魔法少女リリカルなのは -Crime seeker- 作:鹿丸
執務室。
「――随分と、荒っぽい経歴だね」
「昔はやんちゃしてましたからね」
俺は天を仰ぎながら、あのクソ兄貴にありったけの呪詛を送った。今度本気で殴ってやらなきゃ気が済まない。
フェイトが今手にしているのは、俺の偽造の経歴書だ。
ただそれの偽造をクロノに任せたのがいけなかった。
大雑把にしか俺は聞いてなかったが、俺が機動四課時代に数人の女性とアレコレやらかして裁判沙汰になった事は聞いてもいない事だ。
てか、めちゃくちゃだろコレ。なんでこんな事が経歴書に乗るのクロノくん?
大方、ヘリをブチ落とした囁かな復讐だろうが、今の状況を見ればそれがいかに愚かか奴は理解するだろう。
つかそもそもアレは俺のせいじゃねぇし。
――そんなこんなで、俺は今自分より4つ年が下の美人の上司から軽蔑の篭った目で見られている真っ最中だ。
「――ケリウスくんの勤務態度を矯正してあげるよう兄から言われてるから、覚悟しといてね」
「余計な事を……」
「何か言った?」
「いや、ナンデモ」
ジト目で射抜かれる。耳がいいな、畜生。
「それはそうと、お願いがある」
「? 何かな?」
「ケリウスくんと呼ぶのは勘弁してもらいたい。なんか、気恥ずかしい」
「じゃあ何て呼べば?」
「ドア、もしくはドアちゃんで」
「ドア、早速仕事の内容だけど……」
一考くらいしろよ。失礼な。
俺は首の骨を鳴らし、応接様のソファに腰掛けた。
「私が今追い掛けてる事件は、質量兵器の密輸。それに関わっている組織について」
「あ~……ミッドにいるアレか」
来る前にクロノから聞いた。
「そう。実際に動いているのは私の兄の艦隊とその系列の部隊、そして私達なの。でも中々尻尾どころか影も見せない」
「組織の末端すら見えないのか」
「見つけても、直ぐにラインを絶たれるの。だから情報が入らない」
利用しただけ利用して、ヤバくなったら組織から切られるって事か。
「でも最近になって、やっと一つ手がかりを得た」
「ほぅ」
初耳だ。クロノも知らないのか?
「今から3日後に、とある場所で組織が質量兵器の実験を行うという情報が入ったの」
「随分急だな。それで?」
「私達を含め、別動隊と合流、その後一気に捕縛っていう手筈だよ」
「ふ~ん……」
何やら、随分簡単に済みそうだ。
まぁ質量兵器自体、管理局側からすればそれは確実に脅威だ。
簡単とはいえ、あまり荷の軽い仕事ではない。
「まぁ、そんなところかな」
「あい、わかった」
俺はソファから立ち上がり、執務室の窓からミッドの景色を見つめた。
「仕事の話は以上だよ」
「仕事の話は終わったが、まだ俺の身の上を聞いてない」
「……そうだったね」
フェイトは忘れてたらしく、頭を抱えながら喋りだす。
「ドアの部屋はあっちの扉」
フェイトが指差す先には、確かに扉がある。後で荷物を送っとく必要がありそうだ。
「お隣りの様だな」
「……夜は鍵閉めとくからね」
「心配すんな。ガキには興味ない」
なんて言うと、後ろからティッシュの箱が飛んできた。
「……それはそのティッシュで自慰でもしてろというメッセージか?」
なんて言ったら、今度は真っ赤な顔をして分厚い本を投げてきやがった。
うん、普通に痛い。
「まぁそれはいいとして、俺の勤務時間は?」
「基本的には24時間だよ」
「……はぁ?」
ふざけるな。オールて何だよそれ。
「毎日何時何処で事件が起こるかわからないし、法務や事務仕事もたくさんあるの。だから随時この部屋で待機」
「そんなことまで執務官ってやつはやるのか?」
「どんなイメージで執務官になりたいのかは知らないけど、戦闘寄りの仕事は少なめだと思っててね。基本的には指揮したりすることが多いから」
「あ、そ……」
俺は頭を抱え、中央の黒いソファに身を投げた。
「……監獄のがマシな気がしてきた……」
「え?」
「いや、こっちの話」
口が滑った。気をつけよ。
――にしても、アイツも何を考えてるのか……?
いくら親友とはいえ、俺の死刑の罪を消し去り、あまつさえ妹と行動を共にさせるとは……
しかも、今担いでいるヤマはもうすぐ終結、ときた。
こんな状況では、明らかに俺は不要だ。
本当に、何を考えてるんだ……?
それとも、まだ何か……
「ドアは、何で機動四課を離れたの?」
「?」
途端、フェイトが質問してきた。
離れた理由? そんなのはない。だっていたことすらないのだから。
「執務官になりたいから」
「……じゃあ、何で執務官になりたいの?」
「なりたいもんはなりたいんだよ」
嘘、理由なんてない。
「そっちは……あ、いや、大事な事を聞き忘れていた。俺は何て呼べばいい?」
「好きにいいよ。なんなら呼び捨てでもいいし」
「ならテスタロッサちゃんかハラオウン様で」
フェイトは何やら気持ちの悪い物を口にした表情をした。
「いや、フェイト。なら何でフェイトは執務官になったんだ?」
「……クロノがそうだったから、かな」
つまりあの兄貴に憧れたってとこか。可哀相に。
「……何か失礼な事考えてなかった?」
「気のせいだ」
エスパーかコイツ?
とりあえず俺は大胆の事は把握した。
把握した後、俺はこれからの事を考えていた。
この事件が終われば、俺は自由の身だ。
そのあとは、どうするか……
“あいつら”を探しにいくのか?
それとも……?
その瞬間、部屋中にけたたましいアラームがなった。思わず耳を塞ぎたくなる程の。
「もっと優しい音色はないのか? オルゴールとかオススメだぞ」
「それじゃ夜はたたき起こしてくれないよっ!!」
フェイトは急いでデバイスを取り出し、バリアジャケットを纏う。
「仕事が速いね」
「どうも、ドアは?」
「ジャケット無しでも飛べるんで心配なく」
そう、といいフェイトは執務室の巨大な窓を開閉するスイッチを入れた。
窓は直ぐさま空き、オレとフェイトはミッドの空へと飛び出した。
☆★☆
「現場は?」
《中央区のアメトリス銀行です》
「なんだ強盗か? せちがらいなオイ」
《犯人は確認できるだけで最低5人、その全員が質量兵器を保持しています》
「っ!!」
「どうやら3日待つまでもなかったようだな」
その後、相互に情報を入れ合いながら、俺とフェイトは現場に着いた。
状況は普通に面倒そうだった。
犯人が質量兵器を保持しているからか、こちら側は相応の距離を取らざるを得ない。
取り囲むように駐車された車の近くに着地し、フェイトは現場の捜査官に話し掛けた。
「執務官のフェイト・T・ハラオウンです。状況は?」
「執務官殿ですかっ!!」
捜査官は畏まった様子で敬礼し、状況を説明しだした。
「犯人は約5名。その内数名が質量兵器を保持しており、中には数名の人質が……」
なるほど、典型的だ。
「質量兵器の概要は?」
「今確認出来ているのはオートマチック拳銃、機関式のライフル。それに手榴弾の類です」
「爆発物かよ、面倒だな」
ヘタにピンを抜かれれば、犯人もろとも人質も吹っ飛ぶ。
「犯人からの要求は?」
「逃走用のヘリを……」
俺はふと、銀行の様子を見た。
この距離からでも、犯人がいるのが見える。
あまり興奮はしていないようで、直ぐに修羅場というわけではなさそうだ。
だが、面倒な状況に変わりはない。
さて、どうしたもんか……
……ん?
あれは……
「今、突入の準備をしています」
「突入っ!!?」
捜査官の言葉に、フェイトが声を荒げる。
「銀行の裏口から魔導士を数名突入させて、一気に犯人を確保……」
「そんな……判断を誤れば人質が危険にっ!!」
「しかし、それしか……」
「なぁ、フェイト」
「?」
俺はフェイトの肩を叩き、あるものを指差した。
「アレ、使えねぇか?」