魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
ドアの報告を受けてから、艦隊はてんやわんやだ。
「直ぐに実動隊の近くに艦を降ろせっ!! 3分以内にだ」
「無茶ですっ!! 時間が足りません」
「ならロープを降ろせ。崩壊に巻き込まれる前に実動隊全員を救い上げる」
「そ、それなら……でもギリギリですよっ!!」
「とにかくやるんだっ!! 急げっ!!」
「はいっ!!」
クロノは一通り指示を出した後、再びドアに念話を飛ばした。
「ドア、どうだ?」
《無理だな。造りも意味不な上に、コードもアソコの毛並に縮れてやがる》
「解体は無理か……」
――ドアが見つけたのは、原子炉に繋がる時限装置だった。
仕組みは時限装置が0になった瞬間に原子炉が核分裂を起こし、繋がれた特注のパイプからその火力をここら一帯に繋げ、地下から周囲を崩壊させる仕組みらしい。
これなら実動隊を崩壊に巻き込むくらい訳はない仕組みだ。
施設自体は核シェルターで造られている為、施設周辺の崩壊は免れるらしいが……
「ならいい。ドア、直ぐにそこを脱出して空に逃げろ」
《それができりゃ、とっくにやるよ、クロノ》
「え……?」
どういう事だ?
《今いる施設にゃ、ガジェットがうろちょろしてんだ。考えなしに出てきゃ、直ぐに殺される》
ガジェットっ!!?
まさか、そんなモノが……
《わかるかクロノ。グロッキー状態のオレに、脱出の術は無い訳だ》
「なっ……!!」
何を言っている。
そんな、バカな事が……っ!!
その時。
「クロノっ!!」
「っ!!?」
後ろから、フェイトが駆け寄ってきた。
騒ぎを聞き付けたのだろう。
「いったい、何があったのっ!!?」
★☆★
ピッピッピッピッ
「…………」
オレは、静かにカウントダウンを告げる時限装置をボーっと見ていた。
カウントは今、6分を切ったところ。
さて……
どうしたものか。
時限装置は難解。
逃げようにも、ガジェットの山。
打つ手、無しだ。
完全なる、ゲームオーバー。
「…………」
オレは不意に立ち上がった。
どうせなら施設を調べれるだけ調べて、それをクロノに伝えよう。
オレは周囲を見渡し、一つの本棚を見つけた。
あそこなら、情報がたくさんありそうだ。
歩き出すと、念話が飛んできた。
《……ドアっ!!》
クロノかと思ったら、妹の方らしい。
「よぉ、実動隊の様子はどうだ?」
《い、今回収してるけど……ってそうじゃないっ!!》
激昂された。そんな覚えないんだがな。
《どうして脱出しようとしないのっ!!?》
そんな事か。
頭のいいフェイトなら、解りきっているハズなのに。
「なら教えてくれよ。オレがここからガジェットに殺されずに済む手品をよ」
《……そ、それは……》
ほら、言葉に詰まる。
「オレは、ここで死ぬ。だけどタダで死ぬつもりは毛頭ない」
オレは本棚の前に立ち、ひたすら漁る。
「今からこの施設の情報をクロノに伝える。だから切るぞ」
《ま、待ってっ!! きっとま……》
オレは強制的に念話を遮断した。
「……悪いな、フェイト」
オレは再び念話を繋いだ。相手はクロノだ。
「よぉ、クロノ」
《……君も、とことん女性を泣かせる奴だね》
「泣いてたのか?」
《涙目でいつまでも君を呼んでいたよ。今さっきどこかへ行ったがな》
「そうか……」
とことん、優しい奴だ。
そんで、いい女だ。
「それはいいとして……状況はどうだ?」
《実動隊の回収は6割方終わったよ。このペースなら大丈夫そうだ》
「そうかい」
これで一応、奴らの思惑からは外せた訳だ。
オレは今取っている本のページをパラパラとめくり、重要そうな項目を探す。
その過程で、とある単語を見つけだした。
「……再生団《リプロード》?」
《リプロード?》
さっきから資料にちょこちょこ出てくる名だ。
「恐らく、これは組織の名称だな」
《そうか……リプロード。聞いたことないな。ドアは?》
「いや、オレもだ」
再生団、か。
原子炉使って一発やらかそうとしてる連中が、何を再生するってんだか。
つまらない話だ。
《それで、他には?》
「そう慌てんな」
オレは次の資料を手に取った。
これは……名簿か?
そこには、様々な名前が載っていた。
「いい知らせだクロノ。連中の名簿を見つけたぞ」
《何っ!!?》
「重要な奴の名前は……」
オレはとにかく主要メンバーの名を探した。
下位クラスの雑兵共じゃ話にならない。
こういうのは大抵、ページの最初に……
……あった。
「……主要メンバーは、全部で8人。名前は……」
オレはそれぞれのメンバーの名を読み上げた。
「……以上だ」
《わかった》
オレは名簿を脇に抱え、ふと時限装置を見た。
残りカウントは02:41。
もうオレはカップラーメンも食べられないらしい。
「……もうちょい調べるか?」
《いや、いい。そんな情報よりも……》
クロノは少し言い澱む。
《……親友の最後の言葉の方が、僕の今後の役に立ちそうだ》
「……へ、お前に友達なんていたのか? それは勘違いだ」
《うるさい、バカ野郎》
互いに、笑い合う。
「……悪いな」
《何がだ?》
「……フェイトの事だよ」
《…………》
「アイツには、伝えるのか? “あの事”」
《いや、僕の胸の中だけに納めておくつもりだ》
「……そうか」
その方がいい。
余計な期待を与えるだけ、残酷なもんだ。
《君には、世話をかけさせられたな》
「……そうだな、ホントに」
本当に、そう思う。
正直、コイツのおかげでオレは何度も救われた。
クロノがいなけりゃ、オレはとっくに極刑を受けてるところだ。
「……数日だったけどよ、まぁまぁ楽しかったわ。第二の人生」
《そうか、そいつは何よりだ》
「心残りがあるとしたら、まだシャバに出てから女を口説いてないって事だな……ハハ……」
オレはタンクにもたれ、力無く座り込む。
カウントは00:51。
そろそろだな。
もうすぐここは、エネルギーで埋め尽くされる。
《――そろそろだな》
――?
クロノは笑いをこらえるように言った。
「なにがだ?」
《いや、なぁに……》
次の瞬間。
《――口説く女だよ》
遠くから、爆発音が響いた。
「?」
なんだ?
この施設が、誘爆でも起こしたのか?
しかし、数秒後。
「――ドアッ!!!」
向こう口から、煤に塗れた金色の閃光がやってきた。
「っ!!? フェイトっ!!?」
オレは、心底ビビった。
それと同時に、カウントを確認した。
00:24。
もう30秒も無い。
フェイトはオレの前に降り立ち、呼吸を整える。
「バカ、お前っ!! 何しにきやがっ……ッ」
オレが言葉を紡ぐ暇無く、フェイトは俺の顔面を殴った。
しかも、グーで。
女の子がグーで殴るか? 普通。
「――バカはそっちだよっ!!!」
フェイトは言うやいなや、オレの首根っこを掴み、猛スピードで飛んだ。
閃光となり、施設の出口向けて飛び回る。
「バカッ、バカッ、バカッ!!! 何で諦めるのっ!!?」
フェイトは飛びながら、左手で掴むオレにひたすら罵声を浴びせる。
「少しは私を信じてよっ!!?」
すると目の前から、ガジェットが飛来してくる。
しかし、フェイトは癇癪を起こした子供のように、容赦なしガジェットを斬り裂く。
「仕事をいい加減にしてもいいっ!! 女の子にいい加減でもいいっ!! でも……」
出口に辿り着き、フェイトは上に飛ぶ。
「…………」
オレは呆然としながら、フェイトがシェルターの出口をザンバーで切り裂くのを見ていた。
「――生きる事をいい加減にしたら、許さないからっ!!!!」
瞬間、オレとフェイトは空に飛び出していた。
二度と拝む事はなかったハズの、綺麗な青空。
――次の瞬間。眼下の荒れ地が低い悲鳴を上げた。
そして一秒経つ頃には、崩壊が始まった。
凄まじい崩壊音と共に、崩れ去る地面。
まるで地球に小さな穴が空いたかのように、一瞬にしてそこは巨大なクレバスと化した。
「…………」
まさかここまで、とは。
正直、さっきまであそこの地下にいたと思うとゾッとする。
「…………ションベンチビリそうだぜ、ベイビー」
軽口を叩くが、フェイトは反応しない。
どうやら、かなりご立腹のようで。
仕方ない。
「――オレが悪かった。これからは一生懸命生きるとしよう」
オレが反省したように言うと、
「――よろしい」
フェイトは、そこで今日初めて笑った。
その笑顔は、この青空によく栄える。
美しいと、素直に思ったくらいだ。オレとした事が。
まぁ、どうだっていい。
今になって、ようやく気づけたのだから。
――死ぬ事より、生きる方が面白い、てな。