魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
そいつは、一言で言えば甲冑騎士だった。
ただ騎士とは違い、ガッチガチの黒い甲冑で全身を固め、趣味の悪いヘルムで顔を隠している。
そして何より気味が悪いのは、その口調だ。
ネタネタのスライムを思わせる粘着質な語り口は、全身が拒絶するくらい不快に感じる。
「…………」
ただ1番不思議なのは、冷静でいられている自分だ。
目の前で殺人紛いの惨状が起きているというのに、頭の中は驚くほどクリアだった。
そいつは自分が刺したジャンを一瞥すると、こちらを向く。
「――さテ……」
ゾクっとした。
そいつの目は、まるで深く切り取られたかのように深淵な闇だったからだ。
そう感じた途端、そいつは空を飛んだ。
「――っ!!?」
――魔導師かっ!!
直ぐにオレは既に虫の息で横たわるジャンに駆け寄り、抱き起こす。
「……ぁ……ドァ……さ……」
「喋るな。息だけをしろ」
どうやら運よく、心臓の直撃は免れたようだ。もし心臓を突かれてたら、オレの名を呼ぶ余裕すらない。
だが、危険な状態である事も確かだ。
オレは通信機をたたき起こし、エマージェンシーを送る。
「オイ、緊急事態だ局のノロマ共。今すぐ医療班を寄越せ」
オレはそれだけを早口で言うと、通信機を放り、道路付近で怯えている野次馬共も手招きする。
「オイそこのリーマン。コイツを頼む。局のバカ共が来たら、そこに転がっている通信機を渡してくれ」
オレはアタフタとしている中年のリーマンの肩を叩くと、ヤツが飛び去った空を見上げた。
瞬間、オレはバリアジャケットを纏い、クラナガンの空を飛んでいた。
「…………」
オレは遠慮無しに今出せる最高速で風を切る。
クラナガンの高層ビルが流れる景色を横目で見ながら、ヨロイ野郎を捜す。
数十秒キョロキョロしていると、空を飛ぶ甲冑を見つけた。
どうやら、余り飛行は得意でないようだ。
それを確認するとオレは減速し、小回りが効かせられる速度に保った。
ヤツの反応を見るためだ。
ヤツはオレに気づくと、スピードを上げた。
振り切るつもりか?
残念だが、そいつは無理だ。
なんせこちとら毎日金色の閃光様と仕事をしてるんだ。
ついていける程度のスピードがなきゃ、話にならない。
オレはスピードを上げ、甲冑野郎に着いていく。
ヤツは蛇の様にウネウネとビル群を抜けていく。
――どこに行く気だ?
クラナガンを出るつもりなら、こんな複雑なルートは通らない。
スピードで勝てないとわかって、オレを撒こうってか?
オレは負けじと甲冑野郎に着いていく。
すると、ヤツは一つの廃ビルの窓を割り、中に入っていった。
どうやらヤツは、逃げるのを諦めたらしい。
オレはそれに続き、廃ビルに入っていく。
地面に足を付け、デバイスを起動させた。
「起きろ、ストレイジ。ウィルネス」
両手にデバイスが収まる感覚を確かめると、オレは廃ビルの中を歩きだした。
どうやらここは元は立体駐車場だったようだ。消えそうな白線があちこちに見える。
壁はかなり崩壊し、剥きだしのパイプがやたらめったら生えている。
ヤンキー共がたまるには絶好のスポットだ。オレならば連れと一緒に来て、鍋パーティーでも開いているだろう。
しばらく歩いていると、ヤツが見えた。
余裕ぶってるのか、ブロックに腰かけている。
「よぉ、ヤンキーちゃん。ココは今日からオレの縄張りだぜ、陰キャラ野郎」
「……来たカ」
ヤツは立ち上がり、その不気味な瞳をこちらに向ける。
「……さぁて、お前をスコスコにボコる前に、まずいくつか聞きたいな」
「……なんダ、管理局のイヌが」
「犬ッ……て、オイ」
給料泥棒やら、ロクデナシやらいろいろ言われては来たが、犬と言われたのははじ……
いや、待てよ。
今コイツ、“管理局の”って言わなかったか?
まさか、コイツ。
「……ずっと、オレをつけてたのか?」
「…………」
沈黙の肯定である。
「てことは、最初からオレをここに誘い出す為に……」
「アタリだ、ドア・ケリウス」
「……わざわざ名前まで調べてくれるたぁ」
偽名である事がまだ救いだ。
下手に真実を知られても、つまらない。
「……お前、何者だ?」
「――我等は、再生団《リプロード》」
半ば予想していたワードが出て来た。
オレが犯罪者連中に怨みを買うと言えば、リプロード絡みしかない。
「世界と時空の再生ヲ志す、王に集いし一団ダ」
「――リプロードのメンバーか」
思わぬ所で核心に触れたものだ。
ココでこのヨロイを引っ捕らえれば、重要な証拠となる。クロノ辺りは大喜びだ。
「……じゃあ、何故オレを狙った? お前らを調べてる連中なんざ、局にはごまんといるはずだ」
腑に落ちない事はコレだ。
何故リプロードのメンバーが、まだ捜査に参加したばかりのオレを狙うのか。
「――簡単なコトダ。お前は我等の秘密をミタ」
「秘密?」
名簿の事か?
それならもう今更だ。既に内容はクロノに渡っている。
「まぁ、それはいいが……最後に一つ」
オレはデバイスを握る手に力を込めた。
「――なんで、ジャンを刺した?」
「……ジャン?」
「ギター弾いてた奴だ。オレを狙ってたんなら、オレだけを狙えばよかったはずだ」
自然と、口調が高ぶる。
それと同時に、思考もクリアになる。
「そんなモノ、決まっている」
ヤツは甲冑の上から頭をかき、当然のように言い放った。
「――耳障りだったカラ。それだけダ」
「…………」
どうやら、思考がクリアになっていたという表現は、間違っていたようだ。
クリアになったんじゃない。
クリアな怒りで一杯になってたんだ。
それこそ純粋な、濁りの無い怒り。
それを自覚した途端、オレは真っ直ぐ突っ走っていた。
ウィルネスを叩き込み、一秒遅れでストレイジを一突き。
手応えは……なかった。
「…………」
「終わりカ?」
そいつは右手でストレイジの刃先を、左手でウィルネスの刀身を軽々と掴んでいた。
「……オイオイ、今の結構本気だったんだぜ?」
「そうカ。それは悪かっタ」
オレは距離を取り、構え直す。
コイツ、強い。
殺す気で斬ったつもりだったが、まるで相手にされなかった。
「サテ……ではサッソク」
ヤツは懐から、何かを取り出す。
「……マジかよ」
オレは瞬時に背を向け、走った。
途端、背後からタップライターのような音。
しかし音ともに放たれたのは、凄まじい量の銃弾だった。
イングラムM10。
小型のサブマシンガンで、片手で扱える大きさの裏腹に、32発の弾倉をたかだか1.5秒で空にしてしまうその火力は誰もが鳥肌が立つ。
オレは銃弾の雨を横っ飛びで回避し、息を立て直す。
冗談ではない。
あんな弾丸のシャワー、浴びれば一瞬でオレの身体は風通しがよくなる。
「クッソ……」
オレはヤツとは違う方向に駆け出した。
なぁに、逃げるわけではない。
タイミングを見計らうのだ。
ヤツのイングラムも弾が切れる、タイミングを。
しかし。
「ミツケタ」
「っ!!?」
走った先に、そいつが先回りしていた。
当然、イングラムはこちらに向けられている。
オレはまた横に飛び、飛来する銃弾を避ける。
剣と銃では、ハナっから勝負にならない。
オレは走りながら念話を飛ばした。
相手は……クロノだ。
「おい、クソ兄貴。聞け」
《なんだ急に? 用件は?》
余裕だなオイ。今すぐに立場を代わってやりたい。
「一度しか言わない。能力限定の二段階目を解除しろ」
《急に何を言い出すんだ?》
「いいからしろ。もしやってくれればお前の事を一週間神と崇めてやる」
《……なんか、安っぽそうだな》
「いいから、頼むぞ」
オレは一方的に言い放ち、念話を切った。
信用してくれたかどうかは危ういが、まあそこは賭けだ。死んだら化けて出てやるまでだ。
しかし、その間にも。
「……ッぐぁッ!!」
右ふくらはぎに熱が帯びたかと思うと、一気に激痛が上ってくる。
どうやら弾が右足を掠ったようだ。
オレは痛みを引きずりながら、逃げつづけた。
今のままでは、勝ち目はない。
クロノを信用するしかないのだ。
その時、オレは階段を見つけた。
少し考えたが、ここは上に昇った。
足に堪えたが、歯を食いしばる。
「ハァ……ハァ……」
オレは血の流れる右足に鞭を打ち、立体駐車場を走る。
このまま、時間稼ぎができれば……
「ムダダ」
しかし、再び背後から銃弾の雨。
今度は、まともに避けられなかった。
「ぐぁッ!!!」
銃弾が肩やら腕やらに食い込み、貫通していく。
オレは勢いに負け、床に引きずられた。
デバイスだけは、離さなかった。
「ハァ……ハァ……」
「終わりダ」
かろうじて目をやると、ヤツはイングラムのマガジンを換えながら、近づいてくる。
どうやら余程確実にオレを殺っときたいらしい。
全く、人気者はホントに辛い。
ヤツはイングラムを構え、断罪の一言を放った。
「――シネ」
瞬間、窓から入ってきた桃色の魔力光がヤツに直撃した。
「っ!!?」
ヤツは吹っ飛び、崩れかけた壁にたたき付けられる。
「…………へへ」
どうやら、援軍らしい。
それも、とびっきり優秀な。
★☆★
クラナガンの空。
そこには、白を基調としたバリアジャケットを着た、一人の魔導師。
「……気絶したかな?」
《I don't understand.》
栗色の髪の、サイドポニー。
機械的な音声を発する、インテリジェント・デバイス。
「そうだね……油断はしないよ、レイジングハート」
《All right!!》
――それは、管理局のエースの凱旋だった。