五時限目の休み時間。あと一時間授業を受ければ放課後となり面倒なことが起きるとわかっている。分かっていてそんなとこには誰しもが行きたくはないだろう。
「ねぇ、雫かほのかが僕の代わりに放課後行ってくれないかな」
「やだ。私は行きたくない」
「私も嫌かな?」
「はぁ、あまり二人を困らせてはダメですよ。影宮さん」
「だってぇ~」
だらけていた。とことんだらけているコノハに三人は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「でも、達也さんが風紀委員になるのは私も賛成かな。なんだか、達也さんなら偏見とかなく見てくれるだろうし」
「ほのかの言うとおり達也さんなら似合っている」
「お二人もそう思いますよね」
「いや、でも達也くん本人の意思がなきゃダメでしょ」
昼休みに起きたことは二人にも話してはいた。
(うーん、でも達也くんって何処か謙虚すぎるよね)
達也が何故あそこまで嫌がるの理由はわからないことではないが、何処か自分は力がない存在だと自分に暗示をかけているみたいだった。
「それよりコノハって弓道部に入りたかったんだ」
「まあ、ね。本当は剣道部とか剣術部でも迷ったんだけど、ね」
「でも、なんでそんなに武道ばかりなんですか?コノハ君なら魔法を使う部活動でも活躍できそうなんですけど」
「昔から魔法なしとかのスポーツクラブと言うか武道系のものばかりやって来たからね。今更魔法を使うスポーツとかは向いてないんだよ」
夢の中の自分はどれも良くて二流止まりだったけど、コノハは多彩なものをすぐに極められる才能があった。
(夢の中での僕がこの事を知ったら、やっかみを言われるかもね)
なんて心のなかでにか笑いを浮かべていた。
そして放課後になり、達也とコノハは昼休みより重い足どりで生徒会室へと向かっていた。
(あれ?IDカードの認証システムに達也くんのIDが登録されているってことはほとんど決まりってことなんじゃ)
コノハは既に教職員の推薦枠で決まっているため、登録が済んでいても不思議てはないが達也のものまで登録がすんでいると言うことはどうやらあの二人は達也くんを逃がすつもりはないようだ。
「失礼します」
中にはいると一人、昼休みでは見なかった人物がいた。
「ねぇ、達也くん。あの男の先輩はだれ?」
「あの人が生徒会副会長 服部先輩だ」
小声で達也に聞いてみるとどうやら知っていたらしく答えてくれた。
「なんだか、達也くんを睨んでいるけど何かしたの?」
「いいや、恐らく深雪の兄である俺が二科生だからだろう」
つまり、そう言うことだ。あの優秀な妹の兄が二科生など恥と知れと言う考えの持ち主なのだと理解した。
(あまり仲良くはできなそうかな?)
「初めまして副会長の服部刑部です。司波深雪さん、生徒会にようこそ。そして、影宮コノハさんは風紀委員への加入おめでとう」
このときコノハは違和感を覚えた。
(なんで僕もさん付け?)
人によってだが男女問わず皆をさん付けて呼ぶ人もいるが明らかに服部副会長は誤解していると思った。
「誤解がないように言っておきますね。服部先輩、僕は男ですから」
「え?こ、これは失礼した!」
「いえいえ、もう慣れましたから」
「うふふ、確かにコノハくんは端から見たら女の子にしか見えないわよね」
「会長、それはフォローになっていませんよ」
端から見たら女の子に見えるのかとガックリしていたがそんなことはどうでもいいと話が進んでいく。
「それでは早速だけど、あーちゃん、お願いね」
「……ハイ」
(中条先輩……ドンマイです)
諦めきっているあずさにコノハは同情の視線をむけた。
「では、わたしたちも移動しようか」
「えっと、風紀委員の本部にですか?」
「ああ、その通りだ。影宮」
「どこにあるんですか?その本部は」
「この部屋の真下だ。と言っても、中でつながっているんだが」
そんなことを聞いてコノハと達也は思った。
((変わった造りをしている(ね)))
「渡辺先輩、待ってください」
「何だ、服部刑部少丞範蔵副会長」
このときコノハは驚いて声をあげはぐった。
(名前、ながっ!!)
「フルネームで呼ばないでください!」
本人もあまり好いていないようだ。
そして、コノハと達也の二人は真由美に視線を向けていた。向けられている本人はなんのことか分かってはいないだろうが『はんぞー』が本名だったことが予想外だったのだ。
「それで用件はなんだ。服部範蔵副会長」
「服部刑部です!」
「それは名前ではなくて、君の家の官職だろ」
「今は官位はありませんし、学校の方には『服部刑部』で届けが出ているはずです!……そんなことは今はどうでもいいんです!」
弄られているんだとコノハは思っていると可笑しな点に気がついた。
(でも、七草先輩は名前から渾名をつけているけど……それは良いのかな?)
この時、コノハは知らなかった。服部副会長が七草生徒会長に特別な好意を持っていたことを。
「渡辺先輩、お話ししたいのは風紀委員の補充についてです」
「何だ?」
「その一年生を風紀委員に任命するのは反対です」
感情を圧し殺したように達也を指差しながら言った。
「どうしてですか?服部先輩。一応、達也くんは生徒会長である七草先輩から指名されているんですよ。それを否定するってことは七草先輩の判断を否定するのと同じだと理解して言っているんですよね」
「影宮、本人が受諾していないそうじゃないか。本人が受諾して正式な指名と言える」
「それならこれは達也くんが決定することで君が決めることではないよ」
まるで、援護射撃のようにコノハの意見に便乗してくれた摩利。
「過去に
「服部先輩、それは差別用語だと分かって使っているんですか」
「影宮の言うとおりだ。そしてそれは風紀委員の摘発対象だ。委員長である私の目の前で使うとはいい度胸をしている」
摩利の叱責と警告を聞いても服部は怯んだりはしていなかった。
「今更取り繕ったって、仕方ないでしょう。それとも全校生徒の三分の二以上の生徒を摘発しますか?これは学校側が既に認めている規則です。それだけ実力差があるんです。風紀委員はルールに従わない生徒を実力で取り締まる組織です。実力的に劣っている
傲慢とも言える口調で断言する服部。それにコノハと摩利は反論する。
「服部先輩がいっている実力と言うのは魔法だけのものですか」
「そうだ」
「確かに二科生の生徒は魔法に対しては一科生に劣っているかもしれませんが実力とはそれだけではないはずです」
「影宮の言うとおり、実力にだって色々ある。達也くんには起動式を読み取り発動される魔法を予測する目と頭脳がある」
「……なんですって?」
摩利の言っていることをまるで信じられないと言った表情で反論する。
「そんな馬鹿な。起動式には数万と越える文字や数字の羅列があるんですよ。それを読み取るなんて不可能だ」
(まあ、普通の人がやったら脳が処理できなくて廃人になるかもね)
自身も読み取れるとあってコノハはその危険性もよく理解している。
「当校のルールでは、使おうとした魔法によって罰則が決まる。だが、そんなものは起動した本人の言葉以外では証明することはできなかった。発動の完了まで待っていても本末転倒だ。真由美のように起動式を破壊してしまうのも手だ。彼は今までの罪状が確定できなかった…結果的に言ってしまえば軽い罰で済まされてきた未遂犯たちに対する強力な抑止力になるんだよ」
「……しかし、実際に違反の現場で、魔法の発動が阻止できなければ……」
「そんなことは一科生、二科生の一年生に関係なく同じことですよ。魔法のキャンセルができる人間なんて数が限られていますから」
ショックを受けたのか少し弱々しく反論してかるがコノハが一蹴してしまった。
「それに私が達也くんを委員会に欲するには理由がある。今まで二科の生徒が風紀委員に任命されなかったと言うことは二科の生徒による魔法使用違反も、一科の生徒が行っていと言うことだ。そして、その逆は存在してはいなかったと言うことだ。それこそが溝を深める要因ともなっていた。私が指揮する委員会が、差別意識を助長すると言うのは、私の好む所ではない」
「はぁ、凄いですね、摩利。そんなことを考えていたんですか?私はてっきり達也くんのことが気に入ったからだと」
「会長、お静かに」
(七草先輩……空気をお読みください)
摩利の作った雰囲気を真由美が壊そうとしたところを鈴音が制止する。呆れた目付きと責めるような眼差し。前者はコノハで後者が鈴音だ。それを真由美に向けていた。
「会長……私は副会長として、司波達也の風紀委員の就任に反対します。渡辺委員長と影宮コノハの主張には一理あることは認めます。しかし、風紀委員とは校則違反者の摘発と鎮圧が任務です。魔法力の乏しい二科生に、風紀委員は務まりません。この誤った登用は必ずしや、会長の体面を傷つけることになるでしょう。どうかご再考を」
この事にコノハが反論しようとしたがそれよりも早く深雪が声をあげた。
「待ってください!僭越ながら副会長、兄は確かに魔法実技の成績が芳しくありませんが、それは実技テストの評価方法に兄の力が適合していなかっただけなのです。実戦なら、兄は誰にも負けません」
「司波さんの言うとおりです。実技テストの評価だけがその人の実力の全てじゃありません!テストとは学校側が決めた枠のなかでの範囲だけしか評価されません。評価される部分と評価されない部分を含まなければいけないのではないのですか!」
二人は反論するが服部は構わず話続ける。
「深雪さん。魔法師は事象をあるがままに、冷静に、論理的に確認しなければなりません。身内贔屓は一般人ならばやむを得ないでしようが、魔法師を目指す者は身贔屓に目を曇らせることはないように心掛けなさい」
深雪に意見を言うと次はコノハへと視線向ける。
「そして影宮。君も同じだ。
その言葉に今度こそコノハは怒りを覚えた。
「目を曇らせているのはどっちですか!」
「影宮さん…」
「影宮」
「一科生であることに誇りに思うことは別にいい。でも、どんな理由があろうとも相手の実力を確かめずに二科生と言うレッテルだけで人を判断し、一科生こそが絶対的実力を持っていると言う考えと思想。そんな思想しか抱けないのであればその思想を抱いたまま溺死しろ!」
まるで何度も夢で見てきた自分のような台詞を服部に向けて放つ。
「貴様、一年生の分際で……!」
「ありがとう、影宮。服部副会長、俺と模擬戦をしましょう」
「なに……?」
先程から黙っていた達也が服部に模擬戦を申し込んだ。予想外の大胆な反撃に呆気にとられている真由美と摩利。
「思い上がるなよ、補欠の分際で!」
服部の表情を見て、達也はうっすらと苦笑いを浮かべていた。
「何がおかしい!」
「魔法師は冷静を心掛けるべき、なのでしょう?」
「くっ!」
まさか、自分が言った言葉が返ってくるとは思っていなかったのか悔しげな様子である。
「あるがままの対人戦闘スキルは戦わないと分からないと思いますが。別に、風紀委員になりたい訳ではありませんが妹の目が曇っていないことの証明と俺と深雪の為にここまで貴方と言い合ってくれた友の為ならば、やむを得ません」
(達也くん、ありがとう)
「……良いだろう。その申し出受けてたとう。身の程を弁えると言うことを教えてやる」
達也の挑発にのった服部。そしてその様子を見ていた真由美と摩利は行動に移す。
「私は生徒会長の権限によって、二年B組服部刑部と一年E組司波達也の模擬戦を、正式な試合と認めます」
「生徒会長の宣言に基づき、風紀委員長として、二人の試合が校則で認められた課外活動であると認める」
「時間はこれより三十分後、場所は第三演習室、試合は非公開として、双方にCADの使用を認めます」
こうして真由美と摩利の宣言によって達也と服部の模擬戦が正式に認められた。