私は彼等の事を知らない   作:喪○愛

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0-1 目覚めの悪い朝

【出産】。

 

それは妻や夫が人生の絆を確かめ合う契り事。

それは医者や助産師が日々立ち会う『生命の神秘』。

 

それは斯くも美しくもあり残酷な様相を見せる瞬間。

 

方や朗報を聞き喜び讃える集団。

方や悲報を聞き哀しみ嘆く集団。

 

だがそれも運命であると各々は納得し日常に慣れて征く。 そのように人々は幾星霜を経て生き抜いてきた。

 

今日この時この瞬間に

また、新たな命が芽生えようとしている…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コポポポポッ…

 

 

 

 

 

 

 

「…」

冷たい。

此処は何処?

「ッ…」

目を開けると見た事も無い容れ物に入れられてる事に気づく。

「(コポコポッ…)」

どうやら口に何かを当てられてる為に息が出来ているらしい。

 

 

「(此処は何処なんだ?)」

 

何で水の中に?

ガラスに映る自分の顔を見る。

身体を見ると華奢ではあるが男でもあった。

 

「(見た目の年齢は20〜30手前。

 

 

 

 

 

 

 

 

え?俺今まで引きこもりニートだったの?

 

 

 

…人生終わりじゃん…)」

 

 

 

 

 

 

 

溜息を吐くように泡を作る。

「(そもそも、何で入っているんだ?

…ッ。何も覚えてない…。

記憶が欠落してるのか?)」

 

それにしても…。

 

「(…何か長い長い夢を見ていたような気がする。

目覚めたいのに目覚めない悪夢のような…。

…その時間の流れの遅さは、

まるで1日が1000年のようだった)」

 

そう心で呟くとふと周りに気付いた。

 

見渡すと周りには同じ容れ物が並んで通路を形成している部屋のようだ。

だが私以外の容れ物は全て割れて壊されていた。

視線を真っ直ぐに向けると頑丈そうな鉄の扉が視界に入った。

「(何故、こんな所に)」

…!!

ふと右手に痒みを感じ視線を移す。

 

 

 

 

ウネウネ。

 

 

 

皮膚の上に触手のような物が無数に連なり蠢いていた。

「ゴブッ…!」

堪らず動いた反動で唯一の生命線を絶ってしまった。

「ッッボボボボボボボボッ!

ボゥホゥ!ブオオオオバオウッバ!」

液体に充たされたその容れ物の中で喪がく私。

次第に意識が遠のいて行く。

「だずげで!ゃボボボボボ!たすけて!

た す けドボボボボボボ!ボゥホ!」

苦しみが脳裏に刻み込まれる。

私はこんな所で…。

 

 

 

 

 

 

 

 

バチィイン!!

身体から紫電が疾る。

ピキピキッ…。

「(亀裂が…)」

すぐさま、運良く付いた亀裂に向かい体当たりする。

突進するもビクともしない。

「カハッ…」

脳が悲鳴を上げる。

命の風を寄越せと全身の細胞が暴れる。

「ブクブクブク…」

視界が白くなる。

「(この景色には見覚えがある)」

良く真っ白な場所で仲の良い奴と駄弁ってた。

何処だったか…。

何か食べてた。

その後に頭が真っ白になった。

今の苦しさとは違って心地よかった。

ただ一つだけ言える事がある。

 

「(ここで死んでたまるか!!)」

ウネウネウネウネ。

右腕だけに留まっていた触手は全身に広がり

身体を包み込んだ。

「(…)」

硝子に映る自分の様相はまるで繭のようであり蛹のようでもあった。

バチバチバチ!!!

紫電は激しさを増す。

パリィン!!!

透明で薄い壁が破られ私は外に出た。

 

 

 

ウネウネウネウネ…。

繭が割れ自分は穴から出てきた。

産まれたての子鹿のように膝を震わせながら地上に立つ。

「シューシュー…。」

思い出したかのように目一杯酸素を吸い込んだ。

 

 

 

「…ここは」

一頻り酸素を吸って呼吸を落ち着けた所で

改めて周りの状況を理解しようとする。

…まず自分の体を見た。

先ほど裸一貫であった我が身体にはウネウネとした触手が寄り集まり一つの服装を形作っている事に気付いた。

これは見た目的に言えばローブに近いかも知れない。

「…やばいな。慣れてる自分が居る」

出る為の扉に近付き調べる。

鉄で出来ているが錆びて開けれそうにない。

「(何処からか出る場所は無いだろうか?)」

そう思い周りにあった割れた容れ物を調べてみた。

 

「(む?容れ物の横に何か書いてある?

だが擦れて良く見えない)」

展示されている名前を見た。

「(ヒ…ー…マ…ト)」

…良く読めない。

「(名前の下に説明欄があるな)」

名前の下にある掠れた長文を読み込む。

「(何々?

正…名称。……間。

兼…より待望して…改正され…法に…誕生した最初…間。

主に…活用され……の間でも評価が高い)」

…意味が分からん。

他のを見ても読めない事には変わりなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この部屋には目ぼしい物が無い事が分かると私は扉の前に戻った。

「どうやって出…」

そう言いながらペタリと壁に右手を着くと異変に気付く。

「ん??」

グニグニ…。

引っ張ると掌が離れない事に気付く。

「は??」

左手を見ると何やら掌に薄い吸盤のような物が張り付いている事に気付く。

捻りながら引っ張ると抜けた。

「やべぇ」

呆然とし手をまじまじと見つめる。

「(壁を登れとでも言うのだろうか…)」

不意に上を向くと換気口がある事に気付いた。

「…よし」

しのごの言ってられないと思い壁に手を着ける。

 

 

 

 

チュポン…。

キュポン…。

チュポン…。

キュポン…。

 

 

 

独特な音声を発しながら登り換気口の下まで辿り着く。

「こいつを退かす!」

力一杯引っ張るとガシャンと音を立てて外れた。

外れたそれは落下し床に劈いた。

「…この中に入るのか?」

中を見ると微かに光が漏れていた。

「…頑張れ私」

…口調が定まらないな。

そう言いながら入っていった。

 

 

 

 

 

 

ピィイン…。

 

 

 

 

 

 

彼が居なくなったこの部屋で鉄の扉が開いたのだった。

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