魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
某日。
この日は、とても寒かった。
まあそれも当然だろう。
ここは管理局が手綱を持つ世界、第マイナス13管理世界。プラットプリズム。
通称、“世界の監獄”だ。
このマイナスのレッテルを張られた世界というのは、大抵公外が憚られる特異な世界となる。
この第マイナス13管理世界も、その特異な条件下から、普段は人一人寄り付く事はない。
早い話が、“刑務所”なのだ。この世界は。主に保護観察処分という受け皿から漏れてしまった罪人が行き着く最終終着駅。
世界中……いや、様々な次元から集められた凶悪な次元犯罪者がこのプラットプリズムに収容される。
それは魔法を用いた恐喝や詐欺など小さな罪から、強盗や殺人など重い罪。
更には国に仇なす重罪人や反乱軍を率いていた革命家などケタの外れた罪人等、その質はピンキリだ。
その規模は年々拡大され、今では管理局にある意味無くてはならない世界となっていた。
――そんな世界に、ある一人の提督が現れた。
「彼は?」
「はい、地下154階の方に」
「わかった」
その男は目の前の厳重そうなエレベーターに乗り、高速で動く鉄の箱に身を任せた。
中にはその提督と、二人の職員がいる。
いずれの職員も、その眼差しには冷酷な冷たさしか宿していない。
「どうですか、彼は?」
「いつも通りですよ。死刑囚だからか、振る舞いが異常ですね」
「相変わらず、か……」
その若い提督はフッと笑い、その瞬間エレベーターは目的地に着いた。
エレベーターを降り、職員に案内された先は、面会室だった。
「面会時間は30分までです。なおデバイス等の武器はあらかじめこちらに……」
「わかってるよ。何回目だと思っている?」
その提督はデバイスを職員に預け、躊躇なしにドアノブに手をかけた。
「再三言いますが、これからあなたが面会される相手は魔力ランクオーバーSかつ、A級次元犯罪者の死刑囚です。くれぐれも刺激なさらずに……」
「…………忠告、感謝する」
職員の言葉を聞き流し、提督は扉を開けた。
「…………」
部屋の内装は一言で言うなら、白だ。
真っ白な壁、床、天井、テーブル、椅子。
無機質かつ暗がりを引き連れた、壊れたおもちゃ箱のような部屋。
――そしてその中心でふてくされながら座る真っ白な囚人服に、真っ白な髪をしたその男。
「久しぶりだね、ドア・ラファルト」
「……クロノか」
そう言い、ドアと呼ばれた男は皮肉めいた表情を浮かべながらクロノを見る。
その手には、手錠。
首には、四重にネックレス型のリミッターがかけられていた。
クロノは向かいの椅子に礼儀よく座り、ドアを見る。
その表情から、精神の乱れは見えなさそうだ。
「君がここに収容されてから、もう6年か……」
「おかげさまで、な」
「まぁそう捻くれるな。君の刑の執行を遅延させているのは僕なんだ。礼の一つの言い方くらい覚えたらどうだ?」
「あいにく、こちとら会話なんて何時ぶりか忘れちまってね。礼どころか、女の口説き方も頭から抜け落ちそうだよ」
「結構。元気そうだ」
クロノは懐から資料らしき紙を取りだし、テーブルに散らかす。
「ラブレターならお断りだぜ。俺にんな趣味は無い」
「心配するな、僕にも無い」
クロノの額にやや青筋が浮かぶ。
「――君の罪状は研究員53名の大量虐殺、殺人未遂、公務執行妨害等、計21の罪が課せられている」
「…………」
ドアはつまらなそうに話を聞く。
「この事から裁判の結果、君は死刑……獄中でひっそりと首を吊るということだな」
「人の傷口ほじくってそんなに楽しいか? 変わったなクロノちゃんよぉ」
「話は最後まで聞け」
クロノは資料の一枚を取り出し、ドアに放った。
ドアは受け取り、いぶしげに目で読み取る。
「……何だこりゃ?」
「ここ6年で起こったトップニュースだよ。君は外の事情は完全に無知だからな」
「ああ、お前の姓感帯なら知ってるけどな」
表情をひきつらせたクロノを無視し、ドアは情報を読み込んでいく。
「はは……ついにスカリエッティがパクられたか……」
「機動六課には世話になったよ」
「アイツどこにいんだ? まさかココ?」
「規則なんでね」
「あっそ」
さほど興味が無いのか、ドアは資料をテーブルに置く。
「……で? 結局お前はなんの用でここに来たんだ?」
「30分がリミットでね。手短に話す」
クロノは手を組み、ハッキリした口調で言った。
「……その前に二つ確認だ。一つは君の生きる意思を確認したい」
「…………どういうこった?」
ドアは怪訝そうに返す。
「簡単な話だ。生きたいか、生きたくないかを答えてくればいい。もし生きたいと答えたのならば、話を進めよう」
「…………」
ドアはやや考えた……いや、“考えたふり”をした後に答えた。
「どっちでもいいや」
「…………」
「こんなとこにブチ込まれた時点で、意思もクソもねぇよ。」
「…………」
「ただこういう考え方はできる。お前が今からする話によって俺が得すると判断できりゃ、場合によっては生きて得したいと考える。論外ならいうまでもねぇよ」
「……わかったよ。野暮だったね」
クロノは半ば納得しかけ、頭を掻く。
「もう一つだが……」
「…………」
「君が前に言った“あの話”……信じていいんだな?」
それを言った瞬間、ドアの表情に僅かな反応が見られた。
「……どういう風の吹きまわしだ?」
「再確認だよ。まだ誰にもこの事は言っていない。僕も独自で調べたが、ロクな情報すら入ってこない今では、君が嘘を言っている可能性すらあるからね」
「嘘、ね……」
ドアは天井を仰ぎ、息を吐く。
「……信じてくれたぁ言わねぇよ。もともとそっちの世界じゃ“ありえない話”だからな」
「…………」
「だからそれについても、お前に任せるよ」
「わかった」
クロノはようやく話を切り出した。
「……では話だが、単刀直入に言おう」
とんでもない、話を。
「――君は、釈放だ」
―ドアの皮肉めいた表情が、この日初めて崩れた。