時間が経つのは早いものです。
◇◇◇◇◇◇
ルクスリア王宮、食堂の間。
何メートルもある金色の長机に、大きな特上タルタリ焼き、さらには山のように積まれた雲海蟹クリームコロッケ。
見たことが無い茶色いスープ。ほのかにオニオンの香りがする。湯気が出ている様子から見ると、完成して間もないようだ。とにかく、いつも見るような一般的な食卓とは違うことは明白だった。
それを見てミントは下品なぐらいよだれを垂らし、ウマはどれから食べようか吟味しているようだ。
「すっごい旨そうだけど…毒、入ってないよな?」
リュウギが慎重に皿の上に乗った料理を鼻でかぐ。全員の中で一番最初に料理を口にしたのはジークだった。
口に入れた瞬間、まるで楽園にたどり着いたかのような顔を浮かべた。
「う、美味い…!なんちゅう美味さやー!!!」
まるで野獣のように料理を口にしていく。それを見てミントは少々引いているようだった。
「美味いのは当然だ。何ならこの料理はアルスト一の料理集団“火龍団”を手配して作らせたものだからな」
カルマが自信満々というようにジークの後ろへと歩いてくる。
それを聞いてミントもタルタリ焼きを口に入れる。
「―――!!!」
「これは…私が作るタルタリ焼きよりも美味しい…!!」
「悔しいっ!!!悔しいけど手が止まらない――!」
ミントは目に涙を浮かべながらタルタリ焼きをがつがつと喰らっていく。
ミントのほかに、この卓上にいる者は皆まるで腹をすかした獣のように食べていく。
「ほんとだ…すっげぇ美味い…!」
リュウギもその美味しさに魅了されてしまったようだ。
しかしツバキはなにやら神妙な面持ちであった。
「確かに料理が美味いのは認めるが…スペルビアの皇帝陛下?なぜ俺たちにこんな贅沢を…?」
「せっかく世界一の料理を食べているのにそんなことを聞くのか?」
カルマも口に料理いっぱいの状態であった。それを一気に飲み込み答えた。
「確かに君たちはいわゆる犯罪者の類だ。だが私にも人情というものがあってね。そこの銀髪の少年と取引がしたくてな。」
カルマはそう言うと、リュウギのほうへ目を向けた。
「お、俺?」
「メレフから話は聞いた。君はどうやら三つの属性の力が使えると…炎と水、光の力を」
「まさか、皇帝陛下リュウギの力を利用しようと…?」
ミントは食べる手を止め、カルマに聞いた。
「まさか。そのような力を持つ者は野放しにはできないからな。我々で保護させてもらおうと」
「俺を…保護?」
リュウギはその一言に小さな安堵と大きな不安を抱いた。
「マンイーターなどといった特殊なブレイドは知っているだろう?君はマンイーターではないが、その力から悪者に利用され、もしくは差別主義者から迫害される…そんなこともあり得る。私は君のためにと思っているのだ」
「迫害?リュウギはそんなことされないと思うけど…」
「たまたま運が良かっただけだろう。実際特殊なブレイドは残念ながら忌み嫌われる。もし君の力が広く知れ渡れば少なくとも良い結果にはならないだろう」
カルマはグラスに注がれたワインを片手に語る。
「私は慈悲深くてね。そんな特殊なブレイドである君の存在を知り、放っておけなくなったのだ。いきなり捕まえて保護するというのでも良かったのだが…暴れられると困るのでね。この宴会を開いて私たちは君に敵意が無いということを示したかったのだ」
「にしてもずいぶん手荒な真似だったも…」
「それに我々のもとに来てくれるのであれば、極上タルタリ焼きは毎日のように提供するし、不自由な生活はさせない」
カルマの目は真剣であった。リュウギはそれを信じているようだ。
「陛下、気持ちはありがたいんですが…俺は母さんとの約束で、父さんを探すために楽園に行かなきゃいけないんです。それにタルタリ焼きはミントの作るほうが好きだし…」
リュウギは申し訳なさそうにカルマに答えた。ミントの顔は少々赤くなった。
「な、何言ってんの!そんなこと言われたらちょっと嬉しい…」
そう言ってミントはリュウギの頭をひっぱたいた。「いてっ」とつい声が出てしまった。
「これは君の罪を帳消しにする理由もあるのだがな。そこのミントくんにウマくん、そして彼らのブレイドの罪も。」
「ももっ!つまり逮捕されちゃうってことかも!?」
「なんともな交換条件ですね…」
アスカが口を開いた。
「まぁすぐに決断してくれとは言わないさ。明日の朝にでも答えを聞こうか」
そう言うとカルマは手を叩いた。料理もほとんどなくなり、正装したルクスリアの使用人たちが料理を下げていった。
「さて、スイーツは別腹かな?」
カルマがそう言うと、使用人たちが今度は1メートルもあるほどの巨大なパフェにスイーツの盛り合わせを運んできた。
「スイーツもあるの!?」
ミントの目はさらに光った。
「悪いがワイはもう食えん…食い過ぎた…」
ジークの腹は見るからにパンパンといえる様子だった。サイカはそれを見て失笑していた。
スイーツが机に運ばれてくると、全員再び獣のように喰らっていく。カルマはそれを見て笑っていたが、その笑顔はどこか不可思議であった。
「ところで親父ィ、サンクトスチェインのことはどうするんや…?」
ジークが父であるゼーリッヒに問いをぶつけた。この宴会にはもちろんルクスリアの王であるゼーリッヒも相席していた。
「あぁそのことだがジーク…アレは嘘だ。」
「う、嘘ぉ!?」
「カルマ皇帝に依頼されてお前たちを誘導したのだ。すまなかったな…」
「ってか、王子それ気づかなかったん?」
サイカはジークに微笑を浮かべた。
「ええっ!?ってことは全員…知っとったんか!?」
「まぁ、なんとなくで…だけどね」
ミントが口中クリームだらけで答えた。
「ところで皇帝陛下、メレフ様は…?」
「メレフならブレイドと共に君たちの持ち物検査をしている。どうやら腹が空いていないようでな」
「持ち物検査…?」
リュウギはここに来る途中、武器を含めた持ち物をすべて抜き取られたことを思い出した。
◇◇◇◇◇◇
少々薄暗い部屋の中、メレフとそのブレイドであるカグツチとワダツミがリュウギたちの持ち物を調べていた。
「これは…オルゴールですかね?」
カグツチが小さな箱を開けると、中から綺麗な音色が聞こえてきた。
「グーラの子守唄か。」
メレフはその音色を聞きながら調べ物を続ける。
「シリンダーに予備のカメ柄の眼帯に人工ブレイドの本…」
「特に危険そうなものは武器以外にはありませんね」
カグツチが調べながら言った。
「メレフ、この少年の赤い剣…どこかで見たことはないか?」
ワダツミが重ねられた武器の中から、リュウギの剣を取り出した。
「彼との戦いの中で不思議に思っていたが…」
円形の穴が開けられた赤い剣。
「天の聖杯、メツはこれと似たような武器を、色はホムラの武器と非常によく似ていますね…」
「やはり“彼ら”との関係性は強いといえるだろうな…」
メレフは再び持ち物を調べていくと、ひとつ、ライトに照らされ光るペンダントを見つけた。
「このペンダントの紋様、どこかで見たことが…」
ワダツミがメレフに近づき、そっとつぶやいた。
「これはスペルビアの…スペルビアの紋様だ…」
メレフは目の色を変えた。その瞳は驚きに満ちていたようだ。
「悪いがカグツチ、ワダツミ、私はすこし退出させてもらう!」
メレフはそういうと扉を吹き飛ばすように開き、走り去っていった。
「あのペンダントはスペルビア皇家のもの…」
「ということは…」
ワダツミとカグツチは互いに目を合わせた。
メレフはルクスリア王宮を走り抜け、宴会の行われている食堂へと走りこんでいった。
その形相は恐ろしいもので、王宮を警護していた兵士たちは恐れおののいていた。
もちろんそれは食堂の中でも同じ。あのカルマでさえも迫力に負けているようであった。メレフはリュウギのもとへとペンダントもって駆け付けた。
「少年!このペンダントはどこで…!?」
「え、えぇっとこれは…」
「ルクスリアでターキン倒したら落としたの」
ミントがフルーツを頬張りながらリョウギの代わりに答えた。
「ありがとう…!」
それを聞くとメレフは再び走り始めた。
それを見たカルマはどこか不機嫌そうにスプーンを皿にかちかちと打ち付けている。
「あのペンダントは…まさかな」
全員がスイーツを食べ終わり、カルマは手を叩いた。
「これで宴会は終了だ。特別にルクスリア王宮で泊まる許可が出ている。朝までゆっくりと休むと良い」
そう言うと、使用人たちが食べ終わった皿などを片付けに入ってきた。
「あぁ~美味しかった。満腹になると眠くなってくるもんだね…ふあぁ」
ミントは大きなあくびをかきながら腹を叩いた。リュウギは何かが足りないというようにまわりを見渡している。
「ところでさ、リリオどこに行ったんだ?」
「そういえば宴会にいなかったも」
「あら、リリオなら緊張のあまりトイレに行ってるわよ」
突然クロヒョウが現れて答えた。
「うおっ、唐突に…あんたはどこ行ってたの?」
「私もああいう宴会は好きじゃなくて。別室で別のもの食べてたの」
「キャットフードかなんかか?」
ツバキがあざ笑いながら言った。
「ああいうほうが私は好きなの」
クロヒョウは不機嫌そうに答えた。
しばらくすると、リリオが真っ青な顔でリュウギ達の前に現れた。
「ようやく出てきた、傭兵さん」
「これ以上ないってぐらい腹が痛かったぜ…宴会は?」
「宴会ならもう終わったけど」
リュウギは冷たく答えた。
「何ッ!?お、俺の分は!?」
「あぁ…ごめん、てっきり居るもんだと思って…」
ミントは舌を出しながら申し訳なさそうに頭をかいた。
「俺も…ッ!食べたかったのに…ッ!」
リリオは膝をついて大粒の涙を流した。