魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
PROLOGUE
さてさて、これがパパが1番大変だった仕事の話だったが……どうだ、我が息子よ?
――何、続きが聞きたい?
おいおい、冗談は止せよ。もう日付が変わってるんだぜ。
――気になる? そんな事を言うな、可愛い息子よ。
そんなママ譲りの真っ赤な目で見つめられたら、話さない訳にはいかなくなるだろう。
――しかたない、ベッドに横になれ。
次に話すのはな、パパが初めて出張に出たときの話さ。
あの時は大変だったな~……
何、能書きはいいって? おいおい、誰に似たんだその辛口な所は?
ママか? ママだな? ママなんだな? そうだ、ママに違いない。
オレの遺伝子から、こんなハードなモンが受け継がれる訳がない。
――まぁ、それはいいとして。
あれは、オレがレスポールを投げつけられてから二日経ったある日の事だ……
☆★☆
「ハァ……ハァ……」
深夜、クラナガン。
人気の無い、頼りないネオンだけが照らす裏路地。
散らかるゴミを踏み付け掻き分けながら、そこに“彼女”はいた。
「ハァ……ハァ……」
その小さな体に負ったいくつもの擦り傷を無視し、何かに追われるかのように彼女は走り続けた。
薄暗かった路地を抜け、煌びやかな大通りを走る。
――やがて、彼女はとある公園にたどり着いた。
人気など皆無の、やや寂れた公園。
彼女はようやくそこのベンチに座り込み、すっかり荒くなった息を整えようとする。
熱くなった肺を冷やすように深呼吸を繰り返し、やがてそれは落ち着いた。
「ハァ……会わなきゃ……」
月明かりに照らされた彼女の姿は、まさに歳半ばの少女。
白く透き通った肌に、アメジストのような大きな瞳。
見た目からして、恐らく小学生高学年。どう見積もっても中学生くらいだ。
各所が擦り切れた赤のワンピースを纏った少女は、仕切りに何かを呟いていた。
「……会わなきゃ……ポストおじさんに……ハァ……」
深い海の様な青いロングヘアーを振り乱し、少女は立ち上がった。
「……休んでる暇なんて、ないよね……」
額から流れる汗も、疲労で迫り来る嗚咽も、全て無視した。
そんなのは、きっと許されないからだ。
少女はまた呼吸を整えながら、また暗闇の都会を走り出した。
薄暗い闇を駆け抜けるその姿は、背に見える景色とはあまりにも不釣り合いであったが、お構いなしに少女は走る。
やがてその姿はクラナガンの星屑のような光に消え、またいつものような喧騒混じりの景色へと姿を変えた。
__この少女の存在によって、"物語"は次の舞台へと移る。