リンサマーX   作:梵葉豪豪豪

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懲りてません。


02

『合大(マブフラッシュクロス)!』

 

 凰鈴音と織斑一夏がお互いの手をクロスさせ、一夏のブレスレットが光り二人は鈴音の姿を纏った巨人へと変身する。言うまでもなく全裸である。

 

 茗荷谷の街頭に勢いよく着地し、車やら砂埃が舞うお馴染みの登場となる。その向こうには、全身銀と黒に彩られた、のっぺりとした巨大な人型の宇宙人、いわゆる怪獣が待ち構えていた。傍らには対照的にゴテついた怪獣が二匹従っており、今にも襲い掛かってお前ブッ殺さんと言わんばかりに構えていた。

 

 例によって例の如く、足許には全裸に群がる一般人がひしめいていた。男しかいない。

 

「裸の巨人だ!」

「裸の巨人!」

「実にこのロリ体形、素晴らしきアングルだぜ」

「違うそうじゃない、ここは巨乳であるべきだろう」

「アンダーはあるべきだな、無毛なぞ無粋の極み」

「貴様このパーフェクツボディに何の不満があるのだ!」

「やかましいロリコンども! こういうのは貧相っつーんだよ!」

「殴りやがるか畜生! 死ねやボケェ!」

「俺も殴らせろ! ロリ万歳!」

「お前ら俺の二刀流スタンガンに耐えられると思うなよ!」

「それよりもお前ら上見ろ○じ見ろやグバァ! 手前ェか蹴りやがったの!」

「足の指に挟まれたい」

「何故褐色じゃないのよさ」

 

 遂には通行人同士で殴り合いど突き合いが始まった。いつもの事である。見ず知らずの男どもの性癖なぞ鈴ちゃんの知ったことじゃない。

 鈴音としては貧相とか幼児体型とかいう自覚はあるが、ロリと言われると非常に喉につっかえる何かを覚えてしまう。それでも、お前らがどう言おうと私の胸と腹の中は一夏と将来の子供のもんじゃいボケ、とまでは口にしなかった程度には冷静に分別が付いていた。

 

「とりあえずほっといて敵を倒してしまおうぜ」

「言われなくても!」

 

 胸に張り付く一夏の指摘を受け、鈴音は速攻ダッシュを敢行した。派手に物や通行人が舞い上がり、その中で変態どもは垣間見えた巨大な足の裏を堪能していた。

 

「鈴ちゃんラリアット!」

 

 怪獣一体目が走り寄ってパンチを繰り出す中を掻い潜り、脚から飛んだ姿勢で怪獣の右脇から左肩に勢いよくラリアットを食らわせた。一体目の胸は盛大に凹み、路面に背中から叩き付けられる。鈴音は尻もちを着くが、間髪入れず立ち上がり肘を怪獣の首筋にお見舞いする。

 

「鈴ちゃんエルボー!」

 

 怪獣の首は道路にめり込み千切れ飛び、勢い余って明後日に向かって飛んでいく。自分のところに生首が飛んできたので銀黒の宇宙人は慌てて避けたが、撒き散らされた血糊をモロに浴びた。

 

 一体目の胴体が爆発した隙を突き、長く伸びた手が鈴音の足首を掴み、高く吊り上げた。手が空中で固定され、鈴音がもがいても片足吊りから意地でも動かない。

 更に上空から10本の槍が降り、内5、6本が鈴音の腹を貫通する。銀黒の宇宙人がぶん投げたものだ。生命力が強過ぎて死にはしない鈴音だが、吐血はするし死ぬ程痛い。

 

 動けない鈴音を狙って、手の先にある本体、二体目の怪獣がジャンプして襲い掛かった。巨大なドリルになっている片方の手を回転させ突っ込んでくる。

 一夏が口から光の刃を吐き出し、鈴音が二体目に向かい縦に放った。

 

「鈴ちゃんカッター!」

 

 巨大な光の刃は二体目をあっさり真っ二つにせしめ、死体は放物線を描き鈴音の方へと飛んできた。

 固定されていない脚を使い、鈴音が片方の死体に回転蹴りを放つ。蹴られた死体は、二体目がやられた瞬間速攻背を向けて飛んで逃げ出した銀黒宇宙人にきっちりぶつかった。直後、死体が上空で爆発、宇宙人は巻き込まれた。その後は確認されていない。

 

 足首を掴んでいた手も吹き飛び、鈴音はようやく着地した。腹に槍が深々と刺さっているので迂闊に尻もちも突けない。

 巨体が光となって消え、元の二人に戻ったが、傷もなく服も元通りに復元されている。槍はズドドンと地面に落ちて跳ねたが、爆発跡と血糊と損壊した道路にまみれた周辺の被害に比べれば些細な問題だろう。

 

「死ぬ程疲れたわ」

「帰ろう」

 

 かくして東京都は守られた。IS学園の活躍は知らない。

 

 

 その晩ラウラ・ボーデヴィッヒはようやく帰路につき、自室のあるマンションまで辿り着いた。電車賃が足りなくなって改札口で揉めてしまい遅くなってしまった。PASMOを持ってたのに疲れ果てて存在を忘れてたための無駄なボケである。

 自室の玄関を通り、そのまま風呂場へ直行した。脱衣所で服を脱ぎ捨て、ついでに背中のファスナーをも開けた。

 ラウラだったものの着ぐるみの頭が脱げ、中から姿を現したのは、先程の銀黒の宇宙人だった。外から男女の声がした。

 

「あれー? 先に風呂ー?」

「いや俺入ってねーぞー?」

「じゃ今誰風呂入ってんの?」

 

 脱衣所に現れたのは、エプロン姿の鈴音だった。ついでにおたまを持っている。

 

「あ」

「あ」

 

 早い話がラウラは部屋を間違えたのである。ついでに正体もバレた。そして鈴ちゃんのおたまアタックがラウラの頭にさく裂した。包丁でなかったのが幸いだろう。

 

 

「……で、つまりアンタ宇宙人だったワケだ」

 

 リビングのテーブルに一夏、鈴音、ラウラ、更にテーブルの上に二頭身の千冬が夕食を摂りつつラウラの正体について話し合っていた。今夜のメニューは大皿の酢豚である。

 

「そうだ。私はシュバルツハーゼ族の軍に所属している。地球へは駐屯地開拓のための営業に来た。部屋がお前たち変身体と隣同士になったのは単なる偶然だが。……驚かないのか?」

「宇宙でもドイツ語か。あ、ドイツ人て設定だったか。後さらっと俺らの正体バレてんのな」

 

 一夏としては身近に宇宙人がいたことも正体がバレていることにもあんまりいい気はしない。ついでに鈴音がフォローを入れた。

 

「ま、アンタの渾名宇宙人だし」

「何でバレてるし」

「いや、俺のこと嫁呼ばわりしたり軍人自称したり目悪くないのに眼帯してたりアンブッシュしたりベア・グリルス並のサバイバルしたり色々やらかしまくってるからだよ? クラスでぶっちぎりのネタ人間扱いだよ?」

 

 事実関係だけ並べると何でクラスでやっていけたのか不思議になる一夏だが、人間関係は案外どうとでもなるものなんだろうと思い直すことにした。人間ではないが。

 

「むぅ、何がいけなかったというのだ。あと酢豚とピータン美味しいです」

「ありがと」

 

 ラウラに自覚はなかった。異文化コミュニケーションとはかくも難しいものである。

 千冬があの体格でどうやってか缶ビールを飲みつつ、一つラウラに訊いてみた。

 

「それにしても、お前のように地球に来ている宇宙人や怪獣はどのくらいいるのだ? 正直街中に突っ立っていられるだけでもかなり迷惑なのだが」

「総数は把握していないが、まぁ5桁は確実にいるな。理由は様々だが」

「もういっそアメリカにでも移住したくなってきた」

「アメリカ合衆国か? あそこの大統領や閣僚はトーホー星人が既になり替わってて近々神聖セイザー帝国になる予定だぞ?」

「最低だ」

「ま、この国に限ってはお前たちが水際で止めてるから当面大丈夫だろう」

 

 すかさず一夏がウーロン茶を飲みつつ突っ込みを入れる。

 

「他人事のように言うがお前は止められた側だぞ?」

「むぅ、そうだった」

 

 ふと、何気に一夏がベランダのある窓の方を向いたところ、ガラス窓の向こうに二人の女性が貼り付いていた。

 

「うぉ!?」

 

 よく見ると片方はクラスメイトだった。名を布仏本音という。

 放置してても仕方がないのでとりあえずは窓を開けて、入ってもらった。実家に帰ったフーテンの何某さん的な気安さで手を掲げて、本音は織斑家に上がる。

 

「どうもーおりむーりんりんらうらうー」

「繋げるな繋げるな」

 

 鈴音が今気になったことを本音に訊いてみる。

 

「あ、もしかして今の聞いてた?」

「それはもうバッチリと。あと昨日の情事とか」

「よし本音ちゃん後でお話しようか」

「え~でもあーいうの1時間も聞いてると頭おかしくなりそうなんだよ~判ってよ~」

「なら盗聴するなし」

 

 今夜真っ先にすることは部屋中の盗聴器探しに決まった。一夏がふと壁を見るとコンセントに付けた覚えのない三口タップが目に入った。

 

「それはそれとしまして、あ、私本音の姉で、IS学園のエージェント布仏虚です以後よろしく」

「ま た I S 学 園 か」

 

 一夏の非常にうんざりした突っ込みが響き渡った。

 

「女子高生が男性宅に入り浸って半同棲状態な点につきまして非常に言いたいことはありますが敢えて置いておきましょう」

「一生置いといていいわよ」

「今回我々はそこの宇宙人を回収しに来ただけです」

「え? いや待て」

 

 気が付けばラウラは亀甲縛りにされていた。布仏姉妹にうつ伏せにぶら下げられ、お持ち帰りされようとする。

 

「それでは、またねー」

「失礼します」

「よーめー! りーん!」

「頑張ってお勤め果たしてくるんだよー」

 

 ちゃんと玄関から退場する姉妹であった。ついでに律儀にラウラの靴も回収していった。

 

 

「一夏、一夏、一夏」

 

 別の日、夕暮れ時の藍越学園。剣道場にて、篠ノ之箒は一人、袴姿で素振りをし続けていた。他には誰もいない。

 パーフェクトに一夏キチである彼女は、他に誰かがいたらドン引きする掛け声で汗水垂らしている。事実、背後に立った不審者はドン引きしつつも箒に近づき、ピトッと背中をさすった。

 

「せ、先生! ちょっとそういうのは」

 

 相手は学園の教師のようで、箒が赤面するのにも拘わらず、汗まみれの背中をさすっていく。

 

「ふふふ箒ちゃん、よっぽど織斑君のことが好きなのね」

 

 瞬間、教師の手が箒の背中をすり抜け、指が箒の胸から露出した。出欠も痛みもなくただおぞましい感触だけが箒に伝わる。

 

「ひっ!」

「でも周りが邪魔、アタックしても振り向いてくれない。そもそも彼はもう別の女のもの。報われないわねぇ」

 

 肉体だけでなく、心までが侵食されていく。言葉の一つ一つが箒に刺さる。

 

「やめ、やめてください…」

 

 教師は妖艶な笑みを浮かべながら、最後の言葉を放つ。

 

「さぁあなたのしたいように心を開放してあげるわ」

 

 そして既に一人しかいなくなった剣道場にて、うなだれた箒の目が怪しく光った。

 

 

 無暗に長くなったので次回へつづく。

 




・槍
 エヴァ的なアレ。

・鈴ちゃん
 特に触れていないけど一夏らと同じクラス。巨人になっても正体が気付かれないのは小中学生が変身しているだろうという先入観が皆にあるから。

・ラウラ
 皮モノ。

・セイザーX
 そういう番組じゃあない。

・箒
 別に素振りがマスター何とやらの代償行為というワケではないと本人の名誉のために述べておく。

・妖艶
 最近まで「ようぜつ」と読んでいた。

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