魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
「……ウィルネス、“2ndモード”」
オレは掲げたウィルネスをヤツに突きだし、右手のストレイジは待機状態に戻した。
こっちの方が、速く動ける。
「――イグナイトモードっ!!」
起動した瞬間、ウィルネスの刀身に僅かな薄緑の魔力光が宿った。
オレは両手で構える。
「……特に変わった事はナイようダガ?」
「直ぐにわかる」
ジリッと足を滑らし、踏み込みの準備をする。
「…………」
「…………」
一歩。
「グハッ!!?」
飛び上がる、鮮血。
そしてまた、一歩。
「ガッ!!?」
オレは高速で動き、剣を振るう。
そして一歩踏み込むごとにヤツとすれ違い、斬撃を加えていく。
(は、早過ギルっ!!!)
ヤツは斬られた傷を確かめながら、オレを捕らえようとする。
だが、それは無理だ。
オレはまた更に、ウィルネスを振るう。
そして再び、ハッキリした手応え。
「ぐぅッ!!」
オレは一旦減速し、床に急ブレーキをかける。
「キサマ……なんだそのスピードハっ!!?」
ヤツは初めて、声を荒げた。ざまあみろだ。
「……簡単な話だ。ウィルネスの2ndモードは、オレのスピードを特化する。ストレイジが“力の剣”ならば……」
オレはウィルネスを掲げた。
「ウィルネスは“疾さの剣”だ」
「……フッ」
ヤツは短く笑い、ボロボロの身体をひきづる。
「ソイツはまた、面倒ダナ」
「そうだろう」
オレは再び踏み込んだ。
ヤツは必死に反応しようとするが、
「遅い」
オレはウィルネスを振り抜き、ヤツの残り一本の腕を斬り落とした。
ガチャリと腕は床に落ち、既に鉄臭いこの場に更に鮮血が流れる。
「――勝負アリだ」
★☆★
一方、クラナガンの空。
「左っ!!」
「うん」
フェイトからの指示を受け、左に旋回するなのは。
前方からは、やたらめったらに直射魔法をぶっ放すメルク。
「それぇっ!!」
「くっ……!!」
以上な数の弾幕に、フェイトはビルを使って姿をくらました。
(あんなにたくさんの砲撃……なのに魔力が尽きないなんて)
さっきから反撃のチャンスをなのはと一緒に狙ってはいるが、放たれる砲撃が収まる気配がないのだ。
もしかしたら、無尽蔵に魔力を生成する何かが……
「フェイトちゃんっ!!」
「?」
突然呼ばれ、反応するフェイト。
何かと思い右を振り向くと。
「――ッ!!?」
砲撃が――曲がったっ!!
撃たれた緑の直射魔法が、なんと孤を描いてこちらに向かってきたのだ。
フェイトは直ぐさまバリアを張るが、やや遅い。
「あぁッ!!」
バリアごと砲撃に圧され、無理矢理彼方へと飛ばされる。
(まさか……あんな複雑な制御までできるなんて……!!)
もはや、子供にできる攻撃ではない。
フェイトは姿勢を取り直し、メルクの姿を確認する。
「アッハッハ~、当たった当たった♪」
幼い歓喜を振り撒きながら、ポイズンシードをこちらに構える。
――もう、相手が子供だの何だの言ってられない。
「なのはっ!!」
「――うんっ!!」
二人は一斉に空を駆け出した。
複雑な滑空を見せ、メルクの視野を撹乱する。
「それぇっ!!」
バスターを撃ちまくるが、それを上手くかわす。
「サンダーレイジーッ!!!」
「ディバインバスターッ!!!」
フェイトから雷光が放たれ、その直ぐ後ろから桜色の魔力が直射される。
「む~」
メルクは小さな右手を突きだし、バリアを張る。
しかし……
「あれ?」
二人の放った攻撃は、そんなチャチなバリアでは防げなかった。
メルクはバリアごと吹っ飛び、空中で数回回転した後、無造作にポイズンシードを構える。
「痛いな、もうっ!!!」
乱射される、砲撃。
しかしフェイトとなのははそれを難無くかわす。
「当たれ~っ!!!」
メルクは一気に勝負を詰めるため、数秒チャージをかけた後、集束砲を放った。
バカデカイまがまがしい緑が、クラナガンの空に走る。
「だりゃあ~~っ!!!」
メルクは集束砲をバーストしたまま回転し、周囲を薙ぎ払う。
「…………やったかな?」
メルクはようやく砲撃を止め、肩から息を崩す。
しかしそれは、油断に繋がった。
「ディバイン・バスターっ!!!」
「ッ!!?」
背後から迫る桜色の砲撃に、やや反応が遅れた。
回避行動を取るが、間に合わない。
メルクはディバインバスターをモロに食らい、一瞬息が出来なくなる位の衝撃を受けた。
「カッ……!!」
メルクの小さな身体は撃ち上げられ、ビルの壁にたたき付けられた。
「……大丈夫かな?」
レイジングハートを構えるなのはは、少しだけ不安の表情を浮かべた。
敵とはいえ、彼はどう見たって年端もいかない子供なのだ。無理もない。
「非殺傷設定なら気絶するだけだよ」
隣に並ぶフェイトが諭すように言った。
「うん、だけど……」
気持ちはわからないでもない、しかし相手は明らかにデバイスを物理破壊設定にしていたのだ。
子供だからと油断すれば、負けるだけではすまないのだ。
「……ねぇ、ドアは?」
「あ、まだ戦ってるかもっ!!」
なのはは今気づいたように、口元に手を当てる。
ドアの実力は確かだが、こんなデタラメな子供も連れてる奴らだ。
早く援護に行かなければ……!!
「それじゃ、なのははあの子を連れていって。私はドアのところに……」
「――痛いなぁ」
その瞬間、子供の低い声が重く響いた。
「ッ!!?」
フェイトとなのはは弾かれたようにデバイスを構える。
「痛くて、痛くて……泣きそうだよ」
吹っ飛ばしたビルの先から、メルクがデバイスを握りながらゆっくりとこちらへ迫る。
「お姉ちゃん達……せっかく粉々にしてあげよーとしたのに……」
その時、メルクは俯かせていた顔を上げた。
――その目は、もう無邪気な子供のものでは無かった。
「……ッ」
まるで深淵なる闇を間近で見てるような感覚に、二人の背筋が凍る。
「もーいいや、お姉ちゃん達……」
メルクはポイズンシードのトリガーを二回短く引き、天に掲げた。
「――おふたり仲良く毒殺してあげるから★」
瞬間、ポイズンシードが可変した。
大仰なバズーカ式から、徐々にコンパクトなシルエットが見えて来る。
「…………フェイトちゃん」
「うん、わかってる」
やがて可変が終了し、メルクはそれを両手で構えた。
「――2ndモード、ミクスチャーモード」
――可変されたポイズンシードの概要は、一言で言えばライフル銃だった。
そしてメルクのバリアジャケットは、白衣のようなそれに変わっている。
「もうお姉ちゃん達、ダメだよ」
「?」
メルクはライフル銃と化したポイズンシードのスコープを覗きながら、言い放つ。
「――直ぐに、もがき苦しむ“激痛”<ペイン>をあげるから」
☆★☆
「調合師、だぁ?」
「アア、そうダ」
廃ビル、元立体駐車場。
オレはそこで身体についた血を落としていた。
もう自分な血なのか、ヤツの血なのかわからない位の量だったから、拭くのにかなり苦労したがな。
「メルクは魔力ヲ様々な薬品に換えらレル、非常に特異ナ変換資質の持ち主ダ」
ヤツは今、腕の無い状態で壁に寄り掛かっている。
両腕を斬り落とされ、戦意を喪失しているようだ。
「こと毒殺にかケテ、ヤツに敵うモノはイナイ」
「…………」
毒殺、か。
それは確かにやっかいそうだな。
大丈夫か、なのは?
☆★☆
「しゅーと★」
メルクはライフルのトリガーを絞り、ニードル状の弾丸を射出した。
「ッ!!!」
なのはは回避を取ろうとしたが、肩に違和感を感じた。
――放たれたニードルが、バリアジャケットを貫通して肩に刺さっていたのだ。
(――速いっ!!!)
フェイトは戦慄した。
弾速が、ケタ違いに上がっている。
「何、コレ……?」
なのはは刺さったニードルを抜こうとするが、どれだけ力を加えても抜けない。
「――早く抜いた方がいいよ」
メルクは他人事のように呟く。
「それ、中に入ってるの塩酸だから」
「ッ!!?」
瞬間、なのはの肩から肉の焼ける黒煙が立ち上る。
そして遅れてくる、激痛。
「あ、ああああああああッ!!!」
「なのはっ!!!」
急に隣で苦しみ出したなのはに、フェイトは駆け寄る。
「い、痛いッ……フェイト、ちゃ……」
「なのはっ!!」
フェイトは直ぐさま、肩に刺さっているニードルに手をかけ、力任せに引っこ抜いた。
引っこ抜いたニードルからは薬品が滴り、それを直ぐに捨てる。
「なのは、大丈夫っ!!?」
「……うん、なんとか……あぁッ!!!」
再び、肩を抑えながら激痛に苦しむなのは。
「――このッ!!」
フェイトは振り向き、勢い様にプラズマスマッシャーを放つ。
しかしそんな雷速の攻撃を、メルクは難無くよける。
(――2ndモードを起動してから、身体能力も上がっている……)
フェイトはなのはを抱え、とにかく距離を取った。
自分でさえ見えなかった毒の弾丸を、とにかく回避しなくてはならない。
「……しょーがないな~」
メルクはスコープを覗き、高速移動をするフェイトに向けて撃つ。
「しゅーと★」
ニードルは正確に真っすぐ進み、フェイトの頬を掠る。
「ッ!!!」
驚く程精密な射撃に、フェイトは更にスピードを上げる。
「フェイト、ちゃん……?」
「なのは、待ってね。直ぐに医療班のところへ……」
しかしなのはは、フェイトの腕を掴んだ。
「……なのは?」
「いいよフェイトちゃん。直ぐに、反撃しなきゃ……」
「何言ってるのなのはっ!!!」
そんななのはに対し、フェイトは力強く激励した。
「そんな無茶ばっかりして、なのははいつもだよっ!!!」
「……フェイトちゃん」
もうなのはの身体はJS事件の時の無理が祟り、見えなくともそのツケは身体に蓄積されているハズなのだ。
そしてそれはいつ、なのはから魔法という力を奪ってもおかしくはない程に……
「もう、あんな目には合わせないっ!! 私が、絶対にっ!!!」
力強く言うと、フェイトは更にスピードを上げた。
自然となのはを抱える腕に力が篭る。
「……見つけた」
フェイトは地上で待機している医療班の車両をみつけた。
「なのは、直ぐに連れて……」
刹那。
「ッ!!?」
フェイトは、足に違和感を覚えた。
それは奇しくも、なのはが感じたものと同じ違和感。
「…………ほぅら」
――フェイトの足に、ニードルがヒットしていた。
「――逃がさないよ♪」
スコープを覗くメルクの目は、これ以上ない程に爛々と輝いていた。