魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
最初は、小さなアタリだった。
指で弾く位の、小さな衝撃。
でもそれが及ぼすものは、決して小さなものではなく……
「――くぅ、ああっ!!!」
――足を焼き切る程の、激痛をもたらした。
「フェイトちゃんっ!!」
「足がッ……!!」
フェイトは痛みにバランスをやられ、飛行に安定が無くなる。
このままではマズイと思い、塩酸で焼けそうな足を抱えながら、フェイトは医療班の元へ降り立った。
「くぅッ……誰か……」
「大丈夫ですかっ!!?」
車両から、医療班のスタッフが何人で駆け寄ってくる。
「誰か……なのはを……」
フェイトは抱えていたなのはを医療班に渡し、自身はようやく一息ついた。
しかし、休んでもられない。
「大丈夫ですかっ!!?」
「酷いな……濃塩酸を撃ち込むなんて……」
「鎮痛剤を……ストレッチャーを早くっ!!!」
医療班のスタッフがテキパキとなのはを運び込む準備をしている中、フェイトは再び、空へ飛び立とうとする。
「待って下さい、あなたも足がっ!!」
そんな中、医療班の若い男性スタッフがフェイトに近寄る。
しかし、フェイトは。
「大丈夫です。これくらい……」
「しかし、血が……」
フェイトはスタッフが止めるのも聞かず、痛みをこらえながら飛んだ。
男性スタッフは信じられないような表情をしていた。
――なのははもう、十分無茶をした。
今度は、自分が無茶をする番だっ……!!
そんな思いを腹に沈め、フェイトはザンバーフォームのバルディッシュを構える。
向こうが遠距離で仕留めてくるならば、こっちは近距離だ。
一気に距離を詰めて、捕縛するっ!!
すると瞬間、フェイトの頬を何かが掠めた。
「っ!!?」
掠めた傷から血が流れ、フェイトは右に飛ぶ。
しかし、それに合わせてニードルが撃たれる。
おそらく塩酸が混入した弾丸――
まともに当たれば、それだけで致命傷だ。
だが、対処が無い訳ではない。
「ッ!!?」
旋回した直後、フェイトの右肩にニードルがヒットする。
「このッ……」
フェイトは直ぐさまニードルを引っ掴み、力任せに引っこ抜いた。
「ぐぅッ……!!」
引っこ抜いた先から、血が腕にかけて滴る。
自分も一度足に食らったからわかるが、ニードルがヒットして塩酸が流し込まれる迄に、数秒のタイムラグがある。
なら塩酸が流し込まれる前に、ニードルを無理矢理にでも引き抜いてしまえばいい。
フェイトは引き抜いたニードルを握り込み、加速した。
「……右っ!!」
右から迫るニードルを、フェイトは旋回してかわす。
「……当たんないな~」
メルクはレバーを引き、カートリッジを装填する。
「なら、これなら~♪」
鼻歌混じりにスコープをフェイトに合わせ、引き金を引く。
「どうだっ!!?」
メルクが叫んだ瞬間、銃口から連続でニードルが射出された。
「カートリッジ――やっぱりベルカ式……」
なら、たった今一時的に機能が上昇したはずだ。
フェイトは動きながら、構える。
しかし。
「……ッ!!?」
警戒した矢先、左肩にニードルがヒットした。
フェイトは直ぐさま抜こうとするが……
「――なッ!!!」
同時に、右太ももと左腕にも衝撃が走った。
見ると、数本のニードルが刺さっている。
(まさか、弾速が更にっ……!!)
フェイトは肩に刺さったニードルを引き抜いた後、直ぐに他のニードルも抜くが、如何せん量が多い。
数秒のタイムラグが過ぎ、焼け付く痛みが走った。
「ぐぅ、ぁぁ……この……っ!!」
フェイトはようやく全てのニードルを抜き終えるが、流し込まれた塩酸は全身に至る。
焼け付く激痛を堪えながら、フェイトは一度ビル群に姿をくらませた。
「ハァ……ハァ……」
痛い。
まるで全身に、焼印を押されているようだ。
ドアの口ぶりで言うなら正しくこうだろう。まるで全身に焼け付くような熱い視線を食らっているようだ、と。
全く、どうしたらそんな皮肉が言えるのか一度聞いてみたいくらいだ。
……と、それはともかく。
「ハァ……どうしよう……ハァ……」
状況で言えば、久々のピンチだ。
全身に塩酸を撃たれ、今の状態ではマトモに戦闘も出来ない。
接近戦に持ち込めればわからないだろうが、それ以前に“おかしなこと”がある。
あの子供の、生命力だ。
確かにあの時、なんらかの不注意であの子供の首にバルディッシュの刃が食い込み、細い頸動脈が切れたはずなのだ。
それにも関わらず、あの子供は平然と血を流したまま、戦っている。
その生命力なら、なのはの砲撃を受けてもびくともしない理由もわかるが……
そんな敵相手に、非殺傷設定の攻撃が通用するのだろうか?
「……リミットブレイク、かなぁ……」
フェイトの選択肢に浮かぶ、一つの道。
それは、フェイト自身のリミットブレイク、真・ソニックフォーム。
アレの為す限界スピードを駆使すれば、背後を取って攻撃する事はたやすいだろう。
しかし、それは身体に巨大な負荷を負う事を意味する。
こんなダメージを受けた状態でリミットブレイクを行えば、後でどんな目に遭うかわからないのだ。
「……でも、もうそれしか」
「みーつけた」
「ッ!!?」
突然右からかけられた声に、反応するフェイト。
そこには、ライフルを構えたメルクが。
まさか、居場所がバレたっ!!?
そう頭に過ぎらせた瞬間、腹にニードルが刺さる。
「ッ!!?」
急いで抜くが、突然の不意打ちからか薬品が僅かに流れ込んだ。
フェイトは激痛を覚悟した。
しかし、一向に来ない。
「?」
「あ~……今撃ったヤツね~、塩酸じゃないから」
塩酸じゃ……ない?
その台詞を聞いた直後、フェイトはようやく自分の身体に異変が起きている事を自覚した。
「ッ……何……コレ?」
目の前が歪み、バランスが取れない。
気持ちが悪い。吐き気がする。
フェイトの顔は一気に青ざめ、吐き気を堪えるように口元に手を当てる。
「それね~頭をグチャグチャにしちゃう神経毒なんだ~。今スッゴく気分悪いでしょ?」
そんなメルクの言葉でさえ、今のフェイトでは聞き取りづらかった。
――頭が割れるようだ。
フェイトは流れる脂汗を拭わず、拙い手でバルディッシュを構える。
「……そんな少量でここまで効果があるなら実験は成功だね♪ さ~て、次は……」
メルクは新たにカートリッジを入れ、装填する。
「新作の神経毒。こっちは致死性だよ★」
スコープをフェイトの額に合わせ、引き金に指をかける。
ダメだ。銃口を向けられているのに、反応が出来ない。
「――それじゃお姉ちゃん。さよなら♪」
殺られる。
フェイトは思わず、目をつむった。
「…………」
しかし、一向に衝撃はこない。
それとも五感がやられる位に、毒が回ったのだろうか?
フェイトは瞼を開き、赤い瞳をあらわにする。
すると……
「ッ!!?」
その光景は、正に決定的瞬間だった。
――なんせそのタイミング、メルクが背後から差し出された足に蹴りを食らっている瞬間だったからだ。
フェイトは、そのルビーのような瞳を見張った。
メルクはビルにたたき付けられ、やや唸り声を上げる。
そして蹴った奴は頭を掻きながら、怠そうな表情で飄々と言いのけた。
「……随分とボロボロだなオイ。まさか君がショタの気があるなんて、兄になんて報告すりゃいいんだ?」
「違うからっ!!」
まともに思考できない頭でも、それくらいの反論は出来たらしい。
――拙い視界に映るそいつは、フェイトのよく知るロクデナシの部下だった。
☆★☆
「……違うのか?」
「そうだよっ!!」
まぁ元気に反論してくる。
せっかく助けてやっと言うのに、礼の一つも無いらしい。
「まぁいい。そんな事よりも、なのはは?」
「……い、医療班で手当、を……」
瞬間、フェイトはふらついた。
そういえばさっきから飛行が覚束ない。
「そうか、ならベッドは隣同士だな」
オレはウィルネスを肩に乗せ、フェイトの手を引いた。
「え……?」
「オレの魅力もわからない位に頭がイカレてんなら、さっさと医療班の所に行けって話だ」
「そ、そんなの……まだ……」
「強情だなオイ。いいからさっさと」
刹那、首に違和感が走った。
「?」
オレはフェイトの手を離し、首に触れる。
何かが首に刺さっているようだ。
「何だコレ?」
「――ッ!!?」
オレはふとフェイトを見ると、メチャクチャ青ざめた表情をしていた。
「……フェイト?」
次の瞬間、フェイトはオレに飛び掛かった。
「ッ!!? ちょ、オイっ!!」
フェイトはオレの首に刺さったニードルを引き抜き、首に痛みが走る。
「痛ッ!!」
「そんな……毒がっ!!!」
フェイトは引き抜いたニードルを仇を睨むような目で見る。
「毒だぁ?」
オレはニードルが飛んできた方向を見る。
するとそこには、オレが蹴り飛ばしたはずのガキがライフルを構えてニタニタ笑っていた。
「当たった当たった~っ!!!」
「……お前か」
「お兄ちゃんそれ、致死性の猛毒だよ★ ヒットしたら最後、心臓は二度と動かなくなっちゃうよ♪」
「そんなッ……」
フェイトは悲痛を食らった顔をする。
「……猛毒ねぇ」
オレはフェイトの手からニードルを取り上げた。
「? ドア……?」
「心配いらねぇよ」
オレの台詞に、フェイトは豆鉄砲を食らった顔をする。
ホントに、コイツは色んな表情をしてくれるから面白い。
「――オレに、毒は効かねぇから」
「え?」
「オイ、クソガキ」
オレは奴……確かメルクとか言ったか?
メルクに振り向いた。
「……アレ~? おっかしいな~? 失敗しちゃったかな~」
メルクは首を傾げながら、また引き金を絞った。
射出される、ニードル。
オレはそれを、首を動かして避けた。
「……よくもウチの上司を泣かしたなコラ」
まぁ実際には泣いてないだろうが。
刹那、オレは真っすぐメルクに向かって飛んだ。
「ッ!!? この、この、このっ!!!」
慌てたように引き金を引きまくり、ニードルを撃つ。
オレはそれを全身に浴びるが、まるでダメージはない。
だって、オレに毒は効かない。
“そういう身体”だからだ。
オレは一気に距離を詰めると、メルクのライフルを蹴り上げ、顔面を掴んだ。
「むぐッ!!」
じたばた暴れるメルクを羽交い締めにする。
「オイクソガキ、昼寝の時間だ」
オレは握り込んでいた致死性猛毒入りのニードルをつまみ、メルクの首筋を狙いをつけた。
「――さっさと悪い子はオヤスミしやがれ、ベイビー」
そしてオレはニードルを一気にメルクの首に刺し込んだ。
瞬間、流れる猛毒。
「――ギャアアアアアアアアアアァァァァーーーーッ!!!」
メルクは目を剥き、甲高く醜い悲鳴を上げた。
全く、見た目の割にはエグイ悲鳴だ。
オレはメルクを蹴り飛ばし、壁にたたき付けた。
「どうだ、自分で作った毒の味は?」
「グゥウウ、アアアァァァァッ!!!」
「その様子じゃ、味見してねぇみたいだな。料理の基本だぜ、味見は」
「クソォ……ヨクモ……アア……」
メルクは今まででは想像できないほど怒りに満ちた表情をした。
全く、だからガキは嫌いなんだ。
メルクはオレを血走った目で睨むと、背を向けた。
「クソ……ジグの奴、負けやがって……覚えて、ろよっ!!!」
そして一目散に逃げようとした。
「ッ!! 追い掛けなきゃ……」
フェイトは直ぐに追跡しようとするが、まだ毒が残留しているのかスピードが出ない。
オレはそんなフェイトに肩を貸してやる。全く、世話のかかる上司だ。
「無理するのは感心しないな」
「じゃあドアが追い掛けてよ」
「無理だ。スピードが出ん」
実際、ヤツとの戦いで至るところを撃たれているのだ。
魔力に問題は無いが、スピードを出せば筋肉が堪えられない。
「どうしよう……追い掛けれないなんて」
「追い掛ける必要はないだろ。ここからあのガキを落とせばいい」
メルクも毒を受けてか、あまりスピードが出てない。
今ならたやすく落とせる。
「どうやって? 私はこんなだし、ドアだって射撃は苦手だし……」
フェイトは息を整えながら言った。
そうだ、確かに射撃は苦手だ。
だが、フェイトは一つ勘違いをしてる。
「確かにこんなイケてるオレでも射撃は苦手だ」
「寝言は聞きたくないよ」
「ああ、だが寝言かどうかは、この台詞を聞いてからにしてくれ。さぁ言うぞ」
オレは一度フェイトを肩から降ろし、ウィルネスとストレイジを握った。
「――オレがいつ、“オレに遠距離攻撃はない”と言った?」
「……え?」
フェイトは再び、豆鉄砲を食らったような顔をした。
さて、じゃ見せようか。
フロートクロスアーツ流の、射撃を。
オレはウィルネスとストレイジのカートリッジを一発ずつロードした。
この技はカートリッジの使用と、リミッター二段階解除が前提になる。
魔力が剣に宿り、オレは二刀を肩の後ろの方まで構えた。
「――?」
フェイトには、これから何がおきるのか想像がつかないのだろう。
そんなフェイトを傍目に、オレは“狙い”を定めた。
ターゲットは、あのクソガキ。
オレは両腕に力を込め、全身から無駄な力を抜く。
「――飛べ」
そして、一気に両の剣を縦に振るった。
「――牙蓮砲ッ!!!」
刹那、両剣の刃先から凄まじい突風が起きた。
否、突風ではない。
飛ぶ“斬撃”だ。
オレが起こした魔力光を帯びた斬撃は空を走り、真っすぐメルクに向かう。
「――?」
メルクは背後から向かってくる風圧に気づくが、もう遅い。
振り向いた時には、斬撃はメルクに直撃していた。
「ッ――!!?」
一瞬、メルクには何が起きたか良くわからなかっただろう。
だが、この視点からならよく見える。
斬撃はメルクに直撃すると竜巻のような形になり、その小さな身体を斬り裂いた。
メルクは身体から血を吹き出し、クラナガンの空からビルの屋上に落ちた。
「……ふぅ」
オレはウィルネスとストレイジを待機状態に戻し、やっと一息ついた。
「――疲れた、な……」
オレは空中で横たわり、器用にその場にとどまる。
「――ビックリしちゃった」
フェイトはようやくその可愛らしい口を開いた。
「そうか、じゃあオレの代わりに通信で言っといてくれ。敵を捕縛して連行してくれってな」
「もう、私頭ガンガンしてるんだよ……」
「そうぼやくな。オレには大事な仕事があるんだ」
オレは身体を起こし、首の骨を鳴らした。
「ふぅん……どんな?」
フェイトは呆れたような顔で聞く。
オレはフェイトに向き合い、手を差し出した。
「――頭ガンガンしてる上司を医療班までエスコート、と言った所か」
「…………」
――瞬間、フェイトは直ぐに顔を背けた。
さて、どんな表情をしているのか見てやりたかったが、オレは止めた。
その前に、フェイトが口を開いたからだ。
「――じゃあ、お願い」
「喜んで」
オレは即答すると、差し出したフェイトの手を掴んだ。
素直な反応だ。
――そんな女を、オレは嫌いではない。