うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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戦闘描写いと難しい……





ファラお尻の夜Ⅲ

 

 

 

 遥か昔、とある村の飢えと貧しさ——呪いから解放されるために人柱にされた青年がいた。

 村人は彼を「村人たちの善を脅かす悪」、「物事がうまくいかない元凶」、「無条件で貶めてよい何か」として選び、山頂へ幽閉した。罵り、斬りつけ、石を投げた村は次第に裕福になり、彼を捧げた翌年には飢饉が嘘のように豊作となった。また呪いが起こってはならないと考えた村人はその年も彼を苦しめ、その次の年も、さらにその次の年も、延々と責め苦に浸し続けた。やがて村が滅び、肉体を捨て「呪い」となっていた彼は幽閉された山の頂から人々が住む街を眺めていた。人の営み、醜さ、喜びを何年も見続けた彼はやがて「なぜ自分には暖かい日々」を過ごせなかったのだろうかと疑問に思う。

 そして、いつの日か彼は「村を救った」功績を讃えられ聖杯に招かれる。

 

 彼が山頂に幽閉されてから遥か後。

 名前のない被害者である彼は誰にも知られず顕現しようとしていた。

 彼を形成するものは四つ。「器」、「泥」、「肉塊」、最後に、

 

 

 

 ——「六十億人を殺す」という呪いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、アサシンのマスターはなんで聖杯戦争に参加したのよ?」

 

 洞窟を走る中、凛がアサシンの横で走るマスターの男に問う。

 洞窟は人除けの魔術を施しているがなにを原因に一般人が侵入するかわからない。そのため、迷い込んだ者に万が一聖杯が見つからないよう入り組んだ迷路状となっており、見た目にそぐわない空間になっていた。

 

「あんたも''根源''ってのに到達したいのか?」

 

 聖杯には願いを叶える力がある。この世を変えることができる最上級の神秘は人の身に余る御業。

 十年前に起きた、死傷者六〇〇〇人超の未曾有の大災害。それが繰り返されるならば士郎はなにがあっても止めなければならない。もし共に走る魔術師が人に仇なす願いを——そこまで考えて士郎は頭を振った。力を貸してもらっている相手に失礼だと、誰かを助けるために走っている彼がそんな願いを求めるわけがないと。疑うよりも先に信じようとする青年はただ男の言葉を待った。

 

「別に大した願いじゃないさ。ニトちゃんを''受肉''させようと思ってな」

 

「じ、受肉?ニトちゃん(・・・・・)って……?」

 

「アサシンの真名だ。

 エジプト第六王朝最後のファラオ——ニトクリス」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「知らないな?」

 

 エジプト、ファラオ、と並び誰が来るのかとマスター二人は身構えたが、エジプト文明に焦点を置いて勉学を収めたわけではないため聞いたことのない名前だった。凛は聖杯戦争が始まるまで、独学で人類史を学んでいたため唯一''エジプト第六王朝''が如何に古く、幻想が当然のように跋扈していた神代に近い時代かは知っていた。

 

「…………まぁ、良いですとも。むしろ私はファラオではありますがあまり誇れない身。数々の逸話を残した偉大なるファラオたちと同じ並びにされるのは畏れ多いというものです。

 ただ、それでもお忘れなきよう。私は天空の神ホルスの化身にして冥府の神。不敬な態度を取ればそれだけの罰が下ると思いなさい」

 

 器用に走りながら杖を鳴らすと、速さに沿うように頭上へ開かれた空間からメジェド様が半身を出して見つめていた。

 

「や、いや、そういうわけじゃないんだ!俺はもともと英霊に詳しいわけじゃないから……あはは」

 

「はぁ……いいでしょう。いかな時代も、実際に偉大な者を見たときは自身の価値観が間違っていると教えられますからね」

 

「女の子のセイバーがアーサー王だったのは驚いたけど、彼女はなぁ」と一同は考えたが口にすることはなかった。

 

「英霊を受肉って、どうなるかわかってるの?そんなことをしたら協会に目を付けられるか、最悪封印指定(・・・・)よ」

 

「別にかまわないけど、俺が封印指定になることはない。そうなれば時計塔はアルビオン(・・・・・)の管理ができなくなり、今まで受けた、これからも受ける恩恵すべてがなくなる。組織の成立に不可欠なあれが無くなるような真似はできないさ」

 

 ——アルビオン。

 正しくその名を知っているのはこの中で二人。ある程度時計塔について調べた凛と、生前関わったアーチャーだけだ。強いて、セイバーは自身の心臓であるア=ドライグ=ゴッホの対となる竜として聞いたことがあるが、云い方からしてそれとはまた似て非なるものだろうと判断した。

 

「どういうことよそれ。あなたが霊墓の」

 

「——凛、話はそこまでだ。どうやら目的地が見えてきた」

 

 アーチャーに遮られた凛は先に目を凝らした。先ほどサーヴァントと戦った空間よりも広い空間。そこには、

 

 贄の祭壇に寝かされたイリヤスフィールと泥に包まれた間桐桜。横に佇むマキリ、そして——桜を捕らえた泥が無数に沸き続ける黒い聖杯があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——桜!」

 

 士郎の叫びが洞窟に反響した。

 広く開いたその場所には、古代の神殿に似た贄の祭壇と、闇より黒い太陽がすべてを呑み込まんと輝いている。不快な泥が処女(おとめ)の涙のように溢れると、真下で囚われた桜と、赤筋の通った黒い聖杯に溜まっていく。

 

「あれがマキリの聖杯……」

 

 アーチャーの解析魔術を伴った鋭い目と、アサシンのマスターの慧眼が薄く細められた。

 直接アレの脅威を知らない凛でさえ、黒い聖杯と頭上にある黒い太陽はマズイものだと悟った。

 

「——遅かったの、魔術師供」

 

「臓硯……!」

 

「間桐家当主。あれが五百年生きる怪物」

 

 皺の入った顔には不敵な笑みが浮いていた。肉体はすでに人間の形を捨て、何度も腐敗と再生を繰り返している。生命力を失った虫たちは地面に落とされるたびにマキリの背後にある杯から伸びる泥に吸い込まれ、死骸一つ残さない。

 

「一体、桜になにをしてるんだ——!」

 

 十字に晒された桜の瞳は閉じられている。肉体は泥に閉じ込められ、泥は体内にも入り込んでいるのか口からも溢れていた。

 士郎の声に反応することなく桜に意識はない。泥に囚われた少女に願いはなく、ただ死を齎す感情に支配されていた。暗闇の中では無数の手のひらに追い詰められ、''死''という文字の海に呼吸さえままならない。

 

「ふん——衛宮の倅に、遠坂の娘。そして、外来のマスターよ」

 

 くかか、とマキリはおかしそうに笑った。

 

「聖杯戦争が始まって二〇〇余年、我ら御三家が手に入れるはずだった聖杯を貴様のような外来が前にするとはな。いやはや、我らも落ちぶれたもんよ……」

 

「落ちぶれたのは誰だ、マキリ」

 

 肩を竦めて云ったアサシンのマスターの瞳は同情に染まり、アサシンは一歩踏み出して警戒している。

 

「はぁ——カカカ、落ちぶれた。落ちぶれたの、儂も。

 聖杯を求め、不死を求め五〇〇年。儂はただ永遠に生きる魔術を求めた。初めは人の体を捨て——虫となった。次は人の魂を捨て——他者から吸魂するようになった。今は、人の精神すら捨て化け物に成り果てようとする」

 

 水の満たされた器をひっくり返したようにマキリが弾けた。

 

「——時間が、無いのだ。もはや儂の身体は正常に保てん。儂には、時間が無い」

 

 足元から朽ちた虫は、足元から生まれていく。何度も、何度も、何度も、冬木の住人から吸魂した魂を力に再生を繰り返す。

 

「もらうぞ——、もらうぞ——。

 

 ——その、魂を。

 竜の心を宿す、アーサー王よ」

 

「っ、セイバーの名前を!?」

 

「なにか来ます、マスター(同盟者)!」

 

 凛が驚くのも束の間、アサシンの杖から魔力の奔流が起こる。

 

 

 

『——餌が、六匹。

 

 優しく、優しく……』

 

 

 

「——殺してあげましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ライダー!」

 

 黒化したライダーが泥の中から飛び出して来た。

 

「手筈通り、聖杯は頼んだわよアサシンのマスター!」

 

 その身はただのライダーではあらず。

 かつて紫髪に動きやすいライダースーツをまとっていた彼女の洋装は一変して鎌を持つ。

 

「セイバー、あなたはライダーをお願い。士郎は私と来て桜を返してもらうわよ。アーチャーは泥を見て遊撃!」

 

 鎌の名を''ハルペー''。

 先端が鈎のように曲がったそれはライダー——ゴルゴーンの首を切断した不死殺しの武器。いかな英霊といえどその身を裂かれれば最後、神造級かそれに匹敵する宝具を待たなければ開いたままの傷から絶命に至る。

 いつの日かセイバーが受けた傷は、ライダーの霊基が泥に侵食されていなかったがゆえに完治できたが、今回は半端に攻撃を受けることすら致命傷になる。神の毒は傷口から蝕み、自らの身体を自壊させていく。

 

「——ッ」

 

 空中で身体を捻らせ勢いを付けたライダーの鎌とセイバーの聖剣が鍔迫り合い火花を散らした。

 

「聖杯は奥か……ニトちゃん、君はアーチャーたちと協力して泥に対処。危なくなったらパスで知らせてくれ、令呪で補佐する」

 

「わかりました。ご武運を!」

 

 祭壇に向かう階段に登らずにアサシンのマスターはその横合いから奥に向かった。

 

「アーチャー、手伝いましょう。泥は天空神の光を不得手としています。陽の光と似なる武器があるならばそれの準備を」

 

「把握した」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのときのセイバー、ふふふ。次は逃しません」

 

「侮るなよライダー、あのときの私とは違うと思え」

 

 泥に触れ、侵食される最中にセイバーはライダーの不死殺しに斬りつけられた。幸いにもアサシンのマスターに助けられることになったが、今回はその助けもない。無論、誇り高い騎士王。一度起こしてしまった不手際は払拭し、次は確実な成果を上げるべく成長していく。

 弾かれたように二人は飛び退いた。

 構えるは星の聖剣と、不死を殺す邪魔(ジャマ)の鎌。

 

「——はぁ!」

 

「——ふ」

 

 聖剣の一撃を軽やかな身のこなしで捌いていく。セイバーは懐に入るが、ライダーのローブから出た鎖は天井に刺さりライダーの動きをさらに加速させる。

 鎖は六本。

 螺旋状にセイバーへと迫り、ライダーの足場を作りセイバーの懐を削る。生半可な刃を通さない神鉄はライダーを相手に片手間に切れるものではなく、変則的な攻撃は少しずつセイバーに届いていく。

 

「……剣士(セイバー)、さすがに正面から挑むのは無理ですか」

 

 はらりとライダーが被っていたローブが取れる。

 

 咽が震える音がした。

 ライダーでも、セイバーでもない。対峙する二人の間にいる者ではなく、正体はライダーの髪。不安になるほどの無表情さを包む髪は一本、いや一匹ずつ意思がある。舌を出し、セイバーを捉えた細い瞳は妖しく輝いていた。

 

蛇の髪(メデュシアナ)……貴様はギリシアの怪物、ゴルゴーンか!」

 

「懐かしいですね、その名前。

 私の真名はメデューサ。ゴルゴン三姉妹の末妹。今、あなたを殺す怪物です」

 

 鎌の柄に巻かれていた鎖分銅が地面に落ちる。ライダーは軽々しく鎌を振ると、セイバーの周囲に張り巡らされた鎖に鎖分銅が巻かれた。

 

「——蝶のように舞い」

 

 払うように鎌を投げた。鎖分銅で繋がれた鎌は弦を描きセイバーに迫る。

 

「——蜂のように刺し」

 

 凶刃は左からセイバーを狙う。

 ライダーが身を屈める袖から二本の杭を取り出した。影を残す速さで動き出す。先ほどよりも圧倒的に速い動きにセイバーは音を頼りに眼を向ける。

 

「蜘蛛のように」

 

 首筋に冷たい感覚が伝わった。

 

 

 

 

 

「——捕食しましょう」

 

 

 

 




・主人公

もはやしろーたちの保護者。

・ニトちゃん

やっと君の活躍の場所だぞ!

・ライダーについて

かなり強化されています。ごるごーん、あな、めでゅーさの複合型、いいとこどりウーマンみたいになってます。格好としては、FGOの冬木にいたランサーを基に、鎌と杭、鎖をぽんぽんつかってきます。髪はすべて蛇の髪ではなく、一部蛇になっている感じでございまする。


・その他

思ったより戦闘描写に難航しています。語彙力がほんと壊滅的、またひらがなばっかの擬音語バトルにもできないので完結直前で一週間更新になる可能性が高いです。お気長に、とまでは決して言いませんがちょっとペース落ちちゃう、ということは記述しておきます。






『霊墓アルビオン』

時計塔地下深くにある霊墓。
魔術協会がここを本拠地として活用する一番の理由であり、豊富な資源を齎してくれる濃密な神秘が地球上に残る数少ない楽園。正体不明の竜の死体が苗床となっていくつかの幻想種、その産物が生育している。入るには協会の許可が必要であり、多くのものが名前を聞くだけでその全貌を目にすることなく去っていく。

噂によると、管理者は学部長、学長ではなく一人の臨時講師が管理している。また、ときたま時計塔地下から地鳴りが聞こえてくると「地下に潜む正体不明の怪物」として霊墓自体が七不思議の正体にもなっている。

出典:《魔術協会――時計塔に迫る!――》~小話項目より~ 著書:???

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