魔法少女リリカルなのは -Crime seeker-   作:鹿丸

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Ⅰ Sickle that reaps

その日オレが覚醒したのは、珍しく朝方だった。

 

「……ん……ぁぁ」

 

重たい瞼を開き、シーツを蹴り飛ばしてベッドが下りる。

 

酸素を求めて欠伸をすれば、体に嫌でも力が入った。

 

「……朝、か」

 

眺めのいい窓から昇ったばかりの太陽を一瞥し、オレはとりあえず時計を見た。

 

 

……05:52。

 

 

「――奇跡だ」

 

オレがこんなに気持ち良く朝を迎えられ、尚且つそれが5時台ときた。

 

――今日は何やらいいことがある気がする、なんて根拠もない事を思いながらオレは自室を出た。

 

真っ先にオレが向かったのは、執務室の洗面台だ。

 

オレはそこの青い蛇口を捻り、水を顔面に被る。

 

半ば寝ぼけていた意識がすっかり覚醒し、オレは隅に備えてあったヒゲ剃りを取った。

 

仕事をする男の嗜みとして、フェイトから渡されたものだ。

 

あまりオレにはヒゲは生えないが、まぁ目立たないに越したことは無い。

 

オレはすっきりと顔面を洗い流し、服を着替え、洗面台を出た。

 

――さて、今日は何をする日だったか……

 

確か昨日は一日中犯罪者共の罪状リストを整理してた気がする。

 

オレは考えながらソファに腰掛け、備えつけてあるテレビの電源をつけた。

 

チャンネルをいくつか変え、しかし面白い番組が無いのを知ると電源を落とす。

 

「……クソ」

 

悪態をつきながら、オレはキッチンの冷蔵庫を漁った。

 

執務室の冷蔵庫は基本は空だ。

 

あるとすれば気まぐれでフェイトが作る料理の材料か、オレが寝酒として嗜むバーボンか、二人で兼用しているミネラルウォーターくらいだ。

 

菓子やらジュースなんてのは、滅多に無い。

 

ところがその日は、面白いモノが入っていた。

 

「アー……懐かしいな」

 

オレは冷蔵庫の奥に入っていた黄色い“棒アイス”を取り、頬に当てた。

 

冷たい。

 

「……大丈夫だ、よな」

 

そんな事は微塵も思っていない癖にそう漏らし、オレは歯で一生懸命アイスの固いビニールを破き、シャリシャリとシャーベットを喰らう。

 

どうやらグレープフルーツ味らしい。オレには当たりの味だ。さっそくいいことがあった。

 

しかし、ヒマなのは変わらない。

 

「……ヒマ過ぎて死にそうだ」

 

オレはふと、妙な事を思い付いた。

 

自室に戻り、早速行動に移す。

 

棒アイスを口でくわえながら、オレはギターケースと取り寄せた50Wのアンプを持ち出した。

 

アンプを執務室のプラグに差し込み、ギターケースから取り出したレスポールをアンプに差す。

 

アンプのパワーをONにし、レスポールのボリュームを10に合わせる。

 

オレはレスポールを体にかけ、ピックをつまむ。

 

その状態で、オレはフェイトがすやすやと寝ているであろう寝室の扉に向けてアンプを置き、その隣にオレも立つ。

 

 

「――痺れるモーニングコールをプレゼント・フォー・ユー」

 

瞬間、オレはレスポールを掻き鳴らした。

 

まるで執務室を破壊せんとするような暴力的なサウンドが響き渡り、オレは得意のリフを弾き鳴らす。

 

恐らくここが田舎の住宅街ならば、即座にオレは街の嫌われ者になっていただろう。

 

数十秒して、ようやくその嫌われ者に対して罵声が飛んできた。

 

 

「――うるさいっ!!!」

 

突然扉が開き、フカフカの枕がオレの顔面に直撃した。

 

その時オレはようやく腕を止め、軽くチョーキングした。

 

「……グッドモーニング、フェイト」

 

「ぜんっぜんっ!!」

 

イラついた様に金色の髪を振り回し、ムスっとした口元をガミガミと動かす。

 

「私はね、数少ない睡眠時間を大事に使いたいの。わかる?」

 

「わかるさ、君のその顔を見ればね」

 

「ふ~ん……どんな顔をしてる?」

 

「鏡で見てくるといい。怒れる美人が見れるだろうな」

 

そう言うとフェイトはため息を吐き、洗面台へと向かった。

 

オレは十分楽しんだ所でアンプとギターを片し、ソファでミネラルウォーターを飲んでいた。

 

しばらくするとビシっと制服に着替えたフェイトがデスクに着いた。

 

「もう仕事か?」

 

「せっかく早く起きたんだもん。今日は早く終わらせて早く寝たいしね」

 

それは素晴らしく合理的だな。

 

「そうか、なら頑張ってくれ」

 

「ドアもね」

 

やっぱりかい。

 

オレはやれやれと肩を竦め、補佐役のデスクに着いた。

 

「アー……今更眠くなってきた」

 

「なら早く終わらせようね、早起きの頑張り屋さん」

 

明らかに皮肉としかとれないその言葉に、オレは笑うしかなかった。

 

「……ハハ、余計なモーニングコールだったみたいだな」

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

しばらくキーボードをカタカタと打ち、気が付けばもう夕方。

 

しかし早めに起きた事が良かったのか、今日の仕事は既に佳境に入っていた。

 

この分なら、今日の夜は遊べそうだ。

 

――その時、不意にフェイトが席を立った。

 

「……?」

 

「ちょっと飲み物買ってくるね」

 

そう言いながら、フェイトは執務室を出ようとする。

 

「そんなモン、補佐に任せろよ」

 

「だってその補佐に任せたら、何処でサボるかわからないもん」

 

それにしたって、上司から率先してする事ではないと思うが……

 

「ほう、誰だろうな、そんな素晴らしく立派な補佐は」

 

その台詞にフェイトは呆れたような表情をし、しまいには舌を出してきやがった。

 

 

「じゃ、ちゃんとデータの整理しててね」

 

「……ちなみにコレが終われば、今日はもうオフでいいか?」

 

「う~ん……そうだね。特に大きな仕事も無いし」

 

「それはありがたい」

 

今日は夜はグラッツと一緒にバーで愚痴り合いだな。そんで時間が開けばパブでオレの擦り減ったヒットポイントを……

 

自然と笑みがこぼれ、キーボードを叩く指も軽快になる。

 

――なんて考えていると、いつの間にかフェイトの姿は執務室には無かった。

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

静かに下るエレベーターの中、フェイトは何を買うか考えていた。

 

ミネラルウォーターは補充するとして……後は確かドアがコーヒーがどうとか……

 

よし、ミネラルウォーターとコーヒーだね。

 

そうだ、朝の仕返しで加糖コーヒーを買ってこよう。

 

それを飲んで眉を曲げるドアを想像して、フェイトはつい笑みを浮かべた。

 

しばらくニコニコと笑っていると、エレベーターは地上一階にたどり着いた。

 

フェイトはエレベーターを降り、目指すは一階のレストルーム。

 

あそこの自販機にしか、加糖コーヒーはないのだ。

 

 

――ふと目線を受付に向けると、意識がそちらに入った。

 

「?」

 

受付嬢が何やら困った顔をしながら、小さな子供にまくし立てられていた。

 

子供は青いロングヘアーを垂らし、やや煤に塗れた服装をしている。

 

 

「……何かな?」

 

と呟きながらも、フェイトはその光景に背を向け、レストルームへと歩いた。

 

付近の自販機にたどり着き、ミネラルウォーターととびっきり甘い加糖コーヒーを買う。

 

ささやかな悪戯を想像しながら、フェイトは執務室に戻ろうとした。

 

 

――そしてまたふと、受付に目線をやると。

 

 

「――だから、何度も言っているじゃないっ!!!」

 

さっきの子供が幼い怒声を当たり散らしていた。

 

 

「――?」

 

一体、何なのだろうか?

 

フェイトは気まぐれに事態が気になり、その喧騒に近づいていった。

 

「何度もおっしゃるように、ウチにそのような局員は……」

 

「あ~、もう話にならないわねっ!! わかったわ、責任者を出しなさいっ!!」

 

「いぇ、ですから……」

 

「どうかしましたか?」

 

声をかけると、今まで言い合っていた二人が一斉にこちらを向いた。

 

「ハ、ハラオウン執務官……」

 

「――誰?」

 

受付嬢は助け船を得たような安堵の表情を浮かべるに対し、少女の方はいまだにムスっとした表情だ。

 

「こちらの子が、何か?」

 

「はい、先程からどうにもポストという局員に会わせろと……」

 

「ポスト……」

 

フェイトは顎に手を当て、少し思考した。

 

すると、その名前に心当たりが出てきた。

 

 

「……ねぇ、あなた?」

 

フェイトは少女と向き合い、ややしゃがむ。

 

「あなたじゃない。リープよ」

 

リープと名乗った少女は腰に手を当てながら、強気の姿勢で構えている。

 

「じゃあリープちゃん。ひょっとしてポストって……ポスト・ブレーメン博士の事かな?」

 

するとリープは首を傾げながら言い放った。

 

「――そうだけど?」

 

「ッ……」

 

瞬間、フェイトの表情に険しさが宿った。

 

そして再び顎に手を当て、少し考えた。

 

 

「――すみません。この子の件、私が預かっていいですか?」

 

「……はい、構いませんけど」

 

そう言う受付嬢に対してフェイトは「ありがとう」笑い返すと、リープがフェイトに詰め寄ってきた。

 

 

「あなた……誰なの?」

 

「あ、自己紹介がまだだったね」

 

フェイトは中腰になり、顔を近づけた。

 

 

「――私はフェイト。フェイト・T・ハラオウン執務官だよ」

 

 

 

 

 

 

 

★☆★

 

 

 

 

 

 

 

それからフェイトは戸惑うリープを執務室に招き入れた。

 

部屋を見渡してみると、仕事をしているハズのドアの姿が無い事に気づく。

 

「もう……また逃げて」

 

溜め息を吐くが、一応指示したノルマは片付けてあったようなので、咎めは無しにしよう。

 

オフにしていい、といったのは私だしね。

 

フェイトはリープをソファに促すと、キッチンに向かった。

 

「何かいる?」

 

「……甘いものがいい」

 

それはいいタイミングだ。

 

フェイトは冷蔵庫の前に立ち、取っ手に手をかける。

 

確か昨日なのはからもらったヴィヴィオの棒アイスが……

 

 

「――あれ?」

 

 

無い。

 

あのグレープフルーツ味の、アイスが。

 

 

「……まさか」

 

フェイトは眉を潜めながら、キッチンのダストボックスを見た。

 

見ると、粗末に捨てられたアイスのビニールが無造作に詰めてあった。

 

「……もう、少しは気をつかってほしいな」

 

あの憎たらしい笑みを浮かべるドアを想像しながら、フェイトは乱暴に冷蔵庫の扉を閉めた。

 

 

フェイトは仕方なく、先程買ってきた加糖コーヒーをリープの前に出した。

 

「これでいいかな?」

 

「――まぁいいわ」

 

リープは不満げに顎を上げ、フェイトはまた頭を抱えた。

 

――ずいぶんと高飛車な態度の子供もいたもんだ……

 

フェイトは向かいのソファに腰掛け、話を聞く体制を作った。

 

「――ところで、今日は何をしにここに来たのかな?」

 

リープは口をつけたコーヒーを置き、落ち着いた様子で答えた。

 

 

「――ポストおじさんに会いに来たの。ここに来れば会えるって聞いて」

 

「ポスト、おじさん……」

 

フェイトは更に顔を険しくさせた。

 

「ポストさんは、あなたの家族が何か?」

 

「家族じゃないけど……家族と同じかな? だって私が子供の時にずっと面倒を見ててくれたもん」

 

今だって十分子供だよ。と内心フェイトは思う。

 

 

「――じゃあ、大切な人なんだね」

 

「……まぁ、そうかな」

 

リープは照れながら、目線を逸らす。

 

どうやら、悪い子ではなさそうだ。

 

そして、事情はやや掴めた。

 

 

――だからこそ、この事実を伝えるのが苦しい。

 

「あのね、リープ」

 

「?」

 

しかし、言わなければ。

 

 

「そのポストおじさんなんだけどね……」

 

 

「うん」

 

 

リープは加糖コーヒーを掴み、そして……

 

 

 

「――もう、死んじゃったんだよ」

 

 

「――ッ!!?」

 

 

前触れなく、コーヒーを落とした。

 

黒いシミがカーペットに広がり、しかし二人ともそれには見向きもしない。

 

 

しばらく沈黙が続き、リープは歯を震わせながら言葉を絞った。

 

 

「――ど、どういう事?」

 

「正確に言えばね、殺されたの」

 

「だ、誰に……そ、そんなっ!!」

 

「落ち着いて聞いて」

 

フェイトはあくまで冷静な態度でリープを抑えた。

 

――この事は、フェイトもついさっき思い出したのだ。

 

法務を担当する執務官だからこそ、様々な事件に触れる機会がある。

 

コレも、その一つだ。

 

「……ポスト・ブレーメン博士は、研究所で研究を行っていたところを、研究員と一緒に殺されてしまったの……」

 

 

「…………」

 

 

リープは俯きながら、ただ話を聞く。

 

言動から感じてた事だが、どうやら見た目以上にリープは大人のようだ。

 

目の前の現実を受け止め、そして考える許容がある。

 

 

ふと、リープは静かに呟いた。

 

 

「……ょ」

 

「?」

 

 

「……誰が、おじさんを……」

 

 

リープの目から、堪え難い涙が落ちる。

 

この子は、強い。

 

強いて言うなら、なのはに似た強さを持っている。

 

堪え難い現実を受け止めつつ、前に進もうとする。

 

 

そんなリープの様子を見つめながら、フェイトは言った。

 

 

 

 

 

「――犯人は、“ドア・ラファルト”と言う次元犯罪者……だよ」

 

 

 

 

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