竜の使い魔   作:超高校級の切望

2 / 21
邪龍と聖女は学院の長と出会う

「ここは………」

 

 金髪の少女、ジャンヌ・ダルクは困惑しながら周囲を見回す。周囲には人が想像する魔法使いそのままの格好をした少年少女。ひとりだけ頭の寂しい男性もいた。自分の隣には龍が嘗ての姿、少年の姿となって困惑していた。

 少年の、ジークのそんな様子を見てジャンヌは懐かしさを感じ、落ち着いた。

 それにしても、今日日魔術師らしい格好ばかりだ。まあ減ったとはいえ組織によってはそう見える制服もあるだろう。

 しかし周囲に何匹かいるどう見ても幻想種にしか見えない生物達。

 そう、見えるが生物なのだ。そう言う形に進化した。神秘は欠片ほどしかなくその神秘も殆どがラインで繋がる契約者らしき者達から分け与えられていた。

 火の点いた尾を持つ赤い蜥蜴などはその身にそこそこの神秘を宿していたが……まあ、そうでなくては身に炎を宿すなど出来ないが。

 

「……それにしても……」

 

 ここはやけに神秘に満ちている。

 そう言う時代なのだろうか?来た原因はあの鏡のようなものだとは思うのだが……。

 

「……失礼、ミス……ええと………」

 

 と、不意に頭の寂しい男性がジャンヌに話しかけてきた。ジークとジャンヌを視線が行き来して、再びジャンヌを見る。どこかぼんやりしているジークよりジャンヌの方が話が進むかと思ったのだろう。

 ジャンヌはその男性を観察する。下手に出てはいるが、隙がない。もちろんサーヴァントである自分からすれば対処可能な実力だろう。だが人間だった頃なら危なかっただろう。

 

「失礼。少々混乱していて………私はジャンヌ・ダルクともうします。此方はジークく……ジーク。見たところ貴方は軍人のようですが、ここは軍事施設なのでしょうか?だとしたら勝手に入ってしまい申し訳ありません」

「──っ!い、いえ……混乱するのは仕方ないかと。我々もそうですからな。あ、私はコルベールと申します」

「………?」

 

 軍人扱いされたことにあからさまに動揺していたがどうしたのだろうか?

 ジャンヌは女性だが元軍人。それなりに実力を見抜く目を持っているつもりだがそれを抜きにしても、彼の動きはいささか分かりやすすぎた。まあひょっとしたら退役軍人で、隠す技術が衰えているのに気づけてないのかもしれない。

 

「……それでミス・ダルク。貴方はどこの国の貴族でしょうか?」

「「「!?」」」

 

 コルベールの言葉にざわめく周囲に首を傾げながらジャンヌは取り敢えず勘違いを先に取っ払っておくことにする。

 

「私は貴族などではありませんよ。ただの村娘です」

「そうなのですか?しかし、その魔力は………」

「?確かに私の魔力はAですが……」

 

 話が噛み合わず二人そろって首を傾げる。

 コルベールは目の前の少女を眺める。貴族でないと言ったが探知魔法(ディティクト・マジック)を使わずとも解る魔力を内包している。いや、それを言うなら少年もだが……しかしこの少年の異質な魔力は何だ?彼は本当に人間なのだろうか?

 

「時に、私は確かにルーラーのサーヴァントとして召喚されたようですが聖杯の気配はありませんし……それで、彼にいったいどのような用件が?」

「せ、聖杯……?」

 

 聞き慣れない言葉に困惑するコルベール。聖杯とはいったい……しかし聞き慣れた言葉もあった。

 

「そ、そう……今は召喚の儀の途中でしたな。いや、実は……これは使い魔を呼ぶ儀式でして本来なら人以外の獣や幻獣を呼ぶサモン・サーヴァントと言う術を使って行う儀式なのですが……」

「サモン・サーヴァント?使い魔………」

「すまないルーラー。どうやら俺の召喚に巻き込んでしまったらしい」

 

 と、不意に少年、ジークと言う名らしい少年がすまなそうにジャンヌに謝罪をした。先程の会話を聞いて何故その回答に至ったのかは解らないが、ジークの顔は申し訳なさでいっぱいで冗談とは思えない。

 

「あなた方の呼んだ龍は俺だ。用件を聞こう……すまないが、全て叶えられるとは言い切れない」

 

 龍?良く解らないが、彼は此方の話を聞く器があるらしい。と、安堵したコルベール。

 

「で、では契約を……」

「お断りします」

「………え?」

 

 契約をすませば後はなるようになるだろうと考えていたコルベールはしかし教え子の声に呆ける。今、彼女は断ると言ったのだろうか?いや、確かに使い魔との契約は口付けをする必要があるし、年頃の少女には……

 

「彼にも家族や友がいるはずです。それなのに引き離し、一生を縛るなんて出来ません」

「───!」

 

 その言葉にコルベールはガツンと頭を殴られたような衝撃を覚える。そうだ、平民ならばと考えてしまっていたが平民は別に地から生えてくる訳ではない。男と女が愛し合い子をなし愛を持って育んだ、人間だ。貴族と何一つ変わらない。

 人間の召喚というイレギュラーに混乱しすぎていたようだ。このまま彼らに使い魔の契約をさせていればコルベールは今後彼等の関係はそうあって当然だと思っていたことだろう。

 

「申し訳ありません。今回の件は、監督者である私の責任です。必ずお二人を元の国に送り返しますのでどうかこの子をせめないでください」

「いや、別にそこまでしなくても……第二魔法などそうそう使えるものじゃないだろう」

「第二魔法?」

「?」

「ジーク君、ちょっと……」

 

 二人して首を傾げていると再びジャンヌが話に入ってきた。

 

「第二魔法と言うのは平行世界の運用……でしたか?平行世界とは可能性の世界。とはいえこうもあっさり幻獣が跋扈している世界は、もはや異世界と言っても良いほど歴史がかけ離れています。おそらく、我々の世界の常識は通じないかと」

「そうなのか……」

 

 ジークはジャンヌの言葉に頷くと自分を呼びだしたらしき少女に目を向ける。

 

「一つ聞きたい。君は、俺を呼び出しておきながら俺の自由を尊重すると言った。俺の召喚は君本人の意思ではないのか?」

「言い訳にしかならない」

「つまり君の意思ではないと言うことか」

「ええっと……申し訳ない。話がまとまっていないようだが、まずは学園長室に向かってもらえないだろうか?今回のイレギュラーをまず報告してもらいたい」

 

 と、コルベールの言葉にジークはチラリとタバサを見る。

 

「案内する」

「助かる。俺はジーク……君は?」

「…………タバサ」

「タバサか、よろしく頼む」

「ではミス・タバサ、これを……」

 

 タバサはコルベールから羊皮紙を受け取ると歩き出した。

 

 

 

 

 学園長室でオールド・オスマンと呼ばれる老人が鼻毛を千切っていた。

 学園長とはいえ、余程の事件が無い限り暇なのだ。

 と、そんな暇な老人の暇つぶしを邪魔するようにドアをノックする音が聞こえた。ブチリと数本抜いてしまい涙目になる。

 

「誰じゃね?」

「タバサです」

「……む」

 

 その言葉にオスマンは顔つきを変える。

 タバサと言う名の生徒は一人しかいない。中々厄介な経歴を持った生徒だ。あの青い髪を見た時はオスマンも思わず吹き出したものだ。

 

「入りなさい」

 

 オスマンが許可を出すと扉が開きタバサが入ってくる。後ろには見覚えのない少年少女が二人。少女の方はオスマンを以てしても見通せない不思議な気配を放ち、少年は逆に見た目と感じる歴が合わない。そんな性別も雰囲気も真逆な二人だが、悪意は感じない。

 タバサが羊皮紙を見せる。どうやらコルベールからの緊急案件のようだ。

 

「……ふむ、説明してもらえるかな?」

 

 オスマンの言葉にタバサは頷き彼等について話した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。