真の勇気とは、いつ命を奪うかではなくいつそれを救うべきかを知ることだ。
——花火好きな灰色の魔術師
これは色んなアニメでも見かけますが、やはり灰色の魔術師が言ってる場面が個人的に最高です。
「——7泊8日でお願いします」
「かしこまりました。料金のほうはこのようになっていますが……」
「宿泊が延びるかもしれないので、先にお金を渡しておいて必要なければ返金という形にしておけますか?」
「その場合キャンセル料が取られますがよろしいでしょうか?」
「大丈夫です。それとベッドメイキングや食事の手配はこちらからフロントに連絡した場合のみお願いします」
「かしこまりました。では——」
路地裏での一件から一時間も経たないうちに、ここ冬木で一番大きいホテルへと部屋を取りに来た。二人は悪ふざけか例のホテルへ行こうとしていたが、なんとか阻止してここまで連れて来た。
「——
「よし、ナイスよ!」
おかげで私が手配を任せられ、
邪竜娘も軽鎧——籠手や関節防具のみ——から下の私服へと着替え、旗も具現化させていない。
「お風呂も大きかったら最高ね」
「名前の違う三人だと勘違いされたのか少し訝しげに見られました」
「見た目的に大学生の旅行に思われてるかも」
「いや、外国人観光客じゃないか?」
「……あ、ここですね」
最上階に着き、部屋番号を見つける。ルームキーを翳して開けると、まず最初に大きな窓ガラスが目に入った。
「うわ、すごい。うちのよりテレビ大きくない?!」
邪竜娘は早速テレビを付けて騒いでいる。テレビや普段過ごす部屋はここで、隣にはベッドルームがあるみたいだ。
「
「む、確かにそうだな」
先ほどのフロントでも、私たち以外が立ち入らないように軽い暗示魔術を使っている。あまりしたくないことではあったが、神秘がなにも知らない一般人に及ぼす影響を考えれば仕方のないことだ。
とは云え、
邪竜娘が、自分のテリトリーに見知らぬ人物を入れることを嫌ったために施した術なのだ。
「認識阻害と気配察知、警報機能。一応三人以外が入ってきたときに扉を開けてもこちらには来れないようにしよう」
「半ば異界化ですね」
「まあここまでしなくても大丈夫だと思うが。まさかホテルごと爆発するような奴はいないだろう」
「それもそうですが……念には念を、ですよ
「わかっているよ」
なにがあるかわからない。
それが聖杯戦争だ。現に間桐のサーヴァントなり
残る正統なサーヴァントは
「——ニトちゃん、先に風呂に入ってきたらどうだ?」
「いえ、
「俺はあとでいいよ。スペアの鞄を見ていたら汚れるからな」
「あ、私も入るわ。広いから一緒でいいわよね?」
もちろん私も負ける気はない。
聖杯に願う——兄弟たちのあちら側での幸せ。そして
だからこそ私は、勝ち残る。
「——
私のその言葉に、
数秒見つめ合ったあと、いつものような揶揄う笑みを浮かべた。
「——初めから勝つことしか考えてないよ。
「
「——ほら、なにしてんのよ。はやく入るわよ」
「ああ、はい。待ってください——!」
後ろにいた邪竜娘に慌ててついて行く。
「あ、下着とか出してない。まあいいっか、二人だし」
「なっ、いいわけないですよっ。
「あら、バレたか」
「——もうっ!」
①
「——特にすることがないな」
そう呟いたのは
時刻は二十二時を回っており、窓の外を見ると日中より弱くなった雨がしとしと降っている。十九時過ぎに見た天気予報では今日から明後日にかけては雨が続き、外出には不向きと云っていた。
雨が降っているから聖杯戦争は中断だな、と抜かしていた
「次の映画はザ・クリムゾンだって」
ホテルに兼ね備えていた映画チャンネルを見ていたが、それでも何時間も観ていると飽きが来る。
生前は娯楽があまり無かった私にとって現代の映画はすべて面白く、まだまだ見れるが二人は飽きてしまったようだ。
幻想種の飼育・保護をしていると云っていたが、生態系を崩さないように自分から接することのほうが少ないらしい。
「下の売店になにかあったっけ?」
「トランプとか座卓遊戯ならあった気がするな」
「行きなさいニトクリス!」
「どうしてですか、あなたが行けばいいじゃないですか……ファラオたる私をこき使おうとはいい度胸ですね」
「ふん、なら勝負よ」
「——ほぅ。挑まれた勝負は逃げないのがファラオの定め。
「——4,362円になります」
「5,000円でお願いします。……あ、2円あります」
売店と呼ばれるホテル一階の店にてお釣をもらう。
「ありがとうございましたっ」
新人だろうか? 思ったより若い女性が店員をやっている。
エレベーターのボタンを押し、降りてくるのを待つ。どうやらちょうど上に行ったらしい。
「くっ、まさか''げーむ''を持ってくるとは……」
ファラオとしての誇りを持って臨んだ私だが、誰にも云えないくらいそれはそれは負けた。
なんでもかかってこい、とは云ったがすぐさま相手が苦手なものを持ってくるだろうか。普通お互いに実力差が無さそうなものを持ってくるんじゃないだろうか。
「しかし前にチェスのゲームをしたとき、操作に慣れていなかったとはいえ私が負けましたからね……。意外と頭もいいんでしょうか?」
仮にもサーヴァント、戦力だけで座に至ることは不可能。
知力は無くとも知恵はあり、賢者でなくとも戦略は出る。
「こうなればセネトを用意して……しかしファラオである私がそんなせこい真似を……」
やってきたエレベーターに乗る。
初エレベーターだったりし、最初に三人で乗ったときに浮遊魔術と違った感覚に少し浮き足立ったのは内緒だ。
「もしかすると彼女は生前、前に出て戦うのではなく戦場を見極める目、智慧を駆使して勝利に導いた英雄だったのでしょうか……?」
それならば''旗''を持っていた説明ができる。
戦に必要なものは古来より——蛮勇な戦士、猛り立てる音楽、そして誇りを示す''軍旗''だ。先の鎧も、守りを重視したものとは思えない。
「……女性、旗を持ち味方を鼓舞した英雄」
そうなれば対象者はかなり絞られる。その中でも英雄にまで召される人物。
「まさか……」
ちん、と目的階に着いた合図が鳴る。歩きながらも思案にくれ、その考えから早歩きになる。
「しかし……彼女が? もしそうだとしても……」
怠惰な様子からそれはありえないと自らの考えを一掃する。
だがしかし、
「聞いてみる必要がありますね」
ポケットに入れていたルームキーで扉を開ける。
先ほどの考えを聞いてもらう、
「——あれ?」
二人がいない。
テレビは付けっ放しになっており、ザ・クリムゾンが放映されている。佳境に入ったのか主人公と思わしき者が崖っぷちで殴り合っている。
『ねぇ——』
『——ってるよ』
「む……」
どうやら二人して隣の部屋に移ったらしい。
私にお使いを頼んで放ったらかしとはなかなか肝の座った者どもだ。
『—って、——りだから』
『——たら——ょ—しようか』
『それは——しい—ね』
半ば大股になりながら歩み、隣に通ずる扉を音を立てながら開ける。
『——こぶかしら?』
『—ら、はやく』
「——二人とも! 私に買い物を任せて放ったらかしとはなんたる不敬! さすがの私でもこんな仕打ちは怒りますよ! 特に最近はそういうのが…………」
「……」
「……」
二人が見ている。こちらを。
「…………」
「……」
「……」
「…………」
「……」
「……」
邪竜娘はいつもの邪竜Tシャツに、下は黒の下着姿だ。マスター《同盟者》に跨って顔を合わせている。
「…………」
「……」
「……」
景色が目まぐるしく回っている気がする。落ちつけ私、落ちつけファりゃお。
「…………」
「……」
「……」
「——うっ、わあぁぁぁ!」
「……
「落ちつけ引きこもり! いくらお前が
「——ううううるさいっ! よ、よよよこしなさい血を!」
「聖杯戦争中だ!」
「し、知らないし! じゅ、じゅるじゅる吸ってやるわ!」
「うわぁぁぁ!」
「…………」
「……」
「……」
「…………」
「……」
「……」
「——だ」
「「だ……?」」
「——騙されるかぁぁぁぁぁぁっ!!」
二人に二撃、ホテルが揺れた。
・主人公【???】
なにしようとしてたんですかねぇ……
・ニトクリス【だ、騙されるかぁぁぁ】
超純真ピュアホワイト褐色ファラお尻。
手を繋いだだけで顔が真っ赤になり蒸発する。
・邪竜娘【魔力補給】
なぜこの方法を選んだのか。
原作でもソレ以外の方法あっただろ! おい! 真相は次回!
・最後に……
来週は一話になるかもしれません。