土くれのフーケは捕らえたが、まだ問題が残ってた。
「ヴゥ!うぅ………アア!」
「何かオールド・オスマン使い魔に怒られてない?」
「ライダー、あの子は何て?」
「えっとね……『約束が違う!どうして起こした!』ってさ」
ジークがアストルフォに尋ねるとアストルフォが翻訳してくれた。起こした、約束……この二つの単語から察するに彼女は眠り続けていたかったのだろう、聖杯が存在せず、フランケンシュタイン博士もいない、自分の望みが叶わぬ世界に絶望して。
「ウウウ」
「そう怒るな。解った、また封印するから……じゃが、約束通り有事の際は力を貸してくれるんじゃろうな?」
「ヴゥ!」
「『今度は中にクッションを追加!』だってさ」
あの短い言葉の中にそれだけの意味が……。と思いながらジークはバーサーカーが再び眠りにつく前に言っておきたいことがあったため近づく。
「話に割り込んですまない、少し良いだろうか?」
「ウゥ………ウ?」
話に入られ明らかに不満そうなバーサーカーだったがジークを見た瞬間、首を傾げジークの顔を見つめる。
「眠りにつく前に、俺は君に………本来の君に言いたいことがあったんだ」
「ンウ?」
「君は俺のことなど覚えていないだろう。そんな意図だって、無かったはずだ。だが、俺は君のおかげで立ち上がれた、戦えた………その事に、ずっと礼が言いたかったんだ」
「………同……じ……?」
バーサーカーはジークの胸に触れ尋ねてくる。同じ、というのは……きっとジークの中にあるフランケンシュタインの怪物としての部分を言っているのだろう。
「ああ、そうだな。俺の心臓は、ある英雄からもらった。だが、一度止まっている。動かしてくれたのは、アナタと同じ力だ」
「見ツ……けた………」
「ん?」
「なぁ!?」
「わぁ」
「ほぉ」
と、突然バーサーカーがジークに抱きつき、ジャンヌが目を見開き、アストルフォが感心し、オスマンが面白いモノを見たというように反応した。
「アダ、ム……見つ……ケ、た………」
「?アダム?俺はジークだ……」
「ジー、ク……それ、名マエ?」
「ああ」
「ウン……覚え、タ……」
そう言ってジークの胸に頬を押しつけるバーサーカー。
「あー、その……黒のバーサーカー、何時までジーク君に抱きついてるんですか?」
「ウゥ、ヴウゥ」
「『やっと見つけたからもう離さない』ってさ」
「うんうん」
アストルフォの翻訳に頷くバーサーカー。ジャンヌはむぅ、と頬を膨らませる。
「あー、バーサーカー……封印は良いのか?」
「ウウ」
オスマンの言葉にコクリと頷くバーサーカー。
「すまない、離れてくれるか?えっと………バーサーカー……」
「ンン」
「ん、違う?」
ジークの言葉にフルフルと首を振るバーサーカー。ジークが問い返すとコクコク頷く。
「名、前………イヴ……」
「イヴ……それが君の名前か?」
「ヤァァ」
嬉しそうに笑みを浮かべるバーサーカー。かわいい、と才人が見取れているとルイズに足を踏まれた。
「解った。名は大切なものだからな。じゃあイヴ、離れてくれないか?これでは歩けない」
「ウン」
ジークの言葉に名残惜しそうに、しかしあっさり離れるイヴ。
「オスマン学院長、貴方には少し聞きたいことがあるのだが」
「うむ。それは帰ってから話すとしよう………」
学園長室には現在ジーク、ジャンヌ、アストルフォにタバサ。そしてオスマンの後ろに立つイヴの五人が居た。
「さて、どこから話すか……」
「まず、貴方が何時彼女を召喚して、どの程度の知識があるかだな」
「召喚したのは200年ほど前、ワシがまだ二桁の若い頃じゃ………当時の使い魔が、死んでしまってな。ワイバーンに囲まれておったワシは一類の望みをかけて使い魔を呼び出した。そして現れた彼女がワイバーンの群を一掃した………知識に関してじゃが、少ししか知らんよ。彼女の夢で聖杯戦争、聖杯大戦についてはある程度知っておるがのぉ……彼女に関してはむしろコルベール君の方が詳しい。修理……と言うか治療は彼に任せておったからな」
「彼女を治せる者がこの世界にもいるのか……」
「もちろん放っておいても治るようだが………」
確かにサーヴァントだから魔力供給が続き霊基が無事ならほぼ不死身だ。その程度の知識もあるようだ。
「次は此方の質問じゃ。君達は昔、聖杯大戦にいたね?望みがあったのだろう?それを叶えようと思わんのかね?」
「ないよー」
「私も、ないからルーラーとなったのです」
「俺は本来大聖杯に願いがあって参加した訳じゃない。仲間達を救うという願いは、既に叶った」
「ふむ……ここにいるバーサーカー……いやさイヴも願いは既に叶っている。何よりだ……」
オスマンは満足そうに頷く。
「さて、今夜は舞踏会じゃ……お主達には世話になった。良ければ服を貸してやろう」
「良いんですか?」
「うむ。それにな可愛いおなごが着飾っているのを見てみたいじゃろ?」
ジークの横に付き添うように佇むイヴは何故かメイド姿だった。ワインを求めると無言で差しだしマルコリヌと言う太った貴族の少年を興奮させていたりした。
「似合ってる……」
「そうか?自分では良く解らないが………と言うかまだ食うのか」
タバサは黙々と食事を取りながらジークの服装の感想を言う。普段ならこんな事は言わないが、先ほど親友のキュルケに感想を言ってやるように言われたからだ。
「貴方は食べないの?」
「俺はそこまで食べないからな」
「そう……」
と、その時ザワザワと騒がしくなる。そちらに振り返ると黒いドレスを着たジャンヌと左右で模様が異なるドレスを着たアストルフォが歩いてきた。
「おーいマスター!えへへ、似合う?」
「ああ、似合っているぞ」
ジークの言葉に満面の笑みを浮かべるアストルフォ。その笑顔を見て数多の男達がアストルフォをダンスに誘う。が、それら全てを無視してジークに手を差し出す。
「踊ろ、マスター!」
「ああ」
ジークがアストルフォの手を取ると一気に引かれ開けた場所まで移動し、音楽に合わせて踊り出す。楽しそうに笑うアストルフォにたどたどしくも笑みを浮かべ相手するジーク。どちらも絵になる二人が着飾り踊る様は絵画を動かしているようだ。
「そぉれ!」
「おっと……」
「───ッ!?」
演奏が一周するとアストルフォはクルリと回ってジークをジャンヌに向けて投げる。とっさに受け止めたジャンヌ、ジークは笑みを浮かべ、先ほどのアストルフォのように手を差し出す。
「ジャンヌ、俺と踊ってくれるか?」
「………はい」
ジャンヌは頬を染め照れくさそうに笑みを浮かべるとジャンヌはジークの手を取り踊り出した。