椿「どうも、日本人形の禍物である椿です」
政実「このExtra Storyでは、その章のメインとなる禍物が主人公の話を書いていきます」
椿「なるほど……だから、前書きに参加してるのが祐ではなく私だったのね」
政実「そういう事だね。さてと……それじゃあそろそろ始めていこうか」
椿「ええ」
政実・椿「それでは、始めていきます」
「それじゃあおやすみ、椿」
「ええ、おやすみなさい、祐」
生前の私──『
「……静かな夜ね」
遠くから聞こえてくる車の音などがある以外は、私が『人間』だった頃と同じように静かで穏やかな夜であり、その静寂に私は懐かしさのような物を覚えていた。
「『椿山紅華』としての記憶も戻り、私のこれからについても簡単にだけど決める事も出来た。だから、これで問題は無いはずなのだけど……何なのかしら、この心の引っかかり……というかモヤモヤみたいなのは……」
いや、その正体については何となく察しがついていた。この心のモヤモヤの正体、それは──。
「……まだ『許されていない』から、よね……」
私の話を聞いた祐は私のやり方は良くなかったけれど、その想いは間違ってない。私が日本人形の『
「……そう、『禍物』として生まれ変わった私を除いて……」
だが、考え無しの行動で多くの人の命を奪ってしまった自分の事はやはり許せないし、許されるべきでは無いと思う。私が犯してしまった罪は、それだけ大きな物なのだから。
「……私がこんな事を思っているなんて知ったら、祐はどう言うのかしらね……」
そう独り言ちながら祐ヘ視線を向けると、祐は日中の探索などの疲れからか既に寝息を立てながら穏やかな表情で眠っていた。
「……まったく、幸せそうに眠っちゃって……」
そんな祐の寝顔を見ながらクスリと笑っていたその時、私の頭にふと『ある考え』が浮かんだ。
「……そうだ、せっかくだから私も久し振りに眠ってみようかしら……」
どういう理屈なのかはまだよく分かっていないけれど、どうやら『禍物』になった事で『空腹』や『睡眠欲』といった物が無くなったようで、『禍物』として生まれ変わってから今朝に至るまで私は一切『食事』や『睡眠』といった『人間』にとって必要不可欠な行動を一切とってはいなかった。しかし、今朝祐に誘われて久し振りに食事を取った際、久し振りに感じた食べ物の味や食感、そして『食べる』という事の大切さなどに私は心を打たれており、その事からそれらの行動が『禍物』にとっては必要無いとしても『私』にとっては必要な物だと感じていたのだった。
「……ただ、そんな私がどうやって眠れば良いかだけれど……まあ、流石に祐が眠っているところに潜り込むわけにもいかないし、私の依り代である『あの子』の中に戻ってから『人間』だった時みたいに目を瞑っていれば、いずれは眠っているかもしれないわね」
その方法に確証は無かったが、食事を取った際も『人間』だった時と同じような方法で良かった事から、何となくその方法で良いような気がしていた。そして、早速それを試すべく私は依り代である生前大切にしていた日本人形の中へ戻ると、そのまま静かに目を瞑った。すると、すぐさま意識がスーッと落ちていくような感覚があったため、私は成功を確信しながらそのまま静かに眠りについた。
『ん……』
これは……そうか、私は今夢を見てるのね……。
夢独特のふわふわとした感覚を久し振りに感じながら、私はゆっくりと目を開けた。すると、視界に入ってきたのは、私にとってとても懐かしくもとても信じがたい光景だった。
『え……これってまさか──
そう、目の前にあったのは私が『椿山紅華』だった時に住んでいた城である椿山城だったのだ。これが夢だとは分かっていても私の行いで焼失させてしまった椿山城が目の前にある事に、私は動揺を隠しきれなかった。
『ど、どうして椿山城が夢の中に……』
椿山城が目の前にある事についての『驚き』と『恐怖』、その二つで押し潰されそうになっていたその時、『どうして……ねえ?』という声が聞こえ、私は弾かれたように背後を振り返った。すると、そこには生前の私──『椿山紅華』が怪しい笑みを浮かべながら立っていた。
『私がもう一人……!?』
『ふふ、何を驚いてるのよ? 夢の中なのだから、私がもう一人いたところでおかしい事では無いでしょう? ねえ、椿山紅華──いや、日本人形の『禍物』である『椿』?』
『くっ……確かにそうだけど、私が知りたいのはそういう事じゃない! 私が知りたいのは、貴女が私の前に姿を現したその理由よ!』
『理由、ねえ……そんなの自分が一番よく知ってるはずでしょう?』
『な、何の事よ……!』
『ふふ……まだ惚けるつもりなのね。いや、正確には……目を逸らしていると言ったところかしら?』
『目を……逸らしている……?』
声を震わせながら問い掛けると、『椿山紅華』は『そうよ』とクスリと笑いながら答えた後、私に顔を近付けながら静かに口を開いた。
『『私』は自分の愚かしい行為でこの椿山城を燃やし、お父様達の命を奪ってしまった自分の事を許してはいないし、あの日に命を落とした人達から許される事は無いと思っている』
『くっ……』
『まあ、確かに普通に考えれば許すわけも許されるわけも無いわよね。祐が言っていたように朝になってから行動をしさえすれば、あんな出来事が起こる事は無かったのに、その時は気づけなかったとは言え、そうしなかったんだもの。あの時亡くなったお城の人達がこの事を知ったら、流石の貴女でも恨まれるでしょうね』
『……何よ、そんな事を言うためだけに私の目の前に現れたとでも言うの!? それとも、あの時の贖罪やこれからの自分の生きる道として祐の手助けをしようと思ったところで、そんな物で許されるわけが無いとでも言いに来たの!?』
目の前で涼しい顔をしている『椿山紅華』に向けて私は声を震わせながらひたすら怒りをぶつけた。私だって自分の事を許せるなら許したいし、許されるなら許されたい、その気持ちに嘘偽りなどは無い。けれど、私のやってしまった事はそう簡単に許される物では無いし、許されてはいけない物だ。そしてそれは、私自身が一番理解しているのだ。
『分かってるわよ……私は、決して許されるべきじゃない……そして、永遠に許しを得られずにこの罪を背負っていくのが、私の罰なのだから……!』
私が涙声でそう言うと、『椿山紅華』はそんな私の姿をジッと見つめた後、呆れたような表情で首を軽く横に振った。
『……自分に対してこう言うのもアレだけど、貴女って本当に面倒臭いのね』
『なっ……!』
『永遠に許しを得られずに、あの日の罪を背負っていくのが貴女の罰? そんなわけないでしょ。確かに『私』は許していないし、あの行いは簡単に許される物でも無い。けれど、それはあくまでも今の貴女──椿自身がそう思っているだけ。貴女は貴女自身があの日の炎で作り上げた罪の意識の枷で自分を縛り付けているにすぎないのよ』
『私が自分を縛り付けている……?』
『そう。そして、私はそれを外しに来たのよ。貴女の心の傷はまだ癒える事は無いだろうけど、その枷くらいはそろそろ外してもいい頃だからね』
『外してもいい頃って……貴女、何言ってるのよ。その枷というのは私の罪の意識から作られているのでしょう? だったら、それを外してしまったら『私』が『私』を許したのと同義になるんじゃないの?』
『いいえ、あくまでも枷は貴女が自分を戒めるために付けた物で、罪の意識自体は『私』の中に残り続ける事になるから、それについては問題は無いわ。枷を外す事はあくまでもこれからの『私』が新たな一歩を踏み出すために必要な手順というだけなのよ』
『『私』の新たな一歩……』
『ええ、それに……罪の意識の枷を嵌めたままでは、いつか心から後悔する事になるだろうから、記憶を取り戻した上、自分の行いをしっかりと悔いている今だからこそ外しておかないといけないのよ』
『後悔……?』
『ええ』
『椿山紅華』は頷きながら答えた後、真剣な表情で空を見上げた。
『椿、貴女も何となく分かっていると思うけど、彼──祐はこれからも『禍物』に関連した出来事に巻き込まれていく。そして、その出来事の中で肉体的にも精神的にも傷付く事もあるでしょう。けど、そういう時こそ貴女の力が絶対に必要になる。『禍物』という人とは違う存在だからこそ分かる事や見える物だってあるのだからね』
『『禍物』だからこそ分かる事や見える物……』
『そう。けれど、罪の意識による枷が嵌まったままでは、いざという時に貴女は動けなくなってしまい、最悪祐を死なせてしまうかもしれない。だから、さっきも言ったように貴女の枷は今ここで外すべきなのよ。貴女が祐の手助けをこれからの自分の生きる道として定めたというのならね』
『紅華……』
『椿、この先の生活の中で貴女が自分の──『椿山紅華』が犯した罪を許すかは貴女の判断に任せるわ。これからは貴女が『禍物・椿』であり、『椿山紅華』なのだから』
『椿山紅華』がニコリと笑いかけた瞬間、彼女の背後には三色の椿が次々と咲き乱れ、強い風が吹くと同時にその花弁は吹雪のように彼女の周りを舞い始めた。
『くれ、は……』
『これからも貴女らしく精いっぱい頑張りなさい、『椿姫・椿山紅華』。罪の意識の枷が外れた貴女なら、きっと様々な人の助けになれるはずだから』
『……ええ、分かったわ。ありがとうね、私』
『……ふふ、どういたしまして。それじゃあ……さようなら、私』
『……いえ、
『え……?』
私の言葉に『椿山紅華』が驚いた様子を見せる中、私はクスリと笑いながら言葉を続けた。
『夢の中なのだから、私がもう一人いたところでおかしい事では無いのでしょう? だったら、次は『私』が『私』を許せた時に会いましょう。だから……またね、私』
『……ええ、またね』
そして、三色の花吹雪が私達の間を吹き抜けて視界を覆い尽くす中、私の意識は再びスーッと落ちていった。
「……ん」
外から聞こえる鳥の囀りや窓から射し込む朝日を感じ、私は『あの子』の中で静かに目を覚ました。そして、『あの子』の中から体を出そうとしたその時、昨夜まではあった心のモヤモヤが晴れているのに気づき、私は思わず口元を綻ばせていた。
「またね、か……あんな事を言ってしまったからには、応援してくれている『私』に恥ずかしくないように頑張らないといけないわね」
クスリと笑いながらそう独り言ちた後、私は『あの子』の中から体を出し、未だに幸せそうな寝顔で眠っている祐の体を揺さぶった。
「ほら……起きなさい、祐。もう朝よ」
「……ん? つ、ばき……?」
「そうよ。せっかく美人が起こしてあげているのだから、さっさと起きなさい?」
「美人って……それ、自分で言うか……?」
眠そうな声で言いながらゆっくりと体を起こした後、祐は大きな欠伸をしながらゆっくりと目を擦った。そして、枕元に置いていた眼鏡を掛けてから私に視線を向けたかと思うと、少し安心したようにクスリと笑った。
「……何よ、いきなり人の顔を見て笑ったりして……」
「いや……何だか寝る前よりもスッキリとした顔をしてるなぁと思ってさ」
「スッキリとした顔、か……ふふっ、確かにそうかもしれないわね」
「昨日の夜……何かあったのか?」
「うーん……あったと言えばあったけど……」
……まあ、話さないといけない理由も特に無いし、祐には秘密にしときましょうか。それに、夢の中での『私』との会話について話すのも何だか恥ずかしいものね。
そう決めた後、私は不思議そうな顔で私を見つめる祐を前にクスリと笑った。
「内緒、よ」
「内緒って……まあ、無理に話してもらうつもりは無いから、別に良いけどさ。けど、何か悩みや困った事があったら、その時は遠慮無く言えよ? 話を聞いたりちょっと力を貸したりする事くらいしか出来ないとは思うけど、俺も出来る限りはサポートをするからさ」
「……ええ、分かったわ。けど、それは貴方も同じだからね、祐。貴方に助けられた分、私も精いっぱい貴方を支えていくつもりだから、何かあったら遠慮無く頼りなさい」
「……うん、分かった」
祐は微笑みながら頷いた後、体を上に伸ばしてから布団から体を出してゆっくりと立ち上がった。そして軽く肩や首を回した後、私を見ながらニッと笑った。
「それじゃあそろそろ朝食にしよう。椿、手伝ってもらっても良いか?」
「ええ、もちろん」
私の答えを聞くと、祐は嬉しそうにコクンと頷いた後、ゆっくりと台所に向かって歩いていった。そして、それに続いて私も台所に向かおうとしたその時、ふとある事を思いつき、私は『あの子』の方を振り返ってニコリと笑いかけた。
「……改めてこれからよろしくね、『私』」
私のその言葉は部屋に軽く響いただけで、答える声は当然無かった。けれど、私は今の自分の行動に満足感を覚えていた。
さあ……ここから始めていきましょうか、『椿山紅華』と『禍物・椿』の新たな人生というものを。
そして、晴れやかな気持ちを抱きながら私は祐の手伝いをするべく、新たな一歩を静かに踏み出した。
政実「First Extra Story、いかがでしたでしょうか」
椿「今回は私が夢の中で罪の意識を乗り越える回だったわけだけど、メインになる禍物次第では同じような回もあり得るのかしら?」
政実「そうなるかな。ただ、これからも禍物は色々と出てくるから、全部が全部同じになるわけでは無いけどね」
椿「分かったわ。そして最後に……今回のお話についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けるととても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
椿「ええ」
政実・椿「それでは、また」