

 ユートは死が近付いているにも拘わらず、麒麟星座(カメロパルダリス)の聖衣を脱ぎ捨てる。

 

「なにぃ? 死を覚悟でもしたのか!?」

 

 そんなサガに向けユートは右手を翳して叫んだ。

 

「来い!」

 

「っ!?」

 

「僕の許に来い!」

 

「何だ? 貴様は何を言っている!」

 

「我が身は闇、然れど心は光……我こそは汝、汝こそは我。我は光と闇の狭間に立ちし調停者! だから、僕の所へ来い!」

 

「うっ?」

 

 サガの身体が動かない、まるで某かに阻害されているかの様に。

 

「こ、これはまさか!?」

 

「僕は、此処に居るぞ……双子座(ジェミニ)よ!」

 

「う、うぉぉぉぉっ!?」

 

 ユートの声に応えたか、双子座の黄金聖衣がサガから分離し、パーツがユートの周囲を回る。

 

 そして脚に、大腿部に、両脚に、腰に、胸部に、肩に聖衣が装着されて往く。

 

「そ、そんな……莫迦な」

 

 聖衣が離れ、素っ裸に戻った姿のサガは茫然自失となり、その光景を信じられない面持ちで見ていた。

 

「双子座の黄金聖衣が貴様を認めたというのか?」

 

 仮初めなれど、双子座の黄金聖衣を纏ったユート、黄金聖闘士と呼べないまでもそれに近い存在と成るのであった。

 

「これが黄金聖衣……」

 

 まるで嘘の様にダメージと疲労が緩和されていく。

 

 何と無く想像は出来ていたとはいえ、その想像が当たっていたのには少しヘコんでしまう。

 

 そう、ユートの真属性は闇であるという事実。

 

 四系統を満遍なくとまでいかないが、それでも普通以上に使えるユートはどの系統にも属さない。

 

 だからといって、ルイズやユーキやティファニアの様な虚無系統も有り得ず、では他にどんな属性が存在するのか?

 

 それを考えた時、思い付いたのが【光】と【闇】の属性である。

 

 それでは、いったいどちらなのかと云えば想像出来てしまった。

 

 明らかに闇の属性であるだろう、マスターテリオンをして【同じ】と言わしめたユートは、闇に属しているのではないか?

 

 だけど、現状のユートはそれとは真逆の方向性──光に生きてきた。

 

 即ち、ユートは本来ならば昏く果て無き闇にその身を置きながら、心は決して闇に染まらず光を持つという事になる。

 

 その果て【闇】と【光】とその【狭間】に立つというアンバランスな状態を、常態としていたのだ。

 

 翻って双子座の黄金聖衣は宿命的に、光と闇が混在する者や双子の運命を持つ者を担い手としてきた。

 

 どんな形であれだ。

 

 サガは、善の心と悪の心が入り乱れており、狭間というものが曖昧だった。

 

 前聖戦も、双子座の黄金聖闘士はカインとアベルが混在していたのだ。

 

 【闇】と【光】とその【狭間】に立つ者──ユートは確かに、双子座の黄金聖闘士となる資質が在ったのだろう。

 

 だが今の担い手たるサガから黄金聖衣をひっぺがせるかどうか、それは賭けでしかなかった。

 

 其処は自らの可能性を信じたという訳だ。

 

 それに現段階で闇に天秤が傾いているサガよりも、【狭間】に立つのが常態となっているユートの方が、双子座も担い手に相応しいと思ったのかも知れない。

 

 サガから離脱しユートの身に装着されたのである。

 

 それに何より神話の時代より女神(アテナ)を護るべく造り出された黄金聖衣、邪悪に染まったサガよりもアテナを護る為に戦っているユートを選ぶのは、寧ろ当然の既決だ。

 

 蟹座(キャンサー)の黄金聖衣が、デスマスクを見限った様に……

 

 何故なら、唯でさえ聖衣には意思があり、最高位たる黄金聖衣には意志すら宿っているのだから。

 

「ぬうぅ……よもや、こんな事が」

 

 それでもサガからすれば信じ難い現象、だけどこれで闘いの天秤は……

 

「漸く互角になったかな」

 

「互角だと?」

 

「そうだよ。此方は借り物とはいえ黄金聖衣を纏い、貴方は黄金聖闘士でありながら今は生身だ。聖衣とは小宇宙の増幅器、有るのと無いのとでは大違いだよ」

 

「くっ!」

 

 サガは悔しげに呻く。

 

 ユートの言っている事は容赦なく正しい。

 

 黄金聖衣という最高位の増幅器を失い、逆にユートはそれを得た。

 

 元々の実力差を考慮し、これで互角となったのだ。

 

 まあ、黄金聖衣を纏っておきながら、生身を相手に互角というのも、些か情けないものがあるのだが……

 

「だが、これで勝てるなどと思うなよ!」

 

「思わないよ。これでやっと平行線になっただけだ。だけどね、星矢は良い事を言ったよ」

 

「なに?」

 

 チラリと一瞬、星矢の方を見遣るサガ。

 

「『二度も海に落とされて俺は知った! お前を倒すには海の底以外ないとな……』」

 

「何だ、それは?」

 

「白銀聖闘士、蜥蜴星座(リザド)のミスティに対して星矢が言った台詞さ」

 

 尤も、何で海に落とされて勝機を海の底に見出だしたのかは不明だ。

 

「故に、貴方にも贈ろう。二度もビッグバン系の技を受けて僕は知った! 貴方を斃すにはビッグバン系の技しなかいとな……」

 

 ビシッと指差すとユートは悠然と言い放つ。

 

「面白い、ジェミニを纏ったからとて貴様が銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)を放つと?」

 

「それこそ、まさかだよ。使おうと思えば出来るかも知れない、だけど身に付けていない技をこんな局面で使う程、酔狂じゃないよ」

 

 互いに構える。

 

 サガは銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)の構えを。

 

 ユートもまた星矢に倣った構えを執る。

 

 星矢が流星拳を放つ際、ペガサスの一三の星を象る様に、麒麟星座の形を軌跡として描いていた。

 

「今度こそ死ぬが良い! 銀河爆砕(ギャラクシアンエクスプロージョン)!」

 

輝光新星(ブリエ・エトワールノヴァ)ッッ!」

 

 サガの放つ銀河の星々さえをも砕く爆発的な小宇宙の奔流が、ユートを滅ぼす為に襲う。

 

 それに対抗し、ユートの身体へと吸収され収束した五色の燐光が、七色の極光となり強壮たる奔流を生み出しサガへと放たれた。

 

 

.

 




 星矢が気絶しっぱなし、戦闘後に正義の楯を取りに行くとか……

 この際だから、改訂版を書く時にはとっととアテナを救わせて、サガが『おのれぇぇっ!』って感じにしようかな?


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