竜の使い魔   作:超高校級の切望

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ゼロと神の盾、青銅と閃光、炎蛇と共に旅立つ

 朝靄の中、ギーシュと才人、ルイズに──彼女の婚約者であるワルドの四人が揃っていた。

 ルイズはあの後アンリエッタからアルビオンの皇太子に手紙を届け、かつある手紙を受け取ってくるように頼まれた。ルイズは了承し才人は使い魔故について行くことに。ギーシュは流れだ。

 ワルドはルイズがアンリエッタに身分証代わりに借りたトリステイン王家の証である『水のルビー』の匂いに反応した、ギーシュの使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンテを吹っ飛ばして、颯爽と助けてルイズを抱え上げて婚約者宣言したため、才人の機嫌はすこぶる悪い。と、その時だった──

 

「仮にも隠れて出るならもう少し静かにするものだと思いますがね」

「「「───!?」」」

 

 呆れたような声に誰もが振り向く。気配もなく足音もなかった。とっさに振り返った一同の目に映ったのは、声同様呆れた顔をしたコルベール。

 

「こ、コルベール先生!どうして!?」

「どうしてもこうしても、生徒達が朝から集まり勝手に学院を抜けようとしているのだよ?教師たる私が止めに来るのがそんなに不思議かね?」

「───っ──そ、それは………その」

 

 正論だ。しかしどうする?これは内密に頼まれた姫殿下からの密命。今更引くこともできないし引く気もない。しかしそれを素直に話すことはできない。と、コルベールは寂しい頭をかく。

 

「まあ、事情は知っているがね。私としては生徒達が戦地に赴き、死ぬかもしれないのを放置したくはないのだが………事情が事情。故に、手を貸そう」

 

 と、コルベールの後ろに馬がやってきた。手を貸そう、とはつまりついて行くと言うことだろう。言っては悪いがコルベールが来ても役に立つとは思えない。そんな婚約者の心情を察しワルドがコルベールに歩み寄る。

 

「ミスタ、気持ちは嬉しいがこれは貴方の言うように、戦地に向かう危険な任務。私にも守れる限界があります。これ以上ふや───!?」

「へ?」

「……え?」

 

 ルイズ、ギーシュ、才人が目を見開く。ワルドもポカンと呆けた表情で固まり、眼前にコルベールの杖の先端を突きつけられる。

 

「心配無用。これでも元軍人でしてね。自分の身は自分で守ります」

 

 コルベールはどうやったのか、ワルドを地面に転がらせて起き上がれぬように踏みつけて、杖を突き立てていた。少し動かせばワルドの目を潰し脳を貫ける姿勢。

 

「失礼ミスタ・ワルド。あまり、婚約者の前でさせて良い格好ではありませんでしたね」

「いえ、此方こそ己がまだ未熟であることを再確認できましたよ」

 

 ワルドはコルベールから差し出された手を取り立ち上がった。コルベールの目が一瞬獲物を狙う蛇のように細められ、しかしそれは誰かが気づくことなく元に戻る。

 

 

 

 

「────ふぅ」

 

 滝のような汗を流し一息つくジーク。今日も今日とて早朝鍛錬。対戦相手のアストルフォがお疲れ~、と手を差し伸べてくる。

 

「お疲れジーク。だいぶ動けるようになってきたね」

「今でこそ人の形をしているが、この身は邪竜だからな。身体能力だけなら高い。後は、経験と技術だ」

「んー、ボクもその辺りあんまりだしなぁ」

「私も、騎士とはいえ先導者として前線に立っていただけでした」

「ウゥ……」

 

 ジークが剣をしまいながら今日の鍛錬の反省点を振り返ると、その部分に関しては役に立てる気がしないアストルフォ、ジャンヌ、イヴは落ち込む。

 

「不快な思いをさせたなら謝ろう。申し訳ない。決して君たちを責めているわけではないんだ。そもそもこう言うのは、技術関係なく勝てるようになってから言うべきだったな……」

「騎兵に狂戦士、調停者から剣の技術を学ぶことこそ間違い」

 

 と、本を閉じながら呟くタバサ。ジークは確かに、と呟く。

 

「だが全員、素の俺より強い。訓練にはなるよ………あれ、俺の真の姿は異なるわけだが『素の俺』で良いのか?」

 

 顎に手を当て考え出すジーク。その生い立ち故か、彼は結構物事を深く考えすぎてしまうところがある。アストルフォとしてはそんな所を含めて大好きだしジャンヌも同様。イヴは漸く見つけた唯一の同族(ア ダ ム)を良く知っていこうと観察する。

 

「休憩したら、私の番」

 

 早朝鍛錬の後はタバサへの魔術指導。元ホムンクルスだけあり、文字通り生まれた時から魔術が扱えたジークは教えるのはそこまで上手くない。タバサ自身体系が別の魔術、この世界の魔法を覚えているだけに違和感を感じているが、魔力の流れを意識できてからは魔法の精度も上がり、少しずつだが強化の発動時間も延びてきた。

 

「ジーク!風竜を貸して頂戴!」

 

 

 

 

 

 トリステインからアルビオンに向かう船がでる港街、ラ・ロシェールへと続く崖に挟まれた道で複数の死体が転がる。生き残った一人は額に鉄の塊を押し当てられ、顔を青くしていた。

 

「最後の質問だ。お前達を雇ったのは何者だ?」

「し、しらねぇ!仮面で顔を隠してて──ただ、この道を通るガキどもを襲えって──!」

 

 その鉄の塊は破裂音を響かせた後、仲間の頭に穴をあけ殺した道具だ。仕組みは解らない。マジックアイテムかもしれない。重要なのはこれは自分を殺せる道具で、自分は今まさに他の仲間同様殺それそうになっているという事。

 

「チッ。金で人を殺す、単なる俗物か……しかしガキども、だと?」

 

 それはつまり手紙をたくされたのが子供だと知り、かつ予定していた数より子供の数が増えたことを知っている人物ということになる。自分の主は、違うだろう。ガキどもとやらの依頼者も違う。依頼にかこつけて暗殺を考えるような知能はないと聞いている。

 

「となると怪しいのは………」

 

 と、羊皮紙を見る女。あの後新たに追加された人員はグリフォン隊隊長に、学院の教員。得意な系統はそれぞれ『風』と『火』。

 

「………火、か」


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