魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
二日後。
オレとフェイトは局の車でとある場所まで走っていた。
後部座席でオレは窓から流れる景色をずっと見つめている。
「…………」
今回の仕事は予定していた通り、組織の実験が行われる現場の差し押さえだ。
実際には執務官が行う任務ではないが、クロノ曰く“人手が足りない”らしい。
まぁどっちにしろいい。
とにかく今回のこの仕事が終われば、オレは晴れて自由の身らしい。
事件さえ解決してしまえば、オレがフェイトの側にいる理由はなくなるからだ。
恐らく、クロノもそのつもりだろう。
「にしても、何で連中はこんな一面カレッカレの荒れ地で実験なんかやんだ? 明らかに広すぎだろ」
「組織の密輸した質量兵器の量は、今や機動一個中隊にも及ぶからね」
「連中、戦争でもおっぱじめようってか。ご苦労だな」
「目的はわからない。でも、管理局からしてももう目をつむってられないから……」
にしては、動いている部隊が微妙だと感じているのはオレだけだろうか?
まぁいいや、なんだって。
連中が実験を行う場所は、クラナガンから約数百キロ離れた広大な荒れ地だ。
オレ達は今からクロノの部隊を使って、そいつらを一網打尽にしようとしてる訳だ。
クロノの部隊の規模は中々で、動くのは実動隊だけだが、その戦力は侮れない。
ただ侮れないのは、連中も同じだ。
今までただでさえロクな情報がないのだ。敵の規模もおおよそでしかわかっていない。
正直、今だに不安定さが否めない任務だ。
だが、これが事実上の決戦と言ってもいい。
その後の展開はどうあれ、質量兵器の尻尾を掴めるのだ。
後は、本体を引きずり出すのみ。
★☆★
「やぁドア、グッドモーニング」
「やぁクロノ、ベリーベリーバッドモーニング」
「君はどうしても僕に喧嘩を売りたいようだね」
「そうか? なんなら今までお前に突っ掛かってきた女の情報をフェイト通じて嫁にバラして……」
「さて、仕事の話をしよう」
立場が悪くなったのか、クロノは背を向けた。ザマミロ、クソ兄貴。
オレとフェイトは車でクロノの待つ、艦隊の駐屯地まで運ばれた。
その後、クロノから一度呼び出しがかかったのだ。
どうやら、任務の詳しい概要を説明してくれるらしい。
「今回の任務はここから西に数キロ離れた位置で実験を行う予定の組織一味の捕縛だ」
「再三聞いたぞ、それ」
「確認だ。黙って聞いてくれ」
クロノは罰の悪い顔をする。
「具体的に何をするかと言うと、僕ら航空艦隊とフェイトは空からの監視、実動隊は地上で監視だ」
なるほど、二方向からの監視か……ってちょっと待て。
「ドアは何をするの?」
オレが感じた疑問と同じ事をフェイトが聞いた。
「ドアには、潜入捜査を頼みたい」
「潜入だぁ?」
潜入って……どういう事だ?
「ああ。実は実験が行われるポイントの地下深くに、正体不明の施設が見つかったんだ」
「んなの初耳だぞ」
「そうだ。僕も今さっき知った」
「それで……規模はどれくらいなの、クロノ?」
「簡単に言えば、ヘリの格納庫位の広さだ」
微妙な規模だ。研究する広さにしても微妙の一言だし。
「そこで君には、できる限り有力な情報を入手してほしい」
「えらい漠然とした内容だな。そもそもやる意味なくないか?」
「念を入れておきたいんだよ。もしこの作戦が失敗すれば、組織は本格的な質量兵器の密輸に乗り出す可能性だってあるんだ」
確かに、その可能性は十分にあるだろう。
ミッドチルダに質量兵器が溜まり、機がくればクーデター、なんて流れ誰だって想像できる。
「けどいいのか? オレがしくじればヘタに警戒されるだけかもしれねぇぜ」
「そこは君の技量だろう」
全く、簡単に言ってくれる。
最後の最後で、面倒な仕事になりそうだ。
★☆★
「どうだ、ドアは? セクハラとかされてないか?」
「……しょっちゅうかな」
数十分後、作戦が始まった。
クロノの艦隊は動きだし、地上の実動隊も周囲で張っている。
ドアも、今さっき出発したところだ。
私は今、クロノと艦隊のブリッジで地上の様子を伺っている。
「そうか……ならアイツのリミッターのレベルを上げておかないとな」
「クロノ、仲がいいんだね」
「まさか」
クロノは言葉とは裏腹にフッと笑う。
「アイツとは、単なる腐れ縁だ。フェイトとなのは達のような関係とは違うよ」
「でも、同じに見えるな」
二人の様子を見てても、憎まれ口でも信頼し合っているように見える。
「同じか……」
「……?」
クロノは少し表情を固くし、どこか遠くを見るように口を開いた。
「アイツとは最初、戦場で会ったんだ」
「え?」
それを聞いた瞬間、気持ちの一部が沈んだ気がした。
「提督に成り立ての時に、第32管理世界に飛んだんだ」
そこなら聞いた事がある。政治状況が常に悪く、内戦が絶えないと……
「そこで僕は管理審査を任されたんだ。最初会った時、彼は反乱軍の傭兵として戦ってたんだ。けど会った場所は何故か街の喫茶店でね。偶然そこで会って、話が弾んだんだ。それから何故かよくあちこちで会うようになってね……」
「……なんか、変に運命感じちゃうね」
「止めてくれ」
クロノは小さく笑った。
「それから……まぁ、いろいろあってね……ずっとこんな感じだよ」
「へぇ~……」
正直、ビックリだった。
クロノに、こんなに親しい友人がいたことに。
「……でもクロノの友達なのに、今まで名前も聞かなかったのは、なんでだろ?」
「っ!!? ――なんでだろうな」
「…………」
一瞬だが、クロノの表情に陰りが差した。
「ま、まぁ僕とアイツの話はいいだろう。それより君達はどうなんだ?」
「え、わ、私?」
と、どうなんだろう?
顔を合わせてから、まだ3日4日しか経っていないが……
「なんだろうな……頼りにはなるよ。すごく頭いいし、それなりに強いし……でも」
たった一つ、気になっている事。
「――ううん、なんでもない」
でも、今は言うべきではない。
「……そうか」
クロノはただ力無く笑い、続けた。
「フェイト」
「?」
「アイツは減らず口でいい加減だが、いい奴だ。だからアイツの“何を知っても”……」
クロノは背を向け、ただ呟いた。
「――拒絶だけは、してやるなよ」
★☆★
「ハックショイっ!!!」
不意に、くしゃみが出た。
誰かが噂でもしてんのか?
まぁ、いい。
今はくしゃみをしている暇ではない。
とりあえず、潜入はできた。
意外と施設への入口は簡単な場所にあったため、楽に中に入れた。
問題は、入ってからだ
施設に降り立った瞬間、オレを迎えてくれたのは、メカニックなソーセージ共だった。
まぁ、いわゆるガジェット・ドローンって奴だ。
スカリエッティが作り出した、半自律型の機械兵器。
この施設ではそれを改造して、見張りとして巡回させているらしい。
それが今、周囲にごまんといやがる。
多分、数にすると3ケタいくかいかないか位。
「…………」
さて、と……
ソーセージが調子に乗る前に、サクっといくか。
「起きろ、ストレイジ。ウィルネス」
オレの両のピアスが発光し、デバイスとして両手に収まる。
この数相手だと、ダラダラ戦ってたら圧死されるな。AMFあるし。
かといってリミッター一段階じゃ、“2ndモード”の起動すらできない。
だったら……
瞬間、ガジェットが動きだした。
ミサイルやら何やらを撃ちまくってくる。
オレは瞬時にステップを踏み、近くのガジェットをひたすら斬った。
――出来るだけ速く動いて、速く斬ればいい。
「だりゃああぁぁっ!!!」
横薙ぎにウィルネスを駆り、ガジェットを真っ二つにしていく。
しかし、どうしても数が多い。
オレはガジェットを斬りながら、とにかく逃げた。
目の前にガジェットが現れば叩き斬り、鉄塊に変えていく。
しかしその間にも、背後からガジェットが迎撃してきやがる。
ミサイルやら実弾やら、質量兵器も搭載していてこの上なく厄介だ。
――一瞬なら、行けるか?
10秒……いや、5秒っ!!
オレは背後から迫るガジェットに振り向き、ストレイジを向ける。
「感謝しろよ、ソーセージ共」
――今から、滅多に見れないもん見せてやるからよ。
「――ストレイジ、ブロークンモード、起動っ!!!」
その瞬間、ストレイジから大振りの魔力刃が展開された。
その長さは、ゆうに3メートル。
――一降りだけなら……まだ。
オレはストレイジを真上に掲げ、ガジェット共に振り下ろした。
振り下ろした瞬間、凄まじい衝撃が施設内に響き、ガジェット共の残骸が飛び散る。
オレは直ぐさまモードを戻し、ガジェット共の粗末なAIが混乱している間に施設内を飛び回った。
「ハァ……ハァ……」
しばらく飛び、オレは物陰に隠れた。
やっぱり一瞬とは言え、2ndモードはキツかった。
この時ばかりは、流石にクロノに食い下がらなかったいい加減な自分を怨んだ。
「ハァ……ハァ……」
息を整え、施設を歩く。
今は、ストレイジを待機状態にした。
気休めだが、負担を軽減できる。
しばらく歩いていると、広いところに出た。
「……?」
なんらかの研究施設だろうか?
そこには様々な機械があった。
ゴチャゴチャとしていてわからないが、大仰な機器がいっぱいある。
しかし無人なのはどういう事だろうか?
さっきからこの施設には、ガジェットの気配しかしない。
オレは捜索しながら、クロノに念話を入れた。
《――こちらクロノ。何かわかったか?》
「なんか怪しい研究施設みたいなのを見つけた。今調べている」
オレは研究台らしき物の上に置かれた、古いプレートを見た。
なんらかの対象につける名札だろうか?
そこにはただ一つ、“Ⅵ”と刻まれている。
「シックス?」
《? ……何の話だ?》
「変なプレートを見つけた。多分研究対象の名前だろ」
オレは奥に進み、今度は巨大なカプセルのような形のタンクを見つけた。
「……なんかタンクみたいなのを見つけた」
《タンク?》
オレはタンクに近寄り、そこに黒く書かれた名前を読み上げた。
「……Nuclear、reactor……」
オレは、内心焦っていた。
嫌な物を見つけたからだ。
オレはタンクに繋がっている、ぶっといパイプを見つけた。
「…………これは?」
《今度はなんだ?》
「いや、わからない……っ!!!」
不意に、思い出した。
Nuclear reactorの意味。
そして、このパイプ。
「…………」
オレは、さらに歩く。
すると、何やらチカチカと光る物を見つけた。
規則的な電子音と共に光るそれを見て、オレは一気に血の気が引いた。
「…………」
《どうした? 何があった?》
「クロノ……」
冷静になれ。
まだ、間に合う。
「実動隊を動かすのは、いつだ?」
《……何を言っている、もう周囲に張っているが》
「……クロノ、作戦は中止だ。今すぐに部隊を下げろ」
《……どういう事だ?》
「くそっ!! てことはあの事件も……」
オレは今世紀最大といえる位焦っていた。
完全に、敵の目的を履き違えていた。
完全にアメトリス銀行の時と、同じ手口だ。
敵を誘い出して、一気に叩く。
だから実験もクソもない。
「クロノ、よく聞け。奴らはここには来ない」
《何っ!!?》
「ホントにアンラッキーだぜ、クロノちゃん。叶うならリセットボタン押して、今日は無理矢理にでも休んだのにな」
《だから、何があったっ!!?》
クロノは次第に焦り出す。
でも1番焦っているのは、オレだ。
「オレがさっき見つけたタンクに書かれてた言葉に意味……ありゃ“原子炉”だ」
《原子炉?》
「そんでそれはデカイパイプに繋がれていて、極めつけは……」
オレは再び、それに目を向けた。
「――時限装置だ」
それは08:23とモニターされ、最悪なカウントダウンを刻んでいた。