うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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ファラお尻の夜Ⅳ

 

 

 

 セイバーとライダーの戦闘が始まり、アサシンのマスターは祭壇よりも奥にある大聖杯の場所へと向かった。この空間は今現在も少しずつマキリの杯から溢れる泥によって浸食され、半日もせず洞窟をすべて飲み込んだあと都市部を襲うだろう。祭壇に続く階段の横合いから、泥に浸された地面を頭だけの岩肌を野兎のように飛んで行った。

 

「……」

 

 そんなマスターの背中を見てアサシンは思わず安堵の息を漏らした。

 

「心配なら別について行ってもかまわんのだぞ」

 

「アーチャー、あまり私のマスター(同盟者)を見くびってもらっては困りますよ。マスター(同盟者)は一度あの泥から無傷で逃げおおせ、あなたのマスターを完封した実力もあります。あなたがここを任されたとして、それでも彼女を信じれずに後ろを歩きますか?」

 

「実力不足と判断すれば当然私はついていくさ」

 

「つまり、そういうことです」

 

「なるほど。堅物に見える君だがそれなりにマスターとサーヴァントの関係は良好というわけか」

 

 アーチャーは一本の宝剣を投影した。直視したものの目を焼くほどの光量、剣というには少し短い長さが特徴か。それは先ほど戦ったアルスターの英雄、槍に勇名を馳せたクーフーリンが振るった剣――クラウソラス。名前通りの剣の輝きは僅かながらに泥の侵攻を退かせた。

 

「銘はわかりませんが、高名な剣。アレにも有効なようです。頼りにしていますよアーチャー」

 

「ああ、今は出し惜しみしている暇はない。天空神と讃えられたその力、頼りにするぞアサシン」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーヴァントと別れた士郎と凜は階段を駆け上がっていた。

 ひどく高く感じる一段はどちらかの足をもつれさせたが気にしている暇などなく無理やり踏み込んで進む。二人の背後で自身のサーヴァントが戦う剣戟が聞こえた。いつもなら振り返っていただろう。それでもと、その気持ちを踏み込む足で押し込んだ。触れた指先には磔にされた――妹/後輩。

 

 ――助けなければ

 

 ――救わなければ

 

 今まで同盟相手だと語ってきた二人の行動は始めて重なった。

 一人は、幼いころに引き離された妹を。

 一人は、いつの間にか家族になっていた後輩を。

 

「足引っ張ったら許さないわよ、士郎!」

 

「わかってるさ、遠坂!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしました、最初の勢いが無いですよ……!」

 

 蜘蛛の巣のように張った鎖を使いライダーは全方向から杭を立てんとする。セイバーの自身の身の丈に匹敵しないとも云えない長さの聖剣では振り切れず、ライダーのローブに触れるだけで終わる。細やかな足捌きは耳と目を取り入れた宮廷剣術のセイバーを見事に惑わせて幻影を見せた。

 

「確かに、あのときとは違うようだッ!」

 

 鎌を霊体化させ、杭に持ち替えたライダーの刺突を聖剣の腹で受けたセイバーは大きく薙いでライダーを後退させた。その勢いにライダーは自身が張った鎖にぶつかりそうになるが軽快に身を捻ると地面と平行に鎖上に立つ。

 

 異質な光景であった。

 

 巣の主人だけが重力から逃れた動き。

 それでもセイバーは生まれ持った反射神経と、未来予知に匹敵する特有の直感で対処する。

 セイバーを睨む蛇の髪(メデュシアナ)が囁くように揺れていた。

 

 ライダーのときより桁違い——いえ、もはや存在の格自体が変わったと見て良い。それにこの鎖、路地裏であったときより魔力の形成が巧い(・・)。まるで、一本の鎖にもかかわらず、何百の鎖に編まれてるようだ。

 

 この防戦一方の状況に一石を投じるには、巣の破壊が先決。

 

 あれは狡猾だ。

 私がこの巣から逃げれば、間違いなく私を無視してマスターたちを狙う。

 

「…………」

 

 ——正面からの戦闘はこちらが上。ですが安易に宝具を使えない分圧倒的に不利。

 

 ライダーが屈伸運動とともに他の鎖に飛び移ると聖剣を横平に構えた。

 

 ——狙うは確実に行動不能にする一撃。

 

 それを可能にするには自分から攻めるのではなく、ライダーがしかけてきた後の隙間。苛烈な攻撃を全て防ぎ、体勢を整えるために飛び退く刹那。

 

「—————」

 

 早く、速く、疾く。

 ライダーは僅かに弛んだ鎖を利用して最高速に至る。もはやそれはセイバーの傍を通っているにもかかわらず、セイバーは聖剣を振らずにその一瞬を待つ。仮初めの心臓の鼓動が停止近くまで遅くなり、五感すべてが鋭利な刃物へ変化した。

 

 花弁でも落とせば真っ二つにする抜き身の刃——。

 

 直感で察し、耳で知る。目で追えば肌に風を感じる。

 

 

 

「————ッッツ!!」

 

 

 

 上下正面背後、ライダーが選んだのは頭角頂上、生物の死角。

 

「……!」

「——!?」

 

 ライダーは構えた杭の先端に、セイバーの瞳がこちらを捉えたを確かに見た。

 青い魔力が滲む。足を重ねていた地面に罅が入り、トップスピードでライダーに向かって跳ね上がる。彗星の如く発射したセイバーは風圧に負けない筋力で聖剣を振りかぶった。

 

 

 

 

 

「……甘いですね」

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 隕石のような勢いで落ちてきたライダーは剣先に触れる寸前で停止する。何事かと確認する間も無くライダーは右手を引いて、手首に絡まっていた鎖で右に逸れた。さらに左手を引くと弧を描き聖剣を振ったままのセイバーの側面に辿り着く。

 そして、

 

「ぐぁ——ッ」

 

 軋むのはセイバーの首。

 弧を描いて巻きついた鎖は首輪のようにセイバーを締め上げた。

 自身の体重に引かれるがままにライダーは落下していく。特別重いわけではないライダーでも、落下に加えられた重力と腕力によってセイバーの体は浮き上がった。

 

「……っ」

 

 ライダーが一際強く鎖を引いた。セイバーの肉体ががくんと揺れると今まで離さんと持っていた聖剣が輝きを失って落ちていく。寸でで指をかけたセイバーだが、指先に走った痺れから力が抜ける。

 

「——っかは!」

 

 視界は徐々に白く染まり意識が沈んでいく。元よりその肉体は魔力、しかし聖杯が精密に再現したそれは死を迎えることはないが、意識が途絶える原因にはなる。意識を失うとは即ち、セイバーという戦力が消え、ライダーが野放しになる。唯一優っていた数の利を埋められる。

 そして、あの泥によって人形のように使役される可能性がある。

 セイバーの思考は刹那を過ぎて完結に至る。

 現状を把握、先を理解し、自身がやるべきことを最速で直感する。

 マスターと同調した目に見えない繋がりが強くなった。細く伸びたそれは新米マスターである衛宮士郎の、最初の頃よりは少し開いた魔術回路の撃鉄を刺激した。首に巻きついていた鎖が弾かれるように切れる。

 

「……はぁ——」

 

 佇んでいたライダーは目を細めて見遣った。

 一瞬の隙も晒さずに呼吸を整え、セイバーは未だ鈍痛がある肌に指の腹を滑らせる。おそらく跡が付いているそこを今は無視をし、地面へ転がった聖剣掬って構えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まるで地面に吸い込まれるような虚脱感が彼を襲った。

 

「衛宮君——!?」

 

 膝から崩れ落ちそうになった身体を地面に手をついて支える。登った先にいる救うべく後輩を思い、すぐに立ち上がった。

 

「大丈夫だ。目眩がしただけで……」

 

「アレに当たったのかしら、触れたような気配はなかったけれど」

 

「いや、たぶんセイバーが魔力を持って行ったんだと思う」

 

 ほんの少し振り返ると入り地口付近まで移動したのか、ライダーが作り出した鎖の間で剣を振るうセイバーが見えた。一瞬目があったような気がしたが、勘違いだったのかこちらが何とか目に追える速さで互いに肉薄し合っている。

 

「そう。倒れることは許さないからね、倒れていいのは桜を救ってから」

 

 そう言って再び階段を駆け上がる。石段は最上に向かうたびに広くなっているような気がし、足が少しずつ重くなる。それでも、ただ囚われた彼女を救うべく走る。

 ほとんど平地と化した階段をようやく登ってそこに到達した。

 本当に地下にあるかと疑うほどの広場、その半分を埋め尽くしたその祭壇は都市部のビル並みに大きい。士郎と凛の二人が辿り着いた先に——最初に見た桜と、マキリが不敵な笑みを浮かべて待っていた。

 生気を感じさせぬ皮が笑う。

 人であるが、人ではないと二人に言い知れぬ不安が伝う。

 

「確か、衛宮士郎に遠坂凛」

 

 マキリは二人の前を横切るように歩いた。

 

「前回の聖杯戦争の参加者、衛宮切嗣と遠坂時臣の関係者。まさか此度の聖杯戦争も似たような面子でやるとは思わなんだ。おかげで儂の計画もずれ、今のような状況に至る。

 もっとも、それはただ一人のイレギュラーであった男の仕業かもしれなんだがな」

 

 持っていた杖を石畳に勢いよく叩きつけた。その余波か足元から溢れていた虫が死に、士郎と凛は僅かにたたらを踏んだ。

 

「ああ不快。

 よもや本来の聖杯戦争から乖離したこの戦いは聖杯戦争とは呼べぬ。ただの闘争に成り下がった儀式は根底から直さねばならぬ」

 

「そのための桜だって言うの?」

 

「遠坂も良い苗をくれた。この娘よりお主を選び、本質を見ることができなかった奴のおかげで漸く擬似聖杯を作り上げることができた」

 

 一人の父親であることより、一人の魔術師であることを選択した男がいた。

 

「マキリの杯とは、すなわち新しい聖杯。

 当初の計画ではその器から新調するつもりであったが思わぬ拾い物と出会った。アインツベルンが用意した小聖杯——イリヤスフィール・アインツベルン」

 

「イリヤにもなにかしたのか!」

 

「そう怒気を強めるな、殺してはおらん。殺せば小聖杯は完全に停止し、その神秘を龍脈に散らされる。そうならんよう意識を失っておるだけだ。あのマスターが行った先での」

 

 士郎が一歩、強く踏んだ。それに気づいた凛は手をやって静止させる。

 容易くないであろうが、この場でマキリを下し桜の下に駆けつけるのが先決。だが、そのあとはわからない。五百年生きた怪物が施した聖杯を桜に移植する儀式を解除できる方法が不明である。狡猾なマキリから少しでも情報を抜き取るのがすべてが収まる標となる。

 

「ふぅん、そ。あんたがどんなけ計画を練って願望を叶えようが、私たちは桜たちを返してもらうわよ」

 

「かかかっ、その減らず口、どこまで続くかのッ!」

 

「衛宮君!」

 

「ああ……投影開始(トレース・オン)

 

 

 




・主人公
聖杯の下へ。

・ニトちゃん
次回輝く。活躍の場が来るぞ!

・他陣営
セイバーはライダーと戦ってる。アーチャーはニトちゃんと泥退治。マスター二人臓硯と対峙よ!

・その他
最終回に近いということで、終わりを意識しすぎて省略的な文章になっているかもしれません。終盤だからこそ再考と改稿を慎重にしていますが、拙い文章技術で表現するのはやはり限界があるのでご了承ください。



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