うさ耳ファラお尻と行く聖杯戦争。   作:神の筍

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 無数の触腕が伸びる。

 ——死——を体現した黒い太陽は輝きを放つ聖剣、セイバーを見て思い出す。

 

 聖剣(あれ)は、自身を破壊したものである。

 

 と。

 そして、同時に怒りの感情が浮かぶ。あれによって蘇ろうとしていた自分は再び深淵に押し戻された。あれによって自分は幾度も苦痛を飲まされることになった。怒りはすぐに殺意へ変わり、殺意は死へ変わる。死は肉体を持ってセイバーを呑み込もうと殺到した。

 

約束された(エクス)——」

 

 振り下ろすより早く、輝きの名を示すよりも速く。黒い触腕は聖剣ではなく、持ち主であるセイバーの腕を狙う。絡めとられた腕はただの魔術放出では離れず、木の根に固定されたかのように動かない。

 

「——I am the bone of my sword」

 

 状況を即座に把握し、手早くアーチャーは弓と矢を投影する。

 狙うはセイバーを絡め取るもの————ではなく本体。あの黒い太陽が少しでも怯めば触腕は下がる。その下がった瞬間が次の狙い目、あとはセイバーの宝具で決着がつく。

 マスターの意思をも確認せず矢をつがう。マキリと戦い少ない魔力だが、たとえ了承を得ずとも遠坂(・・)がなにも言わないことを知っている。

 

「——偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)ッッッ!」

 

 空気を裂いて必滅の矢が迫る。

 アーチャーのカラドボルグの真価は決して狙撃ではなく、その後に来る壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。何らかの方法で黒い太陽が道を塞げど貫くことを絶対とする矢は何人足りとも止められない。黒い太陽は格子のように触腕を張り巡らせるがものともせず矢は迫る。鷹の目によって、矢がそれに当たる瞬間アーチャーは呟いた。

 

壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)

 

 かつてのバーサーカー戦よりも近い死線上、爆発の威力はマスターたちにも伝わるがダメージはない。

 風圧によって膝をつく二人と、それでも引くことのないセイバーへの拘束を見てアーチャーは目を見開いた。

 

「取り込んだか——!?」

 

 爆発と爆風、込められた魔力は無へ還り悪となり死へ変わる。

 アーチャーの失考は一つ。

 それは呪い——黒い太陽に自我のようなものがあることだった。

 遥か昔、とある村の人柱が元になった黒い太陽は何十年と聖杯に潜むことでかつての人に対する憎悪を煮詰め、より害を成せるよう進化する。蘇るまでにあったマキリと、間桐桜という苗床。彼女の魔術属性であった虚数・影と、マキリ特有の吸収を学習(・・)したのだ。故に、アーチャーの一矢は理解し得ない虚数世界へと誘われその魔力だけが吸収された。

 

「ぐっ——ァァァあああ!」

 

 セイバーの叫び声がした。

 三人は目を向けると、明滅したセイバーがなにかに耐えるように聖剣を握りしめていた。

 士郎は桜を寝かせ、駆けつけて名前を呼ぶが、セイバーの瞳は半ば碧眼から金眼に変化していく。

 

「っ、まずいぞ!セイバーがマキリのサーヴァントのようになれば今度こそ手が無くなる!」

 

「返事をしてくれ、セイバー!」

 

「駄目よセイバー!」

 

「……ッッ、く——!」

 

 アーチャーは手当たり次第に矢を投影し射るが、その効果は全く現れない。あらゆる属性を含む矢も、すべて吸収されるか虚数で流されて無駄に終わる。

 

「……っ」

 

 構えていた弓を下ろした。

 今回の聖杯戦争に参加したのは偶然であり必然。定められた運命の夜だったが、すべてがあの黒い太陽によって狂わされた。

 

「凛、最後の魔力をもらうぞ」

 

 眼前でセイバーを引っ張るマスターを見ながら呟いた。

 自身の宝具ならば黒い太陽を隔離できる。魔力が尽きれば再びこの地に現れることになるが、逃げる時間さえ稼げればそれで構わない。あとはセイバーと二人をアサシンたちに任せ、何とか賭けるしかない。

 膝を折り、前に出した右手首を抑えながら詠唱を開始した。

 

「I am the bone of my sword.

 ――― 体は剣で出来ている

 

 Steel is my body, and fire is my blood.

 血潮は鉄で、心は硝子

 

 I have created over a thousand blades.

 幾たびの戦場を越えて不敗

 

 Unknown to Death.

 ただの一度も敗走はなく

 

 Nor known to Life.

 ただの一度も理解されない 」

 

 ——すまないな、凛。だが、あとは任せた。

 

「Have withstood pain to create many weapons.

 彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う

 

 Yet, those hands will never hold anything.

 故に、その生涯に意味はなく 」

 

 目を瞑り夢想する。

 剣の丘、回り続ける歯車を。

 

 ——皮肉なものだ、全てを終わらそうとしたが、結局戻ってくるとは。

 

「So as I pray……

 その体は……」

 

 最後の一節、地面が揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アサシンはその言語(・・)に既視感を覚えた。

 

 アーチャーはその()に違和感を覚えた。

 

 マスターたちはなにも聴こえない(・・・・・・・・)が動きを止めた。

 

 黒い太陽は下から迫り来る、自身とは真逆のそれ(・・)に恐怖し悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「——◼︎◾︎、◼︎◼︎◾︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎◼︎◾︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎。

◾︎◼︎◼︎◼︎◾︎◾︎◼︎◾︎◼︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◾︎◼︎◾︎◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◾︎。◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◾︎◾︎◼︎◼︎◾︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎。◾︎◾︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◾︎◼︎◼︎◼︎

 

——◾︎◼︎◾︎、◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎」

 

 アサシンの神殿の光でも、セイバーの聖剣の輝きでもない新しい光が地面から溢れてくる。

 その色は黒い太陽とは真逆の——白。

 

マスター(同盟者)……!」

 

 神殿を停止したアサシンが、祭壇下で佇んでいたマスターの下に飛んでいく。それ気付いたアサシンのマスターは手を上げて反応した。

 

「これは……一体……」

 

 浮いていたはずのアサシンと、地面に立っていたはずのマスターの目線が同じ高さになる。アサシンが下がったのではない、マスターが同じ高さにいるのだ。

 その正体は白いナニ(・・・・)か。床のような不明なもの。

 未だ全貌が見えぬそれに恐る恐る足をつけたアサシンは、その瞬間意識を失いそうになった。

 

「ああ、ニトちゃんならまあ……近い(・・)か。慣れるまで時間がかかる、それまでゆっくりしているんだ」

 

 尻餅をついた先からひんやりとした感触が伝わる。ざらざらとした肌触りは砂地なのか、しかし木目のようなものも見える。

 

「四人を回収してくる。いや、少女も含めて五人か」

 

 白いナニかは祭壇を透けるように存在していた。

 足を踏み入れてしまった四人と桜は、セイバーを除いてアーチャーすら意識を失っていた。残っているセイバーも黒い太陽の攻撃に抗ったことと、急に現れた白いナニかにあたって(・・・・)息も絶え絶えといったところだ。

 

魔術師(メイガス)、これは」

 

「四人は任せて今は眠ると良い」

 

 セイバーの瞼が落ちゆく。立とうと身体を捩らせるが指の先すら動かない。

 

「それと先に、謝らなければならないことがある」

 

 遂に意識が失われるとき、セイバーの耳にはアサシンのマスターの声が残った。

 

「君はまだ生……、でも……おかげで……。すまないな。

 

 

 

——残りの余生、楽しんでくれ」

 

 







魔術世界には、誰も知らず知られず理解できず理解せず……そんな言語が一つ、存在する。






急ぎ足なような気もするのである。
まとめは次回、のまた次かな…?





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