この作品は『窓付きが異世界から来るそうですよ?』のリメイク作品です。リメイクをすることにした最も大きな理由は、時間を置きすぎて筆者が展開を忘れてしまったこと。及び、ゆめにっきの新作『YUMENIKKI -DREAM DIARY-』の存在によるところが主となります。
前作と比べて展開の変化等は当然出てくるでしょうし、独自解釈の酷い箇所も出てくると思われます。
この注意を見ても尚、見てくださる方がいれば、幸いです。では、どうぞ閲覧ください。
……声が遠く感じる。
「――! 死んじゃやだよ、――!」
ああ……――の声が、遠い。
「――、お願い。目を開けてよぉ、お願いだから……」
「もう悪戯しないようにするよ、良い子でいるよ……だから、死なないでぇ……!」
既に目を開けることすらできず、身体を動かそうとしても言うことをきかずピクリとも反応しない。
私の人生は、これで終わりなのだろう。
「――!」
「起きてよ、――!」
……サヨウナラ、――達。
「――母さん!」
――愛娘達、私の分まで幸せに生きてね。
2
1
目が開く。
「……? 私、は……」
此所は……何処かのマンションの、ベランダだろうか? 何処かで見たことのあるような――思い出せない。
「死んだはず、じゃ……?」
戸惑いつつ、ベランダから部屋に入ってみる。
目に飛び込んできたものは、確かに見覚えのある――忘れることのできないモノであった。
人間の生皮を剥いで繋ぎ併せたような、妙に生々しい図案の絨毯。
やけに古めかしいブラウン管のTV。
部屋の大きさと比較するとやけに多い座布団。
埃が降り積もっていて、本の題名も判読できないが、それでも綺麗に本が配置された書架。
取り調べ室にあるような簡素な机。
真っ白で誰も使ってないかのような、柔らかそうなベッド。
そして、部屋の奥にある地味な意匠の扉。
――私は、この光景を知っていた。
「……夢だ」
私が幼い頃、とあるアパートの一室で暮らしていた時に見た夢――そして、私だけの世界。
「……ああ、夢だとも。そして、現実だ」
扉の先から、声がかかる。私がそちらを向くと、扉はギィ……と軋むような音をたてて開かれる。
現れたのは、人型。細かい造作が余りにも適当になっているものの、男性だと思わしきモノ。
顔には昆虫の複眼のように硬質的な目が二つあるだけで口も鼻も耳も存在せず、頭部にはのっぺりとした髪の毛らしきもの。体も単色の黒で軟体動物のような光沢があった。
そして彼は、私にとって懐かしき人物だった。
「……先、生?」
「久し振りだね、■■■■……いや、窓付きと呼ぼうか。君は今年で何歳になったんだったかな?」
「……97、です」
「だったら……85年振り、なのかな? 随分な大往生だったようだね。さて、お茶でも出そうか」
そう言いながら、先生は何処からともなくティーカップとティーポットを出し、お茶を淹れてくれる。紅茶の心安らぐ香りが部屋に充満するのを感じ取りながら、私は座布団に座って先生が話すことを待った。
「何から話そうか……うん、まず君は確かに死んだ。病室で5人の娘達に囲まれて、老衰だ」
「それは、分かってます……でも」
「うん。此所は君の知っている通りの場所、夢の世界で間違いないよ。そうだね……これは、誤算だったんだ」
「……誤算?」
「君が夢を踏破してから85年、夢を見なくなってからだと80年。これだけの時間がズレてしまっていたんだ……本来は、その当時の君が召喚されるはずだった」
時間のズレ……それに、召喚? 全く話が見えてこない。詳しく説明を求めようとすると、先生が両手で私を遮った。
「本来は若き頃の君が、この夢世界での
「でも、それを何で今教え……あっ」
時間のズレ――つまり、事象の消滅ではなく移動、後回し。それを今告げたと言うことは、
「老衰で亡くなった君は、命を失った今頃になって召喚されることとなった。それは、本当に大きな誤算だったんだ……すまない」
「で、でも、私は死んでいるから」
「夢の世界の君は生きている。だから、召喚できたんだ……これは、私からの謝意のようなものだと考えてくれ」
先生の言葉と共に、扉が勢いよく開き放たれ、光の奔流が襲いかかってくる。私は、それを避けることもできずに、ただ呑み込まれた。
「――さあ、彼女達の意思を継いで行ってきてくれ。大丈夫、私は何時でも
『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。
その才能を試すことを望むのならば、
己の家族を、友人を、財産を、
世界の全てを捨て、
我らの"箱庭"に来られたし』
「わっ」
「きゃ!」
「!?」
視界は間を置かずに開く。
そこは雲の上、気付けば上空4000mほどの位置に投げ出されていたのだった。
「ど……何処だここ!?」
眼前に広がる地平線は、世界の果てを彷彿とさせる断崖絶壁。眼下には縮尺を見紛うほど巨大な天幕に覆われた未知の都市。
そこは――完全無欠に異世界だった。