うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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・古の森には命が宿ると云われている。
事実、俺が見て来た中ではそうだった。
百年を超えた樹々は口を得た、千年を超えた樹々は耳を得た、万年を超えた樹々は目を得た。
決して迷うことなかれ、かの者たちの好き嫌いは激しい。時には竜種すら呑み込むこともある。

愛する気持ちだけが、かの者と共存するきっかけだ。

——出典:《幻想種の生態とその環境》 著書:とある幻想種生物学者


ファラお尻の願望

 

「あ、起きたな」

 

 目を覚ますとどうやらベッドに寝かされていたらしく、傍に同盟者がいた。読書をしていたらしい。題名にはただ''調教のやり方''と書かれていた。見なかったことにした。

 

「ど、どれくらい寝ていましたか?」

 

「時間にして一時間、タンニーンを前にして一時間寝ていただけだからさすが英霊様々って感じだな」

 

 気絶と云わなかったのは決してプライドに甘んじたなどではない。

 

「とりあえずかの竜種は置いて起きましょう。あの場所はいったい?」

 

「さて、さっきも自己紹介したけど俺は幻想種の保護と飼育を行なっている。ここは置換魔術と固有結界を合わせて創りだした場所。動物園兼保護施設ってところが安定だな。ちなみにこの部屋は薬を練った部屋の隣室だ」

 

周りを見てみると最初に入った部屋よりは片付いている。半分は和室、洋室と八畳ほどで分けられており私は洋室側のベッドにいた。と、見渡していると和室側に誰かいる。

 

「あの……彼女は?」

 

 彼女——。

 現代の''てれび''を見ながら寝転がっている。仰向けに向いているが顎に手を置いているようで角度が悪く顔を見ることは叶わなかった。しかし、黒いシャツに白字で''邪竜''と描かれた服を下から山のように押し上げるそれ(・・)から女性であると判断した。

 

「あー、あいつか。なんかいつの間にか住み着いていたんだよな……」

 

「そんな虫のように」

 

「ここって固有結界を基にして創ってるからか、存在が曖昧な生き物も迷い込んでくることがあるんだよ。彼女の場合は''想い''とか''可能性''とかから産まれたらしくてな、数年前は外に出て遊んでたりしたんだけどいつの間にかああやって引きこもりと化した」

 

 彼女の手元にあった''てれび''の''ちゃんねる''が同盟者に飛んで行った。がんっ、と音を立てながら落ちると同盟者は頭を抑えている。

 

「お腹空いてるみたいだ」

 

 いや、今のは''引きこもり''と云われた部分に問題があったのでは? と思うが見たまんま彼女は''引きこもり''っぽいので口に出すのはやめておいた。

 

「サーヴァントといえども食事をすればある程度ポテンシャルと魔力が維持されるだろ? 食事にしよう。口に合うエジプト料理は作れないけどな」

 

 同盟者はそう云うと台所と思わしき場所に歩いて行った。

 同盟者が読んでいた本が枕元に放り出されていたので手にとってみる。最初のページに''動物は大変賢い生き物です''と書かれていた。

 

「——で、あんたが今回選ばれた英霊なの?」

 

 安堵していると声がかけられた。相変わらず顔は見えないが、透き通るような声質から''邪竜''の彼女だ。生前ならば会話時は目を合わせなさいと一言云うところだが、なんとなく云ってもわからないような気がした。

 

「ええ、そうですが。——あなたは?」

 

「わたし? わたしはそうね……。聖杯的に云うと野良英霊(・・・・)ってところかしらね」

 

「前回の勝利者ですか?」

 

「違うわ。なんかおもしろそうなことしてるからって、聖杯内から落とされたのよ」

 

「ということは元は座に?」

 

「そ——。しかもあなたみたいなキャスターの既存クラスとは違ってエクストラクラス(Exstra class)。同じ存在とは思わないことね」

 

「そうですか。ファラオたる私にそのような不敬を許した覚えはありませんが、今回はマスター(同盟者)の知人ということで見逃しましょう。そして、あなたは勘違いをしている——。」

 

「ふん、なによ」

 

「あなたは私のことを魔術師(キャスター)と云いましたが……——今宵この身は影で隠れる傍殺者、ファラオとしての誇りが大い落ちますが行いを考えれば当然ですか……暗殺者(アサシン)、名をニトクリス。天空神の使いと心得なさい」

 

「アサシン……? その格好で?」

 

「はい——」

 

「ぷっ——あはははは」

 

「——っ」

 

 このあとめちゃくちゃキャットファイトした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ、二人とも親和行動するのはいいけどご飯だ」

 

「ふんっ、動物に例えんなっつうのよ」

 

「アロラビングするなら是非混ぜてくれ。三人でしよう」

 

 邪竜娘は意味がわかったのか、睨みを効かせている。ウブな子なのか顔が薄赤とし先ほどの性悪っぽいイメージが少し崩れた。

 アロラビングとはなにかあとで調べてみよう。聖杯からの知識で単語は知っているが実物を見るか、やるかでしか詳細は把握できない。

 

「初めて日本に来たということで、ニトちゃんには日本料理に挑戦してもらおう。無理だったら明日からはチーズバーガーだな」

 

「私はそっちの方がいいわよ」

 

「ファーストフードのある時代では到底ないのですが……」

 

「そうなのか? アジア民以外は口直しにチーズバーガーを食べると思ってたよ」

 

 とんだ誤解ですが、机に並べられた日本料理を見て胃が動くのを感じる。英霊とは三大欲求を肉体的に欲さないものだが、精神的作用はもちろんある。

 

「ニトちゃん、別に残してもいいから色々挑戦するんだぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「ねー、納豆は?」

 

「どれがいい?」

 

「大根おろし入ったやつ」

 

「了解」

 

 箸を並べて準備が終わると三人は席に着く。

 日本特有の''いただきます''と云うと、食事が始まるのだった。ちなみに私は箸ではなくフォークとスプーンをもらっている。

 焼き魚、煮物、汁物と手をつけていくと我が国と違って味が独特で美味しい。塩の流通が盛んで、食材独自の味を生かして作っていた当時とは全く異なる。

 

「美味しいです……」

 

「ありがとう。一番嬉しい言葉だ」

 

「私も美味しいと思ってるわよ」

 

「はいはい」

 

「なによ……。——ごちそうさま。今度ゲームの相手してよね」

 

 邪竜娘はそう云うと自分のぶんの皿類を片付け和室の方へ戻ってしまった。食後に寝転がる気はないのか、伸びをしつついつの間にやら持って来ていたコーヒーを呑んでいた。目の良い私には彼女がちょっとずつしか呑めないのが筒抜けだ。

 

 ——俺の前だとミルクと砂糖、心配するくらい入れるんだよ

 

 ——ブラックはダメなんですか?

 

 ——ニトちゃんがいるから見栄を張ってるんだ。意識高い系だから

 

 ——なるほど……

 ——可愛い性格してるだろ

 

 マスター(同盟者)が小声で教えてくれた。

 

「さて、食事もひと段落したからこのまま今後の動きについて話し合おうか。……ああ、食べながらでもいいぞ。細かく品とか気にしていないからな」

 

 同盟者はわかりやすいようにホワイトボードに聖杯戦争の開催地——冬木市の地図を貼って持ってきた。

 

「聖杯戦争の元祖とも云いきれる開催地がここ、冬木市だ。立地としては海沿いを上、今いる本町を中心に右に監督役である冬木教会、下に遠坂邸と冬木全体に繋がる下水道の入り口が多々、左にさっきちょっかいをかけたアインツベルンがある」

 

「いつの間にバーサーカーの写真を撮ってきたんですか」

 

「記憶の中からコピーしたのを少々」

 

 出会って半日、魔術師として同盟者の多才さを痛感した気がする。

 

「幻想種を飼育するにあたって、生態環境って云うのは大事だからな。あんまり賢くない生物はジェスチャーですらできないものもいるから、必要だった。悪用はしてないよ」

 

 なるほど、同盟者の魔術は根源を求めるための過程ではなく、信念の手段らしい。おそらく先のバーサーカーから逃げた魔術も危険な幻想種から逃げるために考え、身に付けたのだろう。

 彼の人となりが少しわかった気がする。

 

「この聖杯戦争を進めていくにあたって、最も重要な''願望''を聞いていいかな?」

 

 最も重要と自分で云いながらさらっと聞いてくるあたり全然わかっていなかったみたいだ。

 

「私の願いは、私を除く(・・)兄弟たちがあちらの世界でも幸せに生きてもらうことです」

 

「それだけ?」

 

「それだけと云われるのは癪ですが、そういうことです」

 

「私を除くということは、死後——ファラオ的に云うとあちらの世界での君はいいと?」

 

「そもそも聖杯戦争にやってきたのも後継の憂いを排するためです。私はファラオとして後任のお歴々になにも残すことはできなかった。ならば死後、その務めを果たすことができるならば望んで当然、というわけです」

 

「なるほど——よし、言質は取った。利害の一致だ。これからは手取り足取り腰取り仲良く行こう、よろしくニトちゃん」

 

 ファラオ的に雲行きが怪しくなってきた気がする。

 

「あの、付かぬも何もお聞きしますが……。あなたの願いは?」

 

「ん? 俺? 俺の願いは——"助手"が欲しかったんだ、とびきり優秀で、強くて……可愛い子をね」

 

 なにを云っているんだ、と思った。頭で考えるよりも心が反応した。しかし、こちらに来て竜種を見た驚きと比較すれば些細なことだ。

 

「助手……? あなたを補佐する的なあの?」

 

「あの、助手」

 

 目をぱちくりとしているて、横向きになりながら''てれびげーむ''をしている邪竜娘のにやにやとした顔が目に入った。

 

「あっちの引きこもりじゃいまいち手がかかってな、雑な性格だから頼りにならない」

 

 ご飯とかも適当に混ぜて作るし、と付け加えた。

「えっと、つまり……あなたの願いは」

 

「——君の"受肉"だニトちゃん」

 

 

 




「生態記録②」

真古樹(エント)

・彼らと話すのはとても疲れる。なにせ一言を表す単語を発するのに、一時間近くかかるのだから!
彼らの言葉を聞くのは難しいけど、もし出会ったら粘り強く聞いてあげて欲しい。……まあだいたいがしょうもないことなのだけれど。

自慢気に「エントが煙突に入る」という親父ギャグを三時間近くかかって聞かされたのは苦い思い出だ。

——出典:《幻想種の生態とその環境》 著書:とある幻想種生物学者

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