竜の使い魔   作:超高校級の切望

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神の盾は己の一端を知り虚無は眠る力を知る

 薄暗い森の中、馬車はガタガタ音を立てて進む。

 

「そうだ、タバサ……」

「?」

「さっき、俺は君の過去を見てしまった。すまない」

 

 オスマンが居るからか、誰も言葉を発さない中ジークが不意にタバサに謝罪した。

 

「どう言うこと?」

 

 ジークの言葉の意味が分からず首を傾げ質問するタバサ。ジークは申し訳無さそうに口を開いた。

 

「君と契約で繋がっているからだろう。君の記憶を覗いてしまった。きっと君が知られたくない、両親や、伯父の事を……」

「…………そう」

「ふむ。ワシも自分の使い魔の過去を見たことがあるな………殺されかかったが」

「え?そんな事が……ちょっと才人、私の過去を勝手に見てないでしょうね!」

 

 タバサは過去を見られたことを、最初は冗談と受け取ったがジークの顔を見て信じることにして、しかしどう返せば良いか解らなかった。そしてオスマンも似たような経験があると聞くとルイズが才人を睨んだ。

 

「ね、ねぇよそんなの」

「良いなー。僕もマスターの記憶みたい!なんかタバサばっかり縁が深いみたいでズルい!」

 

 才人は否定して逆にそう言う経験をしたいアストルフォは縁を深めるためかジークに密着する。

 

「ライダー。俺は君の記憶を見たよ……君が俺の約束通り、人間に関わってくれて、それを俺に見せたいと願ってくれたおかげだ」

「それは何よりだ!」

「……………」

 

 満面の笑みを浮かべジークの胸に額を押しつけるアストルフォ。アストルフォの頭を撫でてやるとジャンヌが羨ましそうな顔をしてみる。

 

「………師匠って呼ぼう」

 

 そんな光景を見て才人の中でジークのランクが最上級にあがった。

 

「………ジーク、貴方の過去、教えて。それでおあいこ」

「俺の?そうだな………何処から話すか。うん、やはり世界が違うと言うことから説明した方がいいか」

「世界が?」

「世界が!?」

 

 タバサが首を傾げた瞬間才人がタバサの言葉に被せるように叫んだ。タバサがうるさそうに顔をしかめたがそれはキュルケぐらいにしか解らない変化で、キュルケが頭を撫でてやった。

 

「な、なあ!それって、まさか月が一つなのか!?日本って知ってるか!?」

「あ、ああ……極東の島国だろ?才人は、名前からしてその国の人間だよな?」

「おお!ほらみろルイズ!俺みたいに、異世界から来たって奴も居るだろ?」

「異世界がどうのって奴?でもあんた、魔法使ってたじゃない。才人の世界には魔法が無いんじゃないの?」

「魔法?」

 

 と、才人はジークを見る。

 

「そりゃマスターは魔術師だからね」

「俺は魔術師じゃないよライダー。魔術使い……いや、それ未満の存在だ」

「え、まて……ひょっとして、あるの?俺の世界にも魔法…………」

 

 才人はワクワクしたような瞳でジークを見つめる。

 世界の裏に存在した、秘匿された魔法、それは才人の琴線に触れたらしい。

 

「ある。一般に知られていない技術だけどな」

「じゃ、じゃあさ!俺にも使えたり──!」

「使える訳ないじゃない。貴族でもないのに」

「使えるぞ」

「「「はぁ!?」」」

 

 才人の言葉にルイズが呆れたように言うが、ジークが肯定して、ルイズだけじゃなくキュルケやオスマンまでもが驚愕した。

 

「確かに彼方の世界の魔術……此方で言う魔法も、遺伝子……というよりは魔術回路と言うモノが必要だ。これは魔術師の子でなくても、誰にでも宿る可能性はある。まあ魔術師は多くが子に沢山の魔術回路を持たせて生ませようとするが」

「お、俺にもその魔術回路が!?」 

「無い……いや、無かったと言うべきか」

 

 魔術師の血統ではないが魔術回路を持つ者が一般に存在することは良くある。過去に魔術師の祖先がいて、隔世遺伝というのも珍しくない。

 

「無かった?」

「お前の魔術回路は後付けされたものだ。ここからな……」

 

 そう言ってジークは才人の左手を取り手の甲を叩く。そこに描かれているのはルーン文字。オスマンが目を細めた。

 

「おお!?てことは俺、このおかげで魔法覚えられるのか、炎だしたり出来る!?」

「どうだろう………一応、身体強化や経験憑依と似た魔術は、模擬戦の時使っていたみたいだが。此方の魔法と呼ばれる魔術を扱えるかは解らない。特化型の可能性もあるからな………そこまで、専門家ではないからな。すまない」

「俺あの時魔術っての使ってたの?」

「気付いてなかったのか?」

 

 ポカンとする才人にジークもまた呆然としていた。英霊の霊核も持たぬただの人間を、英霊とは言わずとも生身の人間で最高値の身体能力を引き出すあれが無意識とは、ルーンというのはそうとう無茶苦茶らしい。

 

「才人、剣を振るう時、敵を想像してからどう振るか意識した方がいい。今の君は、こうやったら良く斬れる程度の動きでしか斬ってない」

「お、良いこと言うじゃねーか兄ちゃん」

 

 と、ジークの言葉に才人の剣がカチャカチャ音を立て喋った。何でも、この剣はインテリジェンス・ソードと呼ばれる喋る剣らしい。

 

「君は何か知らないのか?そのルーンについて」

「んーと……わかんね。覚えてねーや。あ、でも確かどんな武器でも扱えた筈だぜ」

 

 それは中々強力な力だ。素人を戦えるだけの戦士に変えるのだから。

 

「ね、ねえ……あんた魔法に詳しいみたいじゃない」

「いや、さっき言ったように俺は魔術使い未満だ。知識は一通りあるが──」

「私の魔法も使えるように出来ない?」

 

 と、縋るようにジークを見つめてくるルイズ。そんなルイズにキュルケがケラケラ笑った。

 

「出来るわけないじゃない。教師の皆様だって出来なかったのよ?才能『ゼロ』のルイズが魔法使えるようになるなら、私はヘクサゴンクラスになれるわよ」

「才能がゼロ?ルイズは魔術回路の量も魔力量も多いし、むしろ才能がある方だと思うが。だが、少し妙な魔術回路だな……無理やり誰かに合わせたような………」

 

 生まれた瞬間から、いや生まれる段階から魔術回路や知識を与えられたジークから見ても、ルイズの魔術回路は奇妙なモノだった。しかしこの世界の魔法を扱うには十分以上に才能はある。

 

「そ、それって私も魔法が使えるようになるって事!?」

「え?ルイズって普段魔法使ってなかったっけ……ほら、ドカーンって」

「あれは失敗してるのよ!何なの、からかってるの!」

 

 アストルフォの言葉にキシャー!と噛みつくルイズ。それに対してアストルフォ、ジーク、ジャンヌ達、異世界の魔法を知る者達は首を傾げる。

 

「失敗したら普通何も発動しないのでは?」

「僕も気になってたんだよねー。『ゼロ』っていう割には爆発っていう結果があるじゃん」

「魔法の失敗が本来の形以外での発動なら、教室で行ったりはしないだろう?ルイズが特例なんじゃないか?」

「……………」

 

 オスマンは顎髭をすりながらジーク達を見る。

 

「そうだ、今回盗まれた秘宝について話そう」

 

 明らかに話を逸らそうとするオスマン。ルイズについて聞かれたくない何かでもあるのだろうか?とはいえ、秘法については聞いておいた方が良いので聞くことにする。

 

「まず花嫁の棺じゃが、これにはワシの使い魔が封印されておる」

「使い魔?」

 

 と、ロングビルが首を傾げる。何でそんな者を封印してるんだ?と言いたげな顔である。

 

「彼女はチと凶暴での。それに、彼女自身願いがあるそうじゃが、叶える手段がない。眠りたいと申してきてな……故に眠りにつかせ棺にロックと固定化をかけたのじゃ」

「それ、もう中で死んでいるんじゃ…」

「いや、それはあるまい……」

 

 キュルケの言葉を即座に否定するオスマン。

 

「そして破壊の鎚じゃが、これは兎に角重い。まああの子は普通にぶん回してたが……通常の鈍器としても使用可能で、さらに力を解放するとゴーレム程度なら簡単に壊せる。まあ、使えるのはワシの使い魔だけじゃが」

「そ、それって……フーケは無駄足を踏んだって事すか?」

「いや、使い魔とはいえ彼女はワシの命令に絶対服従ではなかったからのう。彼女の望む者を用意してやれば言うことを聞くかもしれん」

「その望みとは?」

「番じゃ」


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