竜の使い魔   作:超高校級の切望

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邪竜は土くれと相対し怪物は目覚める

「ここで降りましょう」

 

 と、ロングビルが馬車を止めて言う。

 あまり近すぎると馬車の音で気取られる可能性がある。暫く徒歩で進むと開けた場所に出る。そこには廃屋があった。

 

「わたくしの聞いた情報だと、あの中にいるという話です」

「こんな森深くに~?それ、なーんか嘘臭い。お金積まされた人の嘘の情報とか流されたんじゃないの?」

 

 アストルフォの言葉にオスマンはふむ、と小屋を見つめる。

 

「偵察は誰がする?」

「必要ない」

 

 タバサの言葉にオスマンはスペルを唱え杖でコンと地面を叩く。

 

「ふむ。誰もいないな……」

「解るんですか?ディテクト・マジックじゃメイジの存在しか探知できないはずでは?」

「ヒーリングの応用じゃよ。年を取りすぎると魔力は増えぬ代わりに器用になってな……ヒーリングは対象の中にある水に干渉するだろう?それを利用して、周辺の生物を探れるのだ」

 

 そう言ってチラリとジーク達を見るオスマン。ひょっとしたら彼等の正体に気付いているのかもしれない。正体を知らずとも違和感には気付いているだろう。

 

「では私は周辺を探索してきます。オールド・オスマンの探知範囲外に居るかもしれません」

「いや、アストルフォちゃんが言ってたように平民を雇っている、つまり複数犯の可能性もある。一人にはならないように」

「で、ですが……」

「なぁに、ワシのヒーリング探知は継続できる。近づけば解る。逆に言えば、誰も探知に引っかからずフーケが襲ってくればこの中にフーケが居ると言うことだ」

 

 オスマンの言葉にロングビルは顔をひきつらせる。

 

「では行くぞ……」

 

 歩き出したオスマンに続き小屋に近づく一同。扉を開け中を覗く。埃が積もっており人が生活していた気配はない。が、所々埃が積もっていないところがあり、誰かがここに来たのは間違いないようだ。

 

「破壊の鎚と花嫁の棺……」

 

 と、不意にタバサが壁に立てかけられていたモノを指さす。長い棒に球状の塊がついているファンタジーの武器のハンマーとしては大抵の者が想像する形をしている物、それと硬そうな棺桶だ。

 

「あれ、これって何処かでみたよーな……」

 

 破壊の鎚を見たアストルフォは頭に両手の人差し指を当てんー?と唸る。ジークは驚いた顔でそれを見ていた。と、その時だった。ズン!と地面が揺れる。そして屋根が吹っ飛んだ。

 

「ゴーレム!?」

 

 それは巨大なゴーレムだった。鉄の兜を被ったゴーレム。オスマンがロングビルを見るとロングビルはルイズを抱えて空へと退避するところだった。

 

「昨日と形が違ーう!やっぱり複数犯?」

「と言うかこの形見覚えが………」

 

 ジャンヌはサイズこそ異なるが見覚えのあるゴーレムに首を傾げる。と、ゴーレムが拳を振り下ろしてくる。

 

「アース・ハンド」

 

 が、オスマンがドット・スペルの魔法を発動するとゴーレムにも引けを取らない土の手が生えてきてゴーレムの拳を止める。

 

「このゴーレム、完全に自立しておるのか?興味深いが、時間をかけられん」

 

 オスマンは数体のゴーレムを生み出す。フーケのものと思われるゴーレムとは比較にならない滑らかな動きでゴーレムの頭を砕く。

 

「む?」

 

 首が吹き飛び抉れた胸に紫の結晶を見つける。彼処から魔力が流れている。そして流れ出た魔力で直ぐに修復した。此方の魔法と、オスマンの知識にもない魔法が掛け合わされているようだ。

 

「オールド・オスマン!退いてください、これで!」

 

 と、ロングビルから離れたのかルイズが破壊の鎚を持とうとする。が、持ち上げられない。

 

「ぬ、ミス・ロングビルは?」

「え?」

「むぅ……ひとまず此方か……」

 

 オスマンはそう言って自身のゴーレムを繰りゴーレムに殴りかかるが受け止められる。

 

「オールド・オスマンって強かったのねぇ。私達の出番ないかも」

「彼はトリステイン一のメイジ。ハルケギニア一かもしれない」

 

 感心するキュルケにタバサが細くする。もう終わりかとキュルケは欠伸をするがタバサは警戒を解かず周囲を見張る。だから、真っ先に気付いた。

 

「もう一体……」

「───ッ!」

 

 オスマンが相手にしているのと同じ形態のゴーレム。

 

「この!」

「おいルイズ!何してんだ!」

「こいつを倒さなきゃ!」

「ジャンヌやジーク達に任せろよ!お前じゃ役に立たない!」

「貴族が平民の陰に隠れるなんて出来るわけ無いでしょ!私は証明しなくちゃ行けないの、私はゼロなんかじゃないって!」

 

 ルイズが杖を振るうが一部が爆発しただけで大したダメージは負っていない。が、攻撃されたことでルイズを敵と認識したのかルイズに向かう。

 

「あ………」

 

 巨大なゴーレムが近付いてきて、腰を抜かすルイズ。ゴーレムがルイズを踏みつけようとするとオスマン程ではないがそれなりの大きさのアース・ハンドが足を掴んだ。

 

「たく!手間かけさせんじゃないよ!」

「で、でも……だって………悔しくて……」

 

 と、ロングビルが何時もと違う口調でルイズを掴みゴーレムの下から連れ去った。

 

「───ああ、くそぉ!」

「才人!?」

「何やってんだい使い魔!」

 

 そして入れ替わるようにゴーレムに突っ込む才人。

 

「見せてやるよルイズ!お前の使い魔は凄いって事を!」

 

 ゴーレムが振るった大振りな拳を身を滑らせることでかわして破壊の鎚を握る才人。その瞬間、左手のルーンが輝き破壊の鎚からバチバチと雷が迸る。

 

「ッ!?発動、何で……いや、それより………待て才人!それを加減なしに発動させるな!」

乙女の貞節(ブライダルチェスト)ォォォォ!」

 

 破壊の鎚から放たれた雷がゴーレムを吹き飛ばした。核である結晶をも砕き地面を抉り、才人の手を焼いた……

 

「あづぅ!?」

 

 ジークの言葉に咄嗟に威力を押さえたが、それでもこの威力、この代償。

 

「だ、大丈夫なのサイト!?」

「腕が動かねー………」

「人の身でそんな力を使えば当然だ。診せて見ろ……」

 

 ジークはそう言って才人の腕に触れる。焼けただれた腕はあっと言う間に治った。

 

「おお、これも俺らの世界にある魔術か?」

「そんなものだ……それにしても、どうやって使った……?」

「さっぱり、やったら出来た……」

「………そうか」

 

 これもルーンの力か?と才人のルーンを見つめるジーク。と、ズガン!と言う爆音が聞こえ振り返るとオスマンがアース・ニードルでゴーレムを破壊するところだった。

 

「……ふむ」

 

 足下に落ちてきた紫の結晶を指でつつき魔力がないのを確認すると懐にしまった。

 

「さて、どちらも取り返した。帰るとするか────」

 

 オスマンの言葉を掻き消すようにドゴン!と言う音が響いた。振り返れば音の発生源は花嫁の棺。オスマンがダラダラと汗を流す。そのままガンガン音が響き棺桶の留め具がピシリと悲鳴を上げ、次の衝撃音と共に蓋が吹き飛びオスマン達の頭上を通過して地面に落ちた。

 

「な、何だ!?今度は何だよ!ゾンビか、ゾンビなのか!?」

「落ち着いてダーリン。ほ、ほら、オールド・オスマンの使い魔が目を覚ましたのよ」

「………あの蓋、鉄……」

 

 顔を青ざめさせる才人に余裕そうに振る舞いながらも冷や汗を流すキュルケ。タバサの一言で、一同に緊張が走りアストルフォやジャンヌ、ジークは構える。

 

「………女の子?」

 

 才人の言うように、棺から現れたのは少女だった。桃色の髪をした、花嫁の棺と言う名の棺から出てくるに相応しい花嫁姿をした。

 

「ヴゥ………ヴアァァァァァァッ!!!」

「「「───!!?」」」

 

 その絶叫に息が詰まりそうになる才人。が、その時ルーンが光り取り敢えず落ち着く。他の面々は高い魔力故か何とか耐えていた。

 

「あれ、バーサーカー!久しぶり!」

「ウゥ?」

 

 と、アストルフォが空気読まずに話しかけるとバーサーカーと呼ばれた少女は首を傾げる。そして、己の手を見て辺りを見回すと才人を、正確には才人が持っていた破壊の鎚に目を止め近付いてくる。

 

「ちょ、ちょっと才人に何する気よ!」

「ウウ!」

 

 叫ぶルイズを無視して破壊の鎚をひったくる。土埃をパンパン落とすとウン!と満足そうに頷く。

 

「…………ウゥ!」

「へ、私!?」

 

 と、今度はロングビルを睨んで唸る。突然のことに目を白黒させるロングビルの前にアストルフォが立ちバーサーカーを落ち着かせようとする。

 

「ウウ!アァウ!」

「ふむふむなるほど………」

「何て言っているか解るのか?」

「何となく。えっとね………『お前が乱暴に運んだせいで眠っている間に何度も頭を打った!』だってさ……」

 

 アストルフォの翻訳にウンウン頷くバーサーカー。一同はその言葉の意味を一瞬理解できず、逆に言えば一瞬経って理解し驚愕の面もちでロングビルを見る。

 

「ま、まさかフーケの正体はミス・ロングビル!?」

「特徴も一致してるわね」

「ッチ!」

 

 ロングビル、いやフーケは即座に杖を抜き魔法を使おうとしたがオスマンが杖を振るうと顔を覆うように霧が発生し、その場に倒れた。

 こうして、土くれのフーケ討伐作戦は良く解らない形で終結した。




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