「人が住むために、食うために他の生物の住処を奪うことは良くあることだとは知っていました。しかし……」
ジャンヌは案内された村一番の一室で意気消沈したように呟く。
「ま、仕方ないよ。そもそも国土を広げるためには戦争なんてよくあることさ」
救国のための戦争を行っていたジャンヌと、国土を広げる王の手伝いをしていたアストルフォでは価値観が異なる。アストルフォは英雄の性質上、一方的に翼人を追い払おうとする村人に辟易しながらも良くあることだと割り切る。
タバサとしてはこの依頼が成功するにしろ無かったことにされるにしろ、失敗しなければそれで良い。
「俺に一つ考えがある。うまく行けば戦う必要がなくなるはずだ。そのために、窓の外の彼女の力も必要だが」
だから、ジークの言葉にも直ぐ乗ることにした。
「グオオォォォォ!!」
翌日村を竜が襲った。
「良く用意できたな………」
「ちょっとヒポ君と遠出してね……いやーでも使い魔のルーンって最高だね。ドラゴンまで操れるんだもん。ま、こっちのドラゴンはただそう言う形した動物だけど……」
このドラゴンを呼び、操っているのはアストルフォだ。どうも、この世界の使い魔としての特性が騎兵以外に生まれたらしい。そのことだけは感謝しているとか。
「あまり良い気はしませんね、このようなやり方は……」
「ルーラーは真面目だなぁ。でもこうでもしなきゃ村人は歩み寄ろうとしないよ?」
「しかし……」
作戦は簡単。村に脅威を放ち、それを翼人と村人が協力して倒すという筋書きだ。
「それにしても、タバサってあんなキャラなんだ………」
竜と戦う際、一々仰々しい台詞を吐いていたタバサ。普段は無口なのに意外だ。
「………彼女は英雄譚が好きだったらしいな、それに影響されてるんだろう」
「なるほどー。あ、やられた……」
タバサは竜の尾に弾かれフラフラと落下する。
「罰が当たったんだよ! 翼人たちを追い出そうとするから! 翼人たちと仲良くしていれば、あんな竜なんて倒せたかもしれないのに!」
「こんな時に何言ってやがる!翼人たちと仲良くなんてできる訳ねえ!」
「出来るさ!」
ヨシアが叫ぶと同時に木陰から翼人達が飛び出してくる。
「ふふーん、じゃ、僕も頑張っちゃうよ!」
アストルフォが右手を突き出すと右手の甲のルーン文字が輝き竜がピクリと身体を揺らす。
「グオオオオオ!」
ゴゥ!と炎を空に向かって吐き出す竜。その熱に怯む翼人と村人達。が、翼人が周囲を飛び回り葉を操り攪乱する。村人達が矢を放ち、竜はたまらず逃げ出していった。
「あれ、マスター何処行くの?せっかくの結婚式なのに……」
竜を協力して撃退したことで、村人たちは考えを改め、翼人たちと和解することになった。もちろん、翼人掃討の依頼は取り下げられた。そして、ヨシアとアイーシャはその三日後、結婚することになった。
タバサ達は結婚式に誘われたが、ジークは一人村から離れようとしていた。
「ああ、彼女にも迷惑をかけたからな。その謝罪に………馬肉で許してくれるだろうか?」
「彼女?」
「ああ………」
村から数リーグ離れた先に、洞窟があった。周りには動物の骨が散らばっている。
「…………」
洞窟の主は近づいてくる気配を感じてのっそりと姿を現す。
「ヤッホー!久し振り♪」
「………」
現れたのはドラゴンだ。来客である人間の娘には見覚えがあった。何故か言葉が通じて、不思議と親しみを覚えた相手だ。もう一人は見覚えのない人間の雄。見た限りではそうなのに、何故か戦おうと思えない。
「マスターがさ、村人に矢を射らせてごめんね、だってさ」
「すまない。君は静かに過ごしていたのに、此方の都合で迷惑をかけた。こんなもので謝罪になるか分からないか……」
ジークはそう言うと馬肉を置く。
ドラゴンはジッとジークを見る。その瞳と眼があった。
「クルルル」
「ありがとうだって」
「感謝するのは俺の方だ。貴方のおかげで、村の諍いを丸く納めること出来た」
「…………クウウウ」
「ん?」
「お肉のお礼に少し背中に乗せてくれるってさ」
「良いですねドラゴンは。皆乗れますもん」
霊体化して追いかけていたジャンヌは今度は一緒に乗れて満足そうに微笑んでいた。
「おーい!騎士様達!」
と、その時アイーシャに抱えられたヨシアが追ってきた。アイーシャの格好は花嫁衣装で、本人の美貌も相まってとても美しい。
「ありがとうございました。騎士様達のおかげです」
「いや。君達がお互いの家族に否定されても、お互いを愛していたからだよ。それがなく、互いに殺し合おうとしていれば俺達がたどり着く前に全て終わっていた」
ヨシアの言葉に笑みを浮かべ首を振るジーク。ヨシアはその言葉に照れたように、花嫁が持っていた花束を渡してくる。
ジークの知識の中にブーケトスと言うものがあるのを思い出した。花嫁の投げたブーケを受け取ったものが次の花嫁になれるとか言うおまじないだ。
とはいえジークは花など貰っても仕方ない。返そうと思ったがもう村に戻ってしまった。
「クルルル……」
と、竜が物欲しそうに鳴いた。ジークは三輪抜き取ると竜の前に向かって投げる。竜は器用に口でキャッチして花束を食べた。
「ジャンヌ」
「はい?」
ジークは花を一輪ジャンヌの髪に挿す。
「………に、似合ってますか?」
「ああ」
しばし呆然としたジャンヌだったが、花を飾られたと気づき上目遣いで尋ねる。ジークは肯定し顔を赤くするジャンヌ。と、今度はアストルフォがジークに飛びついてきた。
「マスター!僕も僕もー!」
「そう言うと思って花を多く取ったんだ。タバサはどうする?」
「いらない。どうせ似合わない」
アストルフォの髪にも花を挿してやりながら、タバサにも尋ねるがタバサは首を振った。
「マスターマスター、僕も似合ってる?」
「似合っているぞ」
「…………」
タバサは本から目を上げチラリと振り返る。照れているのか顔を赤くして俯いているジャンヌに満面の笑みのアストルフォ。同性であり、心が冷え切ったタバサでも可愛いと思った。アストルフォは男だったが……。
「…………何?」
タバサが二人に見とれているとジークは残った花をタバサの髪に挿す。
「似合わないなんて事はない」
「………そう」
サビエラ村。
吸血鬼の被害に怯え、村人達は抵抗しない生贄を探した。結果、逆らう力を持たない老婆に目を付けた。
村人達は心の底では吸血鬼ではないと解っていたが、村全員でそう思いこみ、毎日毎日無抵抗の相手を取り囲み罵倒する内に、気持ちよくなった。
自分達は村のために吸血鬼を見張っているんだと、吸血鬼は自分達が居る限り何も出来ないと偽善と傲慢に酔っていた。
だから滅びた。
「気に入らぬ……」
長髪の男は村人達を見て忌々しげに呟く。
「無抵抗な老人一人を生贄にして、自身の下らぬ正義に酔い、自分達は安全と知りながら同じ恐怖に震える者をいたぶるとは」
「が、あ……ぞ、ぞいづらはぎゅつげつぎで………」
「そのような虚言をまだ言うか。本物が幼い童の姿をしていると知って貴様等が見せたのは恐怖ではないか。あの老婆より遙かにか弱い姿をしていたろう?なのに貴様等は腰を抜かし逃げることすら出来なかった。思っていたのだろう?此奴等は抵抗しないと、楽しいと………救いようのないゴミ共だ」
ズブリと村人達の身体を貫いていた杭がより深く刺さる。
「滅びろ愚者ども。このような村、存在する価値もない」
その日一つの村がガリアから消えた。吸血鬼に狙われた村の末路と世間では言われたが、村人達の死因は刺殺らしい。