祐「どうも、暁祐です。そういえば、椿って色によって別の花言葉があるんだっけ?」
政実「みたいだね。一応、椿共通の花言葉もあるけど、赤や白、ピンクの色の椿のそれぞれの花言葉は少しずつ違うみたいだね」
祐「なるほどな。さて……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・祐「それでは、第2話をどうぞ」
翌日、窓から射し込む陽の光と雀の
「……え?」
「……何をボーッとしているの? 早く朝御飯を食べて行動を開始するわよ」
「椿……そっか、やっぱり昨夜の事は夢じゃなかったんだな……」
「……当然でしょう? まあ、命を取られるかもしれない貴方からすれば、夢だった方が良かったかもしれないけれど……私にとってはとても重要な事なのよ」
「まあ、そうだよな。椿にとっては、自分の記憶が取り戻せるかどうかなんだもんな」
「その通りよ。さあ、それが分かっているのなら早く朝御飯にしましょう。依頼人である私が言うのもアレだけれど、時間は待ってくれないのだから」
「……だな」
椿のどこか寂しそうな雰囲気を感じながら返事をした後、俺は布団からゆっくりと体を起こした。確かにこれは本来俺には関係の無い事で、本来急かされる筋合いなんてのも無い。けれど、こうして引き受けたからには椿の記憶をしっかりと取り戻してやりたいと思っている。椿自身も霊魂と付喪神の中間のような存在、
まあ、椿的にも頼れるのは今のところ俺くらいだし、いつまで待っていてくれるかは分からないけど、出来る限りの事はしないとな。
昨晩の事を思い出しながら改めてやる気を出した後、俺は朝食の準備をするためにスッと立ち上がった。そしてクルリと椿の方へ振り向いた後、俺は軽く首を傾げながら椿に話し掛けた。
「椿、何か食べられない物ってありそうか?」
「いえ、特には無いと思うけど……まさか私に朝食に混ざれと言うの?」
「ああ、一人で食べるよりは誰かと一緒に食べる方が良いと思ってな。まあ、椿さえ良ければだけどさ」
「……一緒に食べるのは別に良いけれど、こんな中途半端な存在が何かを食べられるとは限らないわよ?」
「確かにそうだけど、とりあえず試してみるだけ良いだろ? 食べられるならそれはそれで良いし、もしダメならその時は俺がその分も食べるからさ」
「……はあ、分かったわ。特にお腹が空く事は無いみたいだけど、せっかくそう言ってくれたわけだし、とりあえず試してみるわ」
「……うん、分かった」
諦めたように溜息をつきながら言う椿に対して微笑みながら答えた後、俺は朝食の準備を始めた。そしてそれから約数十分後、机の上に並べられた朝食を目にすると、椿は「へえ……」と感心した様子で声を上げ、俺の方を見ながら小首を傾げた。
「昨日の夜も思ってたけど、貴方って思ったより料理が出来るのね」
「一人暮らしをする上で、料理を含めた家事の技術は必須だったからな。まだ家にいた頃に母さんに教えてもらいながら色々と練習したり、勉強したりしたんだよ」
「ふーん……」
「さて、それじゃあ早速食べられるか試してみようか。早く食べないと覚めちゃうしさ」
「そうね。それじゃあ――」
「「頂きます」」
二人で声を揃えて食事の挨拶をした後、椿は恐る恐る箸へ手を伸ばし、そのまま指でそっと
……口の中に入れた物が体を擦り抜けたような様子は無い。つまり、椿――禍物は普通の人間と同じように物も持ち上げられるし、食事も出来るって事だな。
禍物について新たに判明した事実をしっかりと頭の中に記憶した後、どことなく嬉しそうに
「椿、久しぶりの食事はどうだ?」
「……悪くないわね。生前と同じように味や食感もしっかりと感じられるみたいだし、お腹は空かないけれど、たまにはこうやって食事をするのも良いかもとは思ったわ」
「そっか、それなら良かったよ」
「……ええ」
椿は嬉しそうに頷きながら答えると、静かに食べ進めていった。そして俺もそんな椿の様子にクスリと笑った後、椿の記憶を取り戻すための体力を付けるため、ゆっくりと食べ始めた。
約一時間後の午前9時頃、朝食の後片付けや外に出るための着替えを済ませた俺は、携帯や財布などを入れた愛用のショルダーバッグを背負い、真剣な表情を浮かべる椿へ声を掛けた。
「さて……それじゃあ行くか、椿」
「ええ。でも、アテはあるの?」
「うーん……今のところ特には無いから、まずは色々な場所に行ってみようかと思ってるよ。俺もこの辺は詳しく無いし、どんな物があるのかを知っておきたいからさ」
「なるほど。確かに何があるのか分からない状態で手掛かりを探し回るよりは、先に色々な場所に行っておいた方が、後で行かなきゃならない場所が出てきた時に楽かもしれないわね」
「だろ? という事で、早速出発したい所なんだけど……」
俺が箪笥の上に置かれたガラスケースの中の日本人形に視線を向けると、椿はそれに続いて視線を向け、「……ああ、そういう事」と納得顔で頷いた。俺の中の懸念材料、それは椿を外に連れて行く際に椿の元となっている日本人形も持って出歩く必要があるかどうかだ。魂の入った器物や付喪神のような存在であれば、基本的に元になった物が近くに無いといけないが、その制約が禍物である椿にも適応されるのかは分からない。そして、もしそうなら俺は日本人形を持ち歩かないといけないのだが、これは正式には俺の持ち物では無いため、勝手に持ち歩くわけにはいかないのだ。
……まあ、大家のミヤさんに話をつければ良いんだろうけど、果たしてミヤさんはこの話を信じてくれるんだろうか……。
軽く腕を組みながらミヤさんにどう話をした物か考えていたその時、「……たぶん、大丈夫だと思うわ」という声で俺は椿の方へ視線を向けた。
「大丈夫って……どういう事だ?」
「今、この人形の事を見ていたんだけれど、人形から私に向かって伸びる白い糸のような物が見えたのよ」
「白い糸のような物……?」
「ええ……確証は無いけれど、たぶんこれは霊力で出来た物で、コレが伸びきるまでの距離ならば、私は出歩けるような気がするの」
「なるほど……」
「まあ、今も言ったように確証があるわけじゃ無いわ。けれど、本当に出歩けるのなら貴方も楽でしょ?」
「そう……だな」
確かに人形を持ち歩かずに椿が出歩けるのならそれに越した事は無いな。別に持ち歩く事は嫌じゃないけれど、ショルダーバッグに入れたらたぶんボロボロになってしまうし、何かの拍子に見られようものなら不審な目で見られる事は間違いないし、そんなのはまっぴら御免だ。
うんうんと頷きながらそんな事を考えた後、俺はショルダーバッグを背負い直しながら椿に声を掛けた。
「よし……それじゃあ行こうか、椿」
「ええ」
そして玄関を開けて椿と一緒に外に出たその瞬間、俺達の目の前に大家のミヤさんが現れ、俺はビクリと体を震わせながら足を止めた。
「ミ、ミヤさん……おはようございます」
「ああ、おはよう。昨夜はどうだった? やっぱり何か出たかい?」
「あ……いえ、特には何も……。ただ、部屋の中に前の住人の忘れ物らしき物があったくらいです……」
「忘れ物……ああ、あの人形か。アレはアタシの私物みたいな物だけど、アンタの好きにして良いよ。別に大切な物ってわけでも無いし、人形を眺める趣味も無いからね」
「あ、はい……分かりました。ありがとうございます」
ミヤさんにお礼の言葉を告げていると、ミヤさんは俺の横に立つ椿の方をチラリと見たが、特にそれについて何か言うでもなく俺の方へ視線を戻した。
「ところで……どこかに出掛ける所だったのかい?」
「はい。せっかくなので、この『椿原市』を少し歩いてみようかと思って……」
「……ああ、なるほど。まあ、この辺りは特に面白い物は無いけどね。強いて言えば、少し歩いた所に城跡公園があるくらいさ」
「城跡公園……ですか?」
「ああ、そうさ。昔、そこには結構立派なお城が建っていたんだが、火事が原因でお城は焼け落ちてしまったんだよ。それで、今は石垣や橋なんかの城があった跡が残った自然公園みたいな感じになり、この辺の住民の憩いの地になってるのさ」
「なるほど、そんな場所が……」
城跡公園か……歴史的な場所なら何かのヒントは得られそうだし、一度行ってみる価値はあるかもな。
ミヤさんの話からそう感じ、俺は城跡公園へ行ってみる事にした後、感謝の気持ちを込めながらミヤさんに頭を下げた。
「教えて頂きありがとうございます、ミヤさん」
「このくらい別に礼を言われる程の事じゃないさ。それじゃあ気をつけていっといで」
「はい、行ってきます」
再びミヤさんに頭を下げた後、俺は椿と一緒に件の城跡公園へ向けてゆっくりと歩き出した。そしてそれからしばらく歩いた頃、「ねえ」と椿が突然俺に声を掛けてきた。
「ん、どうした?」
「あのお婆さん、私の方を一度チラッと見たけど、その後に何も言わなかったのは何でなのかしら?」
「さあ……気のせいだと思ったからじゃないのか? それじゃなかったら、流石に事情くらいは訊くだろうし……」
「そうだと思うけど……あのお婆さんから何か妙な気配は感じたわよ?」
「妙な気配……?」
「ええ……それが何なのかは流石に分からないけど、あのお婆さんが何かを隠してるのは間違いないわね」
「……そっか」
言われてみれば、昨日もあの部屋の話になった時、俺なら大丈夫みたいな事を言ってたよな……。あの時、ミヤさんは何を以て大丈夫だって言ったんだろう……?
椿と並んで歩きながらミヤさんの言葉の真意について考えてみたが、一向にそれらしい答えは思いつかなかったため、俺はその事について考えるのを一度止める事にし、気持ちを椿の記憶を取り戻す方へしっかりと切り替えながら椿に話し掛けた。
「まあ、その事は後にしても良いわけだし、今は椿の記憶を取り戻す事に集中しよう。お互いにとって一番重要なのはそれだからさ」
「……そうね」
真剣な表情で椿が頷きながら答えた後、俺達は春の穏やかな気候の中を並んで歩きながら椿の記憶の手掛かり探しを始めた。
約数時間後の昼頃、コンビニで買った軽食を城跡公園のベンチに座って食べながら俺達は休憩を取っていた。
「うーん……色々と歩いてみたけど、記憶のヒントになりそうな物は見つからないな……」
「……そうね。ここまで歩いても見つからないとなると、生前の私はこの辺りの人間じゃなかったのかもしれないわね」
椿はどこか諦めた様子でそう言うと、哀しそうな表情を浮かべながら小さく溜息をついた。アパートを出発した後、俺達は歩いている内に何か記憶の手掛かりになる物があるかもしれないと思いながらこの城跡公園を含めて様々な場所を巡った。しかし、どこに行ってみても椿の記憶が戻る様子は無く、ただ徒に時間が過ぎていくだけであり、次第に椿の表情は曇っていった。そしてもう一度この城跡公園に戻ってきた頃には、完全に
「まだそうと決まったわけじゃないし、もう少し頑張ってみようぜ? もしかしたらまだ行ってない場所に何か手掛かりが――」
「無駄よ。恐らくこれ以上探したところで、得られる物は何も無い。そもそも始めから手掛かりが何も無いんだもの……」
「椿……」
「私だってこのまま諦めたくは無いわ。でも……この数時間でまだこの街中を探し終えていないという事は、記憶を取り戻せるまでどれくらいの時間を要するかがまったく分からないという事なのよ。そんな状況で見つかるかも分からない物を探すなんてこれ以上はとても……」
そして椿が哀しそうに声を震わせながら俯く中、俺が再びどう声を掛けた物か迷いだしたその時、「ねえ、どうかしたの?」という声が聞こえ、俺は声がした方へ顔を向けた。するとそこにいたのは、不思議そうに首を傾げながら俺の事を見ているオレンジ色のジャージ姿の茶色のポニーテールの女性だった。
「えっと……貴女は?」
「私は
「俺は
「そっかそっか。それで、暁君はこんな所でどうしたの? 何だかスゴく暗い顔してたけど……?」
「……実は――」
俺は内容を少し変えたり隠したりしながら昏上さんに俺が何をしていたのかを話した。そして話を終えると、昏上さんは「なるほどなるほど」と納得顔で頷き、人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「暁君は優しいんだね。出会ったばかりの人のためにそこまで頑張れるなんて」
「いえ、そんな事は無いですよ。けど、このままただ探し続けても何も見つからない気がするので、他に何か方法は無いかと考えていた所なんです」
「探す以外の方法、ねぇ……それなら、図書館に行ってみるのはどうかな?」
「図書館……この近くにあるんですか?」
「うん、ここから数分歩いたところに『椿原市立市民図書館』っていうのがあるよ。あそこならこの辺の歴史の資料なんかもあるし、何か手掛かりになる物があるんじゃないかな?」
「……確かにそうですね。ありがとうございます、昏上さん。これから行ってみますね」
「うん。もし、また何か困った時は遠慮無く訊きに来てね。私はここの近くにある
「はい、分かりました」
「ふふ、良い返事だね。それじゃまたね」
昏上さんが手を振りながら去って行った後、俺はスッとベンチから立ち上がりながら椿に声を掛けた。
「椿、行こう。図書館に行けば、何か分かるかもしれないからさ」
「……分からなかったらどうするのよ? そこに行ったからといって確実に何かが分かるわけじゃないでしょ?」
「確かにそうだな。でも、何も分からないとも限らないだろ?」
「それは……そうだけど」
「まあ、何も見つからなかったらまた探すだけだよ。椿の記憶の手掛かりが見つかるまで俺はずっと付き合うつもりだからさ」
「ずっとって……」
椿は俺の言葉に驚いた様子を見せたが、すぐにクスリと笑うと、とても安心したような笑みを浮かべた。
「そうだったわね。昨晩、半ば脅し気味に私が頼んだのに、貴方は嫌な顔を殆どせずにこうして一緒に探してくれる程の
「はは、そうだな。まあ、今の言葉は取り下げるつもりは無いから、安心してくれて良いぜ?」
「ええ、そうさせてもらうわ。さて……それじゃあ早速行きましょうか?」
「ああ。さっさと行かないと、すぐに日が暮れちゃうしな」
「……ふふ、そうね」
椿が微笑みながら答えた事に安心感を抱き、俺はホッとしながらそれに対して微笑み返した。そして椿がベンチから立ち上がった後、昏上さんが言っていた図書館へ向けてゆっくりと歩き始めた。
政実「第2話、いかがでしたでしょうか」
祐「前回の後書きで大体3話構成って言ってたし、そろそろクライマックスっぽいから次回でこの章は終わりみたいだな」
政実「そうだね。因みに、今回出てきた新キャラはこれからも出てくる予定だよ」
祐「ん、了解。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと、それじゃあそろそろ締めようか」
祐「ああ」
政実・祐「それでは、また次回」