時間が過ぎるのは早く、お昼休みになっていた。
「ねぇ、達也くん。僕だけ逃げて良いかな?」
「いや、恐らく放送とかで呼び出されるぞ」
「会長ならそうする前にあらゆる手で影宮さんを探し出すと思いますよ」
二人のそんなことを言われたコノハはため息をこぼすしかなかった。
「失礼します。一年A組、司波深雪です」
「同じくA組の影宮コノハです」
「一年E組の司波達也です」
「いらっしゃい、三人とも。さあさあ、座って」
深雪は綺麗に一礼して、座った。達也もそのあとに続いて一礼してから座っていき、コノハも達也の隣に座った。
「お肉とお魚と精進。どれが良いかしら?」
「自分は精進を。深雪はどうする」
「私もお兄様と同じものを」
「コノハくんは?」
「僕はお肉で」
それぞれの注文を聞き、真由美より少し背の低い女子が和箪笥ほどの大きさの機械を操作していた。
「入学式に紹介したと思うけど、一応念のためにもう一度しとくわね。私の隣にいるのはリンちゃんこと会計の市原鈴音」
「私のことをそう呼ぶのは会長だけです」
やはり、真由美の渾名をつけるセンスは何処かズレているのだ再認識したコノハ。
「その隣は知っていると思うけど、風紀委員長の渡辺摩利」
(会話がおかしいけど、誰も指摘しないから良いのかな?)
会話が繋がっていながっていないことを指摘しないのでコノハもスルーしていた。
「それからあーちゃんこと書記の中条あずさ」
「会長……お願いですから下級生の前で『あーちゃん』はやめてください。わたしにも立場というものがあるんです」
涙目で訴えているあずさを見てコノハは感心した。
(何故だろう。この人の渾名だけは的を射ているように感じる)
「そしてここに副会長のはんぞーくんを含めたメンバーが今期の生徒会です」
「私は違うがな」
「ええ、そうね。摩利は別だけど。あら、準備ができたみたいね」
完成したようで無個性ながらもキチンと盛り付けられた料理がトレーに乗って出てきた。数は五つである。
「達也くん、誰か頼んでいない人がいるの?」
「渡辺先輩が頼んでいないみたいだ」
小声で教えくれた。摩利の手元にはお弁当箱らしきものが置かれていた。
「渡辺先輩が作ったんですか?」
「そうだが、意外か?影宮」
「まあ、正直に言えば意外です。渡辺先輩はその武闘派の人間ぽかったのでそう言うのは苦手かと」
「ず、随分はっきり言うんだな」
「そうですか?」
コノハの言葉に真由美は苦笑いを鈴音は無表情のまま、あずさは何処かアワアワしていた。
「それより本題に入ったらどうですか」
「え?ああ、そうね。それでは本題に入りましょう」
コノハの言葉によって真由美から本題を深雪に話した。
「単刀直入に言うとね。深雪さん、私は貴女が生徒会に入ってくださることを希望します。引き受けていただけますか?」
「……会長は、兄の入試の成績をご存知ですか?」
いきなり達也の話題になったが真由美は気にせず答えた。
「えぇ、知っていますよ。すごいですねぇ……正直に言いますと、先生にこっそり答案用紙を見せてもらったときは驚きました」
「……成績優秀者、有能の人材を生徒会に迎え入れるのなら、私より兄の方が相応しいと思います」
「おいっ、み……」
「デスクワークならば、実技の成績は関係ないと思います。むしろ、知識や判断力が重要なはずです」
達也の呼び掛けを遮るかのように深雪は真由美に対して意見をのべていた。コノハは何となくだが深雪が言いたいことがわかった。
「わたしを生徒会に加えていただけるというお話については、とても光栄に思います。喜んで末席に加わらせていただきたいと存じますが、兄も一緒というわけには参りませんでしょうか」
(兄思いと言うよりかは達也くんの実力を知ってもらいたいと言う意思が感じるよ。でも、たしかうちの高校は……)
コノハは何か思い出すために頭をフル回転させた。
「残念ながら、それはできません」
深雪の意見を否定したのは鈴音だった。
「ああ、そう言えばうちの高校って規則では制度を覆すためには全生徒の三分の二くらいの票数が必要なんですよね?」
「はい。更に全校生徒が参加する生徒総会で制度の改定を決議される必要があります。尤も一科生と二科生の数がほぼ同じの現状では制度改定は難しいでしょう」
鈴音は何処か申し訳ないかのようにコノハの説明に補足をしながら話していた。
「申し訳ありませんでした。分を弁えぬ差し出口、お許しください」
深雪も深々と頭を下げながら素直に謝っていた。
「ええと、それでは深雪さんに書記として加わっていただくと言うことでよろしいでしょうか」
「はい、精一杯務めさせていただきます」
こうして無事に深雪は生徒会に入ることはできた。だが、コノハは一つ疑問に思っていた。
(なんで僕と達也くんが誘われたんだろう?この為だけなら必要なかったはずだし……)
そう、自分達が呼ばれた理由がいまだに分からないままだったのだ。
「……昼休みまで時間があるしちょっと良いか」
摩利が時計をみながら問いかけてきた。
「風紀委員の生徒会選任枠のうち、前年度の卒業生の一枠がまだ余っていたな」
このときコノハ予感した。
(これは達也くんに何か降り注ぐぞ)
厄介事と言うものがと考えていると真由美は摩利が何を言いたいのかわかったらしく。
「そう、そう言うことなのね。摩利!」
「あの、会長と渡辺風紀委員長。何を仰っているのですか?」
鈴音が問いかけると真由美は興奮ぎみで説明した。
「リンちゃん、一科生の縛りがある役員は何だったか覚えている?」
「た、たしか役員は会長と副会長、書記と会計ですよね」
「その通りよ。あーちゃん!」
何が言いたいのかまったくもって伝わっていない。そこで摩利が結論をいった。
「つまりだ、市原に中条。風紀委員の生徒会枠に、二科の生徒を選んでも規定違反にはならないわけだ」
何を言いたいのかわかった二人は成る程と感心していた。
「そうよ!風紀委員なら問題ないじゃない。摩利、生徒会は司波達也くんを風紀委員に指名します!」
(やっぱり、達也くんが厄介事に巻き込まれた!)
自分の予感が当たってため息をつく。視線を達也に向けると慌てていた。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺の意思はどうなるんですか?だいたい、風紀委員が何をするのか、俺は知りません」
「あっ、それは僕も知らないや」
そう、この二人は風紀委員に選ばれたもののその委員がどういった役割を担っているのかまったくもって知らないのだ。
「あ、あの、当校の風紀委員会は、校則違反者を取り締まる組織です」
「それって頭髪とか服装とかの違反者をですか?」
「それは自治委員会が週番でやってくれる」
あずさが説明し、その説明にコノハが質問して摩利が答えた。
「そ、それで、風紀委員の主な任務は、魔法使用に関する校則違反者の摘発と、魔法を使用した争乱行為の取り締まりです」
「えっと、つまり昨日みたいな騒ぎも風紀委員が取り締まるんですか?」
「ああ、その通りだ。」
「そして、風紀委員長は、違反者に対する罰則を決めたり、生徒側の代表として生徒会長と共に、懲罰委員会に出席して意見を述べます。いわば、警察と検察を合わせたような組織が、風紀委員です」
あずさの分かりやすい説明を聞く、コノハと達也。深雪に関しては既に達也に決定ですねと言わんばかりの視線を向けている。
(警察と検察を合わせた組織って平等な判断とかできるのかな?)
疑問に思っても口に出すことはしなかった。口にすれば面倒なことになると分かっていたからだ。
「凄いじゃないですか、お兄様!」
「いやいや、深雪さん。そんな決定ですねみたいに言わないであげて。達也くんの意思も尊重しようよ」
「影宮、今の深雪に何を言ってもダメだ。それより確認させていただきたいことがあります」
「なんだ」
達也は摩利へと視線を向けていた。
「今の説明だと、風紀委員は喧嘩が起こった場合力ずくで止めないといけないと言うことで良いんですね」
「ああ、その通りだ。魔法の使用の有無関係なく争いがあったら私たちの仕事だ。それにできれば魔法の使用前に止めさせるのが望ましいがね」
「あのですね!俺は実技の成績が悪かったから二科生なんですが!」
達也が言いたいことはコノハにもわかった。実技の成績に関して問題がある自分では力不足だと言いたいのだと。
「構わんよ」
「何がですっ?」
「力比べなら、私がいる……っと、そろそろ昼休みが終わるな。放課後に話の続きをしよう。影宮も来るんだぞ。それで良いか」
時計をみてみると確かにもうすぐ昼休みが終わってしまう。このままうやむやで終わって良い話ではない。
「分かりました。それで構いません」
「僕も分かりました。それと渡辺先輩、質問良いですか?」
「ああ、構わないがなんだ」
「風紀委員会は兼部とかって大丈夫ですか?」
「大丈夫だが、入りたい部活があるのか?」
「ええ、弓道部に」
その話を聞いて摩利も兼部の許可を出した。