魔法少女リリカルなのは -Crime seeker-   作:鹿丸

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ⅩⅢ Groovy

馬鹿でかい高層ビルが建ち並ぶクラナガンへは、執務室がある局からはバイクで30分弱かかる。

 

風を切る感覚って奴は、案外病み付きになる。

 

オレは6年ぶりのツーリングに熱が入り、通常より1時間かけてクラナガンへ到着した。

 

バイクを駐車スペースに停め、街を散策する。

 

クラナガンの町並みは、6年見ない内に随分変わったものだ。

 

高層ビルは急激に成長し、何より人が増えた。

 

それにちらほら見てると、デートスポットに最適なカフェやらブティックやらが一杯ある。

 

隣に女性がいれば今日の休日は最高だったが、仕方がない。

 

今日は、男の休日を楽しむとしよう。

 

オレは早速、ピンク通りへと入っていった。

 

おっと勘違いするなよ。別にヤラシイ店に入る訳ではない。

 

つかそんなモンが昼にやっている訳がない。

 

夜なら、まだ釣られたかも知れないがそれはともかく。

 

近道なのだ、ここは。

 

この先を行くと、オレの行きつけの店がある。

 

まだやっていればいいが。

 

オレはヤラシイ店が建ち並ぶ通りを抜け、ストリートへと出る。

 

そこの直ぐ側に、その店はあった。

 

 

「あったあった」

 

“CAPSULE BEAT”

 

そうデカデカとポップな字の看板が掲げられたその店は、行きつけの楽器屋だ。

 

オレがガキの頃から、ここには通っている。

 

オレは店が開いている事を確認し、戸を開ける。

 

中に入ると、いつものタバコのヤニ臭い匂いが漂ってきた。

 

店の中には、ギター、ベース、ドラムセット、ピアノ、教本やらが無造作に並び、年期の入った内装と言える。

 

「腐れニコ中、来てやったぞ」

 

オレは客一人いない店の中を、ズカズカと入っていく。

 

すると店の奥から、一人のロン毛野郎が出て来た。

 

「……よぉ、もう二度と会えないと思ったぜ。元死刑囚」

 

 

「それは奇遇だな。オレもだ、グラッツ」

 

タバコをくわえたそいつはキバミだらけのエプロンを着こなし、厭味な目つきでオレを見る。

 

この清潔感のカケラもないコイツの名は、グラッツ・ビル。

 

この楽器屋、CAPSULE BEATの店長だ。

 

店長と言っても、この店はこのニコチン野郎一人しかいないので、その肩書きも限りなく無意味だが。

 

グラッツとは、昔の飲み友達だ。

 

ギターの事について、よく聞きに来た。クロノとも面識がある。

 

「クロノから聞いたぜ。今、美人の姉ちゃんの補佐やってるってか。死刑囚から大出世じゃねぇか。羨ましいぜ」

 

「確かに美人には違いないが、羨ましがられるほどの環境でもないぜ」

 

オレは口を滑らせながら、6年ぶりの店内をしこたまよく見る。

 

やはり、まるで変わってない。年代物のブツばかりなのに、キッチリ手入れが行き届いている。

 

「置いてある連中も、まるで売られてねぇな」

 

オレはその中から一本アコギをチョイスし、近くの椅子に座って弦に触れる。

 

少し鳴らしてみると、やっぱり6年前から音の質は変わらない。

 

「そいつはついこないだネックを調整したばっかのやつだ」

 

「だろうな。しっくりくる」

 

オレは適当にコードを弾き鳴らし、指を馴らす。

 

「ところでだ。今日は何の用だ?」

 

不意にグラッツが煙とともにその台詞を吐いた。

 

「オレの相棒を取りに来た。まだあるだろうな」

 

「あ~……アレか……」

 

「オイ。まさか捨てたとか言うなよ」

 

「いや、あるにはあるぜ。だがしばらく触れてねぇから湿気でイカれてるかもしれんぞ」

 

「あるならいいや。出してくれ」

 

グラッツは返事をし、店の奥へ入っていった。

 

オレはアコギを戻し、今度はエレキベースを手に取った。

 

シールドを近くのアンプに差し込み、パワーを入れる。

 

音が入ったのを確認すると、オレは指で弦を引っかいた。

 

ボンッと低重音が響き、気分がすっ飛ぶ。

 

「あ~……久々だしな~」

 

オレは記憶を頼りに、ツーフィンガーでベースをブッ叩く。

 

やっぱり、ノリに乗れる。

 

しばらくすると、奥からグラッツがソフトケース片手に戻ってきた。

 

「ほれ。お望みのやつだ」

 

オレはケースを受け取り、チャックを開ける。

 

中から出て来たのは、黄色い木目のエレキギターだ。

 

「……久々だな、コイツも」

 

オレの自慢のレスポールだ。

 

「一応一年前に手入れはしてあるが、6年間ぶったたいてねぇから目ぇ覚ますかわかんねぇぞ」

 

「なぁに。コイツ次第さ」

 

オレはベースに刺してたシールドをレスポールに刺し、ピックアップをセンターに合わせる。

 

ピックケースからナイロン製のやつを取り、ストラップを肩に通し、立ち上がる。

 

「…………」

 

オレは躊躇いなく、レスポールを弾いた。

 

瞬間、破壊的なサウンドが店内を満たした。

 

「ッッ……」

 

オレは我を忘れそうになった。

 

6年構ってなかったってのに、容赦なしに暴れてくる。

 

オレは勢いに任せ、ピッキングのタッチを確認した。

 

やはり、素晴らしい。さすがオレの相棒。

 

「ははっ、どうやら機嫌いいみたいだな」

 

「ああ、最高だってよ」

 

それからオレは小1時間、レスポールを延々と弾きまくった。

 

グラッツのベースとジャムセッションしたり、二人で弾き語りなどして時間を流していた。

 

やがて3時近くになり、グラッツがようやく聞く。

 

 

「――なぁ、レスポールどうするんだ?」

 

グラッツは額に流れる汗を拭きながら、ウッドベースを鳴らす。

 

「ああ、執務室に送ってくれ。部屋で弾く」

 

「執務官の姉ちゃんにでも聴かせるのか? 妬かせるねぇ」

 

「いや。元々音楽の趣味が合わんからな、多分うるさいの一点張りだろうな」

 

前に、フェイトがお気に入りのシンガーの曲を聴かしてもらったが、どうにも良さがわからなかった。

 

オレにはわからんな、と言ったら妙に寂しい顔をされたのを鮮明に覚えている。

 

「ガッハッハっ!! うるさい、か。確かにな。お前のギターはやや暴れる味がある」

 

「へぃへぃ。じゃじゃ馬で悪ぅございました」

 

いいじゃないか。オレはロックが好きなんだ。

 

あの身体の芯ごとブルブル震わしてくれる、破壊的なサウンドが堪らない。

 

「まぁいいや。とにかくここの住所にちゃんとギター送っとけよ」

 

「おー。任された」

 

オレはさっき住所を書いた紙を指差しながら、立ち上がった。

 

「……なぁ、ドア」

 

「なんだ?」

 

「……これから死ぬってのは、どういう気分なんだ?」

 

「…………」

 

いきなり、何を聞くかと思えば……

 

「……死ぬなんて、たいした事じゃない」

 

「……そうか」

 

寂しそうな声だな。

 

「……けど、生きなきゃ許さないと言ってくれた奴がいるんだ」

 

「…………」

 

「案外コレ言われると、結構くるもんでな。死ぬ気なんざ吹っ飛んだぜ」

 

オレは髪を掻き乱し、肩越しに振り向く。

 

「だからオレは、今は生きる気満々だ」

 

「……そうか、ならいい」

 

そう言うと、グラッツはテーブルに置いてあった替えの弦をこっちに放り投げた。

 

「餞別だ。受け取れ」

 

「ありがたく」

 

オレは弦をポケットにしまい、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

しんみりとした雰囲気で店を出た事を、オレは軽く後悔していた。

 

今度、どんなツラであったらいいのかわからないからだ。

 

「あ~……めんどくせぇ……」

 

オレはベンチに座りながら、グラッツから内緒でくすねたタバコに火を付けていた。

 

執務官は禁煙だと再三言われてきたから、今更吸う気にはなれなかったが、今日は特別だ。

 

煙を肺に入れ、吐き出す。

 

6年ぶりというブランクがあるせいか、あまり美味く感じなかった。

 

オレは一回吸っただけのタバコを床に落とし、火を消した。

 

何をしようか迷っていると、遠くから聞き慣れないサウンドと歌声が流れてきた。

 

「?」

 

オレは気になり、音源に釣られて歩いてみる。

 

すると、だんだんと音の正体がわかってきた。

 

アコギのサウンドだ。

 

またしばらく歩くと、大通りの端でアコギを身体に下げて、弾き語りをやっている青年が見えた。

 

「ほぅ」

 

まさか、クラナガンにストリートがあったとは。

 

オレも昔は小銭稼ぎにやったものだ。

 

青年の周りには、幾人かの客が立ち聞きしている。

 

奏でられるサウンドは少々粗っぽさは残るものの、カントリーな曲調が心地良さを提供してくれるいい演奏だ。

 

うん、ずっと聴いていたい。

 

しばらく遠くで聴いていると、演奏が終わった。

 

オレはこのタイミングを見計らって、アコギをしまおうとしている青年に近づいた。

 

「いい曲だ」

 

「?」

 

青年はこちらを向き、首を傾げた。

 

「中々の演奏だったが、弦が若干ビビってたぜ。それなりに弾いてる音なだけに、少し目立った」

 

「あ、やっぱりそうですか……ちょっとネックが曲がってるんですよ、コレ」

 

そう言って青年はしまいかけていたアコギを見せた。

 

オレはそれを丁寧に受け取り、試しにアルペジオを弾いて見せた。

 

一つ一つを丁寧に弾いてみせるのが、アルペジオのキモだ。

 

「うわ、すご……」

 

青年は感心したように、オレの演奏を食い入るように見る。

 

「ストロークもいいが、アルペジオも情緒が出ていいぞ」

 

「はい、聴いてて気分が晴れるようでした」

 

中々、嬉しい事を言ってくれる。

 

ストリートのいいところは、直ぐに演奏者同士が打ち解けていける事だ。

 

「結構弾いてるんですね」

 

「ああ、10年になるな」

 

「僕はまだ3年です」

 

オレは内心たまげていた。3年で出来る安定感ではない。

 

「ならまだまだ上手くなれるな。プロを目指してるのか?」

 

「はいっ!!」

 

青年は爽やかな笑みを浮かべた。オレには一生できそうにない笑顔だ。

 

 

「そうか。今度はいつここで?」

 

「あ、ヒマな時はしょっちゅうここで弾いてます」

 

それなら、例え鬼の執務官がオレに地獄の仕事を課さない限り、また会う機会があるかもしれない。

 

「そっか。なら頑張れよ、若者」

 

「あ、ありがとうございますっ!!」

 

オレは青年の嬉しそうな笑みを見て満足したところで、踵を返した。

 

「あ、名前は?」

 

と、青年が名前を尋ねてきた。

 

「……ドアだ。ドア・ラファルト」

 

「ドアさんですね。僕はジャン・エイムスです」

 

オレは一瞬ケリウスを名乗ろうか迷ったが、止めた。

 

何故かこの夢見る青年に、偽る気が起きなかったのだ。

 

「ジャンか。また会おう」

 

「はいっ!!」

 

オレは今度こそ、踵を返した。

 

正直、本名を言ってしまった不安が残った。

 

 

しかし、それは図らずも杞憂に終わった。

 

 

なぜなら。

 

 

「――ガッ……!!?」

「?」

 

謎の刺突音が耳に障り、オレはふと振り向いた。

 

 

「――っ!!!?」

 

「ジャカジャカ、さっきからウルサイね」

 

目の前でさっきまで夢見る瞳をしていたジャンの左胸から、血が滴る腕が出ていた。

 

否、出ていたじゃない。

 

突き出ていた、だ。

 

腕は引き抜かれ、胸から大量の血が流れ、ジャンは道路に倒れる。

 

「……ジャン?」

 

呆然とするオレは、ふと“そいつ”を見た。

 

 

そいつは背後からジャンを刺した腕の血を拭きながら、ため息をついた。

 

「全く、耳障りでショウガナイよ」

 

 

――その時、突然起きた惨状を見た通行人が悲鳴を上げた。

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