魔法少女リリカルなのは -Crime seeker-   作:鹿丸

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ⅩⅩ Spider string

けたたましい爆音アラームが医務室を騒がしくする中、オレはクロノに通信を入れていた。

 

それを後ろから覗き込むフェイトとなのは。

 

しばらくコールすると、モニターにテキパキと周囲に指示を下すクロノが映った。

 

指示をし終えると、クロノはこちらを向く。

 

「おいバカ兄貴。何の騒ぎだ?」

 

「エマージェンシーって……まさか敵襲っ!!?」

 

フェイトが声を荒げると、クロノは早口で言った。

 

「いや敵襲ではない。むしろ内部だ」

 

内部? 艦の中って事か?

 

「――特別留置室から、ジグ・レインとメルク・アロ・ガローンが脱走した」

 

「ッ!!?」

 

脱走――ッ!!?

 

 

「報告によると、何故か留置室のカギと手錠が外されていたようだ」

 

「オイオイ、誰だよそんな素敵なイタズラするバカは?」

 

「そんな……まさか局員の誰かがっ!!?」

 

なのははが驚愕の声を上げるが、それ以外に何がある?

 

「……それを調べるのは後だ。それよりも、今は脱走した二人を捕らえるのが先だ」

 

「ヤツらは今どこに?」

 

「ああ待ってくれ。今モニターを……どうやら第三区画を移動しているようだ」

 

「第三区画?」

 

オレは医務室の壁に掛けられている経路図を見た。

 

どうやら医務室と第三区画の間には、それなりの距離があるようだ。

 

だが、走れば間に合わない距離じゃない。

 

「チッ……面倒な仕事を増やしてくれるな」

 

「本当だね」

 

オレとなのはとフェイトは通信を切ろうとした。

 

「待て、君達どうするつもりだ?」

 

「オイオイ、通信を入れてきた当の本人がよくそんな事を言えるな」

 

クロノは苛々したように頭を掻くと、こちらを見る。

 

「“二人は君達から離れているから心配するな”という意味で通信を入れたんだ。それに君達は怪我人だろ」

 

「クロノ。オレが珍しく仕事をやる気になっているのに、お前はその腰を折ろうってのか?」

 

全くだね、と背後の二人が息を合わせて言ってきたので、オレは自分が転んだバナナの皮を投げてやった。

 

「ああ。全く珍しい事だが、君達はそこのベッドでくつろいでてくれ」

 

「敵が艦にいるってのに、やすやすとくつろげる訳がないだろう」

 

「……だが今回はダメだ。僕と監査隊でケリをつけるから、心配するな」

 

「…………」

 

「再三言うが、これは命令だ。君達にはそれに従う義務がある」

 

それだけを言うと、クロノは通信を切った。

 

背後のフェイトとなのはが何か言いたそうだったが、命令と言われたのが効いたのだろう、不服そうに口を紡いでいた。

 

「……あのクソ兄貴が」

 

クロノの力は知っているが、正直あのバケモノ二人では分が悪い。

 

監査隊の力も期待できない分、余計な犠牲が増えるだけだ。

 

そんな状況である事は、クロノも承知のハズだ。

 

それなのに、アイツはオレ達に動くなと命じた。

 

怪我人とはいえほぼ完治状態のオレ達を動かした方が、確実に捕らえられる確率は高まるハズなのに……

 

「クロノ……」

 

「さて、と」

 

オレは通信機を畳み、ハンガーから白いジャケットを取った。

 

「……ドア?」

 

「フェイトとなのははその最高のベッドでくつろいでな」

 

襟を正し、首の骨を鳴らす。

 

「ドアはどこに行くの?」

 

「悪いが、遊園地で女を待たせてるんだ」

 

「――行くんだね?」

 

オレの軽い嘘をアッサリ見破ったフェイトは、自分も行かんとばかりに準備をする。

 

「怪我人はおとなしく寝てろ」

 

「だから、ドアも怪我人だよっ!!」

 

「何度も言わせるな。オレはきっちり寝てたおかげでバナナを食うハメになったが、君達二人は暖かいメシを食っててロクに寝てないだろ」

 

そう言われて、フェイトは一歩引き下がる。

 

「――フェイトちゃん、ここは任せよう」

 

「なのは……」

 

ここでなのはが助け船を出してくれた。

 

「フェイトちゃんも私もあまり寝てないし、これ以上無茶する訳にはいかないよ」

 

「……なのはに言われたくないなぁ」

 

フェイトは微笑みながら、納得したようになのはの肩に手を置いた。

 

「――うん、わかった」

 

「いい子だ」

 

オレは振り向き、ポケットに手を入れる。

 

「なぁに知っているだろう? オレに毒は効かないんだ」

 

「…………」

 

フェイトもなのはも真顔だが、それは不安を押し込める仮面に過ぎない。

 

「そういえば、二人は料理は得意か?」

 

「「え?」」

 

二人は少し悩み、互いに顔を見合わせ、「少しなら……」と遠慮がちに言った。

 

「そうか。なら部下からの囁かなお願いがある」

 

オレは肩越しで振り向き、余裕の笑みで言ってやった。

 

 

「――とびきり美味いパエリアを作って、待っててくれ」

 

 

 

 

 

 

 

☆★☆

 

 

 

 

 

 

――前方に局員二人、デバイスを構えている。

 

「抑えろっ!!!」

 

局員は魔法を撃つが、通路に立つソイツのバリアによって防がれる。

 

その直後、ソイツの肩越しから現れたライフルの銃口からニードルが射出された。

 

ニードルは局員の首筋にヒットし、昏倒させる。

 

「わ~い、当たった当たった~♪」

 

「……全ク、少しは静カにシロ」

 

 

――通路でのたうちまわる局員を眺めるのは、脱走したジグとメルクだった。

 

 

腕の無いジグの肩に、メルクが体を落ち着けている。

 

「ぐああッ……虫ッ……虫ィィィッ!!!」

 

局員の一人は地面をはいつくばりながら、見えない何かに脅えるように悲鳴を上げ、もう一人はぴくりとも動かない。

 

「撃った毒ヲ変えたノカ?」

 

「うん。面白いからアトランダムに変えてるんだ★」

 

メルクはジグの肩から飛び降り、苦しんでいる局員に近づくとその首に刺さったニードルを指差した。

 

「この緑色のニードルが幻覚症状を起こす神経毒で~」

 

次にメルクはびくともしない局員の首筋のニードルを差した。

 

「この赤色のニードルが致死性の超猛毒だよ★」

 

「……酔狂ナ」

 

メルクは猛毒を撃たれた局員の顔をジーッと見つめ、瞳孔を見る。

 

「う~ん、ちゃんと死んでるんだけどな~……何であのお兄ちゃんには効かなかったんだろう?」

 

「サァナ。ヤツ“も”人間じゃなインじャないカ」

 

「かもね~」

 

ジグとメルクは先を走り、やがてひとつの分かれ道に辿り着いた。

 

 

「――メルクは右へイケ。ソウスレバ甲板に辿りツケルハズダ」

 

「ジグは?」

 

「……少し、用事がある」

 

「ふ~ん」

 

メルクは興味なさそうに吹いた後、ジグの肩を降りた。

 

「それじゃ、また後でね♪」

 

「アア」

 

メルクは手を振ると、矢の如く通路を進んでいった。

 

 

ジグはそれを見送ると、振り向いた。

 

「――また後デ、カ……無茶をイウ」

 

小さく呟くと、ジグは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

「……第三区画、か」

 

オレは通路の経路図を見上げながら呟いた。

 

さっきからコレに頼りっきりな上に、思うように動けていない。

 

「だいたい入り組み過ぎなんだよこの艦。立体迷路にしたらどうだ?」

 

皮肉を込めて言ってやったが、言う相手がいないのは寂しいものだ。

 

オレは“ある場所”を目指していた。

 

連中二人が行きそうな場所に、心当たりがあるからだ。

 

「……こっちか」

 

オレは経路図を一瞥すると、その通路を突っ走った。

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

「状態はっ!!?」

 

クロノはS2Uを装備した格好で、通路で待機していたフレイムに状況を聞いた。

 

「はい、現在第5、6班が脱走者を発見したという報告を受けましたが、それきり応答がありません」

 

フレイムはキビキビと、しかし悔しそうな口調で伝えた。

 

「そうか……それなら、網を張ってた方が良さそうだ。各員に深追いはするなと伝えておいてくれ」

 

「了解しましたっ!!」

 

指示を受けると、フレイムは通信機を取り出し、広域念話で指示を繰り返した。

 

クロノは目の前の通路を見通した。

 

恐らく敵の目的が艦からの脱出ならば、この道を使うハズだ。

 

甲板に続く扉をロックできればよかったが、それは無理だった。

 

なぜならブリッジからの報告によると、艦の管理系統に何者かがアクセスして、システムの一部をロックしたらしい。

 

おかげでロックの解除に手間取り、全く艦の防御システムが働いてくれない。

 

しかし、これで局員の中にリプロードのスパイがいる事は確実となった。

 

ある意味不名誉な事だが、立派な情報だとクロノはポジティブに捉える。

 

ともかく、だ。

 

敵は必ずこの通路を使う。

 

なら、ここで捕らえればいい。

 

ただ気配を出来るだけ気取られないように、役目はクロノとフレイムの二人精鋭で行う。

 

「……提督自ら、大丈夫ですか?」

 

フレイムは横に並び、心配そうな表情で聞く。

 

「何、僕もたまには実戦の空気に触れないとね。それよりフレイム、デバイスを展開しろ」

 

「は、はいっ!!」

 

フレイムは慌ててポケットからカードを取り出し、デバイスの名を呼ぶ。

 

「――ラケルタ、セットアップっ!!」

 

カードが光り、それは徐々に銃のシルエットを現す。

 

セットアップが完了すると、拳銃型デバイスのラケルタはフレイムの右手に収まった。

 

 

「――準備、完了です」

 

「そうか、では警戒を」

 

瞬間、クロノの首に何かがヒットした。

 

 

「ッ!!?」

 

クロノは倒れ、首に触れる。

 

「提督ッ!!」

 

「だ、誰だっ!!?」

 

クロノはありったけの声量で撃ってきた方向に叫んだ。

 

すると物陰から、ライフルを構えたメルクが姿を現す。

 

「……あ~あ緑かぁ……運がいいね、黒いお兄ちゃん」

 

髪色の特徴を言っているのだろう。

 

メルクはそのままこちらに近づき、クロノに銃口を向ける。

 

「――でももう一回やったらどうかな?」

 

メルクはニヤニヤ笑いながら、躊躇いなく引き金を引いた。

 

 

ニードルが飛び、クロノの額に向かう。

 

「――ッ!!?」

 

しかしそれは、間に踊り出たフレイムによって妨げられた。

 

ニードルはフレイムの肘にヒットし、クロノに覆いかぶさる。

 

 

「フレイムっ!!?」

 

「あ~あ……まぁいっか」

 

メルクは飽きた様子でクロノとフレイムの側を通り、引き続きニヤニヤした表情で言い放った。

 

 

「――どの道、みんな死んじゃうしね♪」

 

メルクはライフルを肩に乗っけると、猛スピードでかけていった。

 

「……ぁぁ……フレイム、無事、か……」

 

 

クロノは迫りくる幻覚に堪えながら、何とか意識だけは保とうと足掻く。

 

「…………」

 

「……フレイム?」

 

返事の無いフレイムに、クロノは霞む視界を働かせ、フレイムの肘を見る。

 

 

「――フレイム?」

 

 

――微動だにしないフレイムに刺さっていたのは、赤いニードルだった。

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ……辿り着いたか」

 

ジグは目の前のビート板千枚分くらいの巨大な扉を目の当たりにし、息をつく。

 

――ここは、機関室。

 

様々な重機械で敷き詰められたそこは、いわば艦の心臓部。

 

ジグはその巨大な扉の前に立ち、体をひと捻りしたあとに蹴りで扉を蹴破った。

 

ロックは解除してあるが、それも“どうでもいいこと”だ。

 

ひしゃげた扉を一瞥し、ジグは若干暗い機関室へと足を踏み入れた。

 

「…………」

 

 

中に入ってジグが最初に見えたのは、大層立派な魔導機関でも、コアのようなエネルギー体でもなく……

 

 

「――こんな遅クまで働クとハ、仕事熱心ナンダナ」

 

 

――双剣を構えた、ドアの姿だった。

 

 

「なぁに、今日は特別だよ。何せ家に帰ると楽しみがある」

 

ドアはストレイジを突き出すと、不敵に笑った。

 

 

「――とびっきりの美人二人と、とびっきりのパエリアが待ってるんだからな」

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