魔法少女リリカルなのは -Crime seeker-   作:鹿丸

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ⅩⅡ Wound and kiss

管理局、食堂。

 

仕事合間の昼下がり。

 

オレはそこで少し遅めの昼食を取っていた。

 

メニューは今日はチャレンジ精神が沸いたのか、“うどん”とやらを頼んだ。

 

地球の食べ物らしいが……これが中々イケる。

 

ただ仕事に追われる男の身としては、カロリーが少々乏しいので、おまけとしてサンドイッチも備えてある。

 

正直、うどんとパンが合うとはお世辞でも言えなかったが、監獄のあのクソマズイ飯に比べれば天と地だ。

 

「しかし、随分と執務官ってやつは暴力的な仕事量なんだな。いっそ言ってくれ、これは暴力ですってな」

 

「執務官志望の補佐がそんな口聞いちゃいけません」

 

言ってくれる。と、オレは目の前でハンバーグを嗜む上司に対して思った。

 

今日は珍しく仕事が同時にキリがつき、どうせならとフェイトと一緒に昼メシを食っている。

 

「補佐だからこそ、上司の体を気遣ってんだよ。睡眠時間4時間なんて暮らし、オレならソッコーでボイコットだね」

 

「でもやり甲斐はあるんだよ。私だって、嫌でこんなに働けないよ」

 

「……やり甲斐、ねぇ」

 

そのやり甲斐ってのが犯罪者連中をしょっぴきまくるってやつだったら、犯罪者の立場から言えば身が震える思いだね。

 

――なんて事、口が裂けても言えないがな。

 

そろそろ執務官の話に飽きたのか、オレは別の話題を持ち出した。

 

「そういや、フェイトの友人は何やってんだっけ」

 

「え? 誰の事?」

 

どうやら彼女には、友達と呼べる奴らがいっぱいいるらしい。

 

うらやましいね。オレには親友なんて聞こえのいい奴らはいない。悪友なら腐るほどいるがな。

 

「あ~……エース・オブ・エース様?」

 

「なのは? 今も戦技教官やってるけど……」

 

フェイトは首を傾げながら、何でそんな事を聞くんだといった表情をする。

 

「いや、なぁに。この前パンフで顔見て、一度お目にかかりたいなって思ってたところだ」

 

高町なのは、と言えば誰もが知っているエースの中のエースと言うのは噂から知っている。

 

正に、憧れといったら彼女らしい。

 

結構美人だったしな。

 

「……なんかドア、やらしい顔してる」

 

勘がいいなオイ。やっぱエスパー?

 

「気のせいだ。それより聞きたいな」

 

「なのはの事?」

 

「ああ。食事の話題としては申し分ないと思うがな」

 

なんせ、管理局の憧れの友人視点からの話だ。

 

どこぞのおつむの悪い女のオチの無い話よりかは、だいぶ有意義だ。

 

「う~ん、そうだね。なのははとにかく凄いんだよ」

 

いきなり、自慢から始まるとは思わなかった。

 

まあ、いい。

 

「誰に対しても優しくて、面倒見がよくて、誰からも信頼されてる……もちろん、私も」

 

フェイトが生き生きしながら喋っている様子を見ると、どうやら話題選びに狂いはなかったようだ。

 

「私となのはが出会ったのは13年前なの」

 

「随分と古い付き合いだな」

 

「うん。最初はいろいろあったけど……今の私があるのは、なのはのおかげって言ってもいいくらいなんだ」

 

そう力説するフェイトの目に、お世辞の類の濁りは無い。

 

どうやら、本当に信頼している友人らしい。

 

「素晴らしいな。その熱い友情に乾杯」

 

「えへへ、乾杯」

 

オレは水の入ったグラスを掲げ、フェイトもそれに続く。

 

グラスの口同士がカランと音を立てた一秒後、またカランと音を立てた。

 

「?」

 

「私も、乾杯」

 

「なのはっ!!」

 

なんて偶然だいボーイ、とアメリカンテイストで言いたくなった。

 

なぜなら、テーブルの直ぐ側にあの憧れのなのは様がグラスを当ててきているではないか。

 

「隣、いいかな」

 

「あ、うん」

 

フェイトは慌てたように席を詰め、隣になのはが座る。

 

なのはのトレーの上には、カレー。

 

どうやら昼はガッツリいっとく派らしい。エース様は。

 

 

「どうしたの、なのは?」

 

「ちょっと仕事でね。ついでに挨拶しに行こうかなって思ってたけど、もう行かなくていいね」

 

「そうなんだ……」

 

「そちらは?」

 

と、ミス高町がこちらを見る。

 

フェイト、イイ男の体で紹介頼む。

 

「あ、彼は補佐のドア・ケリウス君。一週間くらい前に来たばっかりなんだ」

 

「初めまして、ドア・ケリウス三等空尉です」

 

オレは箸を置き、座りながら敬礼した。

 

「高町なのは一等空尉です。噂は兼がね、フェイトちゃんから聞いていますよ」

 

おおフェイト。さすがオレの上司。素晴らしい。

 

「それはそれは、さぞかしイイ男だと……」

 

「――何でも補佐として捕まえた犯罪者よりも、私事でお誘いした女性の人数の方が多い素晴らしい経歴をお持ちだとか」

 

「…………」

 

やってくれたな、金髪コラ。

 

オレはブリキのように首を動かし、静かにフェイトを睨んだ。

 

――まぁ、事実ではあるが。

 

しかし、こんな美人にいかがわしいイメージを植え付けられるのは、頂けない。

 

「いやいや、それはコミュニケーションの一環で……」

 

「へぇ~、それはフェイトちゃんも素晴らしい部下を持ったね~」

 

「…………」

 

絶えず、笑顔のエース様。

 

何だろう。イメージ以前に、明らかな敵意を感じる気が……

 

オレはいつもの口説き調子で話すのを止めた。なんか火傷しそうだ。

 

「……まぁそれよりも、オレは高町一等空尉を何と呼べばいいんですか?」

 

「お好きにどうぞ」

 

「……じゃあ、なのはちゃんで」

 

「フェイトちゃん。私、頭が痛くなっちゃった。何でかな? 耳からすごく不快な音波が入ってきて、頭が痛いな……」

 

「だ、大丈夫なのは?」

 

高町はわざとらしく額を抑え、フェイトに寄り掛かる。

 

何だこのサル芝居は?

 

「……じゃ、高町で」

 

「あ、頭痛が引いたかも……」

 

何なんだホントにさっきから?

 

凄まじく不快なのはこっちの方だ。

 

オレはうどんを高速ですすり、サンドイッチを無理矢理水で流し込む。

 

「それじゃ、仕事に戻ります」

 

「あ、仕事ならいいよ」

 

「何でだ?」

 

「今日は本当なら非番だから、午前中を仕事で潰してくれただけでも十分だよ」

 

それはそれは、知らなかったな。

 

「そうか。それはイイ事を聞いた」

 

オレは立ち上がり、トレーを持ち上げる。

 

「何時までに戻ればいい?」

 

「う~ん……7時かな」

 

つまり6時間弱はヒマを弄べるわけだ。

 

「わかった。それじゃ久々の休みを味わってくる。なぁに、少しそこらの女と一発しけこむだけさ。というわけで高町一等空尉。今日は一緒に……」

 

「お断りします」

 

即答だった。

 

顔を赤らめるくらいの反応は欲しかったが、伊達にエースやってない。

 

「そうか、それは残念だ。それじゃフェイト、7時には戻る」

 

「上司の友達に手を出そうとするロクデナシの部下なんて戻って来なくていいけどね」

 

「言ってくれるな、コラ」

 

オレはフェイトと高町を一瞥し、トレーをカウンターに戻した後、食堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

「――待ってくださいっ!!!」

 

「?」

 

局を出ようとした時、後ろから声をかけられた。

 

それが誰である事は、数分前の記憶から判断できた。

 

「……高町一等空尉」

 

「……なのはでいいです」

 

それはそれは、嬉しい限りだ。

 

しかし、不気味さは拭えない。

 

オレに敵意バリバリだったハズのエース様が、何の用だ?

 

「まさか、オレと一発しけこみたいとか……」

 

「違いますっ!!」

 

今度は顔を赤くしてくれた。うん、その方が愛嬌がある。

 

なのはは少し息を整えると、こちらを真っ直ぐ見てきた。

 

「――少し、お話があります」

 

「喜んで」

 

癖で即答してしまった。

 

まあ、いい。男なら断ってたが、女性からの呼び出しなら極力受けるのがオレ流だ。

 

 

なのはに連れていかれた先は、オレがいつもコーヒーを買う自販機のベンチだった。

 

そして連れて来るや否や、周囲を確認する。

 

「人に聞かれたくない話か?」

 

「はい、特にフェイトちゃんには」

 

その一言に、オレは緩んだツラを引き締めた。

 

そのワードが出たら、大体の想像がつく。

 

「実は……」

 

「クロノから聞いたのか?」

 

「えっ……!!?」

 

オレはなのはから言う前に、自分からけしかけた。

 

あまり、この話で手間取りたくない。

 

なのははやや俯き、キレの悪い話口で小さく呟いた。

 

「……はぃ」

 

「そうか」

 

クロノの野郎、喋りやがったな。

 

オレが犯罪者である事は、オレに取ってもクロノに取ってもマイナスな事実でしか無いはずだ。

 

……まぁ、それはどうだっていい。

 

しかしまぁ、これで何でなのはがオレに敵意があったのか、理解できた。

 

「不快だったろ」

 

「え?」

 

「人殺しのクズ野郎が、大切な友人の隣にいてさ」

 

「そ、そんな事……」

 

なのはは不意に言葉を切り、また俯く。

 

どうやら完全にそれを否定する気は無いらしい。

 

まぁ、それは当然か。

 

そんな生半可な正義で、今までエースの名を背負ってきた訳じゃないだろう。

 

オレは自販機の前に立ち、コーヒーを2本買った。

 

一つはなのはに渡し、一つは自分でプルを空けた。

 

「…………」

 

再三言うが、オレはこの手の話で手間取りたくない。

 

だから、オレはたった一言しか言わなかった。

 

「なぁに、簡単な話だ」

 

「え……?」

 

「もしオレがフェイトの隣にいるべき人間じゃないと判断した時ゃ、得意の収束砲をオレの背中にぶち込みゃいい」

 

まぁこの調子じゃ、直ぐにやられそうだがな。

 

 

「……にゃはは、そうですね」

 

その時、なのはは初めてオレに対して笑った。

 

「正直最初話を聞いた時は、不安で仕方なかったんです。フェイトちゃんにもしもの事があったらどうしようって……」

 

「そいつは君のせいじゃない。説明不足のバカ兄貴が悪い」

 

今度一回、本気でヤキ入れとく必要がありそうだ。

 

オレは腹で決意を固め、コーヒーを一口。

 

「でもドアさんって、イメージと違いました」

 

「そうか、じゃあ君から見たらオレはどんな人だ?」

 

「……いい加減だけど、いい人、かな?」

 

さすがだ。50点。

 

「いい人ではなく、イイ男と修正してくれ。そうすれば即座に満点だ」

 

「それなら私、一生満点には届かないですね」

 

「そんな事はない。フェイトならもう少しで満点いくぞ」

 

「……でもフェイトちゃん、ドアさんの事単なる給料泥棒って言ってましたよ」

 

「…………」

 

どうやら兄妹そろってヤキ入れとく必要がありそうだ。

 

フェイト相手はさすがに黒焦げにされそうだが。

 

「……まぁいい。それくらいの評価なら、贅沢はいうまい」

 

むしろ犯罪者にしては、上々だろう。

 

オレはコーヒーを飲み干し、ダストボックスに投げる。

 

今日は上手く入った。

 

「それじゃ、今日は休暇を楽しむ日なんだ」

 

「……はい、ありがとうございます」

 

なのははお辞儀をし、オレは敬礼をする。

 

「……そういやオレは、女性と話す時は硬っ苦しいの嫌なんだ」

 

「?」

 

「だからこれからは、敬語はナシだ。お互いに」

 

「……そうだね」

 

順応が早い。そういう子は好きだ。

 

「それじゃあ、いい日を」

 

オレは背中越しに手を振り、自販機を後にした。

 

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