魔法少女リリカルなのは -Crime seeker-   作:鹿丸

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ⅩⅧ Mass×magic

鼻が利くとは正にこの事だ、とオレは思う。

 

オレがエマージェンシーを送ってから一時間しない間に、クロノの艦隊がクラナガンの空を覆いやがったのだ。

 

確かに再生団《リプロード》を追っている立場としては、オレらが今回捕まえた二人のメンバーはクロノにとっては重要な参考人となる。

 

だから管理局の管轄外の人間に取られる前に、どうしてもクロノ自身で身柄を抑えたかったらしい。

 

まぁそんな事は知ったこっちゃない。

 

おかげで連中をテキパキと拘束でき、面倒な報告書はほとんどクロノの管轄でやってくれるらしいから、完全に厄介虫という訳ではない。

 

クロノは医療班からなのはを受け取り、オレやフェイトからも話を聞くためにオレ達を艦に上げた。

 

「痛だだだだだだッ!!!」

 

「我慢してくださいっ!!」

 

その艦の医務室……そこでオレは大の大人らしからぬ情けない悲鳴を上げていた。

 

医務室の主、シャマル医務官はオレの身体を見るや否や、直ぐさまベッドに倒し、無理矢理治療を始めやがったのだ。

 

シャマル医務官は機動六課時代に訓練で生傷が絶えないフォワードメンバーを影から支えた功労者らしいが、それはともかく。

 

オレのデリケートな肌に針をぶっ刺し、麻酔もまだ中途半端にしか効いてない状態で銃創を縫っていく。

 

しばらくオレの悲鳴が続き、ようやく終わるとシャマルは治療に使った道具を片し始めた。

 

「もう、無茶ですよ。こんなに身体が穴だらけなのに戦うなんて……」

 

「穴だらけ? おいおい目を凝らして周りを見てみな。身体中が溶けかかってんのに戦ったバカもいんだぞ」

 

「あうぅ……」

 

隣のベッドで身体中に包帯を巻かれたフェイトが顔を俯かせる。

 

医務室に運ばれ、この中で一番ダメージが酷かったのは間違いなくフェイトだ。

 

シャマルも顔を青くしながら治療していたのをよく覚えている。

 

「どうやら機動六課の連中ってのは、聞き分けのないじゃじゃ馬だらけみたいだな」

 

「あうぅ……ぅぅ……」

 

言い返せない様子のフェイトの隣でにゃははと笑うなのははふと肩に触れる。

 

なのはのダメージは比較的軽いが、やはり過去に蓄積された疲労やダメージは根っこに溜まり続けているようだ。

 

オレはベッドに身を沈め、天井を眺める。

 

「……まぁいいや。無茶したってのはお互い様だし……」

 

「……ごめんね、ドア」

 

おっと、珍しく我が上司の心が弱っている。

 

「詫びる気持ちがありゃ十分だ。それを身体で表現してくれ」

 

「……ドアが言うと途端にイヤらしく聞こえるよ」

 

「おっと、見かけによらず大人だな。夜はクマがいなきゃ寝れなさそうなナリなのに」

 

フェイトはムッとした顔をしてオレに枕を投げてきた。

 

「こ、こう見えてちゃんと女性としての部分は大人だよっ!!」

 

フェイトは顔を赤くしながら、そのデカイ胸を張る。

 

「ああ、わかってるよ」

 

オレは適当にはぐらかし、目を閉じた。

 

その時、医務室の自動ドアが機械的な音を立てて開いた。

 

「治療は終わったのか?」

 

どうやら神様が来たようだ。

 

「うん、大丈夫だよクロノくん」

 

「そうか、今回ばかりは心配したぞ……特にドア」

 

クロノはオレが寝てるベッドに近づき、側の椅子に腰を落ち着ける。

 

「どうだ、リミッター二段階目を解除した感想は?」

 

「それは神からの啓示か? 随分器の小さな神もいたもんだ」

 

「フェイト。君の部下の口がひん曲がっているようだ。僕がレンチを使って直してやろうか?」

 

「――簡単には直らないと思うなぁ」

 

「良くわかってらっしゃる、ウチの上司は」

 

「君が言うなよ、君が」

 

クロノは眉間を抑えながら唸る。

 

「……まぁいい。それより聞きたい事がある」

 

「――連中の事か?」

 

「ああ」

 

だろうな。単に見舞いだけに来るほど、コイツは要領が悪くない。

 

「その前に、そっちが得た情報を聞きたい」

 

「そんなに大した事は得てないぞ。奴ら、尋問にも人一倍耐えてるからな」

 

そりゃあ、両腕斬り落とされても声色一つ変えない奴らだ。たかだか言葉責めで口を割るとは思えない。

 

「ただお前が腕を切り落としたヤツの名前はジグ・レイン。リプロードの構成員で、名簿に載っていたメンバーのようだ」

 

「メルクの方は?」

 

「同じく、主要メンバーの一人だ」

 

「あんな子供が……」

 

なのはは信じられないような表情で口元を押さえる。

 

「ヴィヴィオと同い年位だったもんね……」

 

「ヴィヴィオ?」

 

聞かない名に、オレはフェイトの方を向いた。

 

「なのはの子供だよ」

 

「……へへぇ」

 

「おいドア。今絶対に良からぬ事を想像してただろ?」

 

勘のいいクロノが口を挟む。

 

「いやいや、まさかエース様が既婚者だとは思わな……」

 

「違うよ、養子」

 

「養子? 何だ、つまらん……」

 

オレは舌打ち混じりにため息をついた。

 

管理局の若きエース様も、やることはきっちりやってるかと思ったが……

 

「それよりも連中の話だ。ドア、奴らに心当たりは?」

 

「これっぽっちも無いな」

 

オレは指で僅かな隙間を作ってやる。

 

「なら連中の力量はどれだけだ? それで組織の戦力を計りたいのだが」

 

なるほど、一理ある。

 

「そうだね……メルクの方は魔力値が年の割に異常じゃないかな」

 

「扱ってるデバイスもベルカ式で、中~遠距離型の魔導師……完全には言い切れないけど、ヴィータと同じレベルだと思う」

 

「そうか……」

 

確かに毒の変換資質に、それに通じる博識な知識。

 

それらを子供にして兼揃えている点は、正に天才だろう。

 

「にしては、フェイトもなのはも二人揃ってやられてたじゃねぇか」

 

「クラナガンの真上でフルパワーの魔力を使えば、さすがに被害無しって訳にはいかないよ。あの時は70%が精一杯だったし……」

 

なるほど、あんなガキ相手に管理局のトップクラス魔導師がやられていた理由がわかった。

 

「ジグの方はどうだ、ドア?」

 

「…………」

 

オレは瞼を半分閉じ、口元に手をかざす。

 

「……正直、わかんねぇ」

 

「何を言っている。ヤツと直に戦ったのはお前だろ」

 

そう、確かにオレはジグと戦った。

 

だが、その戦いにはおかしな点がいくつもあったのだ。

 

「……あの時、ヤツはオレと戦ってる前半は質量兵器――イングラムで攻めてきてた」

 

「その傷を見ればわかる」

 

「だがなのはの砲撃でイングラムが使い物にならなくなった後半で、ヤツは素手で戦ってやがった」

 

そう、つまりジグは――

 

 

「――ジグは、一度もデバイスを使ってねぇんだよ」

 

「えっ……?」

 

その場にいるみんなの表情から感情が引いていく。

 

ジグは空戦魔導師でありながら、その魔導師の要であるデバイスを一度も使ってなかった。

 

まさかデバイスを家に忘れた訳ではないだろう。

 

「それにジグは、オレがメルクと戦っている最中にも微動だにしなかった」

 

オレはメルクと戦っている最中、片時も意識をヤツから離してはいなかったが、ジグは逃げるそぶりすらしなかった。

 

「まるで、管理局に捕まる為に戦ってたような……」

 

「…………」

 

「それ以前に、連中の並外れた生命力も気になる」

 

頸動脈を切られようが、両腕が飛ぼうが平気でいられる連中の精神と生命力はどう見たって異常だ。

 

普通に考えて、連中は人間ではない。

 

「ヤツらが何者なのか……それ以前にリプロードが何なのか……」

 

「もっと、調べる必要があるね……」

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

数十分後、医務室に別のヤツが来た。

 

「失礼しますっ!!」

 

元気よく敬礼してスタスタと入ってきたのは、数日前オレと一緒に危うく海の藻屑になりかけた監査隊副隊長のフレイム・バッシュだ。

 

「お疲れ様です、提督」

 

「ああ、楽にしてくれ」

 

クロノがそういうとフレイムは直立姿勢をやや崩す。

 

「久しぶりだな、フレイム」

 

「あ、お久しぶりです、ドアさん」

 

オレとフレイムはあれからちょくちょく電話などを入れて話をする関係になっていた。

 

音楽の趣味も合うので、仲良くさせてもらっている。

 

「ドアの知り合い?」

 

「ああ、オレの良き舎弟だ」

 

フェイトが聞いてくるので、オレはそう答えた。まぁ間違ってはないだろう。

 

「それでフレイム、どうした?」

 

「あ、隊長からご報告ですっ!!」

 

「ケルビンからか?」

 

「はい。参考人のジグ・レインから重要な情報を聞き出した、との事です」

 

それはいい報告だ。

 

しかしオレはそれと同時に嫌な悪寒も感じていた。

 

あの陰キャラ野郎が、たかだか数時間で口を割るとは思えなかったからだ。

 

「それで、ヤツは何と言った?」

 

クロノはやや興奮気味になりながら、フレイムの報告を聞き入れた。

 

「はい。どうやらリプロードの連中、質量と魔法の融合兵器の完成が目的らしいんです」

 

「質量と魔法の融合兵器?」

 

「はい。何でもそれでクーデターを狙うとか何とか……それらしい事を証言してました」

 

「……ふむ」

 

質量と魔法の融合兵器、か。

 

それならリプロードが質量兵器を大量に密輸してた理由も、わからなくはない。

 

大方、実験に使う試作品のベースに使うのだろう。

 

「報告は以上か?」

 

「大方は。後、不可解な言葉を……」

 

「不可解な言葉?」

 

「はい。確か、“13年前の遺産”がどうとか……」

 

13年前の遺産。

 

その言葉が出た瞬間、なのは達は顔を強張らせた。

 

「13年前って、確か……」

 

「……ああ、あの事件だ」

 

クロノが搾り出すようにそれを言った後、フェイトが低く呟いた。

 

「……プレシア母さんの……」

 

「…………」

 

何か思い詰めたその表情は、いつものフェイトらしからぬ顔だった。

 

プレシア・テスタロッサ。

 

魔導師の間では知らない者はいない、歴史に残る大魔導師だ。

 

それと、ヤツらが……?

 

「まさか、それと何か関係が……」

 

「そんなはずはない。あの事件は、とうに終わっている。我々が見落としている事など……」

 

クロノはそう断言するが、オレの中で何かが引っ掛かっていた。

 

連中の言う“13年前の遺産”がもし、プレシア・テスタロッサと関係しているとしたら……

 

恐らく、“あいつら”もこの事件に繋がる。

 

いや、繋がってしまう。

 

「…………」

 

「ドア、どうしたの? 考え事?」

 

隣からフェイトが不安げに聞いてくる。

 

どうやら普段のオレとは違うツラをしてたようだ。

 

「いや、何でもない」

 

「……嘘だ、そんな顔してる」

 

「嘘じゃない。オレは元々こんなツラだ」

 

それきりオレはベッドに潜り込む、何も考えてないようにした。

 

それと同時に、オレの中にある決意が沸いた。

 

もし本当にリプロードの連中がプレシア・テスタロッサとの事件に関連があるとしたら……

 

 

――もう、ダラダラとしてられない。

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

 

それから二三報告を聞き、フレイムは医務室から退室した。

 

そのタイミングでオレはクロノを外に連れだし、医務室を出た。

 

さすがに怪我人を長時間外に出すのはいただけないということで時間制限をつけられたが、まぁいい。直ぐに終わる。

 

オレは艦の中のレストルームのフカフカソファに腰掛けた。

 

「話とは、何だ?」

 

クロノは先程買ったコーヒーに口をつける。

 

「……オレの身の上話だ」

 

「つまらなさそうだな」

 

「まぁ聞け。面白いから」

 

オレだけが、と心の中で付け加え、オレは続けた。

 

 

「――オレがフェイトの補佐になってから、もう十日くらい経つな」

 

「そうだな。お前にしてはよく耐えてる」

 

余計な一言だが、否定できない。

 

「いや何、それなりに楽しませてもらってるよ。何せ美人揃いの六課メンバーと知り合いになれたんだ。感謝してるよ」

 

「素直に受け取れないがな」

 

「それでな、そんなクソが付くほど楽しいとこにいるとよ……たまに忘れるんだ」

 

「何をだ?」

 

 

「――自分が、人殺しのクズ野郎って事をだよ」

 

オレは眉間を押さえる。

 

前々から感じていたが、オレはあの空間にいるには不釣り合い過ぎる。

 

なんせフェイトもなのはも、恐ろしく優しいんだからな。

 

こんな血に汚れたクズにも、それと同じように接してくれる。

 

あいつらは本当に、優しい。

 

まぁ恥ずかしいこんな事、クールなキャラの手前誰にも言えないがな。

 

 

「――この事件が解決したら、オレは監獄に戻る」

 

「…………」

 

クロノは答えず、オレは続ける。

 

「ただその前に、やっとかなきゃならん事があるのに、今さっき気づいたんだ」

 

ここからが、本題だ。

 

「もしリプロードの連中がプレシア・テスタロッサの事件に関わっているのなら、連中はいつか必ず、“あいつら”に近づく」

 

それは近い将来、必ず起きる。

 

「だからその前に、“あいつら”とフェイトを会わせてやりたいんだ」

 

だから、オレにはそれを止めなきゃならん義務がある。

 

その義務を抱えたまま死ぬ事は、許されない。

 

「……いいのか」

 

クロノは組んでいた足を組み直す。

 

「何がだ?」

 

「フェイトはもう既にあの事件にキリをつけている。そんな事をして、何の意味がある?」

 

「…………ハァ」

 

オレは力無くため息をついた。

 

「たくよぉ……お前それでも兄貴かオイ?」

 

「?」

 

「もし心の中でキリがついてたらな……」

 

オレはフェイトの思い詰めた表情を思い出した。

 

「……あんなツラ、できる訳ねぇ」

 

不安と後悔を抱えたままキリをつけられるなら、人間は悩まない。

 

人間は悩むから、不安や後悔と戦うんだ。

 

「……そうか。そうだな」

 

クロノは空になった紙コップを握り潰し、立ち上がった。

 

「君がそうしたければ、そうしてくれ。だがな、二つだけ言わせてくれ」

 

クロノはこちらを向き、ハッキリと言う。

 

「一つは、君を監獄には戻さない。もう一つは、例えどんな結果になろうとも……」

 

「…………」

 

 

「――フェイトを泣かす事だけは、許さないからな」

 

それだけを言い、クロノは早足でレストルームを出た。

 

「…………ふぅ」

 

オレはソファにもたれかかり、天井を仰いだ。

 

「――あったりまえだっつの……オレを誰だと思っている」

 

女神すら惚れる宇宙一イイ男、ドア・ラファルトだぞ。

 

――たった一人の女幸せにするくらい、訳はない。

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