うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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連投でございます。
また、物語を進めていく上で私なりに付け足した、解釈した部分もございますのでご了承ください。




ファラお尻の現状とかつての聖杯戦争

 

 

 

「似てる、か」

 

 冬木市の地図をテーブルに広げながらマスター(同盟者)が呟いた。

 

「虚数魔術ですか?」

 

 以前、使い魔を通じて撮影した虚数魔術の写真を手に取る姿からそう聞いた。

 

「虚数じゃなくて、あの神父の中にあるものと虚数魔術に加えられた呪詛が似ていた」

 

 あの神父——とは冬木教会の男だろう。普段''君''と称するマスター(同盟者)が珍しく初対面にもかかわらず''お前''と云っていたため記憶に濃い。聖杯戦争の戦い自体には直接関係ない監督者でありながら襲撃され、穴の空いた教会に滞在していたのは肝が太いのかもしれないがどこか気味の悪い気配があったのは私も同じだ。中立地帯の教会に行くため、外側に向けた感知魔術を使っていなかったのが仇となった。

 

「マキリの杯。これが本当に実在するのであれば、今回の聖杯戦争は聖杯が二種類存在することになる」

 

 御三家が一つ、マキリ。

 主に令呪の開発に尽力したとされるが、当然超抜級の魔術炉心である聖杯の製作にも関わっているはずだ。当時の製作方法を知っている唯一の人物で、それなりの技術を持つ老翁であるならば擬似聖杯を作ることは可能かもしれない。

 

「元々、聖杯っていうのは二つあった。

 戦い、サーヴァントを降すことでその御魂が魔力源となり願いを叶える聖杯。これを、小聖杯(・・・)

 

 マスター(同盟者)によると、この小聖杯はかつて時計塔伝承科に所属していたアインツベルンのホムンクルスが『ラインの黄金』と呼ばれる、今では考えられないほどの魔性が篭った鉱物で作ったものらしい。魔術師からすれば黄金ほど魔力の込められるものは存在せず、炉心としてはこの上ない。それが神話に語られるものならば願望機として役割は十分果たせるだろう。

 

「そして、この冬木にて聖杯戦争の地盤を固める役割を担う大聖杯(・・・)

 

 願いを叶える小聖杯に対して、サーヴァントたちを召喚する大聖杯。

 小聖杯とは本来大聖杯の一部といえるものだが、第三次聖杯戦争で破壊される事態が起きてからはアインツベルンがホムンクルスを用意し、自立した小聖杯の依代として参加させているようだ。

 

「まあ、よく聞くのがサーヴァントがマスターを裏切る要因になる『自身の願いが本当に叶えられるのか』という疑問だが……これはマスターの魔術師が『根源への到達』を望んだ場合のみ成就されない」

 

 サーヴァントには知らされない聖杯戦争の裏側。

 根源とは魔術、命、生死のあらゆる要素の始まりの何か。根源への到達とはそれをいずれかの分野で理解、もしくは見てしまったことを意味する。世の真理を理解することは生半可な力でなすことができず、それを果たした存在は人類の歴史が始まって以降六人のみ。

 ちなみに、魔法使いは誰もが破綻者であるのは魔術世界では既知のこと。

 

「待ってください。それでは根源への到達を望んでいないマスター(同盟者)はともかく、今までの聖杯戦争参加者は一体……」

 

 最後の一人として願望機を勝ち取った者はどうなったのか。

 

「願望機には時間制限があるんだ。令呪を刻み、マスターであることを示す準備期間。そして、本格的なサーヴァント同士の戦いが始まる現在。最大期間はサーヴァントが七騎揃って一月程度か。これを越せば大聖杯に満たされた魔力は龍脈に散り、サーヴァントたちは強制的に座へと還される」

 

 大聖杯が作られた1800年。そこから聖杯による根源到達を目指し争い始める。もっとも、第一次では戦争を始める予定などはなくスムーズに願いを叶える予定であった。しかし、製作当初は聖杯システムがまだ未完全なこともあり、御三家はサーヴァントを呼び、その御魂を贄にすることで願いを成就する方針へ変更された。

 

 第一次聖杯戦争——聖杯システムが未完全なこともあり期間内にまとまらず勝利者無し。

 

 第二次聖杯戦争——御三家は外部魔術師も招くがそれが仇となり早々に離脱。結果、他四組も全滅し勝利者無し。

 

 第三次聖杯戦争——帝国陸軍、ナチスらが介入。前哨とし帝都で行われるがその間に小聖杯が破壊され無効試合となった。勝利者無し。

 

 第四次聖杯戦争——アインツベルンは小聖杯を自立式ホムンクルスへ依代とし参加させる。勝利者は衛宮切嗣。願いはわからないが、冬木が壊滅する事態となった。

 

「この人はまさか」

 

「セイバーのマスターの関係者だろう」

 

 衛宮切嗣——。

 前回の聖杯戦争の唯一の勝利者。魔術師殺しと名を馳せた、アインツベルンが雇った刺客。莫大な魔力を秘めた小聖杯の依代をマスターにするわけでなく、どういうことかアインツベルンには到底敵わないであろう歴史の新しい魔術師を雇ったようだ。

 

「小聖杯を有するアインツベルンだ。マスターの衛宮切嗣と、魔力源はホムンクルスと何か仕掛けを施したのかもしれない。正しく魔術祭儀の戦争に魔術師殺しに長けた人間が一人、アインツベルンも本気だった分勝利してもおかしくはない。

 ……なにを願ったのかは知らないが」

 

「これではまるで、聖杯本体が根源に至らぬよう細工をしているようで……」

 

「もっと()かもしれない」

 

「まさか——」

 

「さぁ、それが正解かどうかはわからないが、根源に至る人間はこの世から乖離した力を持つ者だ。満ち足りた世の中にまた新しい例外が一つ」

 

 さて、とマスター(同盟者)は置いていたコーヒーを飲んだ。

 

「マキリの杯によって聖杯自体に異常があれば、今回の聖杯戦争は根本的におかしい。マキリが隷属、死霊魔術でサーヴァントを使役しているなら俺たちが狙われるのも時間の問題だ。その場合、複数のサーヴァントに攻められたらニトちゃんだと手も足も話す間もなくやられてしまう」

 

「おい」

 

「神殿の準備は?」

 

「…………生前より強固な仕上がりになっています。マスター(同盟者)からいただいた幻想種の材料も相まって、破壊条件の守護は生半可な攻撃も通すことはないでしょう」

 

「そうか……なら、外に出ているときはいつでも展開できるよう意識してくれ。マキリが擬似聖杯を持っているならば転移魔術の類を使用できる可能性が高い。邪神や呪詛に連なるアレが元になっているならば、神殿の陽光で跳ね返せる。あの類に包まれたら、令呪を使っても強制転移ができない」

 

「わかりました」

 

「邪竜っ()

 

 マスター(同盟者)は椅子の横に置いていた鞄を漁りながらソファの上でうつ伏せになっていた邪竜娘を呼ぶ。怠そうな表情をしながら顔を上げると、鞄からなにかを取り出したマスター(同盟者)が手招きをする。

 

「タンニーンからもらった燐源(・・)だ。魔力置換しにくいかもしれないが、水に溶かすか口に含めば宝具数発分の魔力にはなるから持っておけ」

 

 燐源——タンニーン、竜種は脱皮をする生き物である。原生爬虫類よりその頻度は少なく、数千年に一度の割合らしくワイバーンですらその竜燐は高値で取引される。鱗一枚で数十人分の魔力が必要な魔術を起こすことができ、神代クラスの竜種の伝説は生前にも書物で読んだ。そして、今渡した燐源であるが、竜種にもワイバーンから始まる位があるらしく、原初級と名付けた竜の脱皮鱗は通常の竜種とは異なった物質らしい。いや、物質と称して良いのかわからない。マスター(同盟者)の手のひらに乗ったそれは形を成しているのか不明で、鈍く金色に輝く光が二、三個乗っているだけなのだから。

 

「なんか美味しくなさそう」

 

「良いから黙って持っていけ」

 

 邪竜娘はそれ掠め取るように手にする。感触はあるのか、指先でごろごろとしていたが一つ取ってなにを思ったかそのまま食べてしまった。

 

「——チョコ味ね」

 

「キャラメルとストロベリーも用意しておいた」

 

「及第点よ」

 

 いやはやまったくもって意味がわからない二人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 陽も当たらぬ暗窟の間。微かな火種が祭壇へ続く道を照らした先にその化け物はいた。

 見た目は人間であるが、中身はひどく醜悪な人から最も遠い存在。

 

「もう少し、もう少し。我が手中に収めたサーヴァントは四騎。バーサーカーの霊基を取り込めなかったのは残念じゃが器への献上品としては一級。杯を満たすには十分過ぎた代物。

 残りはセイバー、アーチャー、アサシンの三騎。狙うはあの霊格高いセイバーじゃな。あれを取り込めば七騎分の御魂は揃えられる——ク。クカカ、クカカカカッ……」

 

 灰色の祭壇に老翁の影が一つ。そして、石壇には人の色を失った銀髪の少女が横たわっていた。

 

「前回の聖杯戦争の生き残りかわからんが桜も不可解なものを喰いよった。よもや儂が把握しておらんサーヴァントを喰らうとは」

 

 神殿の最奥にはもう一人の少女があった(・・・)

 その姿は異質で、元々持った髪色の色素は失い白髪へと変化している。肢体に絡みつくよう巻きついた黒いなにかは彼女を頭上から泥が降り注ぐ聖杯に縫い留め、苗床のように養分を吸い取っている。時折彼女の周りには拳大の黒い球が浮き上がり、弾けるように棘を出す。

 

「埋め込んだ【吸収】の刻印が作用し、元の聖杯に潜んでいた悪意を吸い込み扱いやすくなった——ぬ」

 

 一つの棘が老翁の目を刺すと、血が出ることもなく黄色汁が舞う。二匹、三匹と羽虫が落ちると金切り声を立てて絶命した。

 

「正気を失ってもなお儂への恨みは忘れんか。だが残念よな、お主はこのまま儂の願望を叶えるための苗床となってもらう。死ぬときは意識を取り戻すかもしれんが、最後くらいは好いたあの倅の骸を持ってきてやろう。

 

——カカカッ、クク、クカカカカカカッ!」

 

 

 

 

 




次話にてまとめてあとがきを書かせていただいています。


聖杯戦争って早めに終わるんですね。一ヶ月とかやってそうですが、二週間足らずで終わってたのか…まさに「stay night」(やかましい

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