古の魔法使い   作:ジャッキー007

2 / 6
月下の出会い

草木も寝静まる夜中…街と『其処』を繋ぐ大きな橋に、二人の男が立っていた。

所々を紅い模様が彩る外套を纏い、フードを目深に被っている彼らは、じっと眼前に広がる『其処』の町並みを見つめ…いや、睨んでいる。

「此所か…」

一人の男が口を開く。

フードの奥から聞こえてきたのは、変声期を迎えた少年の声。

少年は、包帯の巻かれた右手を握りしめ、小さく息を吐いた。

「あぁ、此所が麻帆良学園だ」

返すように呟いたのは、少年と同じ外套を纏った男。

少年に対して、彼の声は壮年の男性を感じさせる低く、だが聞いているものに安心感を与えるような声だ。

彼は、ポケットから小さな箱を取り出すと、中から一本の煙草を取り出して口に咥える。

シュッ、とライターの鑢が火打石(フリント)を摩擦する音がした後、燻された煙草の煙が風に漂った。

それを機に、二人は目の前の街…麻帆良学園都市へと歩いていく。

二人を見守るのは、頭上に昇る満月。

だが…地面に伸びる二つの影

少年の右腕の影が、怪しく蠢いていた。

 

 

 

 

 

麻帆良学園都市

幼稚園、保育園から大学まで、数多くの教育機関が密集し一つの都市を形成するこの街は二つの顔を持つ。

一つは前述した教育機関として。此処に通っている生徒と教員、その他関係者だけで東京都の人口の倍はあるだろう。

そして、もう一つ…。

それは、魔法使いとその関係者を管理する組織『関東魔術協会』の総本山だ。

この学園都市にも数多くの魔法使いや関係者が居り、図書館島と呼ばれる巨大図書館に保管されている貴重な魔導書や、強大な力を秘めながらもそれを知らずに暮らす人々を護り続けている。

そんな街の一角に広がる森に、鋼同士が激しくぶつかり合う音が響き合う。

音の中心に居るのは二人の人影

一人は15にも満たない年端もいかぬ少女だった。

名は桜咲刹那。麻帆良学園女子中等部に通う中学生である。

肩まで伸びた黒髪を片側で結んだ刹那は、その場に似合わない学生服を纏っている。

更には、彼女が持つ得物…それが、刹那の異彩さを際立たせている。

手にしているのは、己の身長にも届きそうな長さの野太刀。

同年代の少年少女なら、振り回すのもやっとであろう代物を、事も有ろうか刹那は片手で振り回している。

それは皆、少女が長い間研鑽を重ね培った技量と、師に教わった術による賜物だ。

対するもう一人…否、それは人として数えるには異質すぎた。

体躯は成人男性の一回りは大きく、その身体を分厚い筋肉の鎧が覆っている。

身に纏っているものと言っても、腰周りを隠す腰蓑だけ。

更に眼を引くのは、それの頭に生えた二本の『角』。

その姿は、まさに絵本や昔話に登場する鬼。

少女は、鬼と刃を交えていた。

少女がヒュン、と刃を振るえば、鬼が轟、と手にした金棒を振るう。

そのやり取りが、何度も森の中で繰り広げられていた。

「くっ…」

互いの得物がぶつかり合い、弾かれた時、刹那が苦悶の声を上げる。

彼女の身体には、至る所に傷が見て取れた。

切り傷や擦り傷、中には皮下出血により痣になっているものまである。

対する鬼にも切り傷が見られるが、気にしている様子は見られない。

それだけ、刹那が相手している鬼が強いという事なのだろう。

肩で息をしながら、刹那は疲弊した身体に鞭打って柄を強く握りしめる。

その眼の奥に諦めや絶望は見えず、有るのは確固たる意思、一つの誓い。

命に代えてでも護ると誓った少女の笑顔。

それが、桜咲刹那を動かす全ての源だった。

目の前に居る鬼…否、鬼を使役する者の目的は、自分が護ると誓った少女だ。

自分が倒れれば、鬼達は少女を連れ去ろうと進軍するだろう。

だからこそ、刹那は倒れられない。

だが…刹那が相手している鬼は、一体では無かった。

彼女を囲むように、無数の鬼が立っている。

刹那が対峙している鬼よりも幾分体躯は小さく痩せているが、その力は常人を越える。

戦場において、数は圧倒的な力となる。

奴らは、刹那が疲弊しきった頃を見計らっているのだ。

一際大きく、刹那と対峙していた鬼が周りの鬼へ目配せした。

それを引き金に、今まで静観に徹していた鬼達が各々得物を掲げ刹那へと襲いかかる。

刹那はそれを迎え撃とうと刃を構える。

しかし、限界は音も無く刹那を襲う。

駆け出そうと踏み込んだ瞬間、膝が体重を支えきれず、前のめりに倒れ込む。

(くそ…っ、私は此所までなのか…?)

霞がかかったようにハッキリとしない意識のなか、刹那は己の未熟さ、無力さに歯噛みする。

立ち上がろうとするが、身体が言う事を聞いてくれず、非情にも刃は刹那へと向かってくる。

(申し訳ありません、お嬢様…)

一人の少女の笑顔を思い浮かべ、悔しさに涙を浮かべながら刹那は死を覚悟し、眼を閉じる。

しかし…少女の耳に入ってきたのは自身の肉を切り、突き刺す音ではなかった。

パパパンッと空気を叩くような乾いた音と、切り裂かれ、肉と血が飛び散る音

そして…

『ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』

無数の断末魔。それが、刹那の耳に届いた。

援軍が間に合ったのか…?

一抹の希望を胸に、刹那は閉じていた眼を開ける。

だが、彼女の瞳に映ったのは黒い外套を纏った見知らぬ二人の人影だった。

片や煙の立ち上る煙草を咥え、ポケットに手を入れている。

そして、もう一人は右手に歪に歪み、切り裂いた鬼のものだろう血液が滴り落ちる斧を持っている。

彼らは、刹那を護るように背を向け、鬼と真正面から向き合っていた。

「貴様ら…何者(なにもん)や」

金棒を持っていた鬼が、眼を鋭く細めながら男達を見る。

「誰って…決まってるだろう?」

斧を持っていた男が、刹那と変わらない年頃だろう少年の声を発しながら、鬼に刃を突きつけ答える。

 

 

 

「『魔法使い』だよ」

 

 

 

此れが、少女…桜咲刹那と、古の魔法使いと呼ばれる少年の出会いである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。