竜の使い魔   作:超高校級の切望

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騎兵は笑い、王達は笑う

 黒のライダー、アストルフォ。

 シャルルマーニュ十二勇士の一人にして、ユグドミレニアに黒のライダーとして召喚され、後にホムンクルスをマスターにした異例のサーヴァント。

 

「いやー。でも会えて良かったよ!なんとなく、君がこっちに来たのは気づいてたけど何処にいるかまでは解らなくてさー。とりあえず、君に頼まれたように世界を回ろうとした矢先に会えるなんてついてるよ」

「俺も会いたかったよ」

「えー?僕の方が会いたがってたよ~。ん~、スリスリ……」

「………ライダー」

「あ、ルーラー!ルーラーも久しぶり!」

「きゃあ!」

 

 ジークに抱きついていたアストルフォに眉をピクピク動かしながら声をかけるジャンヌ。それに気づいたアストルフォはジャンヌに抱きついた。

 

「ここにいるって事は会えたんだ!良かった!」

「……………」

 

 何か言い掛かったジャンヌだったがアストルフォの言葉にはぁ、とため息を吐いて頭を撫でる。

 そして、唯一取り残されたのはアストルフォを知らないタバサ。

 

「ジーク、()()は?」

()はアストルフォ。俺の友人で……使い魔みたいなモノだ」

「使い魔……?」

 

 と、アストルフォを見るタバサ。彼も人間を使い魔にしたのだろうか?しかし彼はメイジではないはず。

 それに、アストルフォはマントを羽織っている。まさか貴族なのか?

 

「………ん、彼?」

「ああ。アストルフォは男だからな」

「…………………驚いた」

 

 たっぷり十秒ほどの硬直の後、タバサが出せた言葉はそれだけだった。

 

「あれ?マスター、ジャンヌ、そっちのちっこい子は誰?」

「タバサ。この世界で、俺を召喚したマスターだ」

「しょーかん………?ああ!」

 

 と、ジークの言葉に何かを思い出したように叫ぶアストルフォ。そしてそのままジークの唇に自分の唇を押し付けた。

 

「なぁ!?」

「んぐ……」

「…………」

 

 ジャンヌが目を見開いて叫び、ジークが目を白黒させ、タバサは美少年同士の口付けに感じたことのない興奮を覚える。そんな外野の様子など気にせずアストルフォはジークから「ぷはっ」と口を放し、蜂蜜を舐めた子供のような顔で自分の唇を舐める。

 

「えへへ。上書き完了!」

「何をしているのですか貴方は!?」

「うわわ!」

 

 ジャンヌがアストルフォを引っ剥がすと何時かのように地面を転がるアストルフォ。懐かしい光景にジークが吹き出すとアストルフォもにっと笑みを浮かべた。ジャンヌだけはご立腹だったが……。

 

「いったい何のつもりですか黒のライダー!いきなりジーク君とき、き……キスをするなんて!」

「だから上書き。こっちじゃ使い魔は主人とキスして契約するんでしょ?いきなりこっち連れてこられて『予定と違いますが、良いでしょう。今日からよろしくお願いします』って呆けてる間にいきなりキスされてさー。ま、赤のアサシンみたいにいやーな性格してそうだから誰が言うこと聞くもんかって言ってやったんだけどね。それに僕のマスターは君だけだよ」

 

 アストルフォの言葉にジークが笑う。ジャンヌは不満そうでタバサは本を読む。

 

「あ、そうだこれお土産!」

「これは……鏡か?」

「マスター気取りの髪長お兄さんの所から貰って来ちゃった。なんか魔術かけられててさ………彼、なんか色々詳しそうだったんだよね。『世界には月が幾つありますか?』って聞いたり……」

 

 つまり月の数が違う世界の存在を知っている。そんな存在が持っていた何らかの魔術がかけられた鏡。確かにこの世界を知る手がかりになりそうだ。

 

「しかし、大丈夫なのか?」

「まーそれなりの地位はもってそうだったけど。だからこそ言えないんじゃない?『召喚した使い魔に逃げられ大切な物を盗まれました』なんて言ったら魔法至上主義のこの世界じゃすぐ失脚しちゃうよ。まず信用できる者を選んで、内密に動ける計画を立てる………時間は相当かかるんじゃないかな?」

 

 アストルフォは本能的に、気分的に行動する脳天気な性格だが、聡明だ。決して馬鹿ではない。むしろジーク、ジャンヌ、アストルフォの三人の中では一番冴えているだろう。

 

「しかし盗みというのは………」

「ルーラーは真面目だなぁ。じゃあ、えっと………あれだ!ほら、報酬!マスターが来るまで僕は大人しくしてたんだからその報酬!」

「確かに成果には報償を払うべきですが、しかし無断というのは………」

「えー。だってご飯もなんにもくれなかったんだよ?言うこと聞け言うこと聞けばっかでさー。おまけに洗脳しようとしてくるし………」

 

 まあそこは対魔力(A)のアストルフォ。この世界で使われるギアスなど効くはずもない。

 

「洗脳魔法は禁忌。それを平然と使うということは違法組織の可能性が高い。そういった存在から魔道具を一つ奪い動きにくくしたと考えれば」

「お?そうそう、そう言うこと!良いこと言うね!タバサ……だっけ?」

「………」

 

 アストルフォの言葉に頷くタバサ。

 ジャンヌはタバサの言葉にまる乗りしたアストルフォに呆れながらも、確かにその通りだと思った。これが聖杯戦争なら、ジャンヌも公平を期すために何かしただろうか?いや、裏切ったのはアストルフォ自身で、それはルーラーの関与することではない。

 まあこれは聖杯戦争ではないのだが、しかもタバサに言わせるところ洗脳を平然と行う者達のようだし……言い分としては間違っていない。

 

 

 

 

 

「『剣士』と『騎兵』が出会った」

「ほう?それは誠か!」

 

 青い髪、青い髭の男はチェス番を挟み対面する男の言葉に探していた玩具を見つけた子供のような笑みを浮かべる。

 対面する男は何処か死人めいた白い肌をした妙齢の美丈夫。自身の頭に刻まれたルーンをトントンと叩く。

 

「貴様が寄越した『頭脳』の力で、余は様々な魔道具を操る力を得た。ガーゴイルと言ったか?それで見張らせていた貴様の姪が『剣士』を呼び出した。『騎兵』は何処から来たか知らん……と言いたいところだが、話に聞く円鏡を持っていた。ロマリアだろう」

「ははは!つまりロマリアめは呼び出した使い魔に裏切られたあげく、大切な始祖の宝物を奪われたわけか。今頃混乱しているだろうな……探るなら今か?」

「その程度で探れるならとうに探っているだろう」

「うむ。だが動き辛くはなる……幸い余には各国に友が居てな、様々な国の密偵を名乗る者達に生臭坊主達がどう対応するか見物だとは思わんか?」

 

 青い男は大国の王だ。しかし相対する男は一定の敬意は払えど下手には出ない。あたかも対等であると言い張るかのように。

 しかしその無礼な態度にも王は気にしない。

 

「しかし何とも………」

「どうした?」

「いや、『騎兵』が嘗て我が配下だったものでな……『剣士』も、配下に救われていたホムンクルス。おまけにあの『調停者』までいる始末……」

「貴様が言っていた先の大戦の身内か?」

「ああ。アレは実に不愉快な戦であった……」

 

 ギリィと男が歯噛みする。

 

「解っていると思うが、あの宝具を余に使わせるなよ?この世界の契約において、我等を縛るのは植え付けられた親しみしかない。だが、その好意とて『騎兵』のように無視しようとすれば出来る代物だ」

「そう脅すな。余とてその姿の貴様に興味は尽きぬが、折角余と指せる棋士なのだ。この友情を自ら壊したりはせんよ……」

「それならばよい」

 

 王がグラスにワインを注ぐと、男は無言で受け取る。王も自らのグラスを満たすと揺らして眺める。

 

「貴様は言ったな?余は人である前に王である、と……その通り。余は王だ。国を守り、導かねばならん。だが人だ……余を嫌い、貶め、余に弟を殺させたこの国など、この世界など壊れてしまえばいいと思っている」

「それでも守れ。それが、弟を殺してでも、恨まれることになっても守った姪と義妹にしてやれる唯一の贖罪だと思え。決して、殺されようなどと王が考えるな。それは貴様の姪に世界の破壊者の咎を押し付けることと同義と知れ」

 

 と、その時ドアがノックされる。王の返事も待たずに開かれる。

 王への忠誠心が疑われる行為だがこの国ではさして珍しくもない。

 

「何だ?」

 

 ()()チェスを指す王の姿にまたかと呆れを隠した目を向ける臣下だが直ぐに取り繕う。

 

「サビエラ村に妖魔………『吸血鬼』が現れたとの報告が」

「そんなもの、北の連中に任せれば良い」

「相手は吸血鬼です。早急な対応が望ましいかと愚考した次第で……」

「解っている。下がれ……余は次の一手を考えているのだ」

「………は」

 

 舌打ちでもしそうな顔で下がる男を後目に王は誰も座っていないはずの席をみる。そこには先程何時の間にか消えていた男が座っていた。

 

「吸血鬼とな………面白い。余に狩らせろ」

「ふむ……まあ、良いさ。この国は余の……そして()()()()()だ。存分に暴れると良い。余の『槍兵』よ」

「承ったぞ()()()()

 

 男は歯を剥き出しに笑い、腕に刻まれた『槍』を意味するルーン文字を光らせる。

 そして男は霞のようにその場から消えた。


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