雫とほのかと司波さんと僕たちが話しはじめて十分後に先生が教室にやって来た。
「皆さん、ご入学おめでとうございます。これからは―――」
説明が始まったけど、特に興味がなかったから本を取り出して読書を始めた。
「お―み―。おい、かげ―、影宮!」
「ふぇ、?!」
「まったく、話を聞かないで読書とは……。お前には教職推薦で風紀委員に入ってもらいたいと話が来ている。明日辺りに生徒会長と風紀委員に呼ばれるから行くように」
僕は首をかしげた。
(なんで僕に風紀委員の推薦が来ているんだ?と言うか、風紀委員って何するの?)
突然のことで釈然としなかった。
「あの、先生。風紀委員って何するんですか?そして僕が選ばれた理由はなんですか?」
「何をするかについては渡辺麻利風紀委員長から言われるだろう。そして選ばれた理由に関してだがお前は今年の入学生の次席だからだ」
僕は頭をおさえてしまった。
(次席って…、七草先輩もそう言えば女子の中ではトップだって言っていたし、男子でも変わらなかったのかな?)
自身が選ばれた理由がわかって納得はしたが、自分より向いている人がいたのでは?考えてしまった。
「すごいですね、コノハ君!風紀委員に推薦されるなんて!」
「そんなに凄いことなの?」
「うん、風紀委員は名誉ある役職」
ほのかと雫の話を聞いてすごいことなのだ理解した。しかし……。
(男子からの視線がイタイ)
そう、ほのかと雫と男子からすごい見られる。と言うか、睨まれている。司波さんと喋るときなんて男子だけではなく女子からも鋭い目線が飛んでくる。
(僕は何かいけないことをしたのかな?)
このときコノハは気づいていなかった。自分が話しているのは可愛らしい女子だということを。気軽に話しかけられない男子からしてみれば殺したいほど妬ましいと思われていることに。
「そうだ、司波さん。一緒に見学しに行かない?達也くんとも一緒にさ」
「あら、影宮さんはお兄様と面識があるんですか?」
「うん、と言っても昨日会ったばかりなんたけどね」
「司波さんにはお兄さんがいるんですか?」
会話に入ってきたのはほのかだ。その隣にはやはり雫がいた。
「ええ、お兄様は二科生ですが本当なら魔法だってお兄様の方が上なのよ?」
「ええ、それはすごいですね」
「深雪のお兄さんに会ってみたい」
ほのかと雫は深雪の兄である達也に興味が出たようだ。
「それじゃあ早速…」
「し、司波さん!よろしければ一緒に回りませんか?」
「私もご一緒しても…!」
「私も!」
「ぼ、僕もご一緒に!」
深雪を中心にすごい人の群れができてしまった。
(す、凄い。これはヤバイ……)
近くにいた僕と雫とほのかは押し潰されてしまった。
「く、苦しい……」
「ほ、ほのか……」
苦しそうな声をあげるほのかと雫。
(仕方ない。魔術を……)
苦肉の策として体を魔術で強化して二人を助けだそうと考えた。
「それでは工房に行きましょう」
その声の主は深雪だった。
(もしかして僕たちを助けるために?)
自分がいては三人に迷惑がかかると思ったのだろう。深雪はそのまま大勢のクラスメイト達を引き連れて移動した。
「二人とも、大丈夫だった?」
「う、うん。大丈夫だよ」
「私も大丈夫」
二人とも平気そうだが、深雪のことが心配になり出した。
「司波さん、大丈夫かな?」
「たぶん、大丈夫じゃない」
「まあ、ね。人は大勢に囲まれると知らないうちにストレスをためてしまうからね」
「私たちも行く?」
「後ろから着いていくには問題ないと思うよ」
後ろについていく。妥当だとコノハも思った。
「それか達也くんと一緒に回る?」
「達也くんって深雪のお兄さんの?」
「うん、二科生だってことを気にするなら別にいいけど」
「ううん、私も雫もそんなことは気にしないよ」
「ほのかの言うとおり」
二人の言葉に満足気に頷いた。
「わかった。じゃあとりあえず工房の辺りを見てみようよ。もしかしたら達也くんも既に向かっているかもしれないしね」
「うん、行こう」
「あ、まってよ!二人とも」
三人もまた工房へと歩き出した。
「うーむ、中々見当たらないね」
「あはは、これだけ人がいるだもん。簡単には見付からないよ」
「ほのかの言うとおり。これだけの人の数から特定の人を見つけるのは難しい」
工房にはそれなりの数の人たちがいるため、人探しには向かない場所だった。
「うーん……ん?彼処にいるのは」
前の方へと視線を向けると、見知った後ろ姿があった。
「彼処にいるのは、達也くんだ」
「え?どこですか?」
「見えない」
慎重があまり変わらない三人だが、コノハが達也を見つけることができたのは単純に人と人との間にできた僅かな隙間から見えたからだ。
「二人とも離れないように手を繋いで」
「「え?」」
「良いから、たぶんこの人波を掻き分けて進んでいくとはぐれると思うから」
「わ、分かったよ」
「掴めば良いんだよね」
二人が手を繋いだのを確認してそのまま進んでいった。何故か二人とも顔を赤くしていた。
(人が多いな。目だけでも強化しておくかな)
その様子に気付かずに思考を巡らせて、誰にも聞こえない程度の声量で唱える。
「
目だけを強化し、人波を進んでいく。
「こんにちは、達也くん」
「ん?影宮、なんでここに?」
「見学にだよ」
「そうか、デートという名のか?」
「デート?」
横にいるのはほのかと雫だ。しかも手を繋ぎっぱなしだ。
「ああ、これは違うよ。人波を掻き分けてきたからね。はぐれないように手を繋いで来たんだよ」
「そうか」
「お、達也なんだ。知り合いか?」
達也くんの後ろにも三人の男女がいた。
「そう言う達也くんはダブルデートかな?」
「違う!と言うか誰と誰が付き合ってんだよ、それ」
「え?赤い髪の女子と君が付き合ってて、達也くんとそこの度のない眼鏡をかけた子が付き合ってるんじゃないの?と言うか、デートしてるんじゃないの?」
コノハの言い分に赤い髪の女子が反論した。
「誰がこんな野性丸出しの男とデートするのよ!」
「え?同じ体育系っていう繋がりで?」
「なんで、疑問形なんだ?」
「わ、私は達也さんとはつ、付き合っていませんから」
「俺達は仲良く見学していただけだっての」
四人とも反論したことで違うのだと理解した。
「と言うか、コイツ一科生じゃねえか」
「あ、横の二人もそうだよ」
「良いの?あたしたちと一緒に回ってると目の敵されるわよ」
「ああ、そんなことは気にしないから。僕は」
「わ、私もです」
「コノハとほのかと同じ」
「でも、良いのでしょうか。三人にだって他に回りたい人がいるんじゃないんですか?」
「ああ、それならもっと大丈夫。司波さんが人気のあまりにそっちに皆いっているか。流石、達也くんの妹って感じだよ」
「何が流石なのかは理解できないが、誉め言葉として受け取っておく」
無表情でそんなことを言ってるけど、結構心配していると感じた。
「そう言えば、達也くん以外は僕のことを知らないよね。達也くんは二人のことも知らないよね?一応、自己紹介するよ。僕は影宮コノハだよ。こう見えても男子だからそこんとを間違わないでね」
「ま、マジかよ。ああ、俺は西城レオンハルトだ。気軽にレオって呼んでくれ」
「私は柴田美月と言います。よろしくお願いしますね」
「あたしは千葉エリカよ。よろしく」
「私は光井ほのかと言います。こちらこそよろしくお願いします」
「北山雫。よろしく」
それぞれで自己紹介を終えて一緒に回ることにした。
(それよりも『千葉』、『千』の
エリカの次に美月へと視線を写した。
(彼女は恐らく霊子放射過敏症過敏症だよね。今時、眼鏡を使わなくとも魔法である程度視力が補強できるようになってから眼鏡を使う人は数が減ったからね)
彼女の病気のことを見抜き、それでも分からない振りをする。紳士の嗜みである。
「それより回らないかい?人が混んできたしね」
「ああ、そうだな。三人はどこかいきたい場所はあるか?」
「特には僕はないかな?」
「私もありせん」
「私も強いてみたい場所はない」
「そうか、なら次は――」
そのまま7人は仲良く工房を見学していった。