祐「どうも、暁祐です。まあ、ただ飾る分には良いと思うけど、本当にやる場合は管理をしっかりとしないとな」
政実「だね。ただ……入手するまでにも色々と必要になるけどね」
祐「まあな。さてと……それじゃあそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・祐「それでは、第4話をどうぞ」
第4話 新たな出会いと白銀の輝き
『
今のところ、この辺の知り合いといえば、ミヤさんと椿と
そんな事を考えながら台所で朝食を作っていると、居間で座布団に座りながらテレビを観ていた椿が声を掛けてきた。
「
「……は? 同行させてもらうって……別に椿は大学に行く理由なんて無いだろ? それに、今日は入学式だから特に面白い物なんて無いと思うぞ?」
「あら、理由ならあるわよ? 大学は貴方と同じ生徒や教員といった様々な人が多く集まる場所なのだから、何か興味を惹かれる事があるかもしれないでしょ? だったら、それを見つけに行った方が、ここでボーッとしてるよりは絶対に有意義だと思うのよ」
「それはそうだけど……」
「まあ、安心して。私の姿を『視る』事が出来る人なんてそうそういないと思うし、いざとなれば私も霊力で姿を消しておくから」
「へえ……霊力ってそんな事にも使えるんだな。でも、どうやって姿を消すんだ?」
「そうね……簡単に言えば、自分が持つ霊力を大きな布のような物に変えて、それを広げて自分を包んで隠すような形かしら。実際の布団やシーツでそれをやろうとすると、それが取れないように押さえる必要が出て来たり、手足が動きづらくて仕方なくなったりするでしょうけど、自分の中にある力で行えば、自分の動きに合わせてその形も抵抗なく変わってくれるから、動きづらさなどの心配は一切無いわね」
「なるほどな……」
確かにそういう事が出来るなら、余程強い力を持った人以外から見つけられる事は無さそうだし、椿を連れていっても問題は無いかもしれない。もっとも……椿と話す時には人の目を気にしないといけないし、椿以外の『禍物』と出会う可能性も考えないといけないかな。
しかし 考えれば考える程、考えるべき事柄が次々と多くなっていくため、俺は「……さて、どうしたもんかな」と言いながら苦笑いを浮かべた。椿達『禍物』は、器物に何らかの想いを抱いたままで亡くなった所有者の霊魂が入り込んだ後、幾らかの時間を経て目覚めた霊魂が発する霊力が反応を起こす事で『成る』付喪神と幽霊の中間に位置する存在だ。そのため、入り込んだ霊魂が再び目覚めない限りは、『禍物』には成る事はないのかもしれないが、『禍物』という不可思議な存在についてはまだまだ分からない事が多く、あまり油断は出来ないのだ。
……椿は戦国時代に亡くなって、それから数百年も経った現代になってやっと『禍物』として目覚めたわけだし、目覚めるのにも場所とか時間とかみたいな何かしらの条件があるのかもしれない。ただ……椿の場合は、祖父ちゃんの家に置かれていた時期もあるし、その時の事を調べないと、条件があるかさえも特定は出来そうにないよな……。
「まあでも……それについては、夏休みみたいな長期休暇の時に調べれば良いか。別に今じゃないといけない理由も無いしな」
椿の件についてそう結論づけた後、俺は完成した朝食をお盆に載せ、そのまま居間のテーブルへと運んだ。
「お待たせ、椿」
「うん、ありがとう。でも……本当にいつも申し訳ないわね。私の『特性』のせいで、料理と洗濯を手伝う事が出来なくて……」
「まあ、このくらい別に良いさ。その分、椿には時々知恵を貸してもらったり、掃除を手伝ってもらったりしてるわけだし、これでお相子だよ」
「……それじゃあそういう事にさせてもらうわね」
「ああ」
安心したように微笑む椿に対して、俺はニコリと笑いながらコクンと頷いた。先程、椿が口にした『特性』という言葉。これは、椿と暮らすようになってから分かった『禍物』に備わった一種の特徴のような物だ。そして、この『特性』という物は、どうやら霊魂が入り込んだ器物や死因、『禍物』の生前の好きな物や生活に起因するようで、プラスの要因になる『陽の特性』とマイナスの要因になる『陰の特性』の二つがあるみたいだった。尚、椿の『陽の特性』は『髪を伸ばして物を持ち上げたり動かしたりする事が出来る力』という日本人形らしいと言えばらしい物と『周囲の植物に霊力を通じさせる事で植物の蔓などを操作したり生えている場所で起きた事などを視る事が出来る』という椿の生前の名前に由来した物の二つで、『陰の特性』が『炎に接近するだけで椿の体が燃えてしまう』という椿の心の傷や死因に由来した物と『適切でない湿度の中に長時間いたり水や濡れた物に触れ続けたりする事で体調を崩してしまう』という物の二つであり、椿が料理と洗濯を手伝えないと言っていた理由はこれだ。だが、『陰の特性』は恐らく改善する方法は無い上、椿に無理をさせるつもりもないため、椿にはその分として俺が何か困った時に知恵を貸してもらったり、掃除を手伝ってもらったりしてるのだ。
……正直、『陰の特性』のデメリットなんて『陽の特性』のメリットで充分過ぎるほどに賄えるけど、椿本人がそうしたいって言うなら、それを断る事なんて出来ないよな。
「……何と言っても、椿は大切な同居人だからな」
「……うん? 祐、今何か言ったかしら?」
「いや、何でも無いよ」
「……そう」
「うん。それじゃあ早速食べようか」
「ええ」
「「いただきます」」
一緒に声を揃えて食事の挨拶をした後、俺達は他愛の無い話をしながら朝食を食べ始めた。
「……よし、準備完了だな」
朝食の後片付けを終えて着替えを終えた後、洗面所の鏡に映るスーツ姿の自分を見て俺は小さな声で独り言ちた。スーツをあまり着慣れていないせいか、鏡に映る自分の姿にどこか違和感のような物を覚え、俺は一人で苦笑いを浮かべていた。
でも……これからはこうして着る機会も増えるわけだし、少しずつでも良いから慣れていかないといけないよな。そうじゃないと、今日みたいな必要な時に困る事にもなり得るし――。
「……っと、今はそんな事を考えてる場合じゃなかったか。時間にはまだ余裕があるけど、油断をしていたらすぐに時間になっちゃうしな」
独り言ちながら気持ちを入学式の方へ切り替えた後、俺はそのまま居間ヘと移動し、テレビを観ながら待機をしていた椿に声を掛けた。
「椿、準備が出来たからそろそろ行こうか」
「ええ。ところで……その入学式というのが終わった後は何かある物なのかしら?」
「いや、特に無いと思うけど……何か参加しなきゃない物があるようだったら、それには一応参加だけしようかな。まあ、そうじゃなかったらそのまま夕飯の買い物をして帰ってこようかなと思ってるけど、椿は入学式の最中はどうするんだ?」
「そうね……せっかくだから、会場の端っこ辺りから貴方の雄姿を見させてもらうわ」
「うん、分かった。よし……それじゃあ早速行こうか、椿」
「ええ」
椿と頷きあった後、俺は椿と一緒に戸締まりを確認し、全部確認を終えてから荷物を持って部屋を出た。すると、ちょうど一階の部屋の一つからこの『月見荘』の大家さんである月野ミヤさんが出てくるのが見えたため、俺達は階段を下りながらミヤさんに挨拶をした。
「ミヤさん、おはようございます」
「お婆さん、おはよう」
「……ああ、二人ともおはようさん。それにしても……今日は大学の入学式だから、アンタがついていく事は無いんじゃないのかい? 『椿姫』」
「……それ、祐にも言われたわね」
「そりゃあそうだろう。アンタが入学式に参加するわけじゃないし、保護者というわけでもないからね」
「まあ、そうね。でも、こうして現代に目覚めた以上、色々な事を知っていくべきでしょう? それなら、大学という様々な人が集まる場所に行った方が良いと思ったのよ」
「……なるほどねぇ。まあ、暁君がそれを良しとしたなら、アタシが言う事は何も無いよ。けど、そういう事なら暁君の事を色々なモノからしっかりと護ってやるんだよ。暁君はアタシ達と違って霊感を持っている以外は、ただの人間なんだからね」
「ええ、それはもちろんよ。祐には私の記憶の件を含めて色々とお世話になっているからね」
「……そうかい。まあ何にしても、二人とも気をつけて行ってくるんだよ。一度人ならざるモノと『縁』を持った者というのは、そういったモノ達を次々と『引き寄せてしまう』物だからね」
「引き寄せてしまう、ですか……?」
「ああ。だから、二人ともしっかりと気をつけるんだよ。暁君のように霊感を持つ人間を付け狙ったり、『椿姫』のような不安定な存在を狙ったりした上、喰らおうとするモノなんてのもその辺には幾らでもいるんだからね」
「……分かりました」
「お婆さん、心配してくれてありがとう」
「……ふん、別に礼なんていらないさ。ほら、そんな事よりもさっさと行きな。入学式の日から遅れて行こうもんなら、一生の笑いもんにされちまうからね」
「……ですね。それじゃあ行ってきます、ミヤさん」
「行ってきます」
二人でミヤさんにそう言うと、ミヤさんは何も言わずに頷き、そのまま自分の部屋へと帰っていった。そして俺達は、そんなミヤさんの様子にクスリと笑った後、煌星大学へ向けて並んで歩き始めた。
昼過ぎ、入学式なども無事に終わり、俺は自分のクラスの席に座りながらふうと息をついていた。周囲では他の生徒達が早速楽しそうに話をしたり、連絡先の交換会を行ったりしていたが、入学式での緊張から少し疲れていたため、そんなクラスメート達の様子をただボーッと見ているだけだった。
「……やっぱり、ああいうのには積極的に混ざった方が良いよな……」
「……まあ、早く新しい友人を作りたいならそうかもしれないけど、無理に混ざるよりもとりあえず様子見をするのも手ではあるから、どれが正解というのはやっぱり無いわね」
「……まあ、そうだよな」
椿の冷静な声に返事をしながら俺は再び楽しそうに話をしている生徒達の方を見始めた。俺は昔から人付き合いがあまり得意な方では無く、新しい学校に上がった時やクラス替えの時などに自分から誰かに話し掛けに行く事が全然出来なかった。そのため、地元の友達というのもそんなに多くなく、どこかに友達と一緒に行ったり何かをして遊んだりするよりは、図書室で本を読んでいたり授業の予習復習をしたりしているような学生生活を送っていたのだった。
朝は新しい『人間』の友達を作りたいなんて考えてたけど、やっぱりこのままじゃそんなのは夢のまた夢だよな……。
少しだけ沈んだ気分で小さく溜息をついていたその時、「よお、何で溜息をついてんだ?」と背後から声を掛けられ、俺は驚きから体をビクッと震わせた。そしてゆっくりと背後を振り返ると、そこには笑みを浮かべる三人の男子生徒達がおり、俺は少しだけ緊張をしながらさっきの問い掛けに答えた。
「あ、いや……入学式で緊張してた分、ちょっと疲れが出ちゃって……」
「ははっ、なるほどな。確かに、俺も入学式みたいな堅苦しいのは苦手だな。特に面白い話をしてるわけじゃないのに、それを何時間も聴き続けるなんて、やっぱり退屈だし疲れちまうぜ」
「何時間もって言うが、そんなに長くは無い。それに、お前の場合はいつも途中で寝てるんだから、疲れるも何も無いだろ」
「あ……そういえば、さっきもスヤスヤと寝てたっけね。あんな場で寝られる人を見たのは初めてだったから、流石にビックリしたよ」
「あはは……まあ、そういう時もあるって事だな」
人懐こそうな雰囲気を漂わせた短めの茶髪の生徒は、頭を軽くポリポリと掻きながらそんな風に答えると、「……っと、そうだ」と言いながら再び俺の方へ視線を向け、スッと右手を差し出しながらニカッと笑った。
「俺、
「……
「ははっ、よく言われるぜ。読書は読書でも漫画本ばっか読んでんだろってしょっちゅう言われるし、漫画本ももちろん嫌いじゃない。でも、俺はそういうのよりは小説の方が好きなんだ。読み進めていく内に、どんどん話の内容が頭の中で映像化されていく感じがたまらないって言うかさ……!」
「あ、その気持ちはちょっと分かるかもしれない」
「だよなだよな! へへ、やっぱりお前に話し掛けてみて正解だったぜ!」
「……正解って?」
「うーん、そうだな……なんて言うか、俺と同じような匂いがした……みたいな?」
「同じような匂いって……」
茨木の言葉に俺が苦笑いを浮かべていると、話を聞いていた少し長めの黒髪を麻紐のような物で一本に纏めた凛々しい顔付きの男子生徒が軽く溜息をつきながら静かに口を開いた。
「……まあ、簡単に言うなら仲良くなれそうな感じだったという事だな。もっとも、光のこのテンションについていける奴なんてあまり見掛けないけどな」
「……え、そうだっけ?」
「……ああ。覚えている限り、俺を除けば数人程度しかいなかったぞ?」
「へー……そうだったのか。でも、そう考えるとその数人って結構スゴかったんだな!」
「スゴかったって……まったく、お前という奴は……」
茨木の言葉に黒髪の男子生徒が呆れたように溜息をつく中、茨木は彼を指差しながら楽しそうに笑った。
「コイツは俺の小学校の頃からのダチで、名前は
「……光、それはフォローになっているのか?」
「一応、俺はそのつもりだけど?」
「……そうか」
宮崎は溜息交じりにそう言った後、俺の方へ視線を戻しながらニコリと微笑み、茨木と同じように右手をスッと差しだした。
「まあ、先に光に紹介をされてしまったが、改めて自己紹介をさせてもらうな。俺は宮崎士郎、光とは小学校の頃からの付き合いだ。これからよろしくな、暁」
「ああ、こちらこそよろしく、宮崎」
宮崎の自己紹介に答えながら握手を交わすと、今度は短い栗色の髪の優しげな雰囲気を醸し出した男子生徒が話し掛けてきた。
「最後は僕だね。僕は
「ああ、こちらこそよろしくな、宝生」
宝生とも握手を交わしながら笑い合っていた時、ふと椿の方へ視線を向けると、椿は俺達の事を見ながらどこか安心したような笑みを浮かべていた。
……やれやれ、一応俺は椿の保護者のつもりだったんだけど、これじゃあどっちが保護者か分からないよな……。でも、今はこの幸せな気持ちを味わっていたい……かな?
新たな友達が出来た事、そして誰かが傍にいてくれる事の幸せを噛みしめながら俺は一人でクスリと笑った。
「……よし、大体こんなもんかな」
「……そうね。あまり多く買ってもしょうがないし、このぐらいでちょうど良いんじゃないかしら」
「だよな。それじゃあさっさと会計を済ませて帰るとするか」
「ええ」
椿の返事に頷いた後、俺は右腕にズシリと伝わってくるカゴの重みを感じながらそのままレジへと向かっていたその時、不意にさっきの出来事が想起され、俺は思わず苦笑いを浮かべた。大学で茨木達と自己紹介を終えた後、クラス単位ではどこかに行かないようだったので、自分達だけで親睦を深めるためにどこかへ行こうと茨木が言ったのだが、宮崎も宝生もそして発案者である茨木自身にも実は予定がある事が分かり、それはまた今度という事になり、俺達は茨木達と別れた後、少し遅めの昼食を済ませてから予定通りいつものスーパーへと来ていたのだった。
「それにしても……茨木達みたいな良い奴らに初日から出会えたのは、やっぱり幸運だったよな」
「……まあ、確かにそうね。三人とも取っつきやすい方ではあるみたいだから、人付き合いが苦手な祐でも問題は無さそうだもの。けれど、いつまでもそのままではいられないわけだし、あの三人との付き合いを通じて、少しずつでも人付き合いが得意にならないとね」
「……そうだな」
椿の言う通り、今はまだこのままでも多少は問題は無いけれど、いつまでもそうしているわけにもいかないし、少しずつでも良いから頑張っていこうかな。そして最終的には、知らない人にも自分から積極的に話し掛けられる程になろう。
「椿も前を向いて進んでるわけだし、俺だって成長していかないとな」
小さな声で独り言ちながら新しい目標へ向けてのやる気を高めた後、俺は買い物を済ませて椿と一緒に帰路についた。そして少し日が傾いてきた頃、『月見荘』の近くまで戻ってきたその時、反対側の道からミヤさんが歩いてくるのが見え、俺達は挨拶をするためにそのままミヤさんへと近付いた。
「ミヤさん、こんにちは」
「こんにちは、お婆さん」
「……ああ、アンタ達かい。おかえり」
「はい、ただいまです。ところで……何か持っているようですけど、それは何ですか?」
俺はミヤさんが持っている物を指差しながら訊いた。ミヤさんが持っているのは、風呂敷に包まれた少し大きめの棒状の物で、とても微弱ではあるが霊気みたいな物を発していた。そして「……ああ、これか」と言いながら、ミヤさんが風呂敷を軽く開くと、目に飛び込んできたのは綺麗な装飾が施された銀色の鞘に収まった一振りの刀だった。
「これは日本刀……ですよね?」
「ああ、そうさ。コイツは近くにある古道具屋に置かれていた物なんだよ」
「古道具屋……それってもしかして『
「そうだけど……なんだ、アンタ達知ってるのかい?」
「あ、はい。まだ行った事は無いんですが、椿の件でそこの方にお世話になったので、名前だけは知っているんです」
「……ああ、なるほど。アタシはあそこの店主と知り合いでね、なんでもアタシが興味を持ちそうな物が店に入ってきたから、一度来てくれと言われていたんだよ。それで仕方なく行ってみたら、この刀が置いてあるのを偶然見つけ、霊気を発している事に気付いたから、保護のために買い取ってきたのさ。霊気を発する刀をどこぞの変な奴に買われちまうくらいなら、さっさと保護してやった方が絶対に良いからね」
「……確かにそうですね」
この刀が発する霊気は、本当に微弱だからそれに気付けない人の方が多いと思う。けれど、それに気付いた人の中には、たぶんそれを私利私欲のために使おうとする人だっているはずだ。だから、ミヤさんはそれを事前に阻止するためにこの刀を買い取ったんだ。『禍物』として目覚める前の椿を買い取った俺の祖父のように。
……でも、ミヤさんはこの刀をどうするつもりなんだろう……?
そんな疑問を抱いていた時、ミヤさんは突然俺の顔をジッと見つめると、「……やっぱりその方が良いか」と独り言ち、持っていた刀をゆっくりと俺へ近付けた。
「えっと……ミヤさん?」
「暁君、この刀をアンタに預けるよ」
「預けるって……どうしてですか?」
「簡単な話さ。保護こそしたが、アタシにはコイツを持っている意味が無い。だったら、コイツの事をどうにか出来る暁君に一度預けた方が良いと思ったんだ。恐らく、コイツも『椿姫』の
「椿のって事は……この刀にも誰かの霊魂が籠もっているという事ですか?」
「ああ、たぶんそうだろう。この刀を見た時、『椿姫』が宿っている人形を見た時と同じような感じがしたからね。『椿姫』、アンタはどうだい?」
「……そうね。まだ眠っているようだけれど、確かにこの刀からは、何者かの気配のような物を感じるわ」
「つまり……この刀は椿と同じく『禍物』に成るかもしれない物ってわけか」
「そうなるわね。ただ……可能性があるだけで、確証があるわけでは無いけどね」
「……そうか」
椿の言葉を聞きながら俺は再び刀へ視線を向けた。そしてそのままミヤさんへ視線を移した後、俺は深く頷いてから静かに口を開いた。
「分かりました、この刀は預からせてもらいます。もっとも、俺にどこまでの事が出来るかは分かりませんけどね」
「はは、まあそんなに気を張る必要は無いさ。本当に『椿姫』の同類だったとしても目覚めたばかりじゃ殆ど力は発揮できないだろうしね。そうだろ? 『椿姫』」
「……確かにそうね。私も目覚めたばかりの頃は、そんなに自由に動く事は出来なかったから、たとえこの刀の『禍物』が襲いかかってきても私の『陽の特性』で簡単に押さえ込めると思うわ」
「……そっか。それじゃあその時はよろしくな、椿」
「ええ、任せておいて」
椿がクスリと笑いながら言うのに対して頷いて答えた後、俺はミヤさんから件の刀と刀を所有する上で必要な銃砲刀剣類登録証を受け取った。受け取った瞬間、腕に刀のズシリとした重みが伝わってきたが、腕に掛けていた買い物袋の重みを含めても耐えられないほどの重みでは無かったため、俺はその重みに耐えながらしっかりと刀を握った。そしてそのまま自分の部屋へ帰っていくミヤさんを見送った後、俺達も晩ご飯の準備をするために自分達の部屋へ帰っていった。
その日の深夜、ふと椿とは違う気配を感じ、俺は目を覚ました。そして、寝起きで頭がボーッとする中でゆっくりと目を開けると、そこにはほっそりとした体型の何者かが静かに立っており、その手には月光を浴びて銀色に煌めく細長い物が握られていた。
「……え?」
「……今から私の質問に答えてもらいます。もっとも、質問の答え次第では貴方がこの太刀『
「『白銀狐国貞』……って、その刀の名前か……?」
「その通りです。さて、それでは質問に移ります。貴方は誰でここはどこですか? 私は死んだはずなのに、どうして生きているのですか?」
「あ、えっと……」
「そして、 何故これがここにあるのですか? この刀は私の家の家宝のはず……なのに、どうしてこんなところにあるのですか!?」
「いや……そんなに次々と質問をされても……」
「……答えられませんか。ならば、やはり貴方にはこの太刀の錆になってもらうしか――」
そう言いながら何者かが鞘から刀を抜こうとしたその時、「……そこまでよ、刀の『禍物』」という声と同時に、その人物の手に細長い物が纏わり付いた。
「なっ……何ですか、これは……!?」
「見ての通り……と言いたいところだけど、流石にこの月明かりじゃしっかりは見えないわよね。今、貴方に纏わり付いているのは私の髪よ」
「髪……!? という事は、そこにいるのは物の怪の類いですか!?」
「物の怪、ね……まあ、強ち間違ってはいないけれど、それは貴女も同じよ」
「なっ!? 私は物の怪などでは……!」
「……とりあえず、灯りをつけましょうか。このまま話をしていても埒があかなそうだから」
少し呆れたような声で言いながら椿が『陽の特性』を使って部屋の電気を点けると、目に入ってきたのは腕に纏わり付いた椿の髪に困惑した表情を浮かべる長い黒髪を一本に束ね若草色の和服に身を包んだ一人の少女だった。
「……この子が、あの刀の『禍物』か……」
「ええ、どうやらそうみたいだけど……また襲いかかられても困るし、私の髪でもっとキツく縛った方が良いかしら?」
「いや、そろそろ放してあげよう。確かに椿が助けてくれなかったら、あのまま斬られていたかもしれないけど、この子だって何が何だか分からない状態だったわけだしさ」
「……分かったわ」
そして椿が日本刀の『禍物』から髪を離すと、日本刀の『禍物』は警戒した様子で刀に手を掛けながらキッと俺達の事を睨んだ。
「……貴方達、一体何者なのですか……?」
「俺は暁祐、この部屋の住人で人間だよ」
「そして、私の名前は椿。あの箪笥の上に置かれている日本人形の『禍物』よ」
「『禍物』……あなた方は先程からその言葉を使っていますが、それは一体何なのですか……?」
「『禍物』は器物に何らかの想いを抱いたままで亡くなった所有者の霊魂が、幾らかの時間を経て目覚めた事で発する霊力が反応を起こして『成る』付喪神と霊の中間に位置する存在よ」
「想いを抱いたまま亡くなった所有者の霊魂……」
「その日本刀……確か『白金狐国貞』と言ったかしら? それは貴女の物なのでしょう?」
「……ええ、そうです。この『白金狐国貞』は私の家の家宝ではありますが、お父様より正式に譲渡をされた正真正銘私の刀です」
「……そう。それで、貴女はどこの誰なのかしら? 私達も名乗ったのだから、貴女も名乗るのが礼儀というものでしょう?」
「……そうですね。まだ色々と答えて頂きたい事はありますが、まずは名乗らせて頂きます」
椿の問い掛けに日本刀の『禍物』は頷いて答えると、刀に掛けていた手をゆっくりと離し、深く一礼をしてから静かに口を開いた。
「私は
「魚住……そういえば、そんな名前の武将がいたような気がするけど、その家族とか親戚筋とかなのか?」
「はい。遠縁ではあるようですが、私の家はその方の親戚筋にあたるそうです」
「なるほどな……」
武家の娘さんか……道理で礼儀作法がしっかりとしている印象を受けたわけだ。
日本刀の『禍物』――菖蒲の姿を見ながらそんな事を考えていた時、菖蒲は「あの……」と言いながら手にしていた『白銀狐国貞』を強く握り、とても不安そうな視線を向けてきた。
「ん……どうした?」
「先程はいきなり斬り掛かろうとしまい申し訳ありませんでした……不安に駆られていたとは言え、武家の娘として恥ずべき行為であったと反省しております。本当に申し訳ありません……」
「……ああ、その事か。それくらい別に謝らなくても良いよ。とても驚きはしたけど、怪我をしたわけでもないし、いきなりこんな事になって不安で混乱するのは仕方ないからさ」
「暁様……」
「祐、で良いよ。見た目的に生前の君と俺は歳が近いはずだからさ」
「……分かりました。それでは、これからは祐さんと呼ばせて頂きますね」
「うん、分かった」
「それと……私の事も菖蒲と下の名前で呼んで下さい。生きていた頃も苗字で呼ばれる事はあまり無かったですし、恐らく私の方が年下だと思うので」
「うん、了解。それじゃあこれからよろしくな、菖蒲」
「はい。こちらこそよろしくお願い致します」
ようやく安心したような笑みを浮かべる菖蒲と握手を交わしていたその時、不意に俺の口から欠伸が漏れた。
……そういえば、まだ夜中だったな。菖蒲に色々と説明したいところだけど、明日も学校があるし、どうしたもんかな……?
菖蒲への説明などについてどうしたものか考えていたその時、「……仕方ないわね」と椿が溜息交じりに呟き、俺の肩をポンポンと叩いた。
「この子への説明は私がしておくから、貴方は寝ておきなさい。明日も学校があるんでしょう?」
「そうだけど……本当に良いのか?」
「ええ。さっきと違ってこの子も落ち着いているようだし、私だけでも説明は出来るわ」
「……そっか。それじゃあ後は頼んだぜ? 椿」
「ええ、任せておきなさい」
ニコリと笑いながら言う椿の言葉に頷いて答えた後、俺は再び菖蒲の方へ視線を向けた。
「という事で、菖蒲と『白銀狐国貞』がここにいる理由とか『禍物』についての詳しい説明とかは椿がしてくれる事になったから、何か分からない事があったら椿に遠慮無く訊いてくれ」
「はい、分かりました。夜中なのに、起こしてしまい本当に申し訳ありませんでした」
「ううん、別に良いよ。こればかりはしょうがないからさ」
申し訳なさそうな表情を浮かべる菖蒲に対して微笑みながら答えた後、俺は部屋の電気を静かに消し、再び布団に寝転んだ。
「さてと……それじゃあ二人とも、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
「おやすみなさい、祐さん」
「……うん」
二人の声に答えながら目を閉じた瞬間、俺の意識はスーッと落ちていき、そのまま俺は眠りについた。
政実「第4話、いかがでしたでしょうか」
祐「次は日本刀の禍物か。一章と同じ感じに行くなら、後2話って事になるけど、大まかな話の流れは出来てるのか?」
政実「一応はね。ただ、まだ色々と調整はしていくから、すぐに残りの2話を投稿するのは難しいかな」
祐「分かった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
祐「ああ」
政実・祐「それでは、また次回」