今月中には5話完走したいですね。
◇◇◇◇◇◇
ターキン達をしりぞけたリュウギ達。想像以上にターキンの数が多く、苦戦を強いられたがなんとか退けることができた。
「ヒイッ!ワルカッタワルカッタ!」
片言の言葉を離しながら、傷ついたターキン達は慌てるように遺跡のほうへと逃げていった。何か光るものを落としながら。
「はぁ、はぁ…この年で動くのもきついもんやで…」
ジークは大剣を降ろし、腰を落として座り込んだ。リュウギはターキンが落とした光るもの、不思議な模様のネックレスを拾い上げた。
「ネックレス…?ターキンが?」
ターキンがネックレスを持っているだなんて珍しい。ターキンは他のモンスターと比べてある程度の社会性を持ち合わせてはいる。
しかしどちらかというと原始的なもので、このような加工されたネックレスを持っているのは…
「盗んだのかな?」
「なにそれ、綺麗なネックレス!」
リュウギが持っているのを、好きな食べ物でも目の前に出てきたかのように目を光らせてミントが見ている。
「ターキンが落としたんだよ」
「ターキンのくせにこんな高価なもの持ってるだなんて…」
リュウギは静かにネックレスをポケットに戻した。しかしそのネックレスの模様はどこかで見たことがあるような…しかしそんなことは気にせず、ゼーリッヒ王に頼まれたサンクトスチェインのもとへ向かうことに。
降る雪はだんだんと勢いを増し、氷の刃のように肌につんざいていく感覚。
寒さに震えてジークは大きなくしゃみをする。サイカが「どしたん?ついに寒さに負けるようになったんか?」と聞くと、ジークは強気に「ちゃうわ!鼻に雪が入っただけや!」と答えるが、すぐに2回目のくしゃみが飛び出た。
しばらくすると、ほのかな明かりがだんだんと鮮明に見えてきた。ついに聖大列柱廊にたどり着いたのだ。ここを抜ければサンクトスチェインのあるゲンブの頭にたどり着く。
「思ったよりも遠いし寒かったね~」
ミントが手袋の上から手のひらに温かい息を吹きかける。
「お前はいいよな、マフラーにサルベージャースーツ着て…」
コモンブレイドであるツバキは服を着る必要が無い。そのため実質全裸のようなものであった。
「今考えたら相当寒そうだね・・・」
ミントが寒そうに小刻みに震えるツバキを見ていた。
リュウギは炎を纏った剣をたいまつ代わりにして歩き始めた。寒がっていたツバキにウマたちはそれに群がるように歩いていく。
「なんていうか、土属性ばっかで炎がいないのがなぁ…」
リリオはクロヒョウをちらりと見ながらぼやいた。クロヒョウは足で雪をリリオに向けて飛ばした。
寒いルクスリアの気候に耐えながら進んでいくと、次第にこれまでとは違う別の開けた場所に出てきた。ジーク曰く、ここがゲンブの頭らしい。
しかしそこは遺跡にまるで溶けた建造物が固まったようなものが壁や地面などあちらこちらに見える不思議な空間だった。
「わずかですが、焦げた臭いがしますね」
感覚が敏感なウマのブレイド、アスカがそれを見ながら言う。
「ここは昔大戦で使われていた場所だったんや。せやからこんな様相になっとる」
「ってことは、巨神獣の体を溶かすぐらいの熱で…」
ミントが好奇と恐れを重ねた瞳で辺りを見回す。
「未だに焦げた臭いがうっすらするぐらいの激しい戦いだったのかも?」
「そんな時代に生まれなくて良かったな…って思っちまうな。」
リリオの発言後、リュウギが一行の中で最初に足を踏み出した。
「サンクトスチェインはこの先にあるんだろ?なら早く行こう」
未だ経験したことが無いほどの大戦が行われていたというこの場所。しかしそんなことは既に過ぎたことである。リュウギは過去のことよりも、早く用事をすませたいのだった。
奥に進んでも進んでも寒さは変わらず。しかし現れるモンスターの強さは上がっていく。寒さにも敵にもマケズ、ゲンブの頭の中を進んでいく。
目の前に現れたのは長い階段。ジークはこの先だと指をさす。
「この先にサンクトスチェインがある。そいつを回収して戻ればお仕事は終わりや」
「ところでサンクトスチェインって何?」ミントがジークに聞いた。
「お前らも知っとるやろ?天の聖杯が操るっていう
「天の聖杯は知ってるけど、デバイスは詳しく知らなくて…」
「20年前なんて大変だったんだぜ?アルスト中のあちらこちらにデバイスが襲い掛かってきて。今時の若いもんは知らないんだなぁ」
リリオが小ばかにするようにつぶやいた。
「ちなみに、ウマの師匠はデバイスの研究もしてたんだも!」
「リュウギは知ってる?」
ミントがリュウギのほうを振り返り聞いた。
「俺?あんまり知らないなぁ…世間には疎くて」
「ま、今となってはデバイスは動かへんし、知らんくても心配はないけどな」
そういうとジークは階段を上り始めた。腰はまだ少々痛むらしく一度後ろに転びかけるが、サイカが後ろから押して事なきを得た。
しばらく階段を上ると、小さなドームのような建物。この中にサンクトスチェインはあるのだという。
その建物に向かい歩き始める一行。しかしアスカは不穏な空気を感じた。
「――――ブレイド?」
「アスカ、変な顔してどうしたのかも?」
「さきほどから違和感がしていたのですが…後ろからブレイドと小さな足音が聞こえるのです」
「ってことは誰かに後ろから着けられてる…?」
ミントが言い終わった瞬間、突然黄色いネットが現れミントとツバキを縛るように包んだ。
「ミントッ!?」
リュウギが駆け寄り、階段のほうを目を向けると黄色いネットが飛んできてリュウギの体も縛られてしまった。
全員逃げる暇もなく、突然の襲撃に為すすべはなかった。
「これ…エーテル遮断ネットだも!」
「何これ…動けないんだけど!」
ミントが必死にもがくが、外れる気配はない。
エーテル遮断ネットに包まれ、床に倒れこむ。すると階段のほうから遮断ネットを撃ってきた者たちが現れた。
「やれやれ、ようやく捕まえることができたか」
奥から現れたのは二本のサーベルを持つ女性とその配下…スペルビア兵達とメレフであった。
メレフは倒れたミント達を見下すように歩き始めた。
「ここまで来るのに我が国は多額の予算をつぎこんだ。どうしてくれるつもりだ?」
「予算って…俺たちを追わなきゃいい話だろ?」
ツバキが口を動かす。
「そうそう!いくらなんでもそこまでして…」
「って、メレフやないか!なんでワイまでこんな目に遭わなきゃいかんのや!」
ジークがメレフを見て叫んだ。
「ジークか、久しいな」
「いやいや、久しいとかちゃうくてなぁ…なんでこんなひどいことすんねん!」
サイカもメレフを睨んでいる。
「力づくでその少年たちを捕まえるよりかはこちらのほうが楽だからな。それに皇帝陛下も来ている。陛下の身に何かあったら…な」
メレフがそう言うと、兵士たちの後ろから青い髪を流した短髪、高貴な装束を身に着けた男性が静かに歩いてくる。その後ろにはカバンを持った、秘書のような男性が。
アスカは彼を神妙な面持ちで見つめていた。
「君たちが…グーラの給水塔を破壊した者たちか。」
男は静かに言う。
「あんたがスペルビア帝国の皇帝…陛下?」
ミントが鋭い目つきで見つめる。
「おっと、私の名前を紹介するのを忘れていたね。私はスペルビア新帝国皇帝、カルマだ。ちなみにこっちの真面目そ~なのは私の秘書のゴウだ。よろしく頼むよ」
カルマはゴウのほうに手をのべて紹介した。
「よろしく…?」
リュウギはカルマのその言葉に疑問を抱いた。
「そりゃあこれから共に宴会をする相手…よろしく以外に何と言えばいいと?」
その言葉にメレフは驚きの目をしていた。
「え、宴会!?陛下、そのようなことは聞いておりませんが…!」
「おや、言ってなかったか?せっかくだから宴会の場で給水塔を破壊するような犯人はどのような人物か…見定めようと思ってね」
メレフは動揺した様子でリュウギ達のほうをちらちらと見る。
「ワダツミもカグツチも宴会の準備をしている。場所はルクスリア王宮だ。さぁメレフ、この者たちを連れて行こうか」
「ちょ、ちょっと待って…いきなり捕まって宴会って状況が呑み込めないんだけど…」
「そうだもそうだも!」
ミントとウマは声を上げるが、問答無用に兵士たちに持ち上げられてしまう。
「宴会に行きたくないのか?特上のタルタリ焼きにデザートにめろめろめろんパフェが出るのだが…」
カルマがそういうと、リュウギは目の色を変えた。
「タルタリ焼き!?しかも特上!?」
その目はとても輝いていた。
「あんた…この状況でそんなに喜ぶ?」
ミントはリュウギに対して冷ややかな目を向けた。
「さて…行こうか」
カルマが言うと、リュウギ達を持ち上げてスペルビア兵たちが歩き始めた。