うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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・金には魔性が宿り、銀には退魔が宿る。
似ているようでその性質は真逆。特に鉱石なんかを好物にしてる竜種にはその結果が顕著に出る。
所業で邪竜と評価するのは初心者、しっかり生態から把握してあげないと竜種にも失礼だ。

彼らは俺たち以上の知性があるのだから。

——出典:《幻想種の生態とその環境 》著書:とある幻想種生物学者


ファラお尻

 

 

 ——走る……!

 

「——今! この状況は生きてるって感じがしないか!?」

 

「——なにを云っているのですか! 私はもとより''英霊(サーヴァント)''!生きるもなにも、死ぬことはありませんっ!」

 

 ——走る……!

 

「——それは良かった! なら一つ、お願いしていいかッ!」

 

「——この状況で!? お願いもなにも、とりあえず早く!」

 

 ——走る……!

 

「——わかった! 死なないならできれば''あいつ''の囮になってくれると嬉しィ!? ——危な! 頭掠めたぞ今ッ」

 

「——気をつけてください! それより先ほどの答えですが——無理ですッ!」

 

 ——走る……!

 

「——ですよね!——森が見えてきた、あそこに入るぞ!」

 

「——はいっ、出ませいっ!」

 

 ——()をかけて走る……!

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎——ッ!!!」

 

 猛る——王者が。

 吼える——化け物が。

 腕を振るえば、大気が震える。巨腕が振り落とされると地面が砕け、白き神々は粉々に泡沫と化す。

 

「——あと少し、離したら離脱するから! というかあのメジェド様(・・・・)らは大丈夫なのか!? なんか弱くないか……!」

 

「——なっ、偉大なるメジェド様を弱いなどと! あの方たちは死を超えた先におわせられる存在です。粉々にされたくらいで死ぬことも……消えること——きゃあ——っ!」

 

「——危ないっ——痛っ、木々関係なしに突っ込んでくるのかよ!」

 

「——大丈夫ですか!? 私はサーヴァントだと先ほど」

 

「——今はいい。先の拓けたとこだ、掴まれっ!」

 

「——はい!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!!」

 

 逃がさんとばかりに巨体は脚を踏み込む。振るう巨腕と、その先に持つ岩を荒削りして造った石斧で捉えられないと判断すると、突進による無力化を図る。

 

「——風乗り魔術(Venide)!」

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!——……◼︎◼︎……」

 

 刹那、怪物から逃げていた二人の姿を見失う。視界にはおらず、聴覚にも反応はない。

 主人からの命を失敗という形で終わらすのは遺憾だが、とりあえず報告をしようと白亜の城へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——はっ!」

 

「——うっ、気持ち悪い、ですね……」

 

 怪物から逃げていた二人——青いコートを着た男と、時代違いとも云える風変わりな褐色美女は、先ほどの町外れの森とは違い町内の路地裏へと突然現れた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……。まさかアインツベルンがあんなモノを召喚してるとはな……」

 

「あの巨体に、岩みたいな斧」

 

「そしてあの強さ。全く見当がつかないし、ついたとしても勝てる気がしない」

 

「ええ……。貴方の英霊として、そう断言されるのは、す・ご・く文句を云いたいのですが私も同じ意見です。ええ、本当に文句を云いたいのですが」

 

「いや、なにも能力面全てで劣って、使えないなんてことは思ってない」

 

「本当ですか……。私が召喚されたときの驚きようといえば口にでも説明できるほどでしたよ」

 

「な、なに云ってるんだよ。君に驚いたんじゃなくて、召喚に驚いただけだから」

 

「へー、そうですか。これは失礼しました」

 

「なんだそれ。まあいい。先に腕の手当てだけしたい」

 

 コートの男は、持っていたアンティーク調のスーツケースを路地裏特有のゴミ箱裏に見えないよう(死角魔術を)施すと施錠を外し、開いた。そしてそのまま脚を入れると穴が空いているわけでもなしに降りて行った(・・・・・・)

 

「梯子が老朽化してるから気をつけて」

 

「これは……。煩雑な性格だと思っていましたが……。思ったより才知だったのですね」

 

 褐色の美女もゆっくりと降りて行く。下を見ながら梯子を掴むと、中は五畳ほどになっており、魔術師らしく様々なもので溢れていた。植物に、水槽に入れられた何十種類の小さな動物たち。ビーカーに火起こしなどで足の踏み場は少ししかない。

 

「——っ!!」

 

 次に踏み出すはずの一歩が無く、そのまま梯子から落ちてしまう。

 

「おっ!……と。怪我はないか?」

 

「は、はい。ありがとうございます」

 

 生憎と体は頑丈にできているため擦り傷は一つもない。だが先に降りていたマスター(同盟者)に尻餅をついてしまったので礼を云った。

 

「良かった。こっちも大丈夫だから気にしなくていい。むしろ役得だ、柔らかくて、香りの良いお尻に踏まれたからな——っ」

 

 杖をできるだけ音を立てて立ち上がった。下で呻いている声が聞こえるが無視だ。

 

「おっほん。それよりあの鞄の中身がこれとは……。どうなっているんですか?」

 

 男性経験(殺した経験)はあるが男性経験(異性交遊)のない彼女は生前を含め、初のセクハラに少し頰を赤らめるが咳払いをして誤魔化した。

 

「空間置換を使ってるんだ」

 

「空間置換?」

 

「そ——」

 

 男はコートを脱ぐと、着込んでいたベストを脱ぎその下のシャツの腕をめくる。先ほどの怪物の攻撃がほんの少し擦り、止血した状態で残していた。

 

「魔力残照はあるか?」

 

「いえ……あの石斧はただの石斧ですね」

 

「つまり武器ありで英霊と召されたんじゃなく、武技で英霊になったのか……」

 

「あのサーヴァントは狂化(バーサーク)された状態であれでした、生前はかなり有名な英雄でしょう。それもこちらのメジェド様を容易く散らすほどです。神殺しもしくは神類か神格保持者だと見るのが妥当かと」

 

「それはめんどくさいな。——そこの水槽から緑色の魚を捕ってくれるか?」

 

 水槽を見てみると小さな魚が群れをなして泳いでいる。数匹緑色の小魚がいたため、素手で触るのもどうかと思い魔力で浮かし、マスター(同盟者)の元へと送る。

 

緑色の魚(ヴィリム)、こいつの(ひれ)はすり潰して月光草とあと一つとを合わせると瞬間回復薬になる。副作用は無し、すごいだろ?擬似不死鳥の涙だ 」

 

「少し見直しました。呼び出されていきなり狂戦士(バーサーカー)のとこに連れ出されることに比べたら全然ですが」

 

 皮肉交じりに云うとマスター(同盟者)は少し眉を顰める。数時間の付き合いだが、なにかと無茶をする性格だと把握したのでこれからは無しにしてもらいたい。

 

「最後に人魚の血。これはそこらへんの魔術師どころか協会の冠位持ちすら持ってるかわからないほどのレア。大西洋の洞穴に住む人魚に交渉して毎月注射器一本分だけ提供して貰ってる」

 

「人魚って、あの人魚ですか?」

 

「マーマンじゃないぞ? あれの血は呪いの便箋を書くときくらいにしか役に立たないからな。正真正銘呑むと不老不死になると噂されている子たちだ。殆どは裏側(・・)に行ってるから多分この世界にはあの子たちくらい」

 

「幻想世界ですね。スフィンクスたちも殆どはあちらに返ってしまったようですね」

 

「最後の一匹は石のふりをしてまだ来るべきときに待ってるみたいだけど……でだ、あくまでも人魚の血は本物の不死鳥の涙を再現するならまだしも、傷を塞ぐくらいなら使う必要は無いんだ」

 

「代わりがあると云うわけですね?」

 

「そ、なんだと思う?」

 

「私も極めることはなかったとは云え魔術師の端くれ、もちろん予想くらいはできます」

 

「じゃあ云ってもらおっかな」

 

「な——いいでしょう。しょ」

 

「しょ?」

 

「しょ、じょの血ですね?」

 

「処女の血、正解」

 

 こちらが羞恥を感じつつも、あちらは何事もなく云う様子になんとなく理不尽さを感じたので隙あらば杖を叩き込むと決めて話を進める。

 

「…………よし完成。あとは塗るだけ」

 

 軟膏を塗るように同盟者が傷口に塗ると、時間が巻き戻るかのように血の跡すら傷とともに消えた。

 

「余ったぶんは小瓶に入れてあとで渡すから。ミリでも繊維が繋がっていれば治してくれる。魔力も念じたらから英霊にも効くはずだ」

 

さて、と同盟者は捲っていたシャツを戻し、先ほどから私自身も気になっていた扉の前へ行く。

 

「きっとこれを開けるとお前は驚くだろうけど、驚くだけで決して杖や魔力を振るっちゃわないように。人見知りする奴もいるけど悪い奴は一匹もいないから。ついてきて」

 

 木扉に銅ノブでできたいかにも古い扉を開くと、そこには——もう一つの世界が広がっていた。

 

 四方には——山林(前)、渓谷(右)、雪原(左)、砂漠(後)が見えた。

 

「さっき云った空間置換の応用。俺の心象風景を固定化して、無理やり世界を引き延ばすことで世界の容量を裏側と繋げることで誤魔化している。もっと簡単に例えると見た目一階建てだけど実は地下もありました、みたいな感じかな」

 

 空間置換の応用、簡単に、などと云っているがそれは尋常ではない。鞄の入り口に縮小魔術がかけられており、私たちが小さくなったと云われたほうがまだ信じられる。

 

 

「心象風景……固有結界を持っているのですか?」

 

「持ってい()ってのが正しい。今はこっちに使ってるからね」

 

「ですが……固有結界とは魔術の最奥、準魔法級の強力なものですが維持するのには魔力が随時必要です。いったいどうやって」

 

「昔、ある生き物と出会って。たまたま話があったから魔力維持に協力してもらってる」

 

「生き物……? 」

 

「そ。そろそろ来るだろう」

 

 日が陰る。

 世界の中心にあった擬似太陽は外と同じ時間帯に合わせて明滅を繰り返すように設定されている。

 

「来たようだ」

 

 上を見上げる。

 

「——!」

 

 危うく腰を抜かしかけた。

 黒いシルエットに見えるのは、細長の頭、蛇のような首、煌びやかな鎧を纏った胴体、山脈なような尾。それは、それは、それはまるで——。

 

◼︎◼︎◼︎(ドラゴン)ッ!」

 

 思わず古代エジプト語を発してしまうほど驚愕した。静粛な性格でなければ地面に顎が付いていただろう。

 

「ただいま」

 

『——』

 

ドラゴンは同盟者に対してなにかを云っているようだ。私には喉を鳴らしているようにしか見えず、なにを云っているのかは全くわからない。ただでさえ幻とされる竜種なのだ、予想しているよりも遥かに——格が違うと感じられる。

 

「あはは、大丈夫。彼女は仲間だぞ。頼りにはならないけど用いることはできるからね、味方と判断しても構わない」

 

 突っ込む余裕などない。

 ファラオ時代からスフィンクスは見てきたのだ、幻想種にはある程度耐性があると思っていた。だがなんだあれは、スフィンクスなどとは比にならない。かつて帝冠する際に見た我が主神よりも——果たして。

 

「紹介する、彼女の名前は——ニトクリス(・・・・・)。今回俺が参加することになった聖杯戦争の相棒だ」

 

 私——こと、ニトクリスは思案する。

 とんでもない同盟者に呼ばれてしまったのではないか、と。

 

「確かに俺も気になってたんだよ。ニトクリス、この子が……っと、タンニーン(・・・・・)がお前の兎耳に興味があるらしい」

 

 二度気絶した。

 

 

 




「生態記録 ①」

語られぬ竜(タンニーン)

・彼女はとてもマイペースだ。
ご飯は自分で食べてるんだが、一週間に3回あげるおやつには毎回違う種類を出さないと怒ってしまう。一時期チョコレートにハマってるときがあって、彼女の息がチョコ臭くなったときもあった。

なぜ彼女だって? 一度人型になってもらったことがあるからね。

——出典:《幻想種の生態とその環境》 著書:とある幻想種生物学者

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