1話
世界総人口の約8割が超常能力“個性”を持つ超人社会。『個性』を悪用する敵(ヴィラン)を『個性』を発揮して取り締まるヒーローは人々に讃えられていた。
僕の名前は白井 黒。僕には『個性』というものが無かった。両親は二人ともプロヒーローであり我が子にも個性があるものだと信じていたのだが僕に『個性』が無いと知った両親は僕に無関心になった。しかし僕はそれに悲観する事も楽観する事もなくただ毎日を過ごしていた。
中学一年生のある日の帰り道。なんとなく駅前を歩いていたら私はヴィランに捕まってしまい人質となってしまった。ヴィランは数十人おり、その一人は僕にナイフを向けていた。その時僕はあまり焦りなどもなくどうでも良いと感じていた。ヒーローの到着も遅れており周りは野次馬だらけだ。誰も助けようとはしない。それもそうだ。どうせヒーローの誰かが助けにくる。野次馬にはそんな事を思っていて助けようとはしない。
そんな時、男性が一人こちらに向かって歩いて来た。特徴的な牛の角のような髪型。腰には細いサーベルのような物をぶら下げていた。
それに気づいたヴィランの一人は男性をあしらうかのように手を近づけた。次の瞬間、男性はそのヴィランの腕をサーベルで切り落とした。痛みに絶叫するヴィランの喉を切り裂き絶命させた。これにはヴィラン達も驚きを隠せない。男性は近くに居たヴィランの懐に飛び込み首を切り落とした。この光景に野次馬はその場から一目散に逃げ去っていた。ヴィラン達も様々な『個性』で応戦するも男性は的確に急所を狙い切り落とし、切り裂き、切り刻み、数分もせずに僕と僕を人質にしているヴィランと男性の三人だけになっていた。男性はこちらに近づこうとしたがヴィランは静止するよう言っていた。しかし止まる気配もしなくヴィランは僕の首めがけてナイフを刺そうとした。ナイフは私の首には届かず男性の持っていたサーベルがヴィランの頭に突き刺さっていた。こうして数十人いたヴィランは男性によって倒されていた。辺りは血だらけで数十の死体が転がっている。私も血だらけである。男性は私の目線に跪いて
「大丈夫かね、少年」
そう声をかけられた。僕は頷いていた。僕の顔に付いていた血を手で拭って
「そうか、しかしキミはあの状況でよく動じなかったね。では私はこれで……」
この人はどこかに行ってしまう。僕はどうしても一つだけ聞きたい事があった。
「あ、あの!!」
「うん? 何かね?」
「ど、どうしたらアナタのような人になれますか?」
「私にかね?」
「ぼ、僕はこれまでなんとなくで生活していて、何が良いとか悪いとか考えた事もなくて。どうしたらアナタのようになれますか?」
男性はこちらをジッと見つめた。見つめられると少し萎縮してしまう。
「……うむ。そういうことはあまり考えたことはなかったんだが……。考えてみようか」
少し考えた後、鞘に使っていないしまったサーベルを手をかけ鞘から刃を、居合いのように抜き空を切った。
「私の信条を言うならば『正しいことをただ正しく行う』だ」
「正しいことを……ただ正しく」
「そう。私はこれに基づいて行動している」
その言葉に僕の中で何かがはじけた。こんな考え方があるんだ。
「……ぼ、僕もなれますか?」
「なに?」
「アナタみたいになれますか?」
「私のようにかね?」
「は、はい」
「うむ……。そうだね、キミがしたいと思うなら、それは頑張るんだな」
そう言われて嬉しかったが僕は悩んでしまった。
「キミはコロコロと表情が変わるんだね。どうしたんだね?」
「え、えっと、実は僕には『個性』というのは無くて……」
「そうか、私もそのような力は無い」
「えっ!?」
「私は殺すという技を持っているだけだ」
「……殺す」
「……そうだな時間はあるかね?」
「は、はい!!」
「では移動しよう。そろそろここに人が集まってくる」
私たちはこの場所を後にした。暫くして警察やヒーローが集まりその凄惨な現場を目撃する事となる。
私は彼の後ろについて歩いていった。どこに向かうのだろうと思っていると彼は立ち止まった。そこは誰もヴィランですら近づかない曰く付きのお屋敷だ。このお屋敷は夜中入った者もしくは近くを通った者はは必ず気絶もしくは重傷になって近くの通りに捨てられている。彼は中に入って行き私もついていった。
外見よりは中は古くはなく人が住めるようにはなっているみたいだ。私がキョロキョロしていると彼は
「どうしたのかね? 変わったとこでもあるのかね」
「い、いえ。なんでもありません」
「うむ、そうか? では少しそこで待っていたまえ」
「は、はい」
彼は奥の部屋へ行っていき私は周囲を見渡した。よく見ると使っている部屋と使っていない部屋がある。使っていない部屋は埃や蜘蛛の巣とかがかかっている。そんな事を考えていると彼は戻ってきた。その手には大きな剣を持っていた。それを私に渡した。
「私はあまり人に教授することはしたこと無かったのだが……」
「え、えっと」
「とりあえずその剣をとりたまえ」
「は、はい」
私が剣を持った。しかし思っていたより重かったが両手で持つことができた。
「それを一度振ってみたまえ」
僕は思い思いに剣を振ってみた。イメージは剣道のように振った。それを見て彼は
「なるほど。キミには剣の才能は無さそうだな。………今のままでは」
才能が無いとズバッと言ってのけた。剣を落としそうになるくらい。彼は続けた
「聞こえなかったのか? 今のままではと言ったのだ。そうだな……これから一年間で教えてあげよう」
こうして僕は彼の技を教えてもらうことになった。……そういえば聞いていなかった事があった。
「アナタの名前はなんですか? 僕の名前は白井 黒」
「そうか、名乗ってなかったか。私は……」
丑の戦士『ただ殺す』失井
※※※※※※
彼はサーベルを持ち構えた
「さぁ、キミも構えたまえ」
「えっ?」
「どうしたのかね? こういう教えとは実戦が一番だろう?」
彼はそう言うと僕の首めがけて切りかかってきた。いきなりの事で僕は目を瞑ってしまった。しかし痛みは来なかった。彼はため息をついて
「何をしているんだね。寸止めに決まっているだろう。これだとキミは一回死んでいるよ」
「はい?」
「キミは私を殺すつもりで来たまえ。私の動きをよく見るんだ」
見るっていっても速すぎて目では追いつけない。彼に当てようにも当たらない。
※※※※※※
最終的に三時間やったが彼に一回も当てることはなくそれでいて息切れだ。対して彼は平然としていた。
「この三時間でキミは何百回死んだんだね」
「ハァ、ハァ。そ、そう言われても……」
「うむ……。この教え方はキミにはまだ早かったのか……」
そりゃあそうだろう。剣なんて一度も持ったことも振ったことも無い。それで彼を当てようなんて出来る訳がない。
「まぁ、徐々に慣れていくだろう。さぁ、もう一度構えたまえ。今度は先ほどよりゆっくり切りかかるとしよう」
「は、はい!!」
夜になるまでずっと彼と模擬戦という名の一方的な攻撃を受け続け終わる頃には僕は一歩も動けなかった。
「うむ。では今日はこれくらいにしておこう」
「……は、はい」
僕はゆっくりと起き上がった。フラフラな僕に彼は思い出したかのように付け加えた。
「そうだ。キミは筋力とかのそういうのも足りないから頑張るように」
「えっと、具体的には?」
「うん? そういうのはキミで考えたまえ。私は技術を教えるだけだ。そういう基礎は自分で行うんだな」
「はぁ……分かりました」
「……そうだな。アドバイスするなら自分の得意な部分を伸ばしてみるんだな」
「得意な部分……。何なんですか、僕の得意な部分とは」
「それはキミが見つけるんだな。また明日ここで待っているぞ」
「わ、分かりました」
今日のとこは僕は家に帰る事にした。今日という日は今まで生きてた中で一番印象的だった。彼に出会って僕という歯車が回り始めたと思った。これから頑張っていこう。そう思いながら帰路についた。