魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
「ですから、提督からの連絡はまだ……」
「そんな……しかし、部隊の指示はクロノが……」
「提督からの指示で、部隊は今下がっています。なので指揮系統も今は通っては……」
煮え切らない会話を通信機を通じて交わしているフェイトは、つい唇を噛む。
もういいです、と言い放ち、フェイトは通信機を畳んだ。
フェイトとなのははバリアジャケットを着たまま、落ち着かない様子でベッドに腰掛けた。
ドアはああ言ってはいたが、やはり緊急を考えると準備をしない訳にはいかない。
なるべくクロノとドアの言葉を尊重はしたいが、如何せん状況がわからない。
そんな生殺しのような状況が続き、少なくともフェイトの焦燥感は募るばかりだ。
「……フェイトちゃん」
「なのは……」
「信じるしかないよ。それが、私達にできる事だもん」
「…………」
なのはの言う通り、ここは信じるしかない。
どうか、無事に――っ!!
その時だった。
医務室の自動ドアが、滑らかな音を立てて開いたのだ。
「ッ!!?」
フェイトとなのはは直ぐにそちらを見る。
一瞬、ドアが余裕な顔をしながら入ってきたのかと期待をした。
しかし、現実は違った。
「ハァ……ハァ……フェイ、ト……」
――そこには、やたら汗をかきながらフレイムを背負い、必死に妹の名を呼ぶクロノだった。
「クロノッ!!」
「クロノくんっ!!!」
フェイトとなのはは直ぐに駆け寄り、クロノに肩を貸してやる。
クロノは背中のフレイムをなのはに渡し、フェイトに体重を預ける。
「僕より……フレイム、を……」
めちゃくちゃ顔色の悪いクロノは精一杯絞るように声を出した。
「フレイム……?」
「フェイトちゃんっ!!!」
フェイトが聞き返そうとした直ぐに、なのはが張り叫んだ。
「直ぐにシャマルさんを呼んでっ!!! 大変だよっ!!」
なのはは泣きそうな表情で叫んでいる様子から、フェイトはフレイムを見た。
――見てしまった。
「――ッ!!!?」
フェイトは思わず、口元を覆った。
――そこに見えたのは、肘から先が無い右腕を必死に抑えているフレイムの苦痛の表情だった。
★☆★
「……オイオイ、マジかよ」
オレはその悍ましさに、本能で一歩下がった。
ジグの2ndモード。
それの正体は、とてつもなく不気味なものだった。
「――ドウシタ?」
「…………」
「我が、コワイカ?」
「……ああ、思わずクソ垂れそうだぜ」
精一杯のジョークを放つが、シャレが効いてないあたりオレの頭は随分てんやわんやらしい。
――なんせ、今のヤツは蜘蛛にしか見えなかったからだ。
単純に言おう。今ヤツの腕は、8本ある。
まず普通に生えてる立派な腕が2本
そして、背中から生えた長い腕が6本。計8本。
その8本の腕全てに、増殖したタラントレントが握られている。
まるで地球の日本という国にある千手観音のようだ。
全く、ハッキリ言って見るに堪えない姿だ。
「立派な腕が8本もありゃあ、大層たくさん女も抱けたんじゃないか?」
「ハハ、残念ナガラ、そんな趣味はナクテナ」
「……ああ、そうっ!!」
オレは一気に駆けた。
腕が増えたからってなんだ。
野郎の勢いに呑まれる前に、ケリをつける。
オレは上段からストレイジを振り下ろし、ウィルネスで反撃を待つ。
しかし初手のストレイジを右腕の鎗で防がれ、オレはウィルネスを突き立てる。
だがそれも弾かれ、めげずに連撃を加えようとしたが、ダメだ。
ジグは背中の6本の腕を動かし、やたらめったらに鎗で突きを放ってくる。
「クソッ……」
悪態をつきながら捌こうとするが、ハナから手数が違う。
切り替えして反撃を狙うが、無数の鎗がそれを拒むように上段から降り注ぐ。
オレはそれらを交差して構えた両剣で受け止めるが……
「ソコダ」
「ッ!!?」
ジグの――右腕の鎗がオレの脇腹を貫いた。
「ヂィッ……!!」
オレは血を流す脇腹を抑えながら後退した。
どうやら7本の鎗で上を応戦している間に、右腕の鎗で正面を狙ってきたらしい。
「ハァ……ハァ……」
バリアジャケットに血が滲み、痛みが広がっていく。
冗談じゃないぞ。あんなん、スピードとかパワーとか言う前に数が違う。
8本の鎗を、剣2本でどう防げっつーんだ?
「休んでイル暇はナイゾ」
後退した矢先、ジグが8本の鎗を構えながら突進して来た。
オレはかろうじて剣を構えるが、鎗と剣が交えた瞬間、シャレにならないパワーがオレの腕にのしかかった。
「ぐぅ……ぁ……」
徐々に力負けしていき、押し切られそうになる。
やはり腕8本分のパワーはかなり堪えるな。
「フン」
すると途端にジグは鎗を外に振るい、オレの二刀を弾き飛ばした。
――しまった、構えを――っ!!
がら空きになった、正面。
そこをジグは見逃さなかった。
「――八又屍突ッ!!!」
8本の鎗を真っ直ぐに構え、一気にオレの腹を目掛けて突き立てる。
「このっ……!!」
オレは必死に弾かれた腕を振るい、鎗を斬り飛ばす。
しかし、全ては無理だ。
4、5本の鎗はそのまま勢いを殺せず、オレの体の各所を貫いた。
「グフッ!!?」
串刺しになり、血が飛ぶ。
幸いにも急所は避けたが……
「ゼェ……ゼェ……」
「……キサマは、ヨクヤッタ」
ジグは鎗を引き抜き、血を払う。
オレは膝をつき、かろうじて剣を地面に突き立てて姿勢を保っている状態だ。
「プロトクルス相手に、2ndモードを起動サセタのダカラナ」
「……るせぇよ」
「?」
オレは体に力を入れ、なんとか立ち上がる。
「うるせぇよ、蜘蛛野郎。プロトクルスがなんだってんだ。そんなに偉いのか、プロトクルスは?」
「…………」
「大体、お前相手にオレが本気を出すわけないだろ」
それは半分事実だ。
オレの首には、今だに二つのリミッターがかかっている。
「――ソウカ、それは安心シタナ」
「?」
ジグはおどけた様子で、その増えすぎた腕を竦める。
「我のヨウナ“失敗作”ニ負けてモラッテは、あの方も退屈ダロウ」
――失敗作? あの方?
「ダガ、キサマのソノ様子では、タダノ虚勢にしかミエンガナ」
「……へへ」
オレは感覚の鈍った腕に鞭を打ち、ストレイジを掲げた。
「虚勢がどうかは……こいつを見てからにしやがれ、蜘蛛野郎」
魔力を集中させ、力を解放する――
「ストレイジ、2ndモード、ブロークンモードッ!!!」
刹那、ストレイジから力強い赤い魔力光が放たれた。
それは刃を象り、ストレイジを覆っていく。
「――2ndモードの二重起動、カ……」
「ハァ……ハァ……」
一瞬、足元がふらついた。
正直、AA+ランク状態での二重起動は自殺行為に等しい。
魔力も、体力も、直ぐに枯渇しちまうからだ。
だが、これしかない。
パワーのストレイジ。
スピードのウィルネス。
この二つの力を合わせた時、ようやくフロートクロスアーツの真価が発揮される。
「――こっからが、“闘い”だ」
「フン……コイッ!!!」
――次の瞬間、オレはジグの真っ正面にいた。
「ッ!!?」
ジグは驚いた様子で、瞬発的に鎗を振るう。
しかし、もう遅い。
「ナッ……!!?」
刹那、ジグの腕が一本飛んだ。
否、オレが斬り飛ばしたのだ。
この、ストレイジで。
「あ~と7本~」
「キサマ……何をシタァッ!!!」
ジグは怒れた覇気を表し、鎗を突く。
大したモンだ。
だが、オレはそれを立て続けに捌いた。
次々と鎗の連撃がオレを襲うが、それを上回るスピードで弾いていく。
(何故ダ……何故防がレル?)
さっきまでは、確かに互角――いや、それ以上に圧倒してたハズだ。
まさか、2ndモードの二重起動が、ここまで――
刹那、また腕が飛んだ。
「ッ!!?」
ジグは一旦後退し、血が吹き出ている斬り口を見る。
「あ~と6本~」
余裕の笑みを浮かべながら、ウィルネスを肩に乗せる。
いや、実際には余裕などなく、すでにフラフラだった。
2ndモードも化した両剣が、絶え間無く魔力を喰らっていく。
早めに、ケリつけねぇと。
――瞬間、互いの武器が激突した。
追り合いに持ち込み、またしても力比べ。
しかし結果は、さっきとは違うものだった。
「らぁッ!!!」
「グゥッ……!!?」
ストレイジがジグのタラントレントを押し返したのだ。
僅かにグラつくジグ。
その間隙を、突く。
オレはストレイジの魔力刃を強化し、一気に降り抜いた。
ドンッ
追突音に似た響きが渡り、それに続いて腕が飛ぶ。
それも、2本。
「あ~と4本。蜘蛛ちゃん」
「キサマァァァァッ!!!」
腕を斬り飛ばされ、怒りに満ち足りた様子で吠えるジグ。
その行動には、徐々に冷静さが失われているようだ。
――決着の時だった。
「……悪いな、もう余計な血は流したかないんだ」
オレはストレイジの赤い魔力刃を2メートル台に大きくし、低く構える。
これから放つのは――牙蓮砲。
しかし今からのコレは、少し違う。
ウィルネスの緑色の魔力光は――加速度。
ストレイジの赤色の魔力刃は――破壊力。
この二つが合わさった時――威力は数倍から二乗にも及ぶ。
ジグは鎗を構え、突きを放とうとした。
その防御不可のチャンスを、待っていた。
「――血で滲んだパエリアは、マズそうだからな」
――目を光らせ、オレは両剣を降り抜く。
「――紅蓮砲ッ!!!」
刹那、巨大な“赤い斬撃”が矢の如く撃たれた。
空気を裂き、地面を砕く勢いの斬撃はジグの構えていたタラントレントを完膚なきまでに砕いた。
「――ッ!!?」
――そしてジグは吹っ飛び、鎗と一緒に甲冑も粉々に散る。
甲冑の破片が散らばり、鮮血が舞う。
ジグは地面にたたき付けられ、少し呻いた後、力尽きたように倒れた。
「ハァ……ハァ……」
オレは直ぐさま、2ndモードを解除した。
これ以上魔力を食われれば、くたばりかねない。
全く、欲張りなデバイスどもだ。
「ハァ……ハァ……」
荒れた息を整えながら、オレはジグの元へと歩み寄った。
全身が激痛に漬かるが、無視した。
「…………」
甲冑は砕かれたのに、今だにヘルムは健在だった。
「……素顔くらい、見せやがれ」
「……フン、知らナきゃヨカッタ、と後悔スルゾ」
「残念。後悔するのには慣れてるんだよ」
「フフ……」
ジグは薄く笑い、血まみれの手でヘルムに手をかけた。
――そして、静かにヘルムが外された。