魔法少女リリカルなのは -Crime seeker-   作:鹿丸

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ⅩⅣ Groovy2

そいつは、一言で言えば甲冑騎士だった。

 

ただ騎士とは違い、ガッチガチの黒い甲冑で全身を固め、趣味の悪いヘルムで顔を隠している。

 

そして何より気味が悪いのは、その口調だ。

 

ネタネタのスライムを思わせる粘着質な語り口は、全身が拒絶するくらい不快に感じる。

 

「…………」

 

ただ1番不思議なのは、冷静でいられている自分だ。

 

目の前で殺人紛いの惨状が起きているというのに、頭の中は驚くほどクリアだった。

 

そいつは自分が刺したジャンを一瞥すると、こちらを向く。

 

「――さテ……」

 

ゾクっとした。

 

そいつの目は、まるで深く切り取られたかのように深淵な闇だったからだ。

 

そう感じた途端、そいつは空を飛んだ。

 

「――っ!!?」

 

――魔導師かっ!!

 

直ぐにオレは既に虫の息で横たわるジャンに駆け寄り、抱き起こす。

 

「……ぁ……ドァ……さ……」

 

「喋るな。息だけをしろ」

 

どうやら運よく、心臓の直撃は免れたようだ。もし心臓を突かれてたら、オレの名を呼ぶ余裕すらない。

 

だが、危険な状態である事も確かだ。

 

オレは通信機をたたき起こし、エマージェンシーを送る。

 

「オイ、緊急事態だ局のノロマ共。今すぐ医療班を寄越せ」

 

オレはそれだけを早口で言うと、通信機を放り、道路付近で怯えている野次馬共も手招きする。

 

「オイそこのリーマン。コイツを頼む。局のバカ共が来たら、そこに転がっている通信機を渡してくれ」

 

オレはアタフタとしている中年のリーマンの肩を叩くと、ヤツが飛び去った空を見上げた。

 

瞬間、オレはバリアジャケットを纏い、クラナガンの空を飛んでいた。

 

「…………」

 

オレは遠慮無しに今出せる最高速で風を切る。

 

クラナガンの高層ビルが流れる景色を横目で見ながら、ヨロイ野郎を捜す。

 

数十秒キョロキョロしていると、空を飛ぶ甲冑を見つけた。

 

どうやら、余り飛行は得意でないようだ。

 

それを確認するとオレは減速し、小回りが効かせられる速度に保った。

 

ヤツの反応を見るためだ。

 

ヤツはオレに気づくと、スピードを上げた。

 

振り切るつもりか?

 

残念だが、そいつは無理だ。

 

なんせこちとら毎日金色の閃光様と仕事をしてるんだ。

 

ついていける程度のスピードがなきゃ、話にならない。

 

オレはスピードを上げ、甲冑野郎に着いていく。

 

ヤツは蛇の様にウネウネとビル群を抜けていく。

 

――どこに行く気だ?

 

クラナガンを出るつもりなら、こんな複雑なルートは通らない。

 

スピードで勝てないとわかって、オレを撒こうってか?

 

オレは負けじと甲冑野郎に着いていく。

 

すると、ヤツは一つの廃ビルの窓を割り、中に入っていった。

 

どうやらヤツは、逃げるのを諦めたらしい。

 

オレはそれに続き、廃ビルに入っていく。

 

地面に足を付け、デバイスを起動させた。

 

「起きろ、ストレイジ。ウィルネス」

 

両手にデバイスが収まる感覚を確かめると、オレは廃ビルの中を歩きだした。

 

どうやらここは元は立体駐車場だったようだ。消えそうな白線があちこちに見える。

 

壁はかなり崩壊し、剥きだしのパイプがやたらめったら生えている。

 

ヤンキー共がたまるには絶好のスポットだ。オレならば連れと一緒に来て、鍋パーティーでも開いているだろう。

 

しばらく歩いていると、ヤツが見えた。

 

余裕ぶってるのか、ブロックに腰かけている。

 

「よぉ、ヤンキーちゃん。ココは今日からオレの縄張りだぜ、陰キャラ野郎」

 

「……来たカ」

 

ヤツは立ち上がり、その不気味な瞳をこちらに向ける。

 

「……さぁて、お前をスコスコにボコる前に、まずいくつか聞きたいな」

 

「……なんダ、管理局のイヌが」

 

「犬ッ……て、オイ」

 

給料泥棒やら、ロクデナシやらいろいろ言われては来たが、犬と言われたのははじ……

 

いや、待てよ。

 

今コイツ、“管理局の”って言わなかったか?

 

まさか、コイツ。

 

「……ずっと、オレをつけてたのか?」

 

「…………」

 

沈黙の肯定である。

 

「てことは、最初からオレをここに誘い出す為に……」

 

「アタリだ、ドア・ケリウス」

 

「……わざわざ名前まで調べてくれるたぁ」

 

偽名である事がまだ救いだ。

 

下手に真実を知られても、つまらない。

 

 

「……お前、何者だ?」

 

「――我等は、再生団《リプロード》」

 

半ば予想していたワードが出て来た。

 

オレが犯罪者連中に怨みを買うと言えば、リプロード絡みしかない。

 

「世界と時空の再生ヲ志す、王に集いし一団ダ」

 

「――リプロードのメンバーか」

 

思わぬ所で核心に触れたものだ。

 

ココでこのヨロイを引っ捕らえれば、重要な証拠となる。クロノ辺りは大喜びだ。

 

「……じゃあ、何故オレを狙った? お前らを調べてる連中なんざ、局にはごまんといるはずだ」

 

腑に落ちない事はコレだ。

 

何故リプロードのメンバーが、まだ捜査に参加したばかりのオレを狙うのか。

 

「――簡単なコトダ。お前は我等の秘密をミタ」

 

「秘密?」

 

名簿の事か?

 

それならもう今更だ。既に内容はクロノに渡っている。

 

「まぁ、それはいいが……最後に一つ」

 

オレはデバイスを握る手に力を込めた。

 

 

「――なんで、ジャンを刺した?」

 

「……ジャン?」

 

「ギター弾いてた奴だ。オレを狙ってたんなら、オレだけを狙えばよかったはずだ」

 

自然と、口調が高ぶる。

 

それと同時に、思考もクリアになる。

 

「そんなモノ、決まっている」

 

 

ヤツは甲冑の上から頭をかき、当然のように言い放った。

 

 

「――耳障りだったカラ。それだけダ」

 

 

「…………」

 

 

どうやら、思考がクリアになっていたという表現は、間違っていたようだ。

 

クリアになったんじゃない。

 

クリアな怒りで一杯になってたんだ。

 

それこそ純粋な、濁りの無い怒り。

 

それを自覚した途端、オレは真っ直ぐ突っ走っていた。

 

ウィルネスを叩き込み、一秒遅れでストレイジを一突き。

 

手応えは……なかった。

 

「…………」

 

「終わりカ?」

 

そいつは右手でストレイジの刃先を、左手でウィルネスの刀身を軽々と掴んでいた。

 

「……オイオイ、今の結構本気だったんだぜ?」

 

「そうカ。それは悪かっタ」

 

オレは距離を取り、構え直す。

 

コイツ、強い。

 

殺す気で斬ったつもりだったが、まるで相手にされなかった。

 

「サテ……ではサッソク」

 

ヤツは懐から、何かを取り出す。

 

「……マジかよ」

 

 

オレは瞬時に背を向け、走った。

 

途端、背後からタップライターのような音。

 

しかし音ともに放たれたのは、凄まじい量の銃弾だった。

 

 

イングラムM10。

 

小型のサブマシンガンで、片手で扱える大きさの裏腹に、32発の弾倉をたかだか1.5秒で空にしてしまうその火力は誰もが鳥肌が立つ。

 

オレは銃弾の雨を横っ飛びで回避し、息を立て直す。

 

冗談ではない。

 

あんな弾丸のシャワー、浴びれば一瞬でオレの身体は風通しがよくなる。

 

「クッソ……」

 

オレはヤツとは違う方向に駆け出した。

 

なぁに、逃げるわけではない。

 

タイミングを見計らうのだ。

 

ヤツのイングラムも弾が切れる、タイミングを。

 

しかし。

 

「ミツケタ」

 

「っ!!?」

 

走った先に、そいつが先回りしていた。

 

当然、イングラムはこちらに向けられている。

 

オレはまた横に飛び、飛来する銃弾を避ける。

 

剣と銃では、ハナっから勝負にならない。

 

オレは走りながら念話を飛ばした。

 

 

相手は……クロノだ。

 

 

「おい、クソ兄貴。聞け」

 

《なんだ急に? 用件は?》

 

余裕だなオイ。今すぐに立場を代わってやりたい。

 

「一度しか言わない。能力限定の二段階目を解除しろ」

 

《急に何を言い出すんだ?》

 

「いいからしろ。もしやってくれればお前の事を一週間神と崇めてやる」

 

《……なんか、安っぽそうだな》

 

「いいから、頼むぞ」

 

オレは一方的に言い放ち、念話を切った。

 

信用してくれたかどうかは危ういが、まあそこは賭けだ。死んだら化けて出てやるまでだ。

 

しかし、その間にも。

 

「……ッぐぁッ!!」

 

右ふくらはぎに熱が帯びたかと思うと、一気に激痛が上ってくる。

 

どうやら弾が右足を掠ったようだ。

 

オレは痛みを引きずりながら、逃げつづけた。

 

今のままでは、勝ち目はない。

 

クロノを信用するしかないのだ。

 

その時、オレは階段を見つけた。

 

少し考えたが、ここは上に昇った。

 

足に堪えたが、歯を食いしばる。

 

「ハァ……ハァ……」

 

オレは血の流れる右足に鞭を打ち、立体駐車場を走る。

 

このまま、時間稼ぎができれば……

 

 

「ムダダ」

 

しかし、再び背後から銃弾の雨。

 

今度は、まともに避けられなかった。

 

「ぐぁッ!!!」

 

銃弾が肩やら腕やらに食い込み、貫通していく。

 

オレは勢いに負け、床に引きずられた。

 

デバイスだけは、離さなかった。

 

「ハァ……ハァ……」

 

「終わりダ」

 

かろうじて目をやると、ヤツはイングラムのマガジンを換えながら、近づいてくる。

 

どうやら余程確実にオレを殺っときたいらしい。

 

全く、人気者はホントに辛い。

 

ヤツはイングラムを構え、断罪の一言を放った。

 

 

「――シネ」

 

 

瞬間、窓から入ってきた桃色の魔力光がヤツに直撃した。

 

「っ!!?」

 

ヤツは吹っ飛び、崩れかけた壁にたたき付けられる。

 

「…………へへ」

 

どうやら、援軍らしい。

 

それも、とびっきり優秀な。

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

クラナガンの空。

 

そこには、白を基調としたバリアジャケットを着た、一人の魔導師。

 

「……気絶したかな?」

 

《I don't understand.》

 

栗色の髪の、サイドポニー。

 

機械的な音声を発する、インテリジェント・デバイス。

 

「そうだね……油断はしないよ、レイジングハート」

 

《All right!!》

 

 

――それは、管理局のエースの凱旋だった。

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