竜の使い魔   作:超高校級の切望

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聖女は邪龍と共に雪風に誘われる

 人が決してたどり着けぬ、幻想の獣達が住まう世界の裏側。

 そこに竜がいた。

 万能の願望器を抱え眠る竜が。

 人の不死になる機会を奪った竜が。

 人の恒久的平穏を奪った竜が。

 人の……心を守った竜が。優しい邪竜が。

 時間の概念すら消失した悠久の時をただ過去を夢見ることに使い、眠り続けていた竜は懐かしい声にゆっくりとその瞼を開き裏側の世界を見つめる。

 満天の星空、青い花が咲き乱れた園。

 そこには聖女がいた。

 嘗て少年であった竜に生きる意味を教えてくれた聖女が。嘗て少年が恋した聖女が。

 

「もう決して、貴方を一人にしません」

 

 竜は差し出された手を取ろうとその手を伸ばす。鱗に覆われ、鋭い爪のはえたその手で聖女を傷つけないようにゆっくりと………そんな行為に聖女は微笑む。

 一人と一頭の手が触れ合う…………前に()()は現れた。

 

「───!?」

 

 初め、聖女にはそれが何か理解できなかった。

 

『──!』

 

 そして竜にはそれが理解できた。幻想の種となった竜だからこそ、魔法と言うモノに触れたことのある少年だからこそ理解出来てしまった。

 明らかに竜が生まれた世界ともここ世界の裏側とも違う未知の法則を持ったそれは、第二魔法。

 それも根本から違う。少年の生まれた世界とは成り立ちからして別物の世界への入り口、世界に空いた穴だ。

 その入り口の中に伸ばされた竜の爪が沈む。

 薄い鏡のようなそれはしかし反対にいる聖女の方に爪を出されることはなく、竜種の力を持ってしてもふりほどけずむしろ引き込まれる。

 術者の力……ではない。向こうの世界そのものが竜を引き寄せている。

 

「ジーク君!」

『ルーラー、離せ!君まで巻き込まれるぞ!』

 

 吸い込まれる竜を聖女が支えようとする。が、聖女より遥かに巨大な竜が為すすべもなく引き寄せられているのだ、聖女一人でどうにかなるはずもない。

 

「いいえ、放しません!」

 

 その龍は邪竜だ。如何にその心根が優しくても、その身は間違いなく嘗て英雄に討たれた邪悪なる竜の写し身。

 そして万能の願望器を守り続けた竜。そんな龍を何の目的があって召喚しようとしているのか解らないが、ろくなモノじゃない可能性が高い。そんな相手に、竜を、少年を引き渡すわけにはいかない。何より……

 

「私は──!あなたに伝えなきゃならない事が、ある──!」

 

 それを伝えるために此処まで来た。それを伝えるために此処まで来れた。

 たとえ何者であろうと邪魔させるものか。彼を引き戻せないというならせめて彼と共に行く。

 とうとう竜の半身を飲み込んだ穴は脈動しその全貌を飲み込む。

 

 

 

 

 

 トリステイン魔法学院。そこでは使い魔の儀が執り行わせれていた。

 使い魔の儀とはメイジが己の生涯の相棒となる存在を呼び寄せる儀式。呼び出されたその生物で、己にあった系統を見つけるのにも役立つ。

 タバサと名乗っている少女はその召喚の儀を行い、現れたゲートを前に佇む。

 使い魔となる生物が中々現れない。向こう側で警戒しているのかもしれない。困った、これでは進級出来ない。それ自体は彼女にとってどうでもいいのだが、それを口実にあの簒奪者の派閥がどう動くか…………と、肝を冷やしているとゲートが脈動し、二つの影を吐き出した。

 

「………人間?」

 

 それは確かに人間だった。金髪の、神秘的な美貌を持った女性と中性的な青年の二人組。

 召喚に巻き込まれたのだろうか?とゲートを見ると消えていた。

 

「………どうして………」

 

 まさか、彼等が自分の使い魔だとでも言うのだろうか?人間が?あり得ない、前例がない。失敗だ。そう、これは失敗。

 慈悲深き始祖の慈悲とやらは自分にはいっさい向けられていないらしい。


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