ズザッ――――ズザッ――――
動物の足音と違うのがすぐ分かった。テントの中から見えるその影は人の姿をしていた。
ミントは目を細めて寝たふりをしながら、その影を目で追う。
すると、その影がテントの中へと入ってきた。
「どこだ…おーい…」
声から察するに少年だろう。寝ている人を起こさないように小さな声で何かを探す。
ミントのいるところへ近づき、ミントのリュックの中をガサガサとあさる。
「あったあった…」
ミントの拾ったオルゴールを発見すると、それを手に掴んでゆっくりとテントの外へと向かう。
少年がテントの外に出た瞬間。
「誰ぇ?」
ミントが少年に聞こえるような声で、イタズラに声を出した。
少年は驚いたようで、少し飛び上がった。
「にゃ、にゃ~ん…」
少年はとっさに猫の鳴きマネをしてやり過ごそうとする。
「なんだー、猫かー。」
ミントは軽い口調で返事をする。
「へへっ、ちょろいな…」
少年がそう言って歩き出した。
「―――こんなところに猫がいるわけないでしょーが!」
ミントがテントから飛び出て少年に飛びかかる。
「うわっ!起きてたのかよ!?」
少年は飛び出したミントを見て即座に走り出した。
「待てぇい!ドロボー!」
ミントが暗い森の中を駆ける少年を追跡する。足元は倒れた木やコケが生えていて走りにくいが、少年も同じように走りにくいらしく、逃げる、追うどっちも遅いスピードだった。
「はぁ…はぁ…待てーい!」
ミントはだんだんとスピードを上げ、ついに少年に追いついた。腕を掴み、引っ張って後ろに投げた。
「ぐおっ…いきなり何すんだよ…!」
仰向けになった少年はミントに腕を掴まれながら、不服そうに言う。
少年は
「私の拾ったオルゴール、返してもらうからね!」
ミントは少年が手に持っていたオルゴールを奪い取った。
「やめろって!おい!」
「ふぅ、取り返したぁ。」
少年は腕を振り払い、立ち上がってムッとした顔になった。
「これ、俺が落としたオルゴールなんだよ」
「本当にぃ?証拠は?」
「証拠たって…人の物盗むのは良いこととは言えないぞ」
「盗んだんじゃなくて“拾った”の!サルベージャーの合言葉その2!」
ミントはオルゴールを持った手とは反対の手を出し、ピースサインを出す。
「拾った物は誰のものでもサルベージャーの物!」
「嘘つけ。本当の合言葉は“助けられたら助け返せ”だろ。」
「あー…そうだった…かなぁ?」
少年はその瞬間にミントの手の中からオルゴールを奪い取り、闇の中へと消えていく。
「ああっ!逃げるなこのドロボー!」
ミントが追いかけようとするが、時すでに遅し。走り去る音は聞こえるが、姿は見えなくなった。
「あーあ。逃げられちゃった…」
「まぁいいか。速く戻って寝よ…」
ミントは消えたオルゴールと少年を諦め、ジメジメした森の中を進み、キャンプ地へと戻る為に歩みを進める。
だんだんとキャンプ地へと近づくにつれ、なぜか違和感を覚える。
「―――なんだか騒がしいな」
既に寝静まったはずなのだが、キャンプ地がどうも騒々しい。その上、なんだか熱気まで感じる。
だんだんと近づくと、そこには驚くべき光景が待っていた。
数十対のターキンと、それを率いている野盗。その中に一人のドライバーとブレイド。
ブレイドによるものなのか、あたり一面に炎が広がり、仲間達は逃げられない状態で野盗達に拘束されていた。
「あれって―――野盗!?それにターキン…どど、どどうしよう―――!」
ミントが地団駄を踏んで焦る。
傭兵のリリオがツインリングを持って野盗に戦いを挑むが、ターキンに後ろから頭を殴られて気絶した。
「あぁ、まったくあの傭兵は―――」
ミントは気付かれないよう、燃え移っていない木の後ろに隠れて様子を伺った。
「チッ、ドライバーは一人だけかよ…」
一人のドライバーがリリオとクロヒョウを掴みながら言う。クロヒョウは必死に抵抗しようとするが、既に縄で縛られてしまっていた。
「おい野盗共、とっととこいつら連れて戻るぞ!」
ドライバーが野盗とターキン達に合図を出し、ターキン達はテントや台車の中から色んなものを盗んでいく。
仲間達がうつむいている中、リストが突然こちらを向く。
「ミント―――?」
「あぁ?」
ドライバーがリストの向く方へと目をやり、ミントの存在に気付く。
ミントは驚き、しりもちをつく。
「まぁだ仲間が居たのか。見たところドライバーではなさそうだな…おいターキン共!」
ドライバーの男がターキン達に指示を出す。
「逃げろミントッ―――!早く――!」
「あのサルベージャーのガキを始末しろ。ガキは生かしておくと厄介だ!」
ターキン達が短剣や弓矢を持ってこちらへと向かってくる。野盗とドライバーは仲間達を連れて奥へと消えていく。
「あ…あぁ…!」
ミントは再び、来た方向へと戻るように逃げる。ターキン達自体の足は速くないが、彼らは弓矢を持っていた。
「来ないで!来ないでぇ!」
ドライバーでもなければ戦いに長けているわけでもない。しかもターキン一体ではなく数体を相手にするなど
無理というもの。ミントは逃げるしかなかった。
しかし、一体のターキンが放った矢がミントの足へ直撃し、ミントはその場に倒れこむ。
「うぅ―――ぅっぐ――」
突き刺さった部分から血がだんだんと溢れ出てきた。痛みのあまりこれ以上走れそうにはない。
ターキン達がだんだんと近づいて来る。中には木の上からこちらに弓矢を向けてくる者もいる。
「こんな――所で――」
ターキンの一体が短剣をミントに向けて振り上げた。もうダメだ――――――――――――
そう思った瞬間。
突然炎がミントを狙ったターキンを包み込み、ターキンは燃える体を近くの水溜りで消化し、どこかへと去っていく。
「おい!大丈夫かよ――――」
「さ…さっきのドロボー!」
「んなこと言ってる場合かよ!」
まだ数体のターキンが残っていて、少年へと剣を向け、襲い掛かってくる。
少年は大剣を振りかざし、ターキンからの攻撃を巧みに退けていく。
「あぁもうめんどくせぇ! フレイム――――ノヴァ!」
大剣を回転させ、吹き出た炎がターキン達を襲う。
ターキン達はこの攻撃に怯えたのか、次々と逃げていく。
「また来たら厄介だ…おい!逃げるぞ!」
「へ?逃げるって――――」
少年はミントの手を引いて走り出す。
「ちょ―――ちょっと待って!いきなり走らないでよ…痛ッ!」
ミントは少年の手を握りながら立ち止まり、先ほど怪我した部分を押さえる。まだ血が出ている。
「怪我してたのかよ…大丈夫か?」
少年はしゃがみこみ、持っていた布で怪我をした足を巻く。
「あ、ありがと…」
ミントは少年を見ながら照れくさそうに礼を言う。
「早く逃げるぞ。じゃないとまたターキン共が追いかけてくる。」
少年は再びミントの手を握って走り出そうとする。
「だから待ってって!助けに行かない――――っと!」ミントは握られた手を振りほどいた。
「嫌だ。厄介事には巻き込まれたくないんだよ。」
「そんなこと言わないでよ!みんなは――――――私の大事な仲間と師匠なの!見過ごして私だけ逃げるわけにはいかない!」
「んなこと言うなよ…俺は関係ない。」
「そりゃそうだけどさ…さっきあんたの戦い見たけど、なんか強そうだし。雇った傭兵よりも」
「んな…」
「頼りになるのはあんたしか居ないの!お願い!」
ミントが手を合わせて頼み込む。
「頼まれたって俺は…」
「分かった――――じゃ、これは返さないからね。」
ミントは懐からオルゴールを取り出す。
「――――ん゛に゛ゃ゛っ゛!?なんでお前がそれ持ってんだよ…」
「さっきターキンとの戦いで落としてた。こっそり拾ったの。」
「サルベージャーの前職はひったくりか?」少年が嫌味交じりに言う。
「うっさい。返してもらいたかったら助けに行く。いいね?」
「――――分かったよ。助けに行けばいいんだろ、助けに。」
少年はしぶしぶ承諾した。
「その代わり、助けに行く以上のことはしないからな。護衛とか…」
「分かってるって!あんたって結構優しいんだねぇ?」
紅緋色の大剣を持つ謎の少年…一体何者なのか?
ここでキャラクター紹介
〈リリオ〉
自称、アニマ傭兵団最強のドライバー…とは名ばかりで、まともに仕事をしてくれない傭兵。
グーラのイラーダ村出身の28才。昔はサルベージャーだったが、ふとしたきっかけでドライバーになり、その後は仲間のために傭兵として働くようになった。
黒い豹のような姿をしているブレイド、クロヒョウが相棒。クロヒョウの性別はメスで、リリオに厳しい態度をとるときもある。