魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
オレはクロノに話をつけた後、シャマルに決められた時間通りに医務室のベッドに入っていった。
生暖かい自分の温もりを感じつつ目を閉じると睡魔が襲ってきたので、オレはおとなしく白旗を上げて睡魔に降伏してやった。
しばらく眠っていると、不意に目が覚めた。
働かない頭を引きずり、ベッドの隣の備え付けの時計を見た。
モニターには23:24。
どうやら完全に起きる時間と寝る時間を擦れ違えたらしい。
二度寝する気力もなく、オレは身体を上げた。
周りには保健室でよく見られる白いカーテンが張られていて、隣で寝ているであろう上司の姿が見えない。
こんなカーテン一枚の境界では心許ないとは思うが、オレにそんな趣味はない。
まぁ尤も、S+ランク魔導師に対してアレコレいかがわしいことをしようなんて度胸の持ち主がいたら、喝采と黙祷を送ってやるがな。
オレは暇になり、ベッドを降りようとした。
「……ドア?」
その時、か弱い声色で隣で寝ているはずのフェイトが声をかけてきた。
オレはシーツから出した足を引っ込め、またベッドに寝る。
「怪我人はおとなしく寝てろ」
「ドアも怪我人でしょ?」
「確かに。だがオレは夕方から今にかけてキッチリ睡眠は取ったんだ」
「……でも今は夜中だよ」
「夜中でも、腹が減ればディナータイムだ」
正直、今腹が減ってしょうがないのだ。
この時間で食堂が開いてるとは思えないが、忍び込めば何か食えるものくらいあるだろう。
「……テーブルの上」
「何?」
「テーブルの上にご飯あるよ。ドアが寝てて食べなかった分が」
「それはありがたい」
恐らく冷めてるだろうが、この際仕方ない。
オレはベッドを降り、カーテンを開けてテーブルを見た。
あった。確かにトレイの上に飯がある。
だが、トレイの上にある器が空っぽで、デザートのバナナしかないというのは嫌がらせだろうか?
「……食ったのだれだ?」
「さぁ、誰でしょう」
悪戯っぽく笑うフェイト。この野郎、やりやがった。
もしフェイトが男だったら上司であろうと問答無用でパンチを入れてやるが……まぁいい。
寛大なオレは笑って見過ごし、トレイの上の三本のバナナを口に運びながらベッドへ戻った。
「オレは猿じゃないんだがな……」
「でも寝顔は可愛かったよ。猿みたいで」
オレはバナナを落としそうになった。
「……見てたのか」
「うん。写真取っちゃった」
「そうか。じゃあ今すぐにそれを得意のハーケンで消し炭にしてくれ」
「……今持ってない。クロノに渡しちゃった」
よりによって、バカ兄貴に渡したらしい。
どうやら向こう数ヶ月は、ヤツの言いなりにならなければならないようだ。冗談ではない。
「勘弁してくれよ。オレのキュートな寝顔は国家レベルの宝なんだぜ。世界遺産と同列にしてくれてもいいくらいだ」
オレは低い声で唸ったが、それに対する答えは堪えるような笑いだった。
「……まぁいい。ヤツとは取引するさ」
クロノの弱みならば、グラッツに聞けばいくらでも出てくるだろうし。
「さて、同じ台詞を二度言うが……怪我人さっさと寝ろ」
「……なら、何かお話してほしいな」
「ハァ?」
オレはつい素っ頓狂な声を出してしまった。
「そうだな……ドアの昔の話が聞きたい」
「オイ、ちょっと待て。君はいくつだ?」
「今年で22。大人でしょ?」
「ほう、どの口が言うんだ?」
オレは一本目のバナナを食べ終わり、皮をそこら辺に放る。
「……私達って上司と部下って関係でしょ。だから、お互いよく知った方がいいと思うんだ」
「知らなきゃよかったと思う事だってあると思うがな」
特にオレは黒歴史の塊をしょってるようなもんだ。
「……それでもいいよ。きっと、これから長い付き合いになるだろうし……」
「…………」
長い付き合い、ね。
今のオレにとっては皮肉でしかない言葉だ。
「……それは、上司命令か?」
「上司命令だったら、お話してくれる?」
「いや、オレはそこまで融通が効かなくはない」
「……じゃあ、お願い」
オレは二本目を食い終わり、後頭部に手を添えた。
乗り気はしなかったが、暇を潰すには調度いい。
さて、何を話してやるべきか。
オレの獄中時代の話なんてのは論外だし……
少々考えた結果、1番当たり障りのない話を選んだ。
割りとハードな話でもあるがな。
「そうだな……オレが傭兵として戦ってたって話は聞いたか?」
「うん。クロノから聞いたよ」
「なら話は早い」
オレは頭の中でクソッタレな過去の記憶を呼び覚まし、追って話を始めた。
「――あれば11年前……オレが15の時の事だった」
☆★☆
オレはその時、反乱軍の傭兵として雇われてたんだ。
その世界の政府を転覆させようと戦ってる連中でな、結構長く戦っていた。
その内戦の間、オレは様々な“死”を見てきたんだ。
戦って死ぬヤツ。
巻き込まれて死ぬヤツ。
飢餓で飢えて死ぬヤツ。
生まれたばかりなのに、流行り病で死ぬヤツ。
いろいろいたな。
オレは様々な戦いに参加し、戦って、殺して、仲間が死ぬのを見てきたんだ。
――あれはオレが傭兵として雇われて3ヶ月位経った時だった。
何もない荒野を、オレと仲間の20人位で巡回してたんだ。
その仲間の中に、ウィーストンってヤツがいてな。
ソイツは婚約してた相手を国外に亡命させた後に、戦場にやって来たんだ。
つまり戦場の外で、彼女が戦いから帰ってくるのを待ってたって訳だ。
オレとウィーストンは妙に気が合った。
色々と話をしてても、ヤツの口から出るのは外で待ってる彼女の話ばっかりだ。
写真を見せてもらったが、これがなかなかの美人でな。
顔で言うと、若干なのはに似てたくらいだ。
その時もウィーストンは彼女の写真をいつもの胸ポケットに入れて戦場に来ていた。
そんなウィーストンをオレは絶対護ってやりたくてな。
でもその時は運が悪かった。
巡回してた場所に、政府軍が来やがったんだ。
ロクな装備もないオレ達が政府軍と鉢合わせた時、さすがに背筋が凍ったな。
政府軍はオレ達を発見した瞬間に、攻撃して来やがったんだ。
そん時は確かに質量兵器は規制されてたが、そんな規制は内戦の拡大が揉み消しやがってな。
政府軍も、反乱軍も装備してたのは質量兵器だ。魔法なんてクリーンな力を持ってんのはオレぐらいだ。
――そこから、戦闘が始まった。
銃をぶっ放し合ってる中、オレもその時は質量兵器を使っていた。
だけどオレは戦闘中にベテランの3人に追われててな、仲間とはぐれたんだ。
オレは何とか3人を倒して、急いで仲間が戦ってる戦場に戻った。
けどな、その時には戦いなんてのはやってなかった。
やってたのは、“狩り”だった。
ロクに装備のない反乱兵を、最新の武器で追い回す政府軍。
ケラケラと笑いながら、政府軍は逃げ惑う反乱兵を殺していくんだ。
そんな光景を見て、オレは足がすくんでな。
一人、また一人と仲間が殺されてるってのに、オレの足は動かなかった。
動けよ、オレの足。こんな光景、いつもの事だろ。
そうやって何度も呟いたが、オレの足は言うことを聞かなかった。
――やがて、仲間は全滅した。
もちろん、ウィーストンも殺された。
戦闘が終わって、やっとオレの足は言うことを聞きはじめたが、もう遅いってのはわかりきってた。
その時、オレは自分の足を何度も殴ったな。
殴って、殴って、殴って。次は自分の顔を殴った。
もちろん、仲間が殺されて悔しかったし、怒りも沸いて来た。
けどオレが1番に感じた感情は――安堵だった。
殺されたのが、オレじゃなくてよかった。
そんな最低な思いが、何より頭の中の前に出てた。
そんなクソッタレな頭を、オレは何度も殴ってた。
――やがて我に返ると、政府軍のヤツらがまだいたんだ。
オレは勢いで連中を殺してやろうかと思ったが、それは留まった。
ヤツらが、ウィーストンの死体に近づいて来たからだ。
恐らく、装備を剥ぎ取るんだろうと思った。
けど連中は、ウィーストンの胸ポケットに手を入れやがった。
ヤツらはそこに入っていた写真を取り出し、ところ構わず大爆笑しやがった。
何でかって? 知るか、そんなの。
とにかくヤツらはそれを見て、仲間の政府軍に回しやがった。
それを見て、その仲間も大爆笑。
オレは何で連中が笑ってるのか、理解できなかった。
でも、聞こえたんだ。
――女はイケてるのに、男の方は目もあてらんねぇな。
それを聞いた瞬間、オレの心臓が熱くなるのを感じたよ。
それからヤツらは、笑いながら言った。
――これなら、オレの方がマシだな。
――トカゲ見たいなツラしやがって、女の方も見る目ないな。
――なんならこのツラ、もっとグチャグチャにしてやるか。
オレの血液は徐々に熱くなって、身体がマグマのようになったその時だった。
政府軍の一人が、ウィーストンの顔にマシンガンで弾丸を撃ち込みやがった。
瞬間、オレは脳みそが沸騰するのを感じた。
それと同時に、デバイスを握りしめ、連中に斬り掛かった。
オレは怒り狂ったように剣を振るい、連中を斬り裂き、殺した。
全身に弾が食い込もうが、知ったこっちゃない。
オレは連中がそうしたように、逆に連中をグチャグチャにしてやった。
やがて応援を呼ばれて、更に攻撃は続いた。
そっから先は、覚えてない。
戦ってるか、死んだか。
――オレはやがて、意識を失った。
どれくらい気絶してたかは、わからない。
ただ、オレはその時まだ生きていたんだ。
やがて目を覚ますと、オレは砂漠にいた。
さっきまで戦っていた荒れ地ではなく、渇ききった砂漠にな。
オレは周囲を見渡した。
すると、後ろから誰かが歩いてきた。
その時オレは、目を疑ったね。
だって歩いて来るソイツは、オレのよく知るウィーストンだったからだ。
――ウィーストン、生きていたのかっ!!
オレはそう吠えたが、ウィーストンは何も言わなかった。
ただ手を振って、オレから離れていく。
それに続くように、様々なヤツらが現れた。
死んだハズの、仲間達だ。
オレは必死でそいつらの名を呼んだが、ただ手を振ってくるだけ。
オレはヤツらに着いて行こうとした。
すると、急に足が動かなくなったんだ。
びくともしない足を殴りながら、オレはまた叫んでいた。
――行くな、ウィーストンっ!!!
オレは本能的に、ウィーストン達がどこに行こうとしてるのかわかってきたんだ。
しばらく叫んで、オレはまた気を失った。
気がつけば、オレは反乱軍の医務室で包帯だらけで寝ていたんだ。
当然、その場で生きていたのはオレだけだった。
他は仲間も敵も、みんな死体だったそうだ。
泣きながら、神を怨んだ。
――何故、オレを連れていかなかったっ!!?
しばらく、そんな呪詛を振り撒いていた。
けどな、やがて気づいたんだ。
あの時、オレを足を止めたのは神様じゃなく――
――仲間達なんじゃないかってな……
☆★☆
「――仲間が、まだ来るなって言ったんだね」
フェイトの声が、カーテン越しから聞こえた。
「――さぁな」
オレは三本目のバナナを食べ終わり、皮をそこら辺に捨てる。
「ううん、きっとそうだよ」
フェイトは優しい声音で、オレの胸の蟠りを溶かしていく。
「だって、私はドアがその時生きて帰ってきてくれて嬉しいもん」
「…………」
不意に、目頭が熱くなった。
これだから、昔話はいけない。
オレは目から流れそうになるそれを必死で堪えると、ベッドに横になった。
「……お話は終わりだ。さっさと寝ろ、怪我人」
若干涙声だが、オレはごまかすように言い放つ。
「……うん。わかった」
その言葉の後に、シーツを被る音。
どうやら、今度こそ寝てくれるようだ。
「…………」
――ごめんな、ウィーストン。
オレもそっちに逝く予定だったが、スケジュールが狂っちまった。
説教ならそっちに逝ってから聞いてやる。だから……
もう少し、待っててくれな。
オレはどこに浮かんでるかもわからない星に、そう念じた。
「……寝るか」
オレはしんみりした脳みそをリセットしようと、目を閉じた。
――しかし、それはうるさく響くアラームによって妨げられた。
それは、エマージェンシーを表す緊急アラーム。
「ッ!!!?」
オレは起き上がり、隣のフェイトとなのはも目を覚ます。
「一体何だってんだ?」
オレはベッドから飛び降り、着地しようとした。
しかし足が何やら摩擦を失った何かを踏み、バランスを崩した。
「痛ッ!!?」
オレは後頭部を打ち、すぐにそれを見た。
「……あ~」
――それは、オレが食べたバナナの皮だった。