魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
まさか、こんな展開になるとは夢にも思わなかったなぁ、とフェイトはヒリヒリする舌を動かしながら思った。
何せシグナムからドアに模擬戦を申し込んだのだ。
いくらバトルマニアの血が流れているとはいえ、こんな突発的に……
「……シグナムとドア、剣VS剣か……」
隣で眼下で行われている模擬戦を観覧席で眺めているクロノは、小さく呟いた。
「というか、いいのかな? 任務前なのに……」
「……まぁフラストレーションを溜められるよりかはいいだろう」
クロノはため息混じりに言った。
どうやら止める気力も無かったらしい。
フェイトはやれやれといった仕種をしながら、ガラス越しに模擬戦の行方を見た。
「……どっちが勝つのかな?」
「普通に考えれば、シグナムだろうな」
クロノと同じく、フェイトも同意見だった。
純粋に魔力値が違うし、まず経験に差がありすぎる。
恐らく、5分もつかもたないか……
「だが、な」
「?」
クロノは眉をひそめながら、腕を組み直した。
「――ドアもそこまで弱くはない」
「…………」
それに関しても、同意見だった。
というより、フェイトは戦闘に関してはドアを高く評価している。
特に対1戦闘に置ける立ち回りなどは、恐らく一朝一夕では身につかないレベルだ。
――たまにだが、その底知れない戦いに身震いがするほどに……
「そうだね……あれだけ動けて、スピードもそれなりだし……」
「……“それなり”?」
クロノのまるで引っ掛かったような物言いに、フェイトは声を落とした。
「クロノ……?」
「そうか、アイツはまだ見せてないんだな……」
「え?」
クロノは眼下で剣を振るうドアに目線を向け、呟いた。
「――ドアの力には、まだもう一段階“上”がある」
「え?」
「だがそれは、両刃の剣でな……あまり褒められた力でもないんだが……」
しかし、純粋に驚いた。
ドアの力は、ストレイジとウィルネスの2ndモードまでしか知らない。
その力の、更に“上”?
まさか、そんなものが……
毒の効かない身体。
並外れた戦闘知識。
そして魔導師ランクに括られない、底知れない戦闘力……
「ドア……」
あなたは……
あなたは一体、何者なの?
★☆★
「らぁッ!!」
「フンッ!!」
振り上げる二刀と下ろされるレヴァンティンが火花を散らし、一瞬の内に互いが距離を取った。
「ハァ……ハァ……」
「…………フゥ」
シグナムは引き絞るように構え、そのタイミングでドアが飛ぶ。
(左右にフェイントを振って……否っ!!)
ドアは振りかぶり、剣を薙ぐ。
「――墜蓮砲ッ!!!」
「ハァッ!!!」
ドアが撃った“落ちる斬撃”を、シグナムは力任せに弾いた。
しかし、猛攻は続く。
「――牙蓮砲ッ!!」
薙いだ剣を更に薙ぎ、アクロバットに斬撃を飛ばす。
シグナムはギリギリで反応し、空気を切り裂く牙蓮砲を受け止める。
その斬撃を斬り伏せたと同時に、ドアは動いた。
「――砕蓮砲ッ!!!」
「ッ!!?」
シグナムに接近し、超至近距離でウィルネスとストレイジをこじ開ける様に振るう。
撃ったのは、“砕く斬撃”。
相手の構えを崩し、隙を作り出す技だ。
シグナムはその意図を肌で感じ、直ぐさま距離を取った。
しかし、ドアは逃さない。
瞬発力で動き、開きそうな距離を縮める。
「くそっ!!」
シグナムはカートリッジをロードし、ありったけの力で地面を砕いた。
「なっ!!?」
粉砕された粉塵と破片が舞い、コンマ数秒視界が閉ざされた。
――そんな僅かな間だが、危ない。
ドアは追うことを止め、背後に飛んだ。
「ハァ……ハァ……」
そんな戦闘の様子を、二人は目を見はって見ていた。
「ドア……凄い」
「シグナム相手に、良く戦うな」
実際見てても、シグナムに余り余裕は感じられない。
――お互いに、ガチの殴り合いだ。
「……思った以上だ。流石だな」
シグナムはやや荒れた息を整える。
「やはり、テスタロッサの補佐なだけはある」
「そりゃ、どーも」
ドアは唾を吐き、呼吸を戻す。
そして、再び構える。
今度は、逆手に……
「?」
シグナムは眉を潜めるが、考える暇を与えたくない。
ドアは腕を引き、足で軸を取った。
「走れ――」
そして、振り抜く。
「――走刄ッ!!!」
ウィルネスが地面を砕き、その瞬間、崩壊が走った。
「なっ……!!?」
“走る斬撃”が地面を砕きながら一直線に突っ走る。
しかし、一直線すぎるのが難点だ。
シグナムはあっさりそれを避け、反撃に出た。
疾風の様な動きの最中、カートリッジをロード。
炎を纏ったレヴァンティンを構え、ドア目掛けて振り抜く。
「ハァッ!!」
ドアはその太刀を受け止め、堪える。
「あんな単純な筋の攻撃が、通ると思ったのか?」
「単純な筋、だぁ?」
ドアはシグナムを……いや、シグナムを見透かして遠くを見るような目で見返した。
「――どこがだ?」
刹那。
「――ッ!!?」
シグナムは、感づいた。
背後から迫る、“走刄”に。
「くぅ……!!?」
シグナムは苦い表情で追り合いを回避し、ギリギリで避ける。
しかし、その隙を見逃さないのがドアだ。
「――紅蓮砲ッ!!!」
赤い魔力で強化された巨大な斬撃を飛ばし、防御もままならないシグナムに向かう。
「チィ……」
シグナムは慣れないバリアを張るが、数秒で砕ける。
魔力が散り、斬撃は留まらない。
――しかし、その“数秒”に価値がある。
シグナムは直ぐさまレヴァンティンを構え、斬撃に向かえ撃った。
そして、カートリッジをロードし……
「――紫電一閃ッ!!!」
魔力で纏った熱斬撃を作りだし、追り合いから瞬く間にそれを斬り裂いた。
真っ二つになった赤い斬撃はバラバラに飛び、壁や天井を勢いよく砕いた。
「――やるねぇ、流石騎士様」
軽口を叩くドアだか、内心冷や汗をかいていた。
紅蓮砲。
それは“今の状態”でのドアの最強の技だ。
それを、カートリッジ一発分の魔力で破られた……
守護騎士・将。
剣の騎士、シグナム。
――強い。
ウィルネスのスピードも、ストレイジのパワーも通じない。
オレに残っている手は……
「――どうやら」
「ッ!!?」
ふと我に帰ると、シグナムがレヴァンティンを水平に構えていた。
「私は本気で、楽しみたくなってきたようだ……」
カートリッジをロードし、薬筴が弾ける。
そして……
「レヴァンティン……シュランゲフォルムだ」
――刹那、レヴァンティンの形状が変化した。
両刃から、連結刃――
それが鞭のようにしなり、シグナムの周りを囲んだ。
(なんだ、あれは……? 連結刃?)
刃の一つ一つがうようよと動いている様子を見る限り、どうやらあの連結刃はシグナムの意思で自由に動かせるようだ。
しかも元の剣からは釣り合わないくらいに、長い。
「……参ったね、こりゃ」
唇を噛み、息を吐いた。
瞬間。
「行くぞっ!!!」
シュランゲフォルムの刃が、蛇のように動いた。
――あんな不規則な動きに合わせるなっ!!!
ドアは右から襲い掛かる刃を受け止め、後ろに流す。
しかし肝心の相手が中距離にいるため、反撃ができない。
「くそ……」
ドアは仕方なく、無理矢理連結刃をいなしながら接近した。
それしか、手が無い。
しかし、シグナムも動く。
「はぁっ!!!」
視界がシグナムを捕らえている間に、背後から迫る連結刃――
「チィっ!!!」
ドアは振り向き、ストレイジで防ぐ。
しかし、それが隙。
「後ろがガラ空きだぞ」
「ッ!!?」
攻撃を防いだその瞬間、背後から重い打撃が襲った。
「ぐぁッ!!?」
シグナムが肘打ちを食らわしたのだ。
ドアは歯を食いしばりながら、体制を立て直す。
しかし、その間すら攻撃を緩めない。
シグナムはカートリッジをロードし、やや柄を引く。
――そして、ありったけの力で振るった。
「――飛竜、一閃ッ!!!」
刹那、連結刃を炎を纏った魔力が包み、凄まじい速度でドアに迫った。
正に、砲撃級の威力。
ドアは腕を引き絞り、再び真っ赤な魔力刃をストレイジに纏わせた。
そして、振り抜く。
「――紅蓮砲ッ!!!」
真っ赤な斬撃が飛び、飛竜一閃とぶつかる。
しかし、威力が段違いだった。
少しの間格闘したが、飛竜一閃が紅蓮砲の斬撃を食い破るようにバラバラにした。
――そして、ドアに向かう。
攻撃をして防御の手段を失ったドアにできる事は、ひたすらに自身を魔力で覆う事。
しかしそれすらも虚しく思える程の威力の一閃が、ドアを襲った。
「がッ……!!!?」
地面ごと周囲を焼き切るその一閃は、五体を吹っ飛ばし、壁にたたき付けた。
爆発痕のような焼け跡が残り、その威力をまざまざと見せ付けられる。
ドアはかろうじて立ち上がるが、すでに虫の息だった。
「――ここまで、か」
そう呟いたクロノを、フェイトは切なげな瞳で見た。
「…………」
――一方、シグナムは。
「降参は、しないのか?」
「ハァ……ハァ……」
一時的に連結刃を戻し、しかし隙の無い立ち回りでドアに問う。
「……へ、へへ……」
すでに多大なダメージを負ってるにも関わらず、ドアは笑う。
そしてその薄ら笑いのまま、口元を動かした。
「――ここで屈したら、男に生まれた意味が無いだろうが。覚えときな、嬢ちゃん」
「そうか……」
シグナムはそっと目を伏せ、レヴァンティンを構えた。
「――なら、気絶してもらうしかないな」
連結刃を再び展開させ、真っ直ぐに構える。
「…………」
ドアは両剣を力無く構え、すでに短い息を繋ぐ。
(……これだけは、やりたくなかったがな)
ドアはストレイジとウィルネスを逆手に構え、腰を低く落とす。
そして四股を踏むかの様に両足を構え、息を殺す。
「…………?」
その奇妙な構えに、シグナムは首を傾げた。
見たことの無い、構え。
何かの技か?
シグナムがそう考えを巡らせていた……
その、瞬間だった。
ドアと、目があった。
「――ッ!!!!?」
シグナムの背筋に、言い知れない悪寒が走った。
全身の毛穴が死滅したかのような、嫌な寒気。
まるで触れてはいけないモノに触れたかのような……生存本能に直に問い掛けるアラート。
――ドアの目は、今までに見た事ない程に冷たく、何かを見据えていた。
シグナムは、それは“命”を見据えいるように見えて仕方なかった。
――その悪寒は、遠くにいたフェイト達にも届いていた。
「――何、コレ?」
フェイトはつい、我が身を摩る。
あんな表情のドアを、見たことがない。
「…………」
何故すでに虫の息であるはずのドアに、ここまでプレッシャーをかけられるのかはわからない。
たが、マズイ。
何が起こるかは、わからない。
しかし、確実にマズイ。
それだけは、直感から理解できた。
シグナムは本能的に、ドアに向けて連結刃を振るった。
出る杭は、打つっ!!!
しかし、その連結刃を見据えながら、ドアは両剣を僅かに動かした。
「――3rdモード、……」
「待てっ!!!!」
正に、その時だった。
――クロノがガラスをブチ破って、勢いよく介入してきたのだ。
「ッ!!?」
ドアも、シグナムも、クロノの介入に目を見張る。
しかし、クロノは止まらなかった。
「模擬戦は中止だ。結果は引き分け。これでお開きだ」
「なッ……!!?」
「クロノっ!!?」
シグナムは声を詰まらせ、フェイトは驚いたように叫ぶ。
――しかしドアは、微動だにしなかった。
「ハァ……ハァ……」
ドアは膝を付き、デバイスを待機状態に戻す。
そんなドアに、クロノは静かに近づいた。
「ドア……」
「ハァ……ハァ……」
今だに息が荒れるドアに、クロノは――
「君は……今、何しようとした?」
「……さぁ、な」
「とぼけるなっ!!!」
クロノの滅多に無い怒声が響き、周囲は萎縮する。
「君は、今、間違いなく、シグナムを殺そうとしたっ!!!」
「っ!!!?」
その台詞に、シグナムは瞳に驚愕を宿らせた。
もちろん、フェイトも……
「君の3rdモードは、君も、敵も、全てを壊すんだ。それを、君は仲間に向けようとしたんだぞ」
「…………」
ドアは罰の悪そうな表情で息を吐き、そのまま床に横たわった。
「…………」
しばらくして、ドアは口を開いた。
「…………すまないな。熱くなりすぎた」
「……そうか」
まるで冷水をぶっかけたように、クロノは直ぐに強張った表情を直した。
「……なら、いい」
クロノは踵を返し、シグナムに向かい合う。
「すまない。邪魔をした」
「……いや、いい」
いつもと違い、シグナムは冴えない表情でただ頷いた。
正直、シグナムもホッとしていた。
――あの得体の知れない、恐怖の正体。
それを知ることなく、事無きを得れた。
「――また別の機会に、頼もう」
「そうしてやってくれ」
それだけを言い、クロノはフェイトの元へヒラリと飛んだ。
「…………」
今だに言葉の見つからないフェイトに、クロノは囁いた。
「――ドアを、頼んだ」
「ッ!!?」
クロノは疲れを抜くように息を落とし、その場から去っていった。
「…………」
フェイトは、揺らいでいた。
それと同時に、クロノの言葉が蘇ってきた。
(――『アイツは減らず口いい加減だが、いい奴だ』――)
リプロードの捕縛任務の時に語った、あの言葉。
(――『だからアイツの“何を知っても”』――)
――その言葉は、強くフェイトの揺らぐ心を叩いた。
(――『拒絶だけは、してやるなよ』――)
★☆★
――場所は変わり、某所。
「……くそっ!!!」
投げやりな悪態が響く空間。
そこは、西洋を思わせる宮殿。
アカデミックな魔法学校のような造りの廊下を、一人の男が歩いていた。
――そいつはフーレ・オルトス。
リプロードのプロトクルス。“第4の実験体”。
フーレは頭を引っ掻き回しながら、目の前の巨大な扉を蹴破った。
そこは、かなり広い空間。
大会場の如く広いその場所は、まるで清潔感そのもの。
質のいい絨毯に、骨董的な価値を感じる随所の装飾。
そしてフーレから真っ正面には、まさしく“王座”と呼ぶに相応しい、豪華絢爛の椅子。
そこに、とある女性が座っていた。
「……もう少し優しく開けてくださらないかしら」
「緊急事態だっ!!!」
王座に礼儀よく腰かけたその女性は、紫色のウェーブがかかったロングヘアーを垂らし、薄い生地の柔らかいドレスを着ていた。
気品のある顔立ちで、美しいの代名詞ととっても差し支え無いだろう。
「それで、どうなさったのかしら?」
おっとりした口調で、女性は言う。
「……ゼクロスがいやがらねぇ……あの野郎、どこ行きやがったっ!!?」
「……多分、外じゃないですか?」
「ああ、だろうなっ!!」
「あらあら……」
「あらあら、て……」
フーレは頭を更に引っ掻き、ため息をついた。
「あのなリエーラ……コレは一大事なんだよ。わかるか?」
「わかりますよ~、それくらい」
リエーラはニコニコしながら、平然と言った。
「――ゼクロスさんが、勝手に管理局を皆殺しにしちゃうって事、ですよね~」
「……そうだ」
フーレはその場に座り、胡座をかく。
「一応オレ達はアイツの指示を受けてアプリスで動く為に来たんだ。なのにアイツがいなきゃ動けねぇよ」
「あらあら……」
「……もういい」
フーレはダランと横たわり、天井を仰いだ。
「それで、どうするんですか~?」
「どうしようもねぇよ。ゼクロスが動いたってんなら、もう手遅れだ。事後処理が忙しくなる」
「それは、大変ですね~」
フーレは目尻を掻き、投げるように呟いた。
「――どっちにしろ、管理局の連中がアプリスの地を踏むことはねぇよ」