あんまり上手には書けてないですが…
「部活には入ってないの?」
何度目の質問だろう。
校門から教室までの、五分間に満たない会話のはずなのに
彼女は雪崩のように話し続けた。
もちろん僕は女の子はおろか、人と話すことは苦手だ。
「部活してるように見えるかな。」
「人って見た目じゃあないでしょ?」
「僕が人じゃなかったらどうするの。」
彼女はぼーっと何かを考えるようにしながら靴を脱いでいた。
下駄箱に靴を入れた瞬間、叩くようにして強く閉めた。
その突然の大きな音に、体が固められた。
にんまりした笑顔で彼女は言った。
「君が人間でないなら、私が世話をしよう。」
なんて変わった子なんだろう。
最初に抱いた印象より接しやすくてよかったのは事実だが。
階段を上り始めたとき、彼女は再び口を開いた。
「そういえばさ、私の自己紹介の時、向こうの川見てたでしょ。」
心臓が強く脈打った。よく考えれば失礼が過ぎたと思った。
彼女が数歩前を歩いているせいで表情が読み取れない。
もし怒らせたなら、謝らなければいけない。
そう思って謝罪の言葉を口にしようとしたとき、彼女が振り返った。
「君って不思議だね。私に関心持たないなんて。
こーんな赤い目をしてるのに。何も思わないの?」
僕を試すような視線。彼女はきっと、本当に不思議なのだろう。
光を背に受けた彼女はこちらを見つめたままだ。
僕の答えを待っている。
「君の目が赤くても何もおかしくない。奇妙だとも思わない。
もし君が人間じゃなかったら、僕はもっと人間から離れている。」
「へえ。もしかして、それが川を見てた理由?」
彼女は何かを見透かしているように、僕の目だけをしっかりを見ている。
その視線は痛いほど網膜に焼き付く。
目を見たものは石化してしまうというメデューサは、
神話の存在だが、解釈によって魔女になっていることもある。
網膜にまで張り付いて離れない彼女の視線は、僕を凍りつけた。
彼女を魔女と呼ぶには相応しすぎた。
魔女は理由を求めている。僕は答えなければ解放されないだろう。
きっと今、僕の心臓は彼女の手に握られている。
僕の拍動も、緊張も、すべて伝わっているはずだ。
「川を見ていた理由より、奇妙に思わない理由は気にならないの?」
逃げに聞こえってしまっただろうか。
僕の心臓が彼女の手の中にあるとしたら、時間をかけてひねり出した
この答えにならない問いも、すべてはコントロールされているのかもしれない。
「それもそうだね。言いたくないことかもしれなかったし、野暮だった。」
表情が少し和らいだ気がした。といっても彼女は氷の視線を浴びせている最中も、
いつもと変わらない優しく、整った顔だった。
転校してきて三日目なのに、いつも、なんておかしいかもしれないが。
「で、私の目が変じゃない理由は?」
「月だってたまに赤くなるし、目だって充血すれば赤くなる。
それに目が赤いからって、君は君だろ。」
ふふふっ、と彼女は笑った。
「そっか。じゃあ教室行こっか。」
差しのべられた手は細く頼りなく、それでいて優しさであふれていた。
先ほどまでの彼女が信じられないほどに。
その手に僕の手を重ね、彼女の体温を感じる。
まぎれもなく人間の手そのものだった。
彼女はおそらく、真実を見抜く力に長けている。
これは彼女の赤い目に魅了された人なら気づかないだろう。
僕と一般人との差異が生み出した特権だと思った。
「私、君が川を見ていた理由、わかるまで聞き続けるから。」
「人には言えないことがあるんだ。それを聞くのは野暮だろう。」
「なんでそんなこと言うんだよう。」
彼女は瞼を下げ、少し不機嫌そうな表情を浮かべた。
その後僕の目を見て、ひひっ、と彼女は少しおかしな笑い方をした。
「君って面白いね。もし君が人間じゃなかったら、やっぱり私は
君を解剖して、隅々まで調べつくそうかな。」
―人は見た目じゃない―
この言葉の意味を真剣に考えたとき、目の前の理想には程遠く、
現実の世界はあまりにも残酷だと思い知らされるだろう。